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SeaSideStory  作者: 結城ゆき
第五章
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第五章(2)

ピピピピ、ピピピピ――


 アラームの音と共に俺は下界での二日目を迎える。朝まで目が覚める事はなく、一晩ぐっすりと睡眠を取ることが出来た。時刻は丁度八時を回った所だ。

 こんなにぐっすり寝れたのは久しぶりだな……最近は色々考え事もあって中々思う様に睡眠も取れてなかったからな。まぁ考え事がなくなったわけではなく、今でも山積みなんだけど。

 俺はさっさと着替えると流しで顔を洗い歯を磨く。とりあえずさっぱりしたその足で下のフロアへと向かった。

「お、おはよう。早いね」

「おはようございます。おかげさまでぐっすり寝られましたので」

「ハハハ、そうかい?」

 要さんが目覚めのコーヒーを入れてくれた。香ばしい香りが寝起きの脳を刺激する。やっぱ朝はコーヒーだなぁ。

「コーヒーでも飲んでまっていたまえ。そろそろ朝食が出来上がるはずだから」

「すいません、何も手伝いしないで」

「いや気にする事はないよ。朝食は毎日交互に作っているからね。二人分も三人分も変わらないさ」

「って言う事は空さんが?」

「あぁ、そうだよ。あの子はああ見えて料理が得意だからね! あっはっは!」

 俺と要さんが暫く今日の予定等を話していると、空が大きなトレーを持ってやってきた。

 空は次々とデスクに料理を並べていく。ハムエッグ、大きなボウルに入った生野菜のサラダ、温かいオニオンスープ、焼きたてのトースト。イチゴのジャムやマーマレード、更にはオレンジとパイナップルまで!

 自分の家にいたってこんな朝食出てこないぞ……。

「なんかホテルのご飯みたいですね」

「そうかしら? 普通だと思うけど」

「いやでも今まで生きてきて家でこんな朝飯食べた事ないよ」

「ハハ、食と言うのは生きる上で欠かせない事だからね。やはりこだわらないといけないなあ」

 朝からこんなバランスの取れた食事を取るのはいつぶりだろう。精々旅行に行った時のホテルの朝飯くらいでしか食べないからなぁ。胃がびっくりしたらどうしようかな。そんな事を考えながら出された朝食を完食する。

「ごちそうさまでした」

 デスクの上の料理が片付くと、空は食器を運び流しへと消えていく。

「さてと、君たちはこれから出かけるのかい?」

「ええ、そのつもりです。空さんお借りしますね」

「ああ、うん。どこへ行くかはもう決まっているのかな?」

「今日は空さんにこの辺を案内してもらう予定なんでそんなに遠くまではいかないと思いますね」」

「そうかそうか。今日も暑くなるみたいだから気を付けたまえ」

 デバイスの使い方、要さんの連絡先を軽く確認していると、支度を終えた空がやってきた。

「それじゃあ行きましょうか」

 そう言い残すと、空はすたすたとフロアを出てしまった。

「あっ、すいません、行ってきます」

 


 俺は慌てて空を追い掛ける。少し行った所で空に追いつくと、今日はどこに行くのかを聞いてみた。

「そのうちわかるわ」

 俺たちは水面に出られるまでフロアを降りていく。丁度潮が引いている時間らしく、昨日ボートを付けた階より更に下にまでしか水は来ていなかった。

 俺は少し流れていたボートのロープを手繰り寄せていると空が何かをつぶやいた。

「……【Iceアイス) frost(フロスト)】」

 その刹那、周りの空気が凍りついたかと思うと、水面が一瞬にして氷の華を咲かせる。昨日見せてもらった一部だけを凍らせる物ではなく、唱えた先の水面が遥か遠くまで続いている。

 俺は恐る恐る、水面であった場所に足を踏み入れる。そこは元から氷の塊であったと思わせる程に、厚く頑丈な氷が張られていた。試しにぴょんぴょん飛び跳ねてみるがびくともしない。こんな事が出来る空は一体どれだけの能力者なんだと俺は改めて驚かされると共に、空の能力がどんな物なのか余計に判らなくなっていた。

 氷を操る能力なんて言うのは聞いた事がないし……まさか……?

「ねえ空、もしかして空の能力って……」

 そう言葉を発した時、一瞬だけ空の表情が曇ったような気がした。要さんから空の能力について聞いていただけにまずったかな……。

「あ、言いたくなかったらいいんだ、ごめん」

 空は溜め息を吐くと、やれやれと言ったように少し呆れ顔を見せる。ぼそりと「余計な事……」と呟いたように聞こえたが気のせいだろうか。

「別に気にしなくてもいいわ。私の能力は……そうね、貴方の思ってるのと変わらないわ」

 空は天に手をかざすと「【Water(ウォーター) mist(ミスト)】」と唱える。それと同時に天高くから大量の水の霧が降り注がれる。それは余りにも細かく水に濡れると感じないほどに。空には大きな七色の虹が掛かり、思わず息を呑んだ。

「これが私の能力よ。水を操る。ただそれだけの事」

 俺は呆気に取られていた。まさか目の前に【Rank3】の特殊能力を扱う人間が存在しているとは思えなかったからだ。待てよ……果たして俺はそんな子を連れ歩いていいのだろうか? 授業でやった程度の朧げな記憶だが水の能力はデータのみで確認されているだけで、実在しないと聞いていたのだが……。 

「私の能力なんて別にどうでもいいでしょう。それより行くなら早く行きましょ」

 そう言われてしまえば仕方がない。俺は空に続いて歩いて行く。歩き続けて十五分くらい経っただろうか、今日も相変わらず良すぎる天気にじんわりと汗の滴が垂れてきた。どこまでも続くと思われた氷の道は目前百メートルくらいで終わっている。そこが目的地なのだろうか? 厚い氷が丁度切れている先端に、空が立ち止った。


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