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SeaSideStory  作者: 結城ゆき
第四章
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第四章(1)

 熱い夏の日差しが燦々と照りつけ、頬を焼く。強く吹き付ける普段なら生ぬるいと感じてしまうような、風が強く吹き付ける。

 俺は今下界にいる。そして目の前にはこんな場所に居る事が想像するのも難しい、場違いな一人の女の子。

 その姿はまるで、実際には見た事もない天使を想像させられるようなものだった。しかし、よく見れば羽もなく天使にあるであろう、頭の輪もない。

 俺が声を発してから数秒の沈黙があっただろうか。その間に改めて確認する。やはり一人の女の子だった。

 その沈黙を打ち破るかのように、その子が口を開いた。

「あなたは……誰?」

「え、あ……えと、俺、新世界から来たんだ」

「そう……」

 その女の子は外見からして、年は同じくらいか。風に靡く黒髪をかき上げながら目の前の水面を見つめている。

「きみは、どうしてこんな所に?」

「……水を見ていたの」

 頭の上に【?】マークを浮かべながらその子の様子を観察する。俺と同じように新世界から来ていたのか、それとも旧国に住み続けているのか。どちらにしても謎が深まるばかりである。

 本当なら無視して目的地を目指せばいいのだが、何となくこの子の様子が気にかかる。

 俺はつい最近やっとの事で使えるようになった少しばかりの特殊能力を発動させる。

「【Gravitationグラビテーション fieldフィールド】……!」

 俺は今居る自分の座標から目的地まで重力変化マイナスを発動させる。今の俺の力では軽く重力を弄る事しか出来ないのだが、とりあえずはこれで十分だ。

 そのまま俺は隣の屋根目掛けて地面を蹴る。通常より弱くなった重力により、俺は隣の屋根に飛び移る事に成功した。

「うわ、っ! おおお!」

 飛び乗ったはいいが、まだ上手くコントロール出来ていない俺は力の調整を誤り、屋根から転げ落ちてしまう。

 屋根の縁に手を掛け登ろうとするが、身体は水に浸かり、背中のリュックが重く、上手く登れない。

 焦る俺の目前にすっと白い手が伸びてきた。

「掴まって」

 躊躇いつつもその手を掴むと引っ張られるように、水の中から抜け出る。

「あ、ありがとう、助かったよ」

 服が吸いこんだ水分をぎゅっと絞りながら女の子の方を見つめる。あーあ……パンツの中までびっしょびしょで気持ち悪い……。

 リュックも結構濡れちまったな……。俺はリュックを開け中の具合を確かめる。幸い替えの服が濡れてるくらいで後はだいじょう――

「あああ! やばっ!」

 慌てていた俺はデバイスを通電させてしまった。こういう時はすぐにバッテリーを外して完全に乾かさなきゃいけないのは判っていたんだが……。

「あー……やっちまったぁ」

 がっくりとうな垂れている俺。新世界へ戻ったらさっさと売り飛ばしてせめて小遣いの足しにしようと思っていたのに……。

「どうしたの。大丈夫?」

「ああ……うん、大丈夫……」

 あんまり大丈夫ではなかったが、俺はそう答えた。

「早く乾かした方がいいわ」

 乾かそうにも替えの服もびしょびしょ。今ここで素っ裸になるのもさすがになぁ。

 色々考え悩んでいると、思いもしなかった言葉が耳に届いた。

「行きましょ」

 そう言うと女の子は俺の手を掴み、歩き出そうとする。

「え? 行くってどこに?」

「私の住んでいる所」

「あ、うん。えっとちょっと待っててくれる? ボート取ってくるから」

 俺は再度重力変化を起こし、駅のホームへとジャンプする。よし今度は上手く出来たぞ。

 急いでボートに戻ると碇を上げ、セルを回す。そのまま彼女の待つ停留所の屋根へとボートを動かした。

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