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王族の方々に、謁見いたしました。

 カイゼルさまが目を覚まし、転移魔法が使えるようになったのは1日の講義が終わったころだった。

 転移魔法は、基本全ての属性を使うとされていて、扱える術者は限られていて貴重だ。

 しかも、複数人を1度に送れるのは一握り。一国に1人いるかいないかだ。

 風と闇の2つしかもたない私の場合、特別な状況下で偶然移転が出来たのだが、まさかまた戻れるとは思わなかった。

 衣装を整えると、私は早速国王に謁見した。左右に王妃殿下と、サリエル王子、その横にはアリアがいた。やはり、ひと月ほどしか離れていないせいか、あまり変わったと思えない。


「よくぞ戻った、エイルリーナ嬢。 カイゼル殿もご苦労だった、感謝する」

「ご迷惑をおかけしました」


 顔をあげると、安堵した表情の国王と、苦虫を噛んだような表情のサリエル王子がいた。

 以前より悪化した表情を向けられても、私は動じなかった。やはり、サリエル王子と悟史さまは違う。似ていると思ったのが嘘みたいだ。だから、私はまっすぐ前を向いていられた。

 悟史さまと出会えたことを、改めて全ての眷族に感謝したい。


「サリエル」

「私は自分に非があるとは思えません。 全てはこの娘が私たちを邪魔立てしなければ」

「サリエル!!」


 この王子は、自分の価値観でしか判断していない。私が婚約者に選ばれた意味も、判っていない。

 しかし、それが逆に良かったのかもしれない。話し合いを終え、もう一度異世界に戻って生活することに、何の未練も躊躇いもないと再確認できたのだから。


「国王さま、私、家族を説得して後、ここを離れようと思っておりますの」

「なんだと? サリエル、もう一度命ずる、エイルリーナ嬢に謝罪しろ!」

「謝罪などしません!」

「心無い謝罪など必要ありませんわ。 私は、異世界で婚約致しましたの」


 この強気な口調は久々だ。ここではサウスティム公爵令嬢で、異世界の私はただのエイルリーナ。

 ただの私で扱われるのに慣れれば、肩書きは重苦しいだけだ。


「まぁ! どのような方ですの?」

「片時も離れるのが嫌だと仰るので、連れて参りました。 こちらに招喚しても宜しいでしょうか?」


 アリアの言葉に、カイゼルさまが返す。国王が許しを出すと、カイゼルは従者に指示を与えた。

 後ろの扉が、ゆっくりと開く。


「……っ!?」


 先に行ったので、着替えを見ることがなかった。ノースリーフの貴族服を身にまとった悟史さまは、若干ぶっきらぼうだが優雅にこちらへ歩み寄る。

 伏せた目が私を見ると、心臓が跳ねた。顔が、耳まで赤くなって熱い。普段の服装もいいけれど、貴族服も素敵だ。まるで、初めから同じ世界にいるような気分になってしまう。

 悟史さまは、混乱している私の横に立つと、胸に手をあて礼をした。


「お初にお目にかかります」


 悟史さまの一声に、場がザワリとした。きっと声すらも似ているのだろう。


「私は、ノースリーフ王国国王の友人で、真部(さとる)と申します」


 肩書きに驚くと、カイゼルさまが「国王承諾済みです」と耳打ちした。


「顔を上げよ」


 国王の声が震えている。許しを得て、悟史さまは顔を上げた。


「なんと…」

「あらまぁ」

「な……っ!」


 国王、王妃殿下、サリエル王子が声をあげた。

 髪色と瞳の色が違い、髪型を多少変えているが、やはりサリエル王子と似ているからだろう。

 悟史さまは、視線をサリエル王子に向けると、口許を弓月型に上げた。今までに見たことのない表情に、私は目を見張る。


「しかし、王子とよく似ている」

「初対面で、よく言われます。 ですが、私としては………腹立たしい」


 一瞬、悟史さまの周りで強い風の波動を感じた。耳元で、風の眷族が楽しげに笑っているのが聞こえる。

 悟史さまが、風を操っている…?


「我が妻を貶め、さも未練があるように吹聴する王子と似ているなど、腸が煮え繰り返る思いです」


 目の前の方は、どなた?


 庇われる事に慣れない私は、瞬きしか出来ない。


「ねぇエル、悪びれもしない国なんか捨てて、ノースリーフへ行かないか?」


 ふわりと、見たことのない笑みを浮かべて悟史さまが私の手をとる。

 もしかしてこれは。


「さ……サトルさま」

「ん?」


 手の甲に、柔らかくかさついた感触。


 ああ、なんで麻生さまの真似事をなさっているの!?いや、麻生さまはこのような挨拶はしませんが。そう、雰囲気的なものですわ。


 心の中の独り言に言葉を返しながら、私はようやく違和感の理由がわかった。怒るときに緩やかに笑ってみせるのも、余裕があるようみえる態度も、きっと真似事だ。本来の悟史さまなら、真正面から怒ってしまうだろう。それは、貴族社会で足元を見られる態度だ。それを、初めから察していたのか、それともカイゼルさまに忠告されたのか。


「ノースリーフへ行くだと? 守護三家が出奔など許せるはずがない!」

「主が臣下を選び、臣下もまた主を選ぶ、と申します。 守護三家だか知りませんが、蔑ろにされても忠義を守ろうとするなど夢幻ですよ。 現に見限られているではありませんか」


 出仕拒否など、その現れではないだろうか。

 元々守護三家は古くより忠節を誓った家だった。それゆえ、フォースリーブス連合では、守護三家の存在は大きい。守護三家が意見を一致させれば、国王の首すら挿げ替えることもできる。

 現に守護三家の一角、ノースティム家のカイゼルさまが側近になった第三王子が国王の座に就いた。それは、第三王子が守護三家に認められたからだろう。

 守護三家は、身を犠牲にしても国を守る事を産まれた時から誓っている。私も、そのために王太子の婚約者になったのだ。

 カイゼルさまが気持ちを抑え王女と一緒になったのも、きっと守護三家ゆえだろう。


「………っ」

「サウスティム家が、第二王子を支持すると申し上げれば、いかがします?」


 『ノースティム』のカイゼルさまが静かに問いかける。第二王子ユーリアス殿下は、まだ15歳であられるが才気溢れる少年だ。事実、貴族の中では第二王子を推す声もある。

 さらにサウスティム家がつけば、サリエル王子の地盤は危うい。


「………脅すつもりか」

「先に害を与えたのはそちらでは?」


 悟史さまが、私を背に庇う。その背中はとても大きく、私は思わず悟史さまの服の裾を握りしめた。


「……………くっ」

「いい加減になさいませサリエルさま!」


 パン、と軽い平手打ちの音がする。壇上で、アリアがサリエル王子を叩いたのだ。


「私が言える立場ではありませんが、エルさまはサウスティム家として国に尽くそうとされていましたのよ。 それを何ですか! 私がエルさまの悪口を聞いて喜ぶとでも? もう、百年の恋も冷めますわね」


 カツカツとヒールの音をたてアリアは下に降り、王族に向き直る。


「私、アリア・リグリーは今この時を持って、婚約を辞退させていただきますわ」

「なっ!?」

「アリア!?」


 私が焦ってアリアに近づくと、アリアは天使の笑みを私に向けた。


「言いたい事が言えて満足です。 もし国に追われたら、匿って下さいませね」

「ははっ、もちろんですよ」


 私の代わりにカイゼルさまが答え、それに満足したのかアリアは謁見の間を出ていく。

 そして、正気に戻ったサリエル王子が、アリアの後を追った。


「………面白れー。 いい友達いるじゃねぇか、エル」


 くくっ、と悟史さまが笑う。

 果たして、アリアは友達なのだろうか。婚約者として、サウスティム家として王妃たるかアリアを試していた事はあるけれど。当時サリエル王子を愛していたので、私怨も混じっていたのは否定しない。

 だから、恨まれこそすれ、あのように好ましく思われるのは不思議だ。


「じゃあ、そろそろエルの実家に行って解決して帰ろうぜ」

「では、私はどこかで休憩を……」


 緊張の糸が切れたのか、2度も移転魔法を使ったカイゼルさまは、だいぶフラフラとしていた。


「我が家で休んで下さいませ。 車も呼んでおりますので」


 私が風の魔法でカイゼルさまを浮かすと、悟史さまは手を引っ張ってずるずる歩いていく。担ぐようとはいえ、まだ麻生さまは親切だったようだ。

 私も、国王夫妻に礼をすると、悟史さまに続いて謁見の間を出た。




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