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SeaSideStory  作者: 結城ゆき
第五章
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第五章(完)

「やれやれ。誰だい? 全く……下界で一番可愛らしいカップルの邪魔をしている奴は。おっと動かないでくれよ? 次は本当に当てるぜ」

「か、要さん……!」

 颯爽と現れた要さんは銃口を男に向け煙草をふかしている。何でこの人はこんなに冷静で居られるんだ……。

「君たちの帰りが遅いからね、様子を見に来たんだが……一体何の騒ぎなんだい? これは」

 要さんが現れた事によって気が抜けてしまった俺はそこで力は尽き、奴は結界から解放される。

 


 そこへ一台のヘリがけたたましい音を鳴らし上空から降りてくるのが見えた。

 敵なのか味方なのか……俺は最悪の状況を考えながらも、もう立っている力もなくその場にへ垂れこんでしまう。

『……どうやら時間切れのようだな。おい貴様。名前はなんて言う』

「あんだよてめえ……名前聞く時は、まず自分から名乗るもん、だろ……」

『フッ……俺の名前はアレクサンドル・ペレズスキーだ』

「俺は浩人ッ……楠 浩人だ馬鹿野郎……!」

『浩人、か。いいだろう。次に会った時、それがお前の最後だ。それまで命は預けておいてやる。そしてその時こそ、その娘をもらっていくぞ』

 そう言い残すと、その男、いや……アレクサンドルはヘリから降ろされた梯子に掴まり消えていった。

「へっ……言ってろ……。あっ……空っ!」

 俺は這うようにし、空の元へと近づく。アレクサンドルが消えた事によって、空を拘束していた蔓はほどけていた。

「おっと、無茶はしない方がいい。大分血が出ているじゃないか。大丈夫、空は気を失ってるだけだよ」

「すいません……こんな事になっちゃって……」

「いや……君の所為じゃないよ。それより早く止血した方がいい。とりあえずラボへ戻ろう。歩けるかい?」

 俺はなんとか立ち上がると、要さんは白衣を破り俺の腕に巻いてくれた。そのまま空をひょいっと抱え上げ、要さんの乗って来たボートへと向かった。

「あの、ここ……空の能力で……」

「ああ、わかっているよ。空が目を覚ましたら元通りに戻るから。とりあえず急ごう」

 


 ボートにたどり着き、そっと空を寝かせ、ラボへ向け出発した。

「さて……何が起きたのか教えてくれるかな」

「俺と空はあそこで昼食べてたんです。それでそろそろ戻ろうかって時にあいつが現れて……」

「アレクサンドルと言ったか……あいつは何か言っていたかい?」

「空を……空を渡せとしか……」

「そうか……恐らくNew Russiaの兵士だろう。奴らもしつこいものでね……」

 そうこうしている内にボートはラボのあるビルへたどり着いた。俺は軽く消毒をしてもらい新しく包帯を巻いてもらうと、一度部屋へ戻された。「疲れただろう、少し休んでくるといい。続きはまた後で話そう」そう言われたからだ。

 俺はベッドに倒れるように横になると、空の事や先程の戦闘の事を考えていた。何でこうまでして空が狙われなければいけないのか。そして……空を危険な目に合わせ何も出来なかった自分の無力さを……。

 腕の傷がズキズキと痛む。その痛みに自分の弱さを痛感させられた。

「はぁ……」



 ――いつしか俺は、無意識の内に眠ってしまっていたようだ。さっきまであんなに明るかった空がぼんやりと赤みを帯びている。一瞬さっきまでの事は夢なんじゃないかと思ったが……未だに強く痛む腕が確かな現実なんだと教えてくれた。

 俺はベッドから身体を起こすと、空を探しにビルの階段を上っていく。案の定……空は屋上に居た。

「空……」

「もう起きていてもいいの? 浩人くん」

「ああ、うん。そんな大した傷じゃなかったから。それより……ごめん空。俺……何も出来なくて」

 空はまたフェンス越しに景色を眺めている。少しの時間無言が続いたかと思うと、空は口を開いた。

「少し話をしましょ」

 そう言いながら空は近くにあるベンチへと腰を下ろした。俺もそれに釣られ隣に座る。

「浩人くんは悪くないわ。寧ろ謝るのは私の方よ。ごめんなさい。私の所為で巻き込んでしまって」

「いやっ! 空は悪くないって! 守れなかった俺が……本当にごめん……」

 俺は思わず立ち上がってしまったが……落ちついて座り直す。そんな俺を見て空はくすっと笑った。

「やっぱり面白いわね……浩人くん。でも……十分守ってくれたわ。そんな傷まで負って……それでね、話なんだけど……」

 空は何か言いにくそうに俯いてしまった。何か大事な話があるのだろうか……。

「空……?」

「あのね、浩人くん……一緒に浩人くんの見つけたい物、探しに行こうって言ったの覚えてるかしら」

「うん。覚えてるよ?」

「その事なんだけれど……私と居ると……浩人くんが危険な目に合うと思うの……だからやっぱりやめにしましょう。もう私……私の所為で誰かが危険な目に合うのなんて見たくないわ……」

「それは違うって! 空は何も悪くないよ……空の行動を邪魔する権利なんて誰にもないんだ! 今日のだって……俺がもっと、しっかりしてれば……」

 突然何を言い出すかと思えば……空は自分の事を責めていたのだ。空の所為で俺が怪我をしたって……俺は堪らず続けて言った。

「俺は空と一緒に探している物を見つけたい。今後も空が危険な目に合うのなら俺は……それを守れるくらい強くなる、だから……! そんな事言わないでくれよ……」

「浩人、くん……」

「空……」

 空の身体はフルフルと震え、瞳には涙が溜まり……滴となって頬を伝い落ちる。その表情は悲しさなのか何なのか、感じ取ることが出来ない……だけど――

 そんな空の身体を俺は優しく抱きしめた。何を言えばいいのか、言葉が見つからない俺はそうする事でしか気持ちを伝える事が出来なかった。


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