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王様の奴隷  作者: ぷー介さん
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エレノアの日常1

目を開けると、そこは見知った部屋だった。


いつもの、大きな天蓋付きベッド。


またあの夢を見ていた──


夢だと確信していた。それでも、恐る恐る確認するように腕を動かさずにはいられなかった。


『良かった…動く。』


夢というには、少々生々しすぎる感覚。

なぜなら、それは自分自身の体験からくる記憶によるものだからだろう。


いや、あの時、確かに自分は一度死んだ。


そう、あれは前世の記憶なのだ。


コンコンコン───

「エレノア様、朝でございます。」


ノック音がするとメイドが二人入ってきた。


エレノアと呼ばれた少女は夢見が悪くダルさを感じながら起き上がった。

だが、全てが悪い夢というわけではない。

大切なあの人にもう一度会うことが出来た。


大切なあの人との思い出…。


「晃一には悪いトラウマを植え付けたわ…だって目の前で恋人が車に轢かれたんだもの。」


ポツリと呟くと、自嘲気味にエレノアは笑った。


「おはようございます、エレノア様。どうしたんです?」

メイドの一人が声を掛けてきた。


「いいえ、なんでもないわ。おはよう、ミラ、シアン。」


エレノアは頭を振ると、二人のメイドに挨拶をしながら起き上がった。


「また、シフォンケーキの夢ですか?エレノア様の顔が朝から緩みきってますよ。」


着替えの準備をしながら先程からエレノアに話しかけてくるメイドはミラという。

エレノアがよく話すメイドの一人だ。


「うふふ、今日は前の時より、もっと大きなシフォンケーキに埋もれる夢だったのよ」


エレノアはイタズラを共有するようにウインクをした。


エレノアはもちろんシフォンケーキの夢なんて見ていなかった。だが、前世の記憶があるなんて誰にも言えるはずもなく、シフォンケーキの夢といって誤魔化したのだ。


「シフォンケーキの夢で喜べるなんてエレノア様はお子様ですね。そろそろ殿方の夢でも見て、その美しいローズ色の頬を赤らめたらどうですか?」


ニヤニヤしながら、ミラが続ける。


「殿方の夢なんて要らないわ。どうせ恋をしたって、私は政略結婚させられるかもしれないんだから。それに私はまだ8歳よ、お子様で結構!」


エレノアはローズ色の頬をぷくっと膨らませ拗ねたように見せる。ミラは、やれやれといった感じにエレノアの着替えを手伝い始めた。


普通だったら、貴族に対してこんな口の聞き方をしたら折檻くらいありえる。ましてや、エレノアは貴族以上の存在、国王の第2子にして、長女。つまり、王女である。


しかし、エレノアは今よりも前世の日本の記憶の方が多く、身分差や、召し使いと主人という関係がどうにも馴染めなかった。


だから、幼い頃からミラや他のメイド達にも分け隔てなくなついていた。

初めの頃は、王や王妃は侍従に対し、主従の関係を越え、親しくすることを良しとしなかった。しかし、何度言っても直らない娘に、根負けしたようで、最近ではなにも言わなくなっていた。


我が王国ルドラ王国は少々の諍いはあるものの、何十年も安寧が続いている。つまりは王女であるエレノアが政治的に利用される可能性は少ない。つまりは、利用価値の少ないエレノアは王の関心の対象ではなかった。


だが、それでもエレノアが政治的材料になる可能性を全て捨てきる事は出来ない。




エレノアの髪はオレンジに近い金色で、太陽のような美しい色を称えている。

また、髪と同様に太陽のような金色の瞳を持っている。

そしてエレノア自身は、幼いながらも、はっきりとした顔立で周りの大人たちを魅了していた。


それは、万が一、政略結婚に直面した場合、エレノアが非常に優秀なカードとなる事は容易に予想出来る。



だが、政治的材料として考えられていることをエレノアは悲観しているわけではなかった。

現在は政略結婚の予定は無いし、まず相手が誰かに決まってから、相手を見て悲観すれば良いと考えていた。

つまり、あまり気にしてなかった。





エレノアには13歳の兄と5歳になる弟がいる。二人は王となる教育をそれぞれ受けており、王を継承する将来、どちらが王になるかと、もしかしたら争いが起こるかもしれない。

だが二人を見ていると、兄弟仲は良い方だと思う。

あの二人が外野に惑わさえしなければ、きっとお互い助け合い、良い国政が行われるだろう。


だが一方で、エレノアは万が一の政治的材料として、他国へ嫁ぐ可能性がある。そのため、ルドラ王国の『王となる教育』を他国へ流出する事を防ぐためにも、エレノアは王となる教育は受けない。いや、受けさせては貰えない。

だが、それでも王族として最低限の歴史や教養は教育させられる。エレノアは意欲的にそれらを学んでいる。


それは、前世の影響もあった。

海外に向けた事業展開も多い会社に勤め、自国と海外の情勢、そして地理的な把握を常に考えていた。

まあ、その原動力は海外事業に携わる恋人に少しでも近づきたいという希望があったからだが。


その時の知識もあり、どことなく風土が地球と似たこの世界について、純粋に興味があった。

そして、このルドラ王国も中世ヨーロッパを彷彿とさせる文化形態をしていた。



「えぇっと…今日の予定は…」

「今日は歴史の先生がおみえになる予定です。午前中いっぱいですね。午後は特に入っておりません。」



エレノアが今日の予定を確認すると、シアンが髪型の最後の仕上げと同時に教えてくれた。

ミラとシアンはエレノアの専用メイドであり、侍従でもあるので、エレノアの予定を常に把握している。


エレノアは今日も午前中から家庭教師の授業が詰まっている。




─────





ルドラ王国は数百年続く王国である。その長い歴史の中、重要な家系が二つある。

今の王家であるトワイニング家、そしてもう一つの家系がハーシェル家。この二つの家系が歴代の王を排出してきた。

そして、ルドラ王国の歴史とは、主にこの二つの家系の玉座争いの遍歴である。


この二つの家系は常に対立してきた。


しかし、数十年前、和盟が締結された。トワイニング家の首領が王となり、ハーシェル家の首領が最も権力をもつ最高貴族となった。それからは、お互いの関係は表面上は良好である。




──────


「さて、今日の授業は以上で終了となります。何か質問はありますか?」


家庭教師がテキスト本を閉じながらエレノアに聞いた。


「いいえ、先生。今日も素敵な歴史の授業ありがとうございました。」


エレノアはニッコリ微笑みながら答えた。


「そう、良かったわ。では、また次回の授業で」


家庭教師はミラが入れた紅茶を飲むと出ていった。

王宮の一角で行われる授業。


「ふぅ」



エレノアも、紅茶飲んで、一息ついていると



コンコンコン──


ノック音がしてドアから顔を覗かせたのは、


「ジョーイお兄様!!」



エレノアの兄、ジョーイはニッコリと微笑みながら入ってきた。

ジョーイはエレノアの髪よりも淡い金色の髪だ。美しい王妃の顔立ちにそっくりで、まさに王子様といったところだろう。


エレノアはジョーイのもとまで走って抱きついた。


「お帰りなさいお兄様。遠征からやっと帰ってこれたんですね!とても待ちくたびれましたわ」




エレノアが上目遣いで訴えると、ジョーイは微笑むと「ただいま」と言いながらエレノアの頭を撫でた。


訂正しよう。

『兄弟の仲は良い方だ』と、記述したが、『良すぎる』の方が合うだろう。エレノアは特にジョーイから可愛がられていた。




「そうだ!エレノアにお土産があるんだ!てを出してごらん」

ジョーイはポケットからハンカチでくるまれた包みをエレノアに渡した。それはエレノアの小さな手に収まるものだった。


「開けて良いですか?」

エレノアは小首を傾げて、ジョーイに聞いた。ジョーイはニッコリ微笑むと、包みを開けるよう促した。



エレノアが包みを開けると、中から出てきたのは、赤珊瑚のピアスだった。

「今回は海岸沿いの視察だったんだよ」

ジョーイが教えてくれたそれをよく見ると、丸く磨かれた、とても綺麗な赤だった。


こんな素敵なお土産を貰えた事はもちろん嬉しい。だが、それ以上に、王位第一順位であり常に忙殺されそうなジョーイがわざわざ自分の為にお土産を選んでくれたという行為が嬉しかった。

頬を紅潮させ、エレノアはジョーイの頬にキスをした。


「お兄様ありがとうございます!!!」


その瞬間、ジョーイは目を大きく見開き、エレノアを抱き締めた。

「あぁ!エレノアはなんでこんなに可愛いんだ!血が繋がってさえいなければすぐに求婚したのに!!!」


ジョーイは絶望するような表情をしていた。


「おい、シスコンも大概にしてください。」

声がした方向を見ると、そこにはジョーイと同じくらいの赤髪の少年が腕組みをしながら立っていた。


「なんだ、アーシェ!そんな事言ってもエレノアは渡さないぞ!」

ジョーイは冗談っぽく、エレノアを抱き締めたまま、アーシェと呼ばれる少年からエレノアを自分の陰に隠すようにした。


「アーシェ様もお帰りなさいませ。どうぞこちらに来て一緒にお茶でもいかがでしょうか」

エレノアはジョーイから離れると、アーシェと呼ばれた少年に向かってスカートの両端をつまみ恭しく挨拶をした。

グラノフ公爵の嫡男アーシェはエレノアの挨拶に応えるようにジョーイたちのもとに歩いてきた。


「俺たちがいくら何を言ったって最終的には国王様の采配でエレノア嬢はどこかへ嫁ぐんだから諦めろ…ください。」

無理やり取って付けたような敬語でアーシェがそう言うと、ジョーイはガクっと肩を落とした。

アーシェの父、グラノフ公爵はルドラ王国の宰相であり、国王の右腕と呼ばれる。そのため、ジョーイとアーシェは幼い頃からの幼馴染である。二人も13歳にもなり、最近は落ち着いたとはいえ、エレノアと同じくらいの年齢だった頃は相当な悪ガキだったらしい。



ここまで読んでいただきありがとうございます

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