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大学で同棲生活…と思いきや、お迎えが来たようです。

「王子様」と同時間軸なので、やはりあの人物が現れます。

それから、私は大学へ進む悟史さまに付いていった。大学近くにある狭いアパートで、二人だけの生活だ。悟史さまは私にベッドを譲ってくれて、その横に布団をしく。段差の距離がもどかしい。無意識に悟史さまの布団に潜り込んでは、朝目が覚めて叱られる。


「エルお前なぁ……いい加減学習しろ!」

「無理です。 私は悟史さまの妻です。 共寝するのは当然ですわ!」


本名を交わしたのだから、夫婦同然だ。しかし、契ってくれないし、結婚式も上げてくれない。悟史さまの気持ちが読めなくて、私ばかりが好きなのだと痛感する。


「あのなー、これは同居。 エルが元の世界に帰れるまでのな」

「え?」


元の世界に帰るなど、考えた事がなかった。それだけこちらの世界は居心地がいい。

それに、帰っても居場所はないのだ。


「悟史さまは、私と契ってくださらないのですか?」


そう問うと、悟史さまの表情が変わる。まるでここに来る直前に見た、王子のようで、私は思わず震えた。今までむけられたことのない、冷たい視線が私を射る。心が揺れそうだ。


「それな、意味教えてくれる? ①固く言い交わして約束する。 ②夫婦の約束をする。 ③夫婦の交わりをする」

「え……っ?」


 聞かれて、自分が知らない事に気がつく。ずっと家族からは「旦那になる相手が教えてくれる」としか聞いていなかったのだ。


「どれ?」


 まっすぐ、悟史さまが私を見る。①も②も似たような意味で、名前を交わしたのだから、夫婦の約束をしたようなものだ。ならば、③なのだろうか。

 けれど、夫婦の交わりというものが私にはよく判らない。説明するよう言われても、どうしたらよいのだろう。


「た、多分③ですわ」


 そう言うと、悟史さまは目を見開いた後、大きくため息をついた。


「…………なにその生殺し。 エル絶対意味判ってねぇし…」


 反論したいけど、事実だから何も言えない。

 けれど、流し目でこちらを見る表情が色っぽくて、私は顔を赤らめた。


「……悟史さま」

「しまった! 遅刻する!」


 私の後ろの時計に気づいたのか、悟史さまは焦って服を脱ぎ出す。高校ではバスケットという球技をしていたそうで、引き締まった体が目の前にあって、私は思考を止めた。


「あぁ……まるで男神リューフェルクのよう」


 絵画と石像で見た創造の神だ。唖然として呟くのに気づいたのか、悟史さまは吹き出して笑った。


「ダ〇デ像みたいなもん? あんなに割れてねーし」

「ふ、触れてみてもよろしいでしょうか?」

「時間ねえから今度な」


 困ったように笑みを浮かべそういうと、悟史さまはシャツを着てしまう。


「2時限は早センだから来ていいぞ。 E棟2階な」

「はい! 食事の支度をして参りますわ」


 私は、毎日悟史さまのために昼食を作っている。初めは周りに冷やかされたけれど、今は温かく見守られているようだ。

 早センこと早川先生は気さくな方で、私が授業中廊下で待っていると中に入れてくれたのだ。

 さて、今日は昼食は何にしよう。











 大学の構内を歩いていると、悟史さまの友人に出会う。一見冷たいようで優しい悟史さまには、友人がたくさんいる。私にもかつて友人がいたが、気さくに話し笑いあえる関係だったかと聞かれたら、否というしかない。羨ましい反面、妻として悟史さまの交友関係の広さが嬉しい。


「エルさん、悟史なら次一緒だけど、一緒に行く?」


 彼は悟史さまの友人の一人。美しいとまではいかないが、雰囲気に目を引く方だ。名前は麻生さまという。


「はい! 宜しくお願い致します」


 慣れたとはいえ、やはり知らない土地なので誘ってもらえるととても嬉しい。私はいそいそと、麻生さまの傍に寄った。

 麻生さまはとても親切な方だ。女性の扱いに手慣れていて、傍にいると爽やかな匂いがして清潔感があり、男女問わず人気もある。なのに、特定の彼女や奥方はいないらしい。一見遊び人みたいに見えるが、遊んでいる相手もいない。かといって殿方が好きなのかといえばそうでもないらしい。


「毎日頑張るね。 よほど悟史が好きなんだろうな」

「はい、悟史さまをお慕いしておりますわ」

「……当てられたし」


 くくっ、と楽しげに麻生さまは笑う。何か変なことを言っただろうか。


「麻生さま」

「やっと見つけましたよ、エイルリーナ嬢」


 魔方陣の波動を感じて振り返ると、そこには黒髪の男性。見覚えがないので、首を傾げる。


「………っと、カナデが何故ここに?」


 麻生さまの名前は(かなで)だ。知り合いかと思いきや、麻生さまは訝しげな表情を浮かべている。


「あんた誰?」

「ああ、そういえば封じてましたね」


 パチ、と黒髪の男性が指を鳴らすと、麻生さまの表情が変わる。


「……カイゼル?」


 やはりお知り合いのようだ。指を鳴らすのは解除のみで、術を重ねたわけではない。


「エイルリーナ嬢は、ずっとカナデと一緒だったのですか?」

「いや、エルさんは友達のお嫁さんだし。 俺は通りすがりに一緒にいただけ」

「お嫁さん……とは、奥方という意味かな」

「そうなるね」


 悟史さまの奥方扱いに照れつつも、話に付いていけない。

 あたふたとしていると、背後から声がかかった。


「エル、奏………と、誰?」


 3人で声の方を向く。


「悟史……」

「…………サリエル王子ですか? いや、あり得ない。 王子は先日婚約したと聞きましたし、こんな場所にいるはずが」

「やっと婚約しましたの? もう結婚されたと思っておりましたわ」


 口からでた言葉に自分でも驚く。ここに来たときは嫉妬で一杯だったのに、今では心から祝福が出来る。そもそも、どうして盲目なほど好きになれたのか、今の私には思い出せない。


「……この方がエイルリーナ嬢の殿方ですか? ……これは、まさか……いや、そこまで王子に未練がおありなら、お迎えするのは辞めておいた方がいいかもしれませんね」

「サリエル王子って誰」


 悟史さまが、冷たい声で問う。


「サウスティム王国第1王子、サリエル・サウスティム王太子です。 しかし……茶色の髪に黒い瞳ですが、ここまで」

「カイゼル、無神経が過ぎると殴るよ」

「奏の知り合いか?」

「カイゼル……ああっ、エカテリーナ王女殿下の婿君で、ノースリーフ王国宰相のご子息でいらっしゃる!?」


 社交界で噂になった、王女殿下の殿方。国が傾き始めたノースリーフ王国の第3王子の側近が、国を立て直すため我がサウスリーフ王国の姫を求めたのだ。二人は美男美女と評判だったと聞いた。


「ああ、俺の知り合いにアプローチしていたにも関わらず、国のために姫に乗り換えた冷血宰相予定。 正直、2度と会いたくなかった」


 麻生さまが、見たことのない程表情を歪めた。

 気さくだが大人っぽく人当たりのいい麻生さまが嫌っていたのだ。余程の事だったのだろう。もしかして、私みたいに婚約まで進めたあとの破棄かもしれない。


「カナデに言われると、正直辛いね。 でも私を嫌っても我が王は嫌わないで欲しいな」

「……もう王様になったんだ、アイツ」

「奪還したばかりでまだ反乱も頻繁しているのでね。 まだ王妃は呼べないけれど」

「なぁ、いい加減説明してくんねぇ?」


 痺れを切らして、悟史さまが割り込む。


「申し訳ありません、まさかカナデと会えると思いませんでしたから。 まず、私はノースリーフ王国宰相、カイゼル・ノースティムと申します。 サウスティム王家の姫が妻なので、サウスティム王国と縁続きになっております。 で、今回妻と王家に請われ、そちらのエイルリーナ嬢をお迎えに上がりました」


 王女と王家に請われ、という言葉に、私は眉を寄せた。守護三家とはいえサウスティム家には兄弟がいる。私一人が居なくなっても問題はないはずなのだ。


「何故です?」


 もしかしてアリアが、私にも祝福されないと嫌だとか言っているのだろうか。


「サウスティム家が、反旗を翻したのです」

「……え?」


 昔から王家に忠実だった我が家が何故。もしかして、我が家が匙を投げるほど知らないうちに王家はダメになってしまったのだろうか。


「頭の痛い話ですが、サリエル王子がそれはもう散々な程エイルリーナ嬢の悪評を広め、アリア嬢を誉めそやしまして。 ……まぁ、社交界にいる貴族はエイルリーナ嬢をご存知なので聞き流しておいでですが、勝手に破棄した挙げ句土まで浴びせた王子が許せないと、サウスティム家が一族総出仕拒否を起こしまして」

「馬鹿だな」

「馬鹿通り越して哀れだね」

「………私、目がどうかしていたのかしら」


 悟史さま、麻生さま、私が呟く。婚約破棄されて良かったのかもしれない。


「てか、それと俺が似てるとかムカつくんだけど?」

「いえ、見た目だけで中身は全く違いますよ」


 本当ですわ。サリエル王子と悟史さまが一緒のはずがありません。


 そう思って、私は驚く。初めはサリエル王子と思っていたはずなのに、忘れるほど心は悟史さまで一杯だ。


「……でも、やっと判った。 エルがサリエルって言ってた意味。 俺はそいつの代わりだった?」


 有り得ない。けれど、初めは確かにそうだったから、何も言えず口をつぐむ。

 すると、悟史さまは苦笑を浮かべた。


「そっか」

「私は……」

「でもな、諦めろ」

「え?」


 手を引かれ、目の前が暗くなった。ふわりと悟史さまの匂いが鼻をくすぐる。


「アンタをそんな場所に帰せるわけねぇだろ」

「悟史さま……」

「もしエルを連れていくなら、俺も連れていけ。 そいつには1発殴らねぇと気がすまない」

「構いませんよ? ああ、なんならカナデも来るかい? 国王が仕事投げて喜びそうだ」

「俺は悟史の代返があるからいい」


ひらひらと麻生さまが手をふる。

残念そうな表情をしつつも、カイゼルさまが笑う。


「そうか…なら国王には羨ましがらせてやりましょう」

「じゃあ、さっさと行こうか?」

「いえ、転移魔法には多大な魔力が必要です。なので…少し、休憩を…」


ふらっ、とカイゼルさまの体が傾く。それを見越していたのか、麻生さまがカイゼルさまを支えた。


「気絶する前に、俺と同じ服でいいから着替えられるか? その格好だと目立って医務室にも連れていけない」


 ニホーンでは私たちの服は異質で目立つ。

 カイゼルさまは、ふらつきながらも少し体を離して麻生さまの姿を確認すると、軽く唱えて全く同じ服に身を包んだ。

 そして、今度こそ気絶する。


「重い……」

「二人がかりで連れていくか?」

「いや……エルさん、俺らと言葉が通じるなら風属性持ちでしょ? 少し浮かせて軽く出来ない?」


 そこまで私たちの国に詳しいのか。私は麻生さまの言葉に驚きつつ、風魔法をカイゼルさまにかける。

 ふわりと浮き上がると、麻生さまはカイゼルさまを肩に担いだ。


「荷物かよ」

「男を姫抱っこする趣味はないからな」


 それから医務室でカイゼルさまを寝かせ、私たちは講義へ向かった。


またお前か……っ!?


と、書きながら思ってました。いやぁ、後輩1人追加するだけで説明が楽なんですよねぇ(笑)

カイゼルと麻生が互いにため口なのは、エル王子が麻生に互いにため口がいいと拗ね、ついでにカイゼルも「私ともため口で」と載ってきたためです。

「王子様」本編でどう会話してると確認しましたが、直接対話してるシーンがなかったりします。意外。

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