第三章 時実(ときざね)
◇登場人物◇
野口親生・・・ある日突然人の頭上にともし火が見えるようになった男。
事故で死ぬはずだった幼き日のみことを助け、数年後再会を果たす。
神宮寺命・・・百年続く神宮寺家の末裔であり、未来を予見できる能力を持つ。
いのちの恩人である野口を悪魔から助けようとして冥界へ連れ去られてしまう。
神宮寺時実・・・神宮寺家の開祖で命の先祖にあたる人物。禰宜の格好をしている。
この世は嘘で満ちている。
否、それ以上に’妖魔’で満ちている。
その妖魔から人々を守ってきた神宮寺家の末裔である命がこの世を去ったのはつい最近のことだった。
命は自らのいのちをかけて黒い腕の妖魔を封印したが
この世に実在する妖魔はそれだけではなかった。
歪鬼・・・時空の歪みから現れる鬼
野口がその妖魔の名前を知ったのは命が冥界に引き込まれてまだ間もない頃のことだった。
野口は図書館で偶然見つけた書物を読んでそのことを知った。
著者は神宮寺時実という神宮寺家の開祖でありおそらく命の先祖にあたる人物だと思われる。
時実は今から百年前に歪鬼を”自らが封印した”と記している。
野口はその本を借りて常に持ち歩くことにした。
そしてその”歪鬼”は息もつかせぬ早さで野口の前に現れた。
ドドォオオォオン!!!!!!
突然雷が落ちたような轟音が響き渡り目の前の空間に亀裂が生じると
次の瞬間にはその隙間から歪鬼と思われる妖魔の姿が現れた。
歪鬼は体高が4メートルはある巨大な暴れ牛の姿をしていた。
「時実は何所じゃああああああああ!!!!!!!」
突然歪鬼に罵声を浴びせられた野口はあまりのうるささに思わず耳をふさいだ。
「うらあああああああ!!!!!!!神宮寺時実をださんんかあああああっ!!!!!!」
歪鬼が叫びながら野口を突き飛ばす。
野口はそのまま数百メートル突き飛ばされ木造の古い小屋に衝突した。
ベキベキベキベキッ!!
あまりの威力に小屋が半壊し砂ぼこりが舞い上がる
そして砂ぼこりが引いていくと野口がいたはずの場所には禰宜の格好をした青年が立っていた。
「とぉおおきぃいいいざねえええ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「てめぇに封印されてからの百年間は長かったぜぇえええ!!今日こそてめえの首をへし折って血祭りにしてやる!!!!!!!!!」
「久しぶりだな・・・歪鬼。まさかこうして百年の時を経て再びめぐり合うことに」
「ぐだぐだいってんじゃねええええええええっ!!!!!!!」
歪鬼は待ったなしで時実と思わしき男に物凄い形相で突進していくと
時実は咄嗟にふところにしまっていた御札を取りだしそれを歪鬼めがけて飛ばした
ドォオオオオオオオン!!!!
御札が作りだしたシールドに歪鬼が衝突し大量の砂ぼこりが舞った。
「と・・・・き・・ざねぇ・・・・・っ!」
バシュウウウウウ
歪鬼はみるみるうちに小さくなって御札に吸い込まれていった。
◇
気を失っていた野口が後から聞かされた話によると
時実の手によって書かれた書物には時実を現代に降臨させる仕掛けが施されており
歪鬼の出現をきっかけにその仕掛けが作動し、野口に憑りついた時実が再び歪鬼を封印したとのことだった。
野口は時実の書いた書物をもって命が冥界へ連れ去れた公園へ向かった。
公園につき野口がベンチに腰を下ろすと、突然持っていた書物が野口の手を離れて
宙に浮かんだ。
次の瞬間、ばらばらとひとりでに書物のページがめくれ上がり
キィイイイイイイン
という耳鳴りのような音が聞こえ、周囲が白い光に包まれた。
――――次の瞬間、野口は目を疑った。
白い光が徐々に引いていき、目の前に姿を現したのは
なんと野口をかばって冥界に連れ去られた少女・神宮寺命だったのだ。
「・・野口さん?・・・・おひさしぶりです。」
命はまだ状況を把握できていない様子だった。
2人は取りあえず公園のベンチに座り、野口が今まで起こった出来事の話をした。
「そうですか・・・。」
「歪鬼を封印できたのも、私が冥界から戻ってこれたのもこの本のおかげなんですね」
「・・・それがしの本も役に立ったようだな」
突然背後から声がして振り返ってみると
そこに現れたのは神宮寺時実の姿だった。
そのとき野口は一瞬命の表情が曇ったように見えた。
「我が子孫に会うことが出来て光栄じゃ。」
パァアン!!
次の瞬間、命は時実の右頬を思い切り引っぱたいた。
「命ちゃん!?」
野口は唖然とした表情でそう呟いた。
―――命は泣いていた。
「あなたのせいで・・どれだけ多くの人が犠牲になったとおもってるの・・・」
「大変申し訳ないことをした」
時実は済まなそうな顔で頭を下げた。
「えっ!?」
2人のやり取りを見ていた野口はわけが分からなかった。
それを見かねた命が事情を説明する。
「今から百年前・・この世に妖魔が現れる原因を作ったのは・・・この人なんです。」