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普通の英雄的主人公じゃつまらない。
レベル100にとって、サバイバルというのはさして難しくない。
他の生物は敵ではないし、水や火も魔術で手にできる。
問題の炭水化物さえ手にできれば生き残ることは可能なのだ。
「なんだかいやな予感がする」
ふとした予感だが、この手の予感は外れたためしがないし、こういった予感がして“いやなこと”程度で済んだこともない。
「仕方ないか……」
今回は一応きちんとした装備をしてから城下町まで戻る。
あの場所の問題は情報が一切入ってこないという点だろう。すでに半年近く引きこもっているため、外については一切わからない。
久しぶりに歩く道をゆったりと歩きつつ、完全に気配を消し、誰からも意識されること無く一回り回る。
歩きがてら聞いたうわさは、近日中に帝国との国交を回復すること、近衛が全滅したこと、勇者が現れること……大体はそんなものだ。もちろんほかにもはす向かいの娘が結婚するとか、明日野菜の大安売りだとか、角の酒場が来週の頭にセールをするとか、そういったものもあることにはあるのだが、今回集めた情報の中で僕に関係がありそうなものはその三つだった。
帝国との国交はあの後どういった結末を迎えたのかはわからないが、国交が回復することは予想の範囲内だった。近衛の全滅は引っかかるが、確認をしてからもう少し詳しく調べると決め、勇者については最優先で情報を集めた。
結論としては城に行かないとわからないというのが現実である。
城で王女が召喚するらしいが、今まで護衛してきた経験から考えて、相手が男だった場合年齢にもよるが、かわいそうだ。
町でこういったうわさが広まっているということはもう召喚されたか、もうすぐ召還されるということだろう。門番の目を盗み、気配を消して見回りをやり過ごし、召還ができそうな部屋を見つけ、その近くに隠れる。
ついでにアナライズを唱えておき、いざというときに何とかできるようにはしておく。
魔術の痕跡を探り、まだ召還が行われていないと確認し、今度は気配を完全に消し去って待つ。
二日ほどしてようやく王女がこの部屋に下りてきて召還の準備を始める。
その召還の術式を見ると、確かにこれならば他世界から生命を召還できる術式だが、“知識”曰く、そんな簡単に他世界から生命を呼び出せないらしい。
“知識”の言葉を完全に信用するわけではないが、もし言うとおりならばこの場で勇者召還は失敗するはずなのでそれを確認して、あの言葉“―――あなたは結局すぐにでもそれを手にしなければならなくなる。”この言葉の真意を考えなくてはならない。
「――――――――――――」
長い詠唱は終わり、魔術が完成し、そこに一つの人影が光とともに現れた。
―――失敗すると思っていた魔術はいとも簡単に成功した。その原因は本当はわかっている。そして、僕が____である以上、それを防ぐために動かなくてはならない。
『―――な、なんだ? ここはどこなんだ?』
久しく聞いたことの無かった英語を聞きとり、少々驚く。
その人影は男だった。
黒髪の純日本人といった風情で、あまり他人のことを言えないがあまり頭がいいとは思えない。
つまり、この男が英語をこれほど流暢に話すのに大きな違和感を覚えている。
『ま、まさかこれが異世界召還モノ? ついに俺にも……』
訳せないが、言っていることは表情から読み取れた。
―――こいつ…浮かれてやがる。
当然のことながら、そいつは僕のそんな微妙な気持ちを知らずに王女に連れられて退出していく。
「―――何故こんなにも簡単に異世界から生命が呼べるのかはわかったが……なんていうか、今回のことを考えるとそれを防止することにどれだけの意味があるのか大きく疑問に思ってしまうよ」
ポツリとつぶやいた。
ほとんど何もしなかったとはいえ、アナライズだけはしっかりとやっていたアッシュはいくつかのことに気がついた。
「もしかして、あいつって地球から来たのかな?」
可能性が無いとはいわない。言わないが……すごい確立ではなかろうか。
能力値は軒並み平均以下、知力は多少あるが、完全に偏っているとしか思えない。義務教育を受けていたとしたら、ものすごく低いというわけでもないが、お世辞にもいいとは言えない。そのくせつぶやく台詞を頑張って訳すと変なところで妙な知識を持っている。アニメ、ゲーム、漫画等で完全に偏っている知識のようだ。
剣を持つにも筋力が足りず、無駄に自信たっぷりで言葉はいまだに通じていないようだからこちら側の人はこの自信たっぷりな態度にへんな勘違いをしているようだ。
『―――こうして、こうやって……』
アニメか何かの必殺技と思われる何かをやろうとしてことごとく失敗し、そもそも実践では無駄が多すぎて使えないのだが、それをあたかも惜しかったように振舞う姿は喜劇としか言いようが無い。はっきり言って面白い。久しぶりにこんなに面白いものを見た。
「勇者様、実は私たちは今、ある男によって脅威に立たされているのです」
ようやく多少の意思の疎通ができるようになったころ、王女は勇者(笑)に誰かの討伐を依頼した。
勇者(馬)も、さすがに多少の学習能力はあったらしく、数日するとばかばかしい必殺技の練習のほかにもある程度まともな訓練をした。
―――したといっても素振りを百回だが……。
「その男は今までの恩を忘れ、あろうことか祖国を裏切った裏切り者です。
しかもそのくせ人類の敵である魔族と通じ、さらには帝国との関係さえ悪化させました。
私たちはその男をなんとしても討たなければならないのです!」
以下、数十分に及ぶ演説があるが、主な内容は件の裏切り者を罵る台詞だったので割愛させていただく。一人の女性が白昼堂々と口にする台詞じゃないし、本人の名誉のため、割愛させていただいた。
―――誰が童貞だ……否定はできんが…………。
「わかった、おれがそいつを絶対に倒してみせる!!」
大げさな身振り手振りで表現するその姿を見て、まだやってたのか、と思わずつぶやいたが、ある意味では安心した。やっぱりあいつは勇者(笑)だ。(馬)でも可。
さて、この世の中には正義というものがある。
正義とは何で決まるかといえば、そのときの社会や思想によるだろう。故に普遍的な正義は存在しないし、普遍的な悪もまた存在しない。
もっと言うならば、人の社会は“人”しか守らない。当たり前だが、人以外に人権は無い。
―――だから、社会が人と認めなければそれを殺しても殺人ではない。
簡単な話だ。殺人は人を殺すから殺人だ。人でないものを殺すのは殺人ではない。
価値観が変わる以上、もっとも大切なものが“犠牲を出さない緩やかな滅び”か、“多数の犠牲を払う急激な上昇”か、もしくはそのどちらでもない場合もある。
平和を正義とするのは正しいのか、事なかれ主義が正しいのか、何でもかんでもデメリットがあるからダメだと切り捨てて何もしないでいることが正しいのか、その判断ができない人というのは多い。
一時の犠牲を払わずに、何もしなければ、後になってその“ツケ”は何倍にもなって返ってくる。借金のようなものだ。迅速に、一時でも早く負債は支払う必要がある。
事実は小説より奇なり。当たり前である。小説はあくまでも人の発想の元に描かれたもの。それよりも予測できない事実…現実社会が奇妙なのは当たり前である。
予測できないにもかかわらず、何もしないのはばかげているとしか言いようが無い。
原因があるから結果があるのだから、何もしなければ何も起こらないに決まっていると思っている人がいるのなら、はっきり言おう。それは“何もしない”ということをしている。
世界という盤面は常に進んでいる。“待機”ばかりしていてはいつの何か世界においていかれる。それなのになんで進んでいるのだと喚きたらすやつはそういないだろう。
さて、もう一度言おう。
何もせずに、危ないからと何もしないのがもっとも危険だ。悪だ。結局は被害を大きくするだけの罪悪に過ぎない。
事なかれ主義とは、そういった最も被害を出す罪悪であり、迅速に、一秒でも早く排除しなければならない。
―――果たして、今の自らの周りはどうだろうか?
「お前がアッシュか!!」
勇者(馬)はアッシュの目の前に踊りでた。
「帰れ、馬鹿」
それを無視して通り過ぎようとするアッシュの目の前に回りこみ、|かっこいい(恥ずかしい)ポーズを決めて高らかに宣言する。
「お前の悪行も、今日、この俺が止めてみせる!!」
「頑張ってくれ」
ため息とともにつぶやき、反対方向に歩き出す。
「正義の名の下に、お前を倒してみせる!!!! うおおぉぉぉ!!!!!!!!」
そういって背後から清々堂々と切りかかる馬鹿。
「恥ずかしくないか? こんな道のど真ん中でそんな台詞言って」
それを見ることなくアッシュは避けて、ため息をつきつつ言う。
周囲の目はイタイ子を見る目になっていた。そこの道では子供に「見ちゃダメよ」といっているお母さんがいる。
―――全面的に同意する。
「おのれ、俺のジャスティス・ストライクを避けるとは……やるな!!」
「いや、ただの背後からの奇襲にもなっていない奇襲だし、しかもただの振り下ろしで遅いし、下手に触ると折れそうな剣だし……」
勇者(笑)の持つ剣ははっきり言ってハリボテにしか見えない。こいつの筋力で両手剣を扱えないのに両手剣を誇らしげに掲げている姿を見るとあまりやっちゃダメかな……って言う感じの気分にさせられる。見ていて楽しく、そして哀れみを持つ馬鹿のようだ。
「しかも、名前がジャスティス・ストライクって、“正義の一撃”ってところか? 面白い名前だな」
「っな、何故この名の意味を知っている!?」
『悲しいぐらいに無知だな。というよりも答えがいつでも出てくると思っているのか?』
丁寧に日本語で答えた。英語はできない。もう何年も触れていない言語だ。もともと苦手だし、今は言えて『はろー』『I can speak a little English.』ぐらいだ。
「馬鹿な、俺の心の中の師、山本達彦と同じジャパニーズを操るものなのか!?
日本語を操るものなど300年前にいなくなったはずなのに」
「意味がわかったのか? というか、その意味不明な説明に人を巻き込まないでくれ、ものすごく視線がいたい」
「まさか、貴様、転生者か!?」
「なんだかものすごく否定したいが、そのとおりだ」
本当に視線が痛い。これを意図してやっているのだったらすごいと思う。ものすごい自虐的方法だが。
「教えてくれ!! 俺の尊敬する山本達彦がどんな感じだったか、当時の人に聞いてみないとわからないことが多いんだ」
「まあ、いいけど。その人って西暦何年に活躍した人だ?」
「2018年だ!」
…………………。
「―――となると日本革命があったころだな。何をした人だ?」
「大罪人、渡辺昌司を討った戦後の大英雄だ!!!」
「―――………じゃねぇよ」
「?」
「―――山本達彦は、仲間を自分の命惜しさに他国に売ったやつだよ。あの岐阜山岳突撃部隊第二小隊で、最後の最後に俺たちを裏切り、義勇軍の最後の砦を壊滅させた張本人の名だ」
一つ息を吸い込み、
『勝てば官軍ということか、歴史はもちろん俺を悪人にしたほうが都合がよかったんだろうな……』
風とともにアッシュの姿は消えた。
渡辺昌司、2017年から2018年にかけて暗躍したテロリスト。
解放軍と名乗った武装集団に属し、テロ行為を幾度と無く行った。
当時、最も恐れられたテロリストで日本革命において数多くの要人を屠ってきた。
当時の年齢はまだ18と若く、発覚しているだけでも48件、未発覚のものも含めると100を超えるテロに参加したと考えれている。
2018年に山本達彦によって討たれる。
「アッシュ!!!!!」
山の中でののんびりサバイバル生活をもう一度繰り広げていると、それは現れた。
「フェニとの間を取り持ってくれー!!!!」
「面倒」
家の前では第一柱のウィルがいた。
もっとも人間らしい加護持ち、そうアッシュの評する男がウィルである。
フェニ(第七柱)が大好きで、大好きで、でも恥ずかしくて正面から堂々と言えない“困った中年”である。
なお、ウィルは巨人族と人とのハーフで、人にしては少々大きな身体の持ち主だ。年は194歳。巨人族にとっては“中年”である。
また、それのお相手?であるフェニは使徒で齢が千を超える。だが、見た目は子供……所詮はロリババアだ。後千年ぐらいしたら人で言う二十歳前ぐらいの見た目になるらしい。
ちなみに今の台詞を言うと間違いなく魂が冥府へと旅立つので口が割けても言えない。
さらに言えば、フェニは第二柱のランサが好きなので、この恋が叶うことはない。と思われる。
ランサは有翼族といわれる少数民族の一人で、年は500を越える。美青年。
そんな面白い関係をしているこいつらを下手に合わせたら大陸が消滅する。それは面倒だ。困る。だから何もしない。こうやってあきらめるのを待つだけだった。
―――グギャロギャロ!!!
何かの鳴き声を聞いた。
「……おーい、ウィル。今の鳴き声なんだと思う?」
「―――そうだな。覇龍辺りじゃないか?」
「原因は…何だと思う?」
「考えるまでも無いだろう」
「そうだよな……」
―――さて、先ほどの紹介で出てこなかった加護持ちを紹介しよう。
第三柱、リンダである。
彼女は竜人族の巫女、世界を渡り人々を癒して回り、見かけた戦争でつい“うっかり”虐殺をやらかす。危険極まりない女性である。それが理由でアッシュは助けを呼ぶに呼べなかった。
さて、彼女が主に世界を渡り歩くのに利用するのが先ほど出てきた覇龍である。
覇龍は竜人族の巫女にのみ従う最強クラスの生命で、さらには彼女の性格を考えると、この近くで覇龍が咆哮をあげるということは、下のほうで何かあるということで、その下のほうでありかねないことの原因は僕であり、さすがにこれを放置するのは気が引けた。
「―――逝ってくる」(誤字にあらず)
「―――ああ、逝ってこい」
そういってウィルに見送られ、ふもとに急いだ。
「リンダ!!! やめろー!!!!」
暴虐の限りを尽くす覇龍に、命を懸けて傷をつけつつ死していく兵士たち。そしてリンダによって癒され、強化される覇龍。
「食らえ!」
ダークを三本投げ、覇龍を貫通させる。
腕の筋肉がミシミシといったが、さして問題は無い。
「何するの! 危ないじゃない!!」
「そっちのほうが危ない!! いい加減にこれを止めろ!」
そう叫ぶも何の意味もないことは分かっていた。
「あーもう、鬱陶しい。
跡形も無く消し去るつもりでやりなさい!!」
覇龍はこちらに狙いを定め、こちらに突っ込んでくる。
「っは!!」
向かってくる爪を避けつつ、その腕に飛び乗り腕を切り落とす。
それと同時に腕が折れるが、治癒術で治す。
「―――ここまでかよ」
切り落とされた腕は磁石と磁石がくっつくようにくっつき、切断面もまったく見えなくなった。
「私の邪魔しないで! 大丈夫、第七柱がちゃんと送ってくれるはずだから……!!」
そういって邪悪な笑いを漏らす女。
―――はっきり言おう。ものすごく怖い。
「何故に生を司るお前が虐殺をやらかす! 人々を救って回るなら分からなくはないが……、お前の言うどこに平和への道がある!?」
「簡単よ。私が軍人を殺して回る。そうすれば軍人になりたがる人は少なくなる。そうすれば戦争は起きない。だから平和になる」
「ふざけた理論だな。脅威がある限り兵力は必要になる。人にとっては魔族がそうだし、魔族にとっては人がそうだ。それに魔獣も双方を含めたものたちにとっての脅威だし、王族を守るためにも兵力は必要だ。防御のための兵力と、攻撃のための兵力のどこが違うのか、見分け方を教えてほしい」
アッシュにとって、恒久平和は夢である。
あの争いの原因が、生前全てをかけたような戦争を起こさないことこそ彼の望みであり、人が生きる以上ああいった争いが起きてしまうことを容認してしまった彼の思考の元による質問。彼女の台詞についてはすでに一度彼も考えたことだった。
「私がその魔獣を狩りつくす。人と魔族はそれぞれが軍を持たなければいい。私が持たせない」
「争いを持って、争いを無くすことは不可能だ。また、争いなくして争いを終えることもできない。だから争いはなくならない。それが真理だ。いかなる方法をもってしても恒久平和はありえない」
「あなたとは相容れない。私の考えとあなたの考えは違う……きっと君ならわかってくれると思ってたのに…………」
「っは! 何百年と考え続けてその結論なら馬鹿としか言えないな。平和を目指すならもっと別の方法のほうが有効だよ」
そうしてこの二人の問答は終了する。
互いに平行線。故に相容れない。だから殺しあうしかない。
リンダの装備は杖、覇龍、法衣。これらと第三柱の加護を踏まえて考えられる戦闘方法は覇龍の強化と無限とも言える治癒による攻撃。対策は本人を狙うか、覇龍を完全に一度で沈黙させるのみ……だがしかし、相手が覇龍である以上、どう頑張っても三発必要だ。これが戦闘タイプの加護持ちなら一撃で下す方法があるのだろうが、少なくとも今の僕には無い。
現状で使用可能な武器はダーク48、短剣20、奥の手が3、魔力にはまだまだ余裕はあるが、全力戦闘における最大行動時間は30分、それ以降はどのような手を使っても抵抗はできない。
また、この戦いにおいてウィルによる助力は望めない。
ウィルが戦闘に参加した時点でこの戦いは“聖戦”となる。なってしまう。それを僕が無理やりさせるのは我慢できない。
それに、覇龍を除いた戦闘能力においても、僕はリンダに及ばない。リンダの回復力を超える攻撃力は持っていない。停止魔方陣が効けばいいが、そんな憶測のみで行動するほどの余裕は無い。今の僕が死んだら、それだけで聖戦の火蓋が切られる可能性が高まる。それはいけない。
―――選択肢は……一つしかない。
「自己封印……解除。
―――信託を受け入れ、今ここに第四柱 時と空間のローズのお言葉に従い、その加護を受け入れ、わが身を捧げよう―――」
決して受け入れぬと誓ったものを受け入れる。
力の本流がどこかからか、この身体にめぐっていき、力が満ちていき、馴染んでいく。
「―――――――!」
理解した。全てを理解し、そしてそれは昔から知っていたことのように自然とその動きが出てくる。これが、ローズの力、これが第四柱の加護の力……。
「とうとう取ったの? でも、あなたと違って私のほうが力を使い慣れている。あなたじゃ私と経験が違う」
リンダは勝ち誇って言う。それもそのはずだ。第四柱の力は自然の中の理を操るもので整えるものでしかない。そう考えている彼女にとって整備士がどれほど戦闘において動けるか、想像できるはずもない。
「僕が出した結論を述べよう。これは実際にある国で使われている方法だ。
内部の分裂を防ぐために、共通の敵を作り出すことで内部はまとまりを見せる」
先ほどまでの様子とほとんど同じ振る舞いでリンダに対して言い続ける。
「争いが起きるのは分裂するから、それなら分裂させないように共通の敵を作り出せば、それで万事解決だ。それに、何かに対してまとまっていると文明も発達する」
それに対してリンダは否定しない。否定できない。彼女はその考えに至ったことがないから。
「ならば、何か強大な共通の敵を作り出してやればいい。
方法は簡単だ。生命全てに向けた宣戦布告。“全ての敵となることで、全てを纏め上げる。”そういう悪による救済だ。もっとも被害が少ない。悪を為すのは、まとまらない一部だけにすればいいのだからな」
それが、アッシュの出した結論。
全てにとっての絶対悪であることで、全てを纏め上げ、全てから外れたものを自らが悪であるために切り捨てる。効率のみを重視した悪による正義。
「さて、リンダ。
この結論も、否定すればいい。むしろ否定してくれ。その否定に対して、できる限りの抵抗をする。それで跳ね返せたら…残念ながらその理論はこの考えに届かなかったということだ」
アッシュはダークを3本、一瞬のうちに投げ、覇龍を打ち落とす。
覇龍にかけられた魔術は意味を成さず、覇龍はその存在を地に落とされた。
「―――さあ、聖戦を始めよう。
もう後悔はない。これで世界が救われるか、滅びるか、神の裁定を見ようじゃないか!!!」
―――ここに、聖戦は始まった。
加護持ちの紹介
第一柱 光と暗黒のランハ ウィル 194歳 巨人族と人族とのハーフ
大きな身体を持つ中年。後に説明する第七柱のフェニが好きであるが告白する勇気は無い。
そのため、よくアッシュに仲介を頼んでいた。
第二柱 熱と冷気のハスタ ランサ 500歳以上 有翼族
フェニに好意を抱かれている美青年。
本人はフェニに対してそういった感情を抱いてはいない。
基本的にどこにいるのかわからない流浪人。
第三柱 生と愛欲のミウナ リンダ 489歳 竜人族
生のため、殺すものである軍を嫌い、その存在を見るとつい“うっかり”殺してしまう。
基本的には平和を願う女性であり、困っている人を見かけたら癒す人でもある。
竜人族の巫女でもあり、覇龍を従えて行動する。
第四柱 時と空間のローズ アッシュ 21歳 人族
西暦2018年に日本革命にて暗躍したテロリスト、渡辺昌司の生まれ変わりであり、元高校生。
基本的には面倒くさがり屋だったりするが、やらなくてはならないことはちゃんとやるし、やったほうが後々楽ならやる。
日本革命のようなものを起こさない。すなわち恒久的な平和が望みであり、生前も死後もそれについて考え続けている。作中の理論も基本的には彼が考えてきたことの一部である。
一応本編の主人公。
第五柱 法と秩序のヤング ラピス 24歳 人族
帝国を治める女帝。
“支配”とアッシュに呼ばれるだけあって自信のレベル未満(ほぼ全てのもの)を自由に操ることができる。
能力は洗脳に近く、考え方や優先順位を変えるのが主な手段。
アッシュの能力を欲し、それによって永久の美貌と、歳月を手にしようとしている。
第六柱 知と探求のエンド アリス 327歳 魔族
魔術師であり研究者だったが、加護によってそれらの意味を奪われた女性。
知らないことはないといわれ、全知とも言われる。
外見だけならアッシュの好みのど真ん中である。
第七柱 死と栄光のファス フェニ 1000歳以上 使徒
神の使いとも言われる使徒の女性。
基本的に他人のすることに無関心だが、加護持ちは別で、全て自分の手元においてみたいとまで思う。
第一柱に好意を寄せられ、第二柱に好意を寄せる。
だが、当の思い人にはまったく気付かれず、最近では早く外見だけでも大人になりたいと思っている。そのためアッシュの力を使いたいと思う人の一人。
ロリババア。