喧騒
翌朝、アーシェは、王宮に入ろうと正門前にいた。
しかし、正門は見慣れない兵士たちによって封鎖され入城出来ない。
そして、城内からは物騒な音が聞こえてきた。
危惧していたことがとうとう起こってしまった。
アーシェは、奥歯を咬み、どうにか城内に入れる場所はないかと必死に探し始めた。
─────
バタン!!!
「陛下!!!お逃げください!!!」
従者が王の執務室にノックをせずに入ってきた。
走ってきたのだろう、顔から大量の汗が吹き出しているが、それに反し、顔面は蒼白だ。
「騒がしい。なんの騒ぎだ。」
王は手を止め眉間に皺を寄せた。
従者はそれでも臆せず口を開いた。
「反乱です!」
「何!?どういうことだ!?…」
「そ…それが…」
ドンドンドン!!
「陛下!?いらっしゃるんですか!?いらっしゃればお逃げください!!敵は面前まで迫っております!!!」
王と従者は同時に扉の方を振り返った。
警備兵が来たのか、慌てた声が扉の外から聞こえる。
と、その時、嫌な音が響いた。
バキッ!!
「ぐあぁ!!!」
一瞬、静寂が辺りを包み込んだかと思うと、次の瞬間、爆発音がし、執務室の扉は吹き飛んだ。
爆風が収まると、王と従者は爆風を避けるための腕を下ろし、恐る恐る吹き飛んだ扉の様子を確認した。
すると、土埃が舞う中、ドサッと先程まで扉の向こうにいた警備兵が、背中から血を流し執務室に倒れ込んできた。
その姿を見て、王は顔をしかめる。
恐らく、あの兵士はもう生きてはいないだろう。
と、木片をパキッと踏み鳴らし、男は入ってきた。
「やれやれ、まさか入口から馬鹿正直に主人の下に向かうとは、護衛の教育を見直した方が良いぞ、リチャード。まぁ、そのお陰で我々はお前を探す手間が省けたがな。礼を言う。」
男は旧友に話し掛けるような親しげな口振りだ。
土埃が消え、男の正体を露にしていく。
そして、男の後ろには、大勢の兵士がいた。
王は、男をみとめ苦々しい表情を浮かべながら良い放った。
「何の用だ。ここは私の執務室である。お前に立ち入り許可を出した覚えはない。」
王は一握りも動揺せず、相手を見据える。その堂々とした態度に相手の男は肩を竦め、降伏を促した。
「リチャード、お前はもう王ではない。ルドラの国民はお前を王座から引きずりおろす事を望んでいる。」
朝から、一体この男は何を言い出すのだろうか。従者はおずおずと王の表情を伺うと、王は青筋を立て怒りを露にしていた。
「何、世迷い事を言っている。こんな馬鹿げた事をやめて今すぐ投降しろ。今なら処分は不敬罪だけしてやる。」
尚も、降伏の姿勢をみせない王に、男は痺れを切らし、苛立ちの色が見える。
「世迷い事を言っているのは、お前だよ、リチャード。国民に圧政を強いるお前に、もう王である資格はない。さぁ投降してくれ。そうすれば幽閉だけで済ませてやる。」
怒りに震えながら王は吐き捨てた。
「王になる技量の無いお前が玉座に就いたところで国が荒れるだけだ。」
「心配には及ばんよ。玉座に就くのは私じゃない。」
王の言葉に、男はニヤリと嗤った。
─────
エレノアは王宮内の騒がしさで目が覚めた。
地上で何かが起こっているのだろうか。
天井から埃が落ちてくる。
まさか、私が逃げようたしたことがバレてしまったのか。
いや、それはないだろう。そしたら真っ先に私のところに警備を配されるはずだ。
王宮で何かが起こっている。
エレノアはじっと身を潜め耳をそばだてた。
と、地下牢の入口に通じる扉が勢いよく開けられた。
恐らく、鍵を壊したのだろう。
バキッと嫌な音を立て、次に扉が軋みながら開く音がした。
これじゃ、城から秘密裏に脱走させられるという話は本当だろうか。むしろ、目立ってしまう。こんな事をしたら父親の反感を買うだけだ。
エレノアは息を殺し、入ってくる人物をじっと見つめた。
扉が開け放たれたのか、階上から光が漏れた。
と、騎士団の兵士が血を滴らせながら階段を落ち、エレノアがいる檻の前まで転がってきた。そして、兵士は檻の中のエレノアの存在に気が付くと、目を見開き必死に何かを伝えようと口をパクパクさせている。
「え?何?」
エレノアは檻に出来るだけ近づき、兵士が何を言おうとしているのか耳を傾けようとした。しかし、それでも距離があり、明確には聞こえない。
「エ…様…お逃げ…さい…」
「何?どういうこと?」
エレノアは血だらけになった兵士をじっと見つめた。
確か、何度か食事を運んでくれた警備兵だ。
それがなぜこんな血だらけになって?
まさか、本当に脱走しようとしていた事がバレたのか!?
だが、そしたらここまで怪我を負っているのはなぜ?
その兵士は階段を落ちただけでは付かないような、剣などの斬り傷のようなものが身体中にあった。
出血元は恐らくそれらの怪我だろう。
そもそも、脱走計画がバレてしまったのなら、なぜここに誰も来ないのか。見張りくらい寄越しても良いはず。
何かがおかしい。
次から次へ拭えない違和感がエレノアを襲う。
「おい!!誰かいるのか!?」
突然の怒声にエレノアは思わず声のする階上に振り向いた。
光が漏れる階上からは、どこか見覚えのある騎士団の隊服を着る男達が地下牢を覗いている。
そこでエレノアは男と目が合った。
「おい!!いたぞ!!」
助けに来てくれたの?
エレノアは一瞬期待した。
しかし、その期待はすぐに裏切られたと悟った。
男達は物々しい勢いで階段を降りると、檻を壊し、エレノアの腕を引っ張りを乱暴に檻から引きずり出した。
いくら、カップ一杯のスープを飲んだとはいえ、三日間何も口にしてこなかったエレノアに抵抗する力などなく、エレノアは呆気なく兵士に担ぎ上げられた。
三日ぶりの地上はエレノアの瞳には眩しすぎた。
どこに連れていかれるのかわからない。
ただ、一つだけ分かることは、エレノアにとって良くない事が起こっている、ということだ。
そして、それはもしかしたら処刑が決行されるかもしれないということだ。
そんなに私はトワイニング家にとって害悪だったのか。
最後に見せたジョーイのエレノアを汚らわしいものをみるような視線を思い出した。
せめて、最後までトワイニング家の一員であるということだけは捨て、家族に迷惑を掛けないようにしよう。
エレノアは男に担がれながら、決心した。
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