第一章(2)
七月二十六日
一学期の残り時間をだらだらと特に何もする事なく惰性で過ごしていると、あっという間に終業式の日を迎えていた。
いつも思う事だが、この「皆さんも暑い中大変でしょうから、手短に」うんちゃらかんちゃらの前振りはいるのだろうか。
この台詞の後でスパっと終わった試しがないのだが。
「えぇ、では皆さん、夏休み明けもね、全員元気な姿で登校してくるように、事故や病気に気をつけてくださいね、これで私の話は終わりです」
ちらっと、時計に目をやると話し始めて十五分も経っていた。
この校長せんせーにとっての手短は十五分なのか。
その後は校歌斉唱に、委員会からの挨拶、夏休みの過ごし方について……各部活動の表彰か。
まぁもう、割とどうでもいい。
式も終わりいそいそと各クラス教室へ戻っていく。後は通知表もらって一学期も終わり、か。
「てぃーっす、飯いこうぜ飯、どうせ予定ないっしょ?」
「んーあー、パス」
けたたましい声と共に草凪が肩を組んでくる。
今は草凪と飯に行く気分ではない、さっさと家に帰りたいんだ。
「えー、釣れないなぁ、浩人ぉ、俺のおごりでいいからさ、な?」
「いやマジで腹も減ってないし、気分じゃないんだ、悪いな」
最近いっつもこんな感じで誘い断ってるよなぁ……こいつはこいつなりに俺の事を気にかけてくれているようだが……許せ親友よ、もう少し時間をくれ。
「ほんとすまん、夏休み入って落ち着いたら連絡すっから、マジ勘弁な」
「お、おう、まー……俺がこんな事言うのもあれかもしれないけどさ、あんま溜めこむなよ、お前いつも一人で全部背負い込んで爆発させる癖あるからさ、たまには人を頼るって事しろよな、俺だけじゃなくて渚ちゃんだって相当心配してるんだぜ? ああ、すまん、こんな事言ったら余計気にするよな、めんごめんご! 忘れてくれ! んじゃまたな」
ふぅ、渚か……あいつもよく俺なんかの事気にかけてくれるよなぁ……ただ幼馴染ってだけなのに。こっちからも少しフォローでも入れておくか。
俺はもらったばかりの通知表を片手に、渚の席へと歩み寄る。
「うっす、どうだった? 一学期の成績は、渚の事だから聞くまでもないと思うけど」
「んー? いつもとそんな変わらないくらいかなー、普通だよ、普通」
そう言いながらぐいっと、こちらの目前に見開いた通知表を差し出す。
四と五しかないのはいつもの事か。
「ほんと、いつも通りすげぇな、俺は安定してんのは体育だけで三が増えちまったよ」
「ほら……一学期部活はばっかりで大変だったし、しょうがないよ、まだまだ時間あるもの、大事なのは二学期だよ、浩人はやれば出来るし大丈夫っ」
慌てふためきながら必死にフォローを入れてくれる。
そんな渚の優しさにいつも救われてるんだよな俺。
「そいや、この前の適性検査、どうだったんだ? 何か出てたか?」
「ん……あー、うん、一応ね」
何やら適性検査の一言で渚の顔に陰りが見られる。何かまずい結果でも出たのだろうか。
「どした? 何か変な物でも出たのか、あ、いや言いたくなければ別にいいんだ」
うーん、と唸るような声を上げた後、渚は不意に席を立った。
「ここじゃあれだから、ちょっと時間いい?」
いつもと違う渚の表情に少し戸惑いながらOKを出し、帰りのHRが終わった後駅前で待ち合わせをした。




