第二章 命(みこと)
「それが・・・。」
彼女はもどかしそうな顔で口をつぐんだ。
「??」
野口は一層わけが分からなくなり眉間にしわを寄せた。
「すいません、、こんな話野口さんが信じてくれるとは思えなくて。。」
「や、僕も火の玉が見えるようになってからオカルト的な話はむしろ信じるようになったよ」
「もう宇宙人がUFOに乗って侵略に来ても驚かない。だから言ってごらん」
そういって野口は話の続きを促す。
「そうですね。じゃあ私も野口さんを信じて、お話しします」
「まず最初に、私の名前は神宮寺命と言います。
神宮寺家の先代が残した伝承によると神宮寺家は代々この世に実在する
悪魔から人間を守るため特異な能力を持った人間を輩出していたといわれています。」
「・・私もその一人だったんです。小さい頃は何も知りませんでしたが
8歳になった頃から仏様が見えるようになって・・最初はとても怖かった。。」
「その仏様が何か、私の理解できない言語で・・後から分かったんですけど
この先起こることのお告げをされるんです」
「今ではその言語も理解できるようになったけど、、こうやって未来を予見できるのは
”百年続いた”神宮寺家の歴史の中でも私だけなんだそうです」
野口は”百年続いた”という言葉が少し気になった。
まるで自分の代で終わることを予知しているかのような言いぐさだった。
「そうしてその”悪魔”が野口さんを冥界に引きずり込もうとしているとのお告げを私は聞かされました」
そう言い終えて命は野口の表情から見る見るうちに血の気が引いていくのを悟った。
命も覚悟を決めていたのかここからはクールな顔つきで話を続けた。
「野口さんを狙っている悪魔はすでにこの付近に集まっています」
ぞっとして辺りを見回す野口の顔からは既に生気が感じられなかった。
おそらく命の能力ではられたであろう結界の外側から無数の黒い腕が
結界を叩き壊そうとしていた。それと同時に鼓膜が割れそうな轟音が沸き起こり
野口は泣き叫びたい気分だったが必死になって平静を保とうとした。
・・・・バリバリバリバリッ!!!!
無数の黒い腕が結界を叩き壊す音がした。
「あぶないッ!!!!!」
野口は目の前が真っ暗になった。
次の瞬間、
野口を覆いかぶさってかばっていた命が無数の黒い腕に”連れていかれようと”している姿が目に映った。
「ノ・・グチ・・さん・・・・・・・・・・」
命の目には涙が浮かんでいた。
野口も必死になって命の腕をつかんで助けようとしたが黒い腕にはじき返されてしまう。
命は最後の最後に精一杯の笑みを浮かべて「アリガトウ・・」と言いのこし無数の黒い腕と共に姿を消した。
あれから幾年かの月日が過ぎ、野口は命が自らのいのちと引き換えに悪魔を封じ込めていたことを知らされた。
(あのとき―――あの娘は必死で僕を助けてくれたんだ―――)
命は生まれたときから悪魔に狙われる身だった。
野口がダンプから助けたあの時の出来事は
偶然の事故ではあるが
神宮寺家と古くから敵対してきた悪魔にとって
次期頭首である命が死んだ方が都合かよかったのだろう。
それを阻止した野口に魔の手が伸びるのは不思議なことではなかった。
野口は数年前の出来事を思い出しながら神宮寺家の墓の前で両手を合わせた。
「私、小さいころからずっと独りだったから・・。普通の女の子みたいな生活に憧れてたんです。」
「ほんとは学校にも行かせてもらえてないんですけど、、だからこれはコスプレなんですw」
脳裏によぎるのは女子高生の制服をきた当時の彼女の姿だった。
必死で生きた彼女の思いが心にこだました。野口は真っ赤に染まる夕焼け空を眺め、墓地を後にした。
あとがき
僕はこの物語を書いているうちに自分の中の「ある願望」が現れていることに気付きました。
それは「自分がつらい状況でも人のためを思って行動できる」ようになりたいという願望です。
もしあの時命が「なんで助けたの!??このまましなせてくれればよかったのに!!」なんて言ったりしたら
野口はどう思っただろう、こんな奴助けなければよかったと思っただろうか?
僕はそんなことはないと思います。
何故なら野口は’大切だから’みことを助けたんです。
頭上にともし火が見えるようになったのも通学路で偶然居合わせたのも
すべては’偶然’ではなく’必然’だったのではないでしょうか。
みことは生まれながらにして妖魔に狙われる身であり
自分の死すら予知してしまうという不運な宿命を背負った娘でした。
けれども野口の大切に思う気持ちはそんな不運な宿命をも変えてしまう力があったんです。