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王様の奴隷  作者: ぷー介さん
22/42

決戦前夜

「叔父さん、明日1日だけ、自由にさせて貰えますか?」

「あれは明後日だぞ?前日にか?」


ハーシェル家公爵の書斎、コンラッドはハーシェル公ニコラスに明日だけ自分の時間が欲しいと要求していた。

明日は約束の日。


「前日だからこそ、自由な時間が欲しいんです。」

コンラッドの言葉にニコラスはピクリと眉を動かした。

コンラッドの菫色の瞳には決意の色が灯っていた。


「まぁいい。必ず夜には戻ってこい。逃げるなよ?」

「はい。」


コンラッドに限って逃げることは無いと思うが、ニコラスは一応釘を刺す。

コンラッドは、お辞儀をし、書斎を出ていった。


コンラッドと入れ違いにハーシェル家の執事が入室してきた。

「コンラッド様はどこか嬉しそうでしたが、何かあったんですか?」


書斎を出ていったコンラッドの表情を横目に見た白髪の執事が首を傾げていた。

「骨休みを取らせたんだ。」

「なるほど。それは良いことですね。コンラッド様は最近は特に働きづめな帰来がありますからね。」


ニコラスは、執事が持ってきた書類に目を通しながら穏やかに言った。

次、いつ静かな時間が訪れるかは分からない。その事をニコラスはよく理解していた。










次の日、コンラッドはサルマンの街に出た。

いつもはボサボサ黒髪に奴隷が着る質素な服装に変装してから、出掛けていた。

しかし、今日は自前の青銀色の髪のままで、上質なシャツに、細身のスラックス。それはどこからどうみても美しい上流貴族の私服そのものだった。

彼が歩くと、すれ違う街中の女性達はみんな溜息を吐き見惚れていた。


コンラッドは、街の花屋で小さなブーケを買った。約束の彼、いや、彼女の瞳の色とよく似た黄色のガーベラを中心にあしらったものを選んだ。ブーケを受け取ると、彼女を思い出したのか、コンラッドは無意識に微笑んでいた。

コンラッドは花屋に礼を言うと店を出て、約束の地を目指した。


彼が去った後、花屋で対応した女性店員がコンラッドの美貌に当てられ失神してしまい、店内では大変な事になっていたが、コンラッドは気づかなかった。




コンラッドは約束の丘に着くと、いつもの指定席である切り株の上で一息吐いた。

ブーケを脇に置き、途中になっていた本を読み始める。


今日は珍しく会う約束をした。しかし、日にちは指定したが時間は指定していなかったので、今日1日待つだろうと予想していた。



だが、本を読んでいても、自然と笑みが浮かんでしまい本に集中出来ない。

1ヶ月ぶりに会う『エル』は今日、どんな格好をしてくるのか。

いつものように、ハッチ帽に大きな眼鏡で、いつもの男装の格好なのか。

それとも、今日はコンラッドのように、変装せずに来るのか。コンラッドは思いを巡らせ、頬が緩む事を止められなかった。


『エル』の素顔を知ってしまってから、コンラッドはあの姿にもう一度会いたくて堪らなかった。


「綺麗な御椀型だったな…」


コンラッドは空を見上げ独りごちた。



『エル』と出会って7年。友人のような存在から、いつの間にか恋人のような存在になっていた。

しかし、相手は男。

コンラッドは、理性をなんとか保とうと努力してきた。

そのため女性を紹介された時は、気を紛らわす為にそのまま女性達と付き合おうと試した。

コンラッド好みの女性ばかりだった。痩せすぎず、豊満な胸が印象的な女性達が多かった。

しかし、それだけだ。

今や、胸しか思い出せず、顔は全然覚えていない。

なにより、会話が合わなかった。別に、コンラッドが胸しか眼中に入っていなかった訳ではない。

いくらコミュニケーションをとろうにも、アクセサリーや流行りのオシャレの話ばかりで、心から惹かれる会話というものは生まれず、どんな女性とも長続きしなかった。


そして、結局『エル』に戻ってきしてしまう。

会話をするのにも、自分を飾らずに話すことができた。

確かに同じ男であるジョーイやアーシェとも、身分をあまり気にせず話していたが、それはあくまで友人としての会話だった。

しかし『エル』とは違った。『エル』とは、魂が繋がっているのではないかと思うくらい気が合った。

それに『エル』と会話をしている時が一番楽しいと気づいてしまった。政治や経済の話の時も、読んでいる物語の話も、意見を言い合い、意見が対立しても、『エル』の話なら抵抗なく聞くことができた。『エル』はいつも感情豊かに表情をコロコロ変えて話す。それが最初は小動物を見てる時と同じ『可愛い』という感情だった。

しかし、だんだんと『愛しい』という感情に変化していた。すると、『エル』の一挙手一投足から目が離せなくなった。

眼鏡から見せる美しい金色の瞳や、たまに見せる妖艶な表情に気付き、その度に自制心をフル回転させ押し倒しそうになる自分を堪えたのだった。



最初は『エル』が男ということで諦めようと努力していた。

しかし今は、男、女、関係なく、『エル』という人間が欲しくなった。相手が『エル』なら男だろうが欲情する自信はあった。

だから、一生のパートナーとして、『エル』に側にいて欲しいと伝える決心をした。


もし、『エル』にフラれたら、一生独りだろう。

それくらい、もう想いを止める事は困難になっていた。

一代決心で、会う約束を取り付けた時、『エル』は初めての事で驚いていたが、了承してくれた。

あとは想いを伝えるだけ。コンラッドは完全に浮かれていた。

だから油断していた。

あんな場所で『エル』を一人にすべきではなかった。


俺はあの時、居酒屋の店主から、ダウンタウンだけでなく、市街地も治安が悪化してきたと言われ、脳裏に嫌な予感が過った。


まさかと思ってダウンタウンに足を踏み入れ、ちょっとした袋小路を覗くと、男達の嫌な怒号のようなものに紛れ、女性の声が混ざっていた。

自分の偽名を呼んだような気がした。


一瞬にして頭が真っ白になり、無我夢中で男達を引き剥がした。男達がその後どうなったかは知らない。手加減は出来なかった。


男達が逃げると、そこには一人の女だけが残っていた。

俺はただ呆然と、女神が降臨したのかと見紛うくらい美しい女にただ見惚れてしまった。

「コリン…」

だが、その女から自分の偽名を呼ばれ、我に帰った。

まさかと思ったが、その女は『エル』だった。


助け起こそうとした時、不謹慎ながらも『エル』の豊満な胸に目がいってしまった。理想とする女性像そのものだった。

思わず本能のままに動いてしまいそうになったが、なんとか理性を保ち、というか『エル』のくしゃみでどうにか理性を思い出し、介抱した。

しかし、その後、エルが申し訳なさそうに

「コリン…その…黙っててごめん。僕、女なんだ。」

と言った瞬間、俺は再び理性が吹っ飛びそうになった。

「別に。お前はお前だろ。」


俺が一生懸命、理性から絞り出した言葉だった。

むしろ、女だと言われ、歓喜に戦慄いた。


だが、『エル』の手を取ると、小さな手は震えていた。俺は安心させたくて思わず抱き締めていた。このまま別れてしまったら、二度と会えないんじゃないかと思って、慌ててもう一度、1ヶ月後の約束を取り付けた。彼女は俺の胸の中で小さく頷いてくれた。


その後は、彼女が「良い」というまで離れなかった。手を離したら消えてしまいそうな彼女。少しでも長く一緒にいたかった。


『1ヶ月後にもう一度会おう』

頼りない一言の約束に縋り、その日は手を離した。


しかし、それからが大変だった。

夢で何度も彼女は現れ、俺を熱くさせる。

夢の中で何度も彼女を抱き締めた。

次に彼女と会ったときは、きちんと理性を保っていられるか。それだけが心配だった。




街から昼の鐘の音が聞こえてきた。

コンラッドは全く進まなかった読みかけの本を閉じ、街で買ったサンドイッチと珈琲を取り出した。


珍しいな。


コンラッドはサンドイッチを咀嚼しながら思案した。

仕事が無い場合は、『エル』は午前中からいつも来ていた。今日も仕事があるのだろうか?

いや、そんなはずはない。主人のロジェットは現在こちらの陣営にいる。


きっと何か用事があるのだろう。

コンラッドはサンドイッチが包まれていた紙をクシャリと丸めると、読書を再開した。





「コリン!!お待たせ!!」

息を切らし、美しい金色の髪を靡かせ彼女がコンラッドの胸に飛び込んできた。走ってきた彼女はあの時の姿だった。

魅力的な彼女をコンラッドは直視することが出来なかった。

赤面しながらも、自分の気持ちを伝えなければと、コンラッドは決死の覚悟だった。


「愛してる。側にいてくれないか?」


その言葉を聞くと、彼女は迷惑そうな顔をして離れた。

「そういうのは困るのよね。」

いつの間にか彼女は純白のウエディングドレスに着替えていた。それどころが、隣には見たことの無い男まで立っている。

「アタシは彼と愛し合って結婚するの。金輪際話し掛けないで。気持ち悪い。」

そういって、彼女は知らない男と濃厚なキスをし始めた。

「え!?ちょっと!?嘘だろ!?」

コンラッドは混乱して言葉が出てこない。

思わず近づこうと、いくら追いかけても彼女はどんどん遠ざかっていく。

一方、コンラッドの足は次第に地面に沈んでいき身動きが取れない。

気づいたら腰あたりまで地面に沈みもがいていた。


「何だこれ!?エル!!エル待ってくれ!!」


コンラッドの叫び虚しく、『エル』が見下ろす前でコンラッドは地面に飲み込まれていった。




「うあぁ!!!」

コンラッドは飛び起きた。

周りを見回すと、誰もいない、いつもの丘だった。

いつの間にか眠っていたようだ。


「嫌な夢を見た。」

コンラッドは片手で眉間を押さえた。


辺りはいつの間にか暗くなっていた。

その時街から夜の始まりを伝える鐘が鳴り響いた。


約束の今日、『エル』は来なかった。


コンラッドは諦めて帰る事にした。


彼女は来なかった。何か用事があったのかもしれないと期待する一方で、もしかしたら、先程の夢のように、拒否の意を込めて来なかったのかもしれない、と落胆した。


それが彼女の答えだと。

それならせめて、この世界のどこかで生きている彼女が幸せでいる事だけを祈ろう。



その為に俺にはやるべき事がある。

この世界を変えなければならない。


決戦は明日。

コンラッドは拳を握りしめた。




初めて激辛ラーメン店のラーメン食べました。

初心者用に辛さが優しいやつでした。

次はノーマルな辛さを食べたいです

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