反省
「とぅ!!」
「ぅりゃぁ!!」
晴れた昼下がり、エレノアはアーシェと剣を交えていた。今日はジョーイは公務の為出掛けており、二人だけで王宮の庭で稽古を付ける事になった。
「エレノア様、最近何かありました?」
汗を拭きながらアーシェはエレノアに聞いた。アーシェはエレノアと剣を交え、どこかエレノアの様子が以前と様子が違うと感じていた。
「いえ、ただ、私が弱いままではいけないと思っただけです。」
エレノアは何でもないと首を振ったが、アーシェには払拭できない違和感があった。
今までのエレノアの剣捌きはあくまで趣味の延長といったところだった。
しかし、今日のエレノアの様子は違った。剣の動きに余裕がない。エレノアは否定しているが、何かあったはずだとアーシェは確信していた。
もちろん、エレノアは先日のサルマンでの出来事を引きずっていた。
自分は剣を習っており大丈夫だと傲り、油断していた。その結果が相手を闇雲に怪我をさせただけで、自分一人では解決出来なかった。エレノアにとって何が正解か分からない。考えれば考える程自責の念は強くなり、最後は考える事を放棄し、ただがむしゃらに剣をふるった。
「あらあらあら、エレノア。そんなリズムじゃ相手を捉える事なんて無理よ」
エレノアとアーシェは剣を交えていたが、二人ともギョっとした表情で声の主の方向に振り向いた。
声の主は…廊下から歩いてくる王妃だった。
王妃は「フフフ」と笑い、エレノアの側まで降りてきて、エレノアの右側に立ったその瞬間だった。王妃はエレノアが先程まで握っていたであろう剣をいつの間にか右手に握りクルクルと廻して見せた。
「え…えぇ?!いつの間に?!」
エレノアは王妃がいつ剣を奪ったのかわからず、動揺し自分の右手と王妃が持っている剣を交互に見比べた。
「エレノア集中力が低くなってるわぁ。ダメよぉ。」
王妃はいたずらっぽく笑うと、その瞬間、王妃のナイフは風を切った。
ヒュンッ!!
「ヒィッ!!」
王妃はエレノアから奪った剣を早業でアーシェの喉元に刃の切先を当てていた。アーシェは王妃の予想外の動きに何が起こったのか理解不能となっており目を白黒させている。王妃は切先を喉元に当てたままアーシェにニッコリ微笑んだ。
「貴方もまだまだねぇ」
王妃はクルッと双剣を引っ込めアーシェの喉元から切先を離した。
「いつも娘がお世話になってるようで。えぇーっと…」
「グラノフ・アーシェです。こちらこそいつも、ジョーイ様とエレノア様のお世話になっております。」
王妃がまた名前を思い出せず頭に手を当てていると、アーシェは片膝をつき頭を垂れ挨拶をした。
王妃はアーシェが名乗ると、「そうそう!」とアーシェの名前を思い出したと言った風に手をポンと叩いた。
「王妃様がこれほどの剣の使い手だとはつゆ知らず、エレノア様に稽古の真似事など、大変烏滸がましい振る舞いをお許しください」
さすがに王妃の動きに面喰らったアーシェは動揺しつつなんとか挨拶と謝罪を申し出た。
「良いのよ良いのよ気にしないで。だってつい最近まで私と夫だけの秘密だったんですもの。アーシェさん、立って頂戴。」
王妃は膝をつきアーシェの肩に手を掛けアーシェを立たせ、少女の様な笑みを浮かべた。
「アーシェさんには娘をもっと鍛えて頂きたいと思っていますのよ。だってそしたらきっと私と同じように夫と一緒に戦場に行って闘うかもしれないんですから」
「「ん?!?!」」
エレノアとアーシェは王妃が言っている言葉が理解できていない。一緒に戦場?どういう事?
二人の頭にはたくさんの疑問符だらけだった。そんな様子を見て王妃は面白そうにニコニコしている。
「一応、戦場では身元がバレないように黒い仮面を被って夫の隣で私も頑張って戦ったんですのよ…うふふ」
「「っっっえ、えぇえ!?」」
アーシェとエレノアは同時に叫んだ。
戦場で黒い仮面と聞いて、二人はある人物を思い浮かべ動揺したからだ。
黒い仮面といえば、エレノアの父である王がまだ王太子だった頃、国の情勢が落ち着いたとはいえ王国各地ではまだ戦火が残っていた。
そんな状態だったので、王太子は常に最前線で戦っていた。
そして、王太子の隣には常に黒い仮面で顔を覆った鎧の騎士が側にいた。
二人はいくつもの戦場で多くの功績を残していた。王太子と黒い仮面の二人が戦場に出ると、圧倒的な剣捌きで敵を何万人と薙ぎ倒し、二人が通った道はペンペン草も生えないと言われるようにまでなっていてた。いつしか王太子を『ルドラの処刑人』、そして騎士は『黒い死神』と恐れられるようになると、二人が戦場に参加すると聞くや否や、降参する反乱軍もいるくらいだった。
しかし、黒い仮面を被った騎士の正体を知る者は誰一人とおらず、王太子が王に就任し、戦場から姿を消すとともに黒仮い面の騎士も戦場から姿を消した。
その為、本当は黒い仮面の騎士など存在せず、王国の強さを内外に知らしめるための作り話だったのではないかと囁かれるようになっていた。そして、エレノアとアーシェはもちろんこの騎士の伝説は知ってはいたが…
「まままままさか、黒い仮面の騎士はお母様なんてことはないですよね…?」
まさか、伝説級の騎士が存在していたことと、王妃が黒い仮面の騎士として活躍していた事の両方を信じられずエレノアは、一応、王妃に確認をした。
そして、王妃からは、やっぱりといった回答が来るのであった。
「そうよぉ!あの頃はもっと身体を動かせたから良かったけど、最近は全然動かせないから退屈してるのよぉ!」
エレノアとアーシェは信じられないといった表情だった。そしてアーシェはおずおずと沸き上がる疑問を聞いてみた。
「では、黒仮面の騎士がたった一人で小隊1つ壊滅させたという話は…?」
「あら、どの話かしら?癖で何回か100人の相手を独り占めしちゃったことあるから心当たりありすぎて…」
王妃の言葉にアーシェは声も出せずに口をパクパクさせている。
その後も王妃の戦場の話を聞くたびに、王妃の意外すぎる一面に二人は呆気にとられてばかりだった。
最終的には、アーシェがキャパシティーオーバーで頭が混乱してしまったらしく、フラフラしながら帰っていくのを、エレノアと王妃が見送る事となった。
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