第二章(2)
「ふぅ、少し休憩するか、ゆう君は何飲む?」
さすがにこの炎天下の中、陽に当たりっぱなしは身体に障るだろう。
木陰のベンチへと場所を移す。
「ぼくオレンジジュースがいい!」
あれだけ汗だくになり走り回っていたのに元気がいいな、中々根性のある奴だ。
近くの販売機で飲み物を二本買い、ゆう君の所へ戻る。
「おにいちゃん、サッカーうまいね! 何年生?」
「俺は中学三年だよ、ゆう君も中々筋がいいよ、チームの中でも上手い方なんじゃないか?」
「んう、でもぼく試合に中々出してもらえないんだ、六年生がいっぱい居るんだもん」
そうか、この位の町だと学年毎にチームが作れるわけじゃないんだな。
「そっかぁ、でも大丈夫だよ、ゆう君なら必ずレギュラーになれるよ」
「ほんと? ぼく将来サッカー選手になりたいんだ! そしたらおにいちゃんとも試合出来るね!」
「はは、サッカー選手か、今みたいに練習続けてればなれるさ、え? 俺とかぁ……そうだな、俺もまだまだ練習頑張らないとな」
ゆう君の真っすぐで純粋な気持ちは、少し考えさせられる物がある。
何年も前に忘れていた、大事な何かを思い出させてもらえた気がした。
その後は軽くクールダウンし、昼飯を食べに戻った。
「ただいまー!」
ゆう君が元気に言う。
「あらあら、おかえりなさい、ほらゆう君とひろ君、手洗ってきなさい、ご飯にしますよ」
楽しそうに昼間から宴会をしている大人達を横目に軽く昼食を済ますと、ゆう君は学校のプールへ泳ぎに行った。
ゆう君の遊び相手から解放された俺は、特に何もすることがなかったので渚にメールの返事を書いた。
――あの時間もう寝ちゃってたわ、ちょっと前に着いたよ、中々ゆっくり出来そうないい場所だと思う。
相談する日は必ず行くよ、約束したからな。
お土産はあんま期待しないでくれ、俺のセンスも中々だけどそれ以前にそういう物を売ってる店がないわ(笑)またメールする――
送信っと。
さて、どうするかな。
ぼーっと縁側に腰を掛け、照りつける太陽の光を浴びながら、目の前に広がる原っぱを眺めいると、不意におばあさんに声を掛けられた。
「ひろ君暇なのかい? なーんにもないとこだけど楽しんで行って頂戴ね、お二階の奥の部屋がひろ君の泊まる部屋だから、後でお布団持って行くわね」
「あ、すいません、ありがとうございます」
「あらあらもう、かしこまっちゃって、自分の家と思って寛いで行きなさいな」
殆ど面識のなかったおばあちゃんだが、すごい良い人そうだな。
後でおじいさんにも挨拶しとかないとなぁ。
おばあちゃんと別れた後自分の鞄を持ち二階の部屋へと向かった。
そこは八畳くらいある広い部屋で、畳のいい香りがした。
普段住んでいる家は全部屋フローリングだし、畳の部屋なんて殆ど見たこともなく、とても珍しかった。
一通り部屋を見渡したが、テレビがあるくらいで他は本当に何もない部屋だった。
普段は使っていなさそうな雰囲気だが、掃除も綺麗にしてあって嫌な気持ちはしない。
ふと天井を見上げると、上に続く扉みたいな物があった。
「……こういうのって、お化けとか定番だよな……」
若干びびりながらも恐怖心より好奇心が打ち勝った。
屋根裏探索と行きますか。しかし天井の扉までは俺の身長では到底届かない。
何かないかと廊下へ出てうろうろしていると、縦長の観音開きする木製の箱を見つけた。
扉を開け中を覗いてみると、掃除機、箒や塵取りがあり、なんとその奥に梯子があるではないか。
その中から埃まみれの梯子を取り出すと腋に抱え込み、さっきの部屋まで運んだ。
多分この扉を開けるための梯子なのだろう、うまい具合に梯子の金具がはまり、しっかりと固定される。
俺は梯子を登ると天井の扉に手を掛ける。
何だこれ、開かないぞちくしょう。
「んえりゃ!」
力いっぱい押し上げると、ギギギギギィィィ――と言う耳障りな音と共に扉が持ち上がった。
持ってきた鞄から、ペン型の小型ライトをポケットにしまうと、扉の向こうへと進んでいく。
「げっ、ごほ、っごほ、げ、ほっ……うげ……」
長い間換気される事もなく閉め切られていたであろう屋根裏は埃にまみれ、天窓から覗く微かな光が辛うじて室内を照らしている。
「埃すげぇ……うわ、でっけー蜘蛛の巣」
ペンライトで照らしながら少しずつ先へ進んでいく、周りには古いテレビや、椅子、碁盤等が置かれており、それ等を避けながら先へと進んでいく。
特に面白い物も見つからず、戻ろうかと言う時に、山積みにされた古書の束を見つけた。
「なんだろこれ……」
埃を被った古書をぱらぱらとめくり眺めていると、一冊の風景写真集を見つけた。
余りこの埃まみれの部屋に居残る気もしなかったので、さっさと埃を掃うとそそくさと退散した。
自分の泊まる部屋に戻ると、そのまま持ってきた写真集を眺め始めた。
「……すげぇ」
思わず声が漏れていた。
説明によるとここに写っている風景写真は、下界の物であると言う事がわかる。
今まで話を聞いたり、軽く授業で習った程度だった下界は、余りにも想像する事が難しく、本当に存在するのかも半信半疑だった俺は、下界の存在を思い知らされた。
この人工的に作られた新世界は所々にメーターやスイッチ類が見られ、人為的に作られたのを思わせる個所が数多にも存在している。
だが下界からはそれを一切感じられず、俺はその写真集を見ているだけでその世界に引き込まれそうになった。
俺は逸る気持ちを抑えきれず、下に居るおじいさんの所へ向かった。




