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王様の奴隷  作者: ぷー介さん
23/42

断食

ガチャ──

地下牢の入口の鍵が開く音がして、エレノアはそちらに視線を送った。

ミラが、食事を持ってきたようだった。


「エレノア様!!」

ミラは勢い良く階段を降りると、エレノアの檻の前で膝をついた。

「エレノア様!!何かお召し上がりになってください!!もう三日も何も食べていらっしゃらないじゃないですか!!」


ミラは顔面蒼白で、檻に手を掛ける。

しかし、エレノアは、檻の奥でベッドを模した木の板に座ったまま、気怠げに首を横に振るだけだった。


エレノアが投獄されてから既に三日が経とうとしていた。

しかし、エレノアは出された食事に一度も手を付けなかった。



ここで私が食べてしまったら、父達に屈した事になってしまう。



エレノアは食事を拒否する事で、父親やジョーイに抵抗の意を表していた。


しかし、ミラは心配でならなかった。


人間は一切のものを口にしなければ、三日と生きられない。


何かの文献で読んだことがある。


「エレノア様、せめてお水だけでも口に入れてください…」


ミラは泣きそうになりながら懇願するも、エレノアは薄く微笑むだけで、動こうとしなかった。


「エレノア様、すぐに出てきてくれますよね?」


ミラの言葉に、エレノアは困ったように首を傾げるだけだった。

実は、丸三日食べてないエレノアは、既に声を発することですら、難しいくらいには疲弊していた。


しかし、表面上は悟られないように、必死に毅然とした態度で座っていた。




投獄されて三日経ったのなら、コリンとの約束の日は今日なのだろう。日付感覚が麻痺する牢獄の中でエレノアは考えた。



この牢屋を出ることは不可能だろう。それどころが、二度とコリンと会えないまま、イリヤ国に嫁がされるだろう。

今の王とジョーイなら牢屋から嫁がせるなど、やりかねない。

エレノアは胸が苦しくなった。せめて最後に彼に会いたかった。いや、むしろ彼に会ったら覚悟が鈍ってしまう。

これで良かったのかもしれない。


本当は何度も気持ちを伝えそうになった。溢れる想いを止める事は難しかった。


もし、私が彼に気持ちを伝えたら、彼はどんな反応をしたか。

喜んでくれるだろうか、それとも、あの優しい笑顔を曇らせて困るだろうか。


彼と一緒にいられるなら、王女という身分を捨てる事だって厭わない。

しかし、同時に王女であるという責任から逃れる事は出来なかった。


私が止めなければ、このまま『法の暴走』は止まらない。


今や国民を苦しめるだけの悪法を、エレノアは見過ごして逃げ出す事は出来なかった。




ミラが立ち去ってから、どれくらい時間が経ったのか。

コリンはあの丘で今も待っててくれているのか。


エレノアは、コリンを想い涙を一滴溢した。


約束を守れなかった罪悪感。そして、嫌われてしまったのではないかという不安感がエレノアを襲った。




ガチャ──

ミラが去ってから何時間が経っただろうか。

再び、地下牢の扉を空ける音がした。


どうせ、食事の時間だろう。


エレノアは、もうそちらに視線を送る気力も無くなっていた。

牢屋の奥で横になる事もせず、木の板にただ座っていた。


階段を下る足音はミラの足音とは違う、ゆっくりとしたものだった。

足音の主が、牢屋の前に立ち、その人物をみとめたエレノアは目を見開いた。



「お…にい…さま」


エレノアは長期間水分をとっていないことで掠れて声は出ず、口からはただ空気が流れただけだった。

確かに食事の時間ではあった。しかし、その食事を運んできたのは紛れもないジョーイだった。


ジョーイは無表情のまま、食事用の小さな入口から、持ってきた食事用のスープを乱暴に置き、一抱えの布袋を投げ入れた。


「ずっと食べていないそうだな。浅はかな抵抗のつもりだろうが、ここで死なれたらこちらも寝覚めが悪い。さっさと食べろ。」



ジョーイは汚らわしいものを見るように、エレノアを睨め付けた。


「その包みの中には、服が一揃え入っている。これが私から最後の餞だ。それに着替え何処へなりとも去れ。決してトワイニング家の者だと名乗るな。お前はトワイニング家の恥だ。最早、妹だと思う事すら虫酸が走る。」



ジョーイの声は闇の底から凍る様な冷たいものだった。エレノアは想像もしていなかった事を言われ、小さく震えた。


「お父様は…お父様も同じ考えなのでしょうか?」

エレノアは掠れた声を絞り出す。この事について、父親である王はご存知なのだろうか。


「お父様には言っていない。私の独断だ。」

「では…私が出ていく必要など…」



「エレノア。これは兄として最後の手助けだ。お父様はお前を処刑する意向だ。」


「え…」


ジョーイは苦虫を噛み潰したような表情だ。



お父様が私を処刑…


エレノアは、目の前が真っ白になった。


「明日、迎えを寄越す。それまでせいぜい王宮にいる事を噛み締めておけ。」

エレノアはジョーイの言葉に力無く頷いた。

ジョーイは冷たく言い放つと、振り返る事もせず階上へ戻っていった。

エレノアは放心していた。


心のどこかで、兄なら解ってくれると期待していた。ニッコリ笑って「冗談だよ」と言って許して貰えると、しかしそれは甘い考えだった。


実際にはそんな事は起こり得なかった。

絶縁を宣言されるどころが、処刑がエレノアを待っている。

父親の弾圧はそこまで強硬なものになっているのか。

説得だけでは、王を止められない。



何もかもが間に合わない…



エレノアは絶望した。

家族から捨てられ、国民を守ることも出来なかった。

いっそ、このままここで死んでしまえたらどんなに楽だろう。

エレノアは自分の首に両手を当てた。しかし、手は震え、死ぬ勇気が出なかった。


「結局何もかもが中途半端なのね。」

エレノアは自嘲した。



エレノアはジョーイが置いていったスープに目を遣った。

置かれたスープは、エレノアが一番好きなミネストローネスープだった。

それはジョーイの最後の優しさか、それとも、ミラ達が気を利かせてくれたのかはわからない。ただ、意地で食事を我慢していた事が馬鹿馬鹿しくなった。


どうせ、何をしたってもう変わらない。


エレノアは、スープに口を付けた。

「ごほっ…えほっ…ぇ…」


三日ぶりの食事に胃が驚いたのか、エレノアはむせた。しかし、もう一度スープに口を付けた。

ジョーイが最後に残した生きる道。

せめて、兄の迷惑にならないようここから立ち去ろう。


エレノアは絶望にうちひしがれ、泣きながらカップ一杯のスープを飲み干した。

そして、ジョーイが持ってきた服を広げた。それは王族が着るとは到底思えないような奴隷としても最下層の汚れた服だった。


エレノアはそれに着替え、眠りについた。




─────

グラノフ公爵の屋敷で、アーシェは夜遅くまで自分の寝室で書類整理をしていた。


考えれば考えるほど眠れなくなり、アーシェは寝室に仕事を持ち込んでいた。


親友だと思っていたジョーイは変わってしまった。

エレノアはそんな兄を戻そうと必死になっていたのに、自分は何をしてきたのか。

いや、なにもしてこなかった。

ただ、流されるままに状況を受け入れてきただけだ。そのせいで、親友は苦しみ、慕っていた相手は投獄されてしまった。


アーシェは悔しさで顔を歪ませた。



ふと、アーシェは耳を済ませた。

何か窓の外から音が聞こえた気がする。

耳を澄ませても何も聞こえず、気のせいかと思った瞬間、もう一度音がした。



コン…


アーシェは、部屋にあったサーベルを握ると、静かに窓に近寄った。そしてカーテンを勢いよく開き、サーベルを振り上げた。





しかし、サーベルを振り下ろす事なく、アーシェは膠着した。窓の外にはフードから顔を覗かせた人物がこちらを見ていた。


「お前!何でこんなところに!?」


アーシェが叫びそうになる所を、その人物は口に指を当て、静かにのポーズをした。

アーシェは慌てて窓を開け、その人物を窓から招き入れた。


書き貯めていたのはここまでですん

次からは更新は数日に一度になりそうです

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