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隔絶次元の勇者達へ愛をこめて  作者: 守條裕芭
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宣戦布告

 イザナキの言葉に全員が驚く。

 そりゃそうだろう。

 勝手に呼ばれてお互いを殺し合えなんて言われれば誰だって驚く。


「おいおいどういうことだよ?殺し合い?何でそんなことしないといけねぇんだ。普通に話し合いで決めりゃいいじゃねぇか。」


 ごもっともな意見だ。

 代表を決めるの殺し合いだなんて馬鹿げてる。

 それにこんな話に賛成する奴なんかいるわけがない。

 殺すなんて非生産的なことをして何が得られるんだ。


「うーん。僕も出来ればそうしてほしかったんだけどねぇ。ほら、彼らって筋肉脳だからさ?しかたないんだよね。」


 イザナキはそう飄々と言ってのけた。

 どこも仕方なくないだろ。


「もー、今更うだうだ言ってたってどうしようもないでしょ?誰か一人が残るまで元の世界には帰れないんだし。じゃー早速諸君に誰の代理になってもらうか発表するよ!」


 こいつ、めっちゃ大事なことをサラッと言いやがった。

『誰か一人が残るまで元の世界には帰れない』

 俺を含めてこの異空間に来たのはイザナキの言う英雄7人と同じ人数。

 この7人の内1人は生き残り、残りの6人はここで一生を終える。

 つまり帰れるのは勝ち残った1人だけ。

 まだ信じられないが、嘘を言っている風には感じられないイザナキの発言に徐々にだがこれは現実だと実感してきた。


「勇者アーサー。彼の代理はヒデアキ。」

「おっ、勇者か!」

「賢者アルヴィス。彼の代理はタカト。」

「はい。」

「司祭ヨハン。彼の代理はミズキ。」

「私…ですか?」

「覇弓ウル。彼の代理はユウリ。」

「絶対に生き残ってやるわ。」

「槍騎士ロンギヌス。彼の代理はハルト。」

「……。」

「聖王アイテール。彼女の代理はリュウセイ。」

「こうなったらやるしかないか…。」

「最後に、魔王ルシファー。彼の代理は君だ。」


 嘘だろ。

 魔王って、この中じゃ一番最初に死亡フラグが立つキャラクターじゃないか!!

 俺が魔王と発表されると6人の目の色が変わった。

 これ一斉に襲われて初戦でフルボッコ後死亡確定だろ!?


「“代理”とは聞こえはいいが、実際、諸君は英雄達の駒だ。諸君は彼らの半身でもあるから…そうだな。これからは“代理”ではなく“役”と呼ぼう。」


 代理…改め役をそれぞれ貰ったが、これからどうすればいいんだ?

 殺されないようにするのは大前提で。

 出来れば俺は人を殺すなんてしたくない。

 こんなところで犯罪者なんてまっぴらだ。

 そんな平和なことを考えている俺を他所に話はどんどん進んでいく。


「手ぶらじゃ何も出来ないだろうから諸君に武器をプレゼントしちゃうね!」


 イザナキがパチンと指を鳴らすと俺たちの目の前にそれぞれ違う武器が現れた。


「勇者アーサーの使う武器は神剣エクスカリバー!鋼をも紙のように切ってしまうのが特徴さ!!」


 そんなもんで切られたら一瞬で人生ゲームオーバーだ。


「賢者アルヴィスには魔導書ネクロリウム!生きてるモノならこれ一つで何でも出来ちゃう優れ物!!」


 優れ過ぎだろ!

 ………もしかしたら一番強い武器かもしれない。


「司祭ヨハンには星杖モルセを!悪しき魂を一瞬で浄化してしまう神聖な杖だよ!!」


 悪しき魂って…ここにいる人は誰も悪人って感じじゃないけど。


「覇弓ウルが使う武器は聖弓イチイバル!飛び道具限定なんだけど、なんとこの武器は所有者が望む形状に変化するんだ!!」


 弓以外にも例えばショットガンやマシンガンとかにもなるのか。

 近代的だな。


「槍騎士ロンギヌスの武器は神槍ブリューナク!魔槍とも呼ばれ、あの『神器アイギス』でさえ防ぎきれるかわからない程の貫通力が自慢さ!!」


 神器アイギスってゲームとかにたまに出てくるけど、兎に角防御力が半端ないヤツだろ?

 それを貫くかもって、腸引きずり出すとかそんなレベルじゃねぇぞ………。


「聖王アイテールが所持する武器は神槌アイムールとヤグルシ!その昔、嵐の神バアルが海の神ヤムを倒すために与えられた二本の棍棒さ!」


 神殺しの棍棒か。

 一撃でも食らえば即死亡だな。


「そして魔王ルシファーが使う武器は魔槍アラドヴァル!通称『殺戮者』とも呼ばれる最恐の武器で、灼熱の穂先は町を焼き尽くす。そして、少しでも触れれば殺戮本能を抑えることが出来なくなる危険な武器でもあるよ!!」


 俺のが一番ヤバかった。

 なんだよ町を焼き尽くすって!

 それに殺戮本能だと?!

 ふざけるな!!

 本格的に俺が悪者になっていくことに焦燥を感じていると、「はいはーい!」と元気な声が響いた。


「この武器なんかデカいんだけど!もっと小さくしてくれないと持ち歩けないよ~。」


 アーサー役に指名されたヒデアキが人差し指でエクスカリバーをつんつんしている。

 彼の言ったことは皆も思っていたようだ。

 その時、目の前にあった武器が消えた。


「そのことなら心配いらないよ。自分が戦わないといけないときにだけ武器は顕現するから、普段は手ぶら状態さ。」


 なんて便利なんだ。

 俺は思わず感心してしまった。


「さぁ、勇者の諸君。ゲームが始まるよ!生き残りを賭けたデスゲーム!!大いに暴れてくれ!」


 一瞬、強い光が差し込むとイザナキは姿を消していた。

 もうコロシアイのゲームは始まっているのだろう。

 残された俺達は気まずい空気のなか放り出されたようだ。


「と、取り敢えず自己紹介でもしておきませんか?」


 司祭ヨハン役の女の子がそろりとてを上げてそう言った。


「そだな。じゃあ俺から!勇者アーサー役のヒデアキです!ここに来る前は高校生してました!!ハイ次!」


 きっとクラスの中心人物だったに違いない。

 みんなに好かれそうなキャラだし、何より真っ直ぐで素直そうな子だ。


「俺?…賢者アルヴィス役のタカト。以上。」

「え~、そんだけ?!」


 彼は普段からそんなに喋ってなさそうだよな。

 イケメンだし、クールだし、きっと女子にモテたに違いない。


「司祭ヨハン役のミズキです。ヒデアキ君と同じで高校生でした。えっと…よ、よろしくお願いします。」


 彼女はそう言ってぺこりとお辞儀をした。

 見た目通り大人しそうだな。

 俺の次にターゲットにされやすい人物なんじゃないか?


「覇弓ウル役、ユウリよ。いい?生き残るのはこのあたしだから!」


 隠れたツンデレ属性を持っているのか、それともただ単に生意気なだけなのか分からない。

 見た目はどっかのお嬢様みたいだ。


「……ハルト。」


 タカトよりもコミュニケーションとるのが難しい奴が現れたぞ。

 雰囲気はザ・ミステリアスだな。


「聖王アイテール役のリュウセイだ。出来れば俺は殺し合いなんてしたくない。皆で他の解決方法を考えようぜ。」


 まるで正義の味方だ。

 そして最後に俺の自己紹介の番が回ってきた。


「魔王ルシファー役です。よろしく。」

「名前は?!」

「あんたも名乗りなさいよ。」


 名乗れと言われてもな………。

 この時、俺はもう色々と諦めていた。


「名乗れって言うけど、どうせ殺されるんなら名前教えたって仕方ないでしょ。寧ろ踏み込めば踏み込むほどきっとお互い辛くなる。」


 俺の言葉は自分でもわかるくらい冷めていた。


『随分と冷たい男だなぁ、君は。』

「?!」


 頭の中に知らない奴の声が響いてきた。

 回りの様子を見る限りこの声を聞いたのは俺だけの様で、他の皆は俺を無視して何かを話し合っている。


「やれやれ。まぁ、君には頑張ってこのゲームを勝ち抜いていってもらわないと困るし。寝首を掻かれんように気を付けなよ。」


 今度は耳からだ。

 いったい誰が俺に話しかけているんだよ!!

 

「ここだよここ。」


 ばっと振り向くと露出度の高い黒い衣に包まれた白髪の少年が俺をじっと見つめていた。


「誰?」

「ルシファー、君を代行者として選んだ魔王さ。まぁ?君たちの世界では悪者扱いされてるポジションらしいけど。」


 ルシファーと名乗った少年はさらさらと靡く髪を細い指で弄びながら軽く自己紹介をする。

 こいつの代わりに俺が人を殺さなきゃなんないのかと思うと酷く嫌気が指してきた。

 勝手にやってろよって言ってやりたいがひしひしと伝わってくるものがある。

 それは、俺が何しようがコイツに指一本すら触れることが出来ないってことだ。


「そんな風に禍々しい雰囲気を漂わせてたら近寄りがたいし。だからじゃないの?」

「そもそも君達は魔王の本当の意味を分かっていない。魔王は悪を統べる者なんかじゃない。真の意味は“魔道士の頂点に立つ者”だ。それに禍々しいって…。


 なんか寂しいこと言うな、君。」


 苦笑しながら言うルシファーは今にも消え入りそうだった。

 今までの堂々とした風貌が一気に消え失せる。


「以外と寂しがり屋?」

「っ!うるさい!!兎に角、君にはこのゲームに勝ってもらわないといけないんだからしっかりしなよ!!」


 ……図星か。


「勝つって、ここに喚ばれたこの人たちを殺せってことだろ?簡単じゃん。」


 彼奴等は正々堂々と戦うか協力して此処から出ようとしているけど、皆その気になれば全滅させることの出来るだけの武器は与えられている。

 早々に決着はつく筈なのに誰もそうしないのは罪の意識に囚われたくないから、というのもあるのかもな。

 実際、俺がそうだ。


「君は人を簡単に殺せるの?」

「無理。そんな勇気ない。」

「じゃあどうするの?」


 どうする?

 …もう面倒くさいし、俺ごと消し去るか。


「無に帰す。」

「それも選択肢の一つだね。でも自分ももとの世界には帰れなくなるよ?」

「その方が幸せなんじゃねーの?きっと。」


 俺が魔槍アラドヴァルに手を伸ばしたその時、一閃が目の前を通った。

 危うく頭に撃ち込まれそうになるくらいの距離で。


「………貴方のその武器、物凄く危険よね。そんなもの使われたらたまったもんじゃないわ!」


 そう声を張り上げたのは弓を構えたユウリだ。

 もう既に鏃を俺に向けている。

 次は外さないとばかりに。


「はっ!貴方、魔王役に選ばれるんだからよっぽどの極悪人なんじゃないの?!今さっき武器を手にして私達を殺そうとしたでしょ。………誰が死んでやるものですか!!」

「え?!ちょっ、落ち着いて!」


 ヒデアキが止める間もなくユウリの放った閃光は真っ直ぐ俺へと目掛けて飛んでくる。


「仕方無いなぁ。」


 その声と共にアラドヴァルが回転しながら俺の目の前に飛んできて、穿たれた矢を跳ね返した。


「別にこの槍に触れなくても操作は出来る。こんな風にね。」

「ルシファー。」

「あとは君に任せるよ。僕が介入できるのはここまでだしね。じゃ、君の武運を祈ってるよ。」


 さらさらと砂のようにルシファーはこの場から姿を消した。


「なに余所見してるのよ!!」


 再び閃光が、それも今度は複数、俺に向かって一直線に飛んでくる。

 それを避けもせず、さっきルシファーがやって見せたように槍を上手く操作してはね除ける。


 触れなくても操作は出来る。

 じゃなかったら武器にもならないだろう。


「平和的な解決は無理そうだな。」


 リュウセイがポツリと言葉を溢す。


「最初からそんなの無理でしょ。てことで、お前の相手は僕だから。」

「………。」


 ハルトは槍の矛先をリュウセイの喉へ向けた。



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