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SeaSideStory  作者: 結城ゆき
第七章
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第七章(完)

「そろそろ行きましょう」


「ああ、そうしようか」


 俺たちは改めて三隅市を目指す。ボートはすいすい目的地目指して進んでいるがこの炎天下だ。俺だちのがボートより先にグロッキーになってしまう。日陰があり休めそうな場所で細かく休憩を取る。


「あっついなぁ……空は大丈夫?」


「ええ、なんとか」


「水もっと持ってくればよかったかなぁ……この量だとちょっと心配だ」


 予想以上に持ってきた水分を消費してしまい帰りの事が少し心配になっていると……。


「水の事なら心配いらないわ」


 そう言うと空は、ペットボトルに手をかざした。するとみるみる内に水で満たされていく。


「おぉ……すげえっ!」


 ボートが進むにつれ、景色が変わっていくような気がする。そうか、西へ向かうにつれて標高が高くなっているんだ。


「空はここらへんまで来た事ある?」


「いいえ、余りこっちの方面には来た事がないわ」


「標高が高くなってきたみたいだなあ、このまま行ったらもっと水が少なくなるのかな」


 少し移動の休憩を挟みすぎていたので予定より時間が大分経ってしまっていた。予定通りに帰るため、移動のペースを上げる。流れる景色を目に焼きつけながら、やっと三隅市内に入った。


「ここが三隅か……」


 その頃には大分水位も下がっていて、船底がゴミや漂流物にぶつかり危うくひっくり返りそうになる場面もあった。


「大分浅いのね。このままボートで移動するのは危ない気がするわ。歩いて移動する事にしましょ」


「あ、ああ……じゃあ空、お願い」


 空がIce frostと唱えると辺り一帯の水面が氷へと変わる。そこへ二人して降り立つと空が先を歩いて行く。歩いた先の水面は空が近づく度に同じように氷が張った。


「歩いて行くと結構距離があるみたいだからちょっと大変かもしれないけど」


「浩人くんは三隅の街も見たかったのでしょう? それなら二人でゆっくり見て行きましょ」


 少し歩いて行くと大きな公園らしき場所にたどり着いた。その公園の中には池があり、かつてはボート屋だったと思われる場所にはスワンボートや手漕ぎボートが放置されていた。


「ここ少しだけ、空の好きな場所に似てるね」


「そうね、ここも綺麗だわ」


 空は楽しそうに公園の中を歩いて回る。この公園はあちこちに桜の樹があり、大勢の人々が花見を楽しんだのだろうと容易に想像することが出来た。


「桜、か……」


「沢山あるわね、桜の樹。浩人くんの目的も桜の樹なのよね」


「うん。三隅第二小って言う小学校にあるはずなんだ。校庭の真ん中に」


 俺は爺ちゃんに見せてもらった写真を思い出しながら、今その桜がどうなっているのかを考える。まだ残ってるといいな……。


公園内を一回りし、そろそろ行こうかと話していると……フローターに乗った男がこちらに向かってきた。


「お前ら見かけない顔だな。こっちの人間じゃねえのか?」


「俺たち新世界から来ました」


 とっさに俺たちと言ってしまったが、まぁ問題はないだろう。


「何しに来たんだこんなとこに。用もねえならさっさと帰る事だな」


 その男は親父くらいの歳だろうか。浅黒く日焼けしサングラスをかけているのでよくわからないが……。


「私たち、行く所があるんです。そこへ行ったらすぐに帰りますから」


 俺がどう返そうか悩んでいると、俺の代わりに空が答えてくれた。その行動に少し驚いたがここは合わせておこう。


「おじさんはこの辺に住んでるんですか?」


「ああそうだ。なんだなんか文句あるのか」


「あ、いえ。そういうわけじゃないんですけど……お、俺たち学校のグループ研究で下界の事調べてるんです。それでもしよかったら話を聞ければと……」


 俺の目的だった三隅の街に今でも住んでる人間だ。俺はそう思うと話を聞かずにはいられなかった。


「いいだろう。ついてこい」


 一瞬の間が開き、怪しまれているかと思ったが……俺たちはおじさんの後を追う。少し歩いた所に高台の、水も入ってこなさそうな施設があった。


「まぁ入れ。何もない所だけどな」


「すいません、お邪魔します」


 中へ通されるとそこには不釣り合いな巨大機械が置いてあった。見た目から何なのか全く想像も出来ない。俺は思い切って聞いてみる事にした。


「こ、これ何ですか……?」


「なんだお前そんな事も知らないのか。これは食料生成マシーンだ」


 食料生成マシーンだと……? 確かあれは水と空気とプランクトンで食べ物を生成する物だ、でも俺が見た事あるのはこんな無骨で巨大な機械ではない。それに何でそんな物がこんな所にあるんだ?


「海水を入れてボタンを押せば飯は出てくるし、水はろ過される。これがなかったらこんな所で生きていけねえよ」


「なるほど……これはどこにでもあるんですか?」


「各市に数個ってとこだろう。まあこっちに住む奴が困らない程度にはあるさ」


「おじさん以外にも住んでる人が?」


「ああ。皆こっちが好きな人間さ。新世界なんざ、あんな高ぇ所人が住む場所じゃねえってな」


「は、は……そう言われると少し耳が痛いですね……」


「しっかし兄ちゃんたち二人っきりでこんなとこまで来るってぇ事はあれか。付き合ってんのか? お?」


「ち、違いますよっ!?」


「……」


 あ、あれ、空? 何で赤くなってるんだ!?


「なんだお嬢ちゃんはまんざらでもないみてえじゃねえか! がはは!」


 そんな風に言われたら意識してしまうじゃないか。初めて会った時に天使と間違えるくらい……衝撃だったんだから。


「と、とりあえず、他の話も聞かせてもらっていいですか」


 それから下界の事を詳しく話してもらった。アクアシードの発見により突如進んだ科学文明の話。まだ残っていた人間が多かった頃は略奪や治安の低下等。


比較的高台に位置している三隅市だが、未だ進み続ける水位の上昇にこれからどうなるのか。今は考えない事にしているらしい。なるようになるさ、と。


「俺から話せるのはこんな所だな」


「いいえ、色々話していただいてありがとうございました。知らない事ばっかりで勉強になりました」


「まあ、またなんかあったら来てくれよ。そんときは他の奴らも呼んでもっと話を聞かせてやれると思うからよ」


 俺たちはおじさんに別れを告げ三隅第二小を目指した。


「最初は変な人かと思ったけれど、面白いおじさんだったわね」


「良い人だったな。俺やっぱり下界の事知らなさすぎるからさ、ああいう話聞けると嬉しいな」


「ふふっ……さ、もう三隅市に入ったんだもの、早く行きましょう浩人くん」


「お、おいっ、危ないって空っ」


 空は俺の手を引くと速足で駆け出した。俺は先程のおじさんの話の中で新世界の事を考える。デバイスが壊れてしまい、渚に連絡が取れなくなってしまった事を。どうしてるかな、渚……。




 浩人が下界に行ってからもう一週間になる。電話も通じない、メールも返ってこない……。あんなに連絡はしっかりしてって言ったのに……。


浩人に何かあったのかなって考えるだけで、胸が押しつぶされそうになる……。私どうしたらいいのかな……。


「浩人……」


 早く帰ってきて浩人。じゃないと私っ……。

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