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第101話「お披露目なのじゃ」

 リスタ王国 王都 リスタ港 ──


 その日、王都に住む国民の半数以上がリスタ港に集まっていた。数日前から国民に対して、リスタ王家よりお披露目式があると伝達されていたためであり、国民たちは興味津々にお祭り気分で集まって来ているのだ。


 リスタ国民の気質から集まればお祭り騒ぎになり、目聡い商人が屋台で食事を提供したり、酒樽を持ち込んでは道端で飲みはじめる連中もいる。まだ昼前だというのに、チラホラと酔いつぶれている人々が見受けられる状態だった。


「女王陛下が何か見せてくれるらしいが、いったいなんだろうな?」

「まぁ何でもいいさ、女王陛下バンザーイ!」


 何が見れるのかもわからず集まった国民たちは、お披露目式の内容を予想をしながらジョッキを打ち鳴らし乾杯を交していた。




 レオンやシャルロットなど王立学園の学生たちも、国民に混じってリスタ港に来ていた。


「レオンさま、すごい人ですねっ」

「うん、みんな母様のこと大好きだからね」

「今日は、何が見れますの?」

「僕もよく知らないんだ、来てからのお楽しみかな?」


 そんな会話をしていると、港の端のほうから歓声が巻き起こっていた。


「おや、どうやら来たみたいだね?」

「人が多くて見えないわ」

「そこの階段から屋上にいけるんじゃない?」

「いいね、行ってみようか」


 子供たちは人混みを掻き分けて路地裏までくると、そこにあった階段を上って倉庫の屋上まで上ってきた。そこからは白く美しい船が、ゆっくりとリスタ港に向かって近付いてくるのが見えた。それに対して、カミラは目を輝かせながら呟く。


「凄く綺麗な船……」


 シャルロットは目を細めながらそれを見つめていたが、すぐに驚いた表情を浮かべるとレオンの袖を引っ張った。


「レオンさまっ、あの船のシルエット……幽霊船だよ!」

「えっ、本当に!?」


 レオンは驚いた表情で答えたが、霧の中で船影を見たシャルロットは自信があった。


 そしてシャルロットの予想通り、幽霊船騒動で目撃されていた船は、このクイーンリリベット号だったのだ。この船が試運転のために、霧の日を選んで運行していたのが漁師たちに目撃されていたのである。




 しばらくしてクイーンリリベット号がリスタ港の沖合いで停船すると、王都中に配置されている放送用の宝玉から、女王リリベットの声が聞こえてきた。


「我が愛すべき国民たちよ、よく集まってくれたのじゃ。少々遠いが見えているじゃろうか?」


 クイーンリリベット号の船舷に立ち、リリベットは国民のほうに手を振っている。それを見た国民たちは一斉に歓声をあげる。


「陛下~見えてるよ~!」

「今日もお美しいです、陛下~!」

「その船、いったいなに~?」


 歓声が少し治まるのを待ってから、リリベットは再び宝珠に向かって話はじめる。


「この船は、我が国初の軍艦なのじゃ。名は、一角獣(ユニコーン)型一番艦『クイーンリリベット』なのじゃ。これからは海洋ギルドの船舶と共に、この船で国民の安全を護っていくのじゃ」


 その言葉に再び大歓声が起きる。この異常なほどの王家への人気が、リスタ王国の最も怖いところでもあり、凄いところでもあった。これには同船していたジオロ共和国のリョクトウキも、ザイル連邦のココロット大臣も戸惑いの表情を浮かべている。


 両国の首脳であるリョクサイキや、バルドバ王も人気のある人物ではあるが、さすがにここまで狂信的な人気はない。そもそもたいした告知もしていないのに、国民の半数以上が集まっているのが異常事態である。


 リリベットは、一度咳払いをしたあと話を続けた。


「ごほんっ……私とフェルトは、この船の処女航海に付き合うことになったのじゃ。しばらく国を空けることになるのじゃが、皆のことは宰相に任せてあるので安心するのじゃ」


 この発言には、国民たちも驚きの声を上げた。


 なぜなら女王リリベットは、生まれてから一度も国外に出たことがないからである。その事に不安を感じる国民もいたが、それでも王家に匹敵するほど、信頼されている宰相フィンに任せると聞いて、どこか安心した様子もあった。


「それでは、そろそろ出発の時間なのじゃ。私たちの旅の安全を祈ってくれると嬉しいのじゃ」


 リスタ港は再び割れんばかりの歓声が溢れかえった。


「いってらっしゃい、陛下~!」

「無事に帰ってきてねっ!」

「女王陛下ばんざーい!」


 その歓声に見送られたクイーンリリベット号は、リスタ港を離れ王城がある丘を回りこむように消えていった。



◇◇◆◇◇



 ザイル連邦 首都ロイカ沖合い ガトゥム要塞 ──


 ザイル連邦のガトゥム要塞はすでに係留地を出発しており、ゆっくりと南下していた。『竜の心』を二個搭載した要塞ではあったが、グレートスカル号より遥かに巨大で、船とは違いいかだのような平坦な地面をしており、速度はあまり出ないようだった。


 首都ロイカから出発した艦隊七十隻が、要塞の周りを護るように付き従っている。


 今回の遠征の主将はラドン王子だった。そんなラドン王子は、要塞の一室で上機嫌に笑っていた。


「がっははは、このガトゥム要塞があればクルト帝国など相手にもならんわ」

「まことにその通りだなっ! ノーマの連中を動かし、あの船はノクト海に縛り付けた。帝国艦隊程度の戦力では、この要塞に傷すら付けれますまい」


 同じように上機嫌で答えたのは、この要塞の守将である第二師団のラッカー将軍だった。彼はバルドバ王の義理の弟にあたり、ラドン王子から見れば叔父にあたる人物である。


「俺は、あの程度の小国のことなど気にかけたことはないが、ラァミルといい叔父上といい、随分気にかけているのだな?」

「ふんっ、あの国自体は弱小国だが何故か海賊との繋がりが強く、強力な船も所有している。海戦になればなかなか侮れんぞ」


 小ばかにしたような口調のラドン王子の問いに、ラッカー将軍は面白くなさそうに答える。それでもラドン王子は、あまり興味がそそられなかったようで鼻で笑うように呟いた。


「まぁムラクトル大陸に上陸したあかつきには、一緒に滅ぼしてしまえば良いだろう」


 こうしてザイル連邦軍も南下をはじめ、北上してきているクルト帝国連合艦隊との遭遇も間近だった。



◇◇◆◇◇



 ノクト海 クイーンリリベット号 作戦室 ──


 海図が広げられているテーブルの周りに、リリベット、フェルト、シグル、レベッカ、ガウェイン、護衛のラッツとサギリ、そしてザイル連邦のココロット大臣が集まっていた。


「それで今は、どの辺りにいるのじゃ?」

「そうさね……今は大体こんなところさ。だいたい大陸間の中間地点に向けて進んでる」


 リリベットの問いに、レベッカが海図に対して指をさしながら答えた。それに対してシグルが付け加えるように口を開く。


「ココロット大臣の話ですと、ガトゥム要塞はあまり速度が出ないそうです。おそらく接敵はもっと北のほうでしょう」

「そぉだのぉ、あの図体では遅いじゃろうなぁ」


 ジグルの言葉にガウェインが肯定するように答えた。レベッカは指していた箇所から北に指を這わせて一点で止める。


「そうなると、この辺りかねぇ?」

「その辺りは魔の海域と呼ばれている場所ですね」


 レベッカが指差した箇所を見て、ココロット大臣が呟くように口にした。リリベットが怪訝そうに尋ねる。


「魔の海域じゃと?」

「はい、確か魔獣が住み着いているだとかで、船乗りたちは近付かない海域と聞いております」

「魔獣ねぇ?」


 レベッカはそう呟くと、今度はガウェインのほうを向いて尋ねる。


「じいさん、この船の船足なら、この海域までどんなもんだい?」

「そぉだのぉ……六割の出力で五日ってところかのぉ?」


 ガウェインが髭を擦りながら答えると、レベッカは少し考えたあとリリベットに確認するように尋ねた。


「まぁそんなもんかねぇ、陛下それでいいかい?」

「うむ、操船についてはお主たちに一任するのじゃ」


 リリベットの許可が出ると、レベッカは親指を立てて答える。


「了解だ、とりあえずこの海域を目指すとしようか」





◆◆◆◆◆





 『国民の噂』


 クイーンリリベット号の姿が見えなくなってからも、集まってきていた国民たちの噂話は止まらなかった。ちょうど二人の主婦が夫妻について話している。


「そう言えば、あのお二人って新婚旅行にも行ってなかったわよね?」

「あの時は、大戦後の復興で大変だったからねぇ」

「ひょっとして、今回の旅行はその代わりかしら? あんな綺麗な船でクルージングとか素敵だわ~」

「陛下は子供の頃から働きすぎだからね。今回はゆっくり休めるといいんだけどねぇ」


 こんな感じで自分たちの女王のことを心配しながらも、国民たちは好きに想像して楽しんでいるのだった。

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