第九話 「始まりの日の終わり」
「っ……こ、こは?」
あの戦闘からしばらくが経った後、徹矢はどこかの部屋のベッドで目を覚ました。
初めはどういう状況であるのか掴めなかったようであるが、徐々に意識を失う前の状況を思い出したのか顔色が変わり、それから自分の左腕を見た。
「……ついているな」
左腕を切断された時、激痛で頭がおかしくなりそうな中でそれでも状況を打開するための何かを徹矢は考えていた。
そして地面に落ちた腕を見て、これならばどうにかできないかという方法を思いついたのである。
徹矢はその時の瞬間を振り返り、よくもまああの時使うことができたものだと自分に呆れかえってしまう。
今は使おうと思っても欠片も使える気がしないと、徹矢はため息を吐く。
「難易度が別格だな……おい」
使い方自体は神の欠片が教えてくれる。
それでも負担や制御の関係ですぐさま使える、という訳にはいかないようであった。
そんな風に自分の調子を確かめていると、部屋のドアが開いて誰かが入って来た。
「お、起きたのかい徹矢君」
「……ロウさん」
現れたのは笑みを浮かべたロウであった。
ロウは徹矢のことを面白そうに見ながら徹矢のベッドへと腰掛け、話す。
「とりあえずお疲れ様、これは餞別だよ」
笑って渡されたのはペットボトルに入ったスポーツ飲料のようなものであった。
徹矢はお礼を言いながらそれを開けて口をつける。
口の中、そして身体全体に水分が入る感覚。
自分の予想以上に渇いていたのかそのまま半分近くの量を飲み干していた。
「疲れてたみたいだね、まあ、無理もないだろうけど」
「みたいです……ありがとうございました」
「まあまあ、そこまでかしこまる必要はないよ……っと、それじゃあ徹矢君、状況説明は必要かな?」
「あ、お願いします」
徹矢が覚えているのは気合で左腕を治して最後の意地だとばかりにカンナに向かって跳び出した瞬間までである。
それ以降の記憶は何も持っていなかった。
「ああ、うん……突撃の時点で意識失っていたらしいからね、そこまでしかないのであってるよ」
「そうだったんですか」
「でまあ、俺とカイでこの部屋に運んだわけだけど……カンナからの伝言があるよ」
「伝言ですか?」
「そ、『見事だった、お前ならきっと強くなれるだろう……必要なときは相手をするからいつでも来い』だってさ」
「そうですか……ええ、わかりました」
まあ、さしあたってはご迷惑をおかけしましたと謝罪と礼に行くべきでしょうけどね、などと続けながら、運ばれてきたこの部屋を見る。
「ここは俺たちのホームの一室だよ、ついでに言えばそのままこの部屋が徹矢君の住む部屋になるかな」
「そうなんですか?」
聞きながら、部屋を再び見渡す。
広さは一人が住むには十分といったところ、最低限の家具も用意されており問題はないだろうと徹矢は判断した。
「ありがとうございます」
「なに、新しい仲間なんだから衣食住くらいは保証しないとね」
からからと笑うロウにもう一度感謝の言葉を告げて、それからふと思いついたように自分の状態、手に持つ飲み物を見て口を開く。
「そういえば住はともかくとして衣とか食とかあるんですね」
よくよく自分の服を見てみればそれは生前来ていた服であり、それに今現在飲み物を口にしている。
魂のような存在だと思っていたため少しばかり意外であった。
「ああ、まあ、衣食住全部なくても生きるだけだったらこの世界なら問題なく生きていけるよ」
住むところはなければ浮浪者状態のため必要度は高いものの、衣や食に関してはそれほどでもない。
どちらも娯楽や趣味といったものが強い傾向にある、基本的に気温の変化などはほとんどなく食事をとらなくとも生きていけるのであるから。
「まあ、そういった楽しみ無しで生き続けるのも大変だけどね」
「ああ、それはよくわかります」
食事の味であったり服による見た目は長い生活を送る上での身近で貴重な変化である。
新鮮さ、変化のない生き方がどれほど厳しいものであるのか、それが徹矢にはよくわかる。
結局言ってしまえば衣食住は生きるためにはなくてもいいかもしれないが、生活するためには必要なのだろう。
「それから、これも渡しておくよ」
「? なんですか、これ?」
ロウから手渡されたのは腕時計のようなものであった。
表面部や側部にスイッチやボタンがいくつか存在しており、ただの腕時計ではないということは徹矢の目から見ても明らかであった。
「この世界での必需品だよ、単純にウォッチって呼ばれてるもので時間の他にも情報端末とか財布の機能がある、連絡も取れるし道具の収納もできる」
「……詰め込んでますね」
色々な必須機能を全て詰め込んだような道具であった。
特に最後に出された道具の収納は普通に考えれば明らかに無理があるだろう。
「製作者に空間使いの能力者がいたからね、大抵の道具は詰め込めるようになっているよ」
これは説明書、と冊子を渡しながらロウは話を続ける。
「冊子にはそれの使い方の他にも地図とかここについてのこととかも書いてあるからそれさえ読んでればとりあえず生活なんかに困ることは無いと思うよ」
「はぁ……って、これ」
軽くパラパラとその冊子をめくってみれば、説明や地図の中にわかりやすく手書きでポイントや注釈が記されている。
ついでによく見れば手作り感の強いものに見えた。
「製作者はカイだ、どうやら徹矢君のことをそれなりに気に入ったらしいね」
徹矢が戦っているシーンを見て何かを思ったのか、元々作っていた冊子に色々と書き加えたのだとロウは笑って言うのであった。
「とりあえずカイさんにお礼を言わないといけませんね」
「ああ、そうだね」
それを聞いた徹矢は素直にお礼を言いたいと思うのだった。
ちなみにカイはロウにそのことは口止めもしくは誤魔化すように言っていたのだが、見事なまでの裏切りようである。
実際に礼を言われたカイは多少うろたえた表情を見せ、それをカイは楽しそうに見守るのであろう。
その後にはカイからロウは復讐されるであろうが、そういった一連を含めての行動である。
からかいという楽しみから、復讐という罰まで等しく受け入れる性質が、ロウという人物であった。
「っと、その話はここまでにして……これからの話をしなければならないかな」
「これからの話ですか?」
「そ……徹矢君がこれからどうやって過ごすのか、そういう話だよ」
例えば徹矢君の願い通り早速欠片を探しに出たりとかね、などとロウが笑いながら言う。
そんなロウの言葉に徹矢が出せるのは苦笑だけであった。
「さすがにあれだけボコボコにされた後にその選択肢は選べませんよ、それは実力をつけてからです」
実際に止めを刺されることは無かったが、あの時の戦闘と違い魔王の欠片や汚染された神の欠片と戦うのであれば本当の意味で死んでしまう。
そのことを考えるのならば今すぐそれを行うことがいかに無謀であるかなど考える必要もない。
「それがいい、わかっているとは思ったけれど一応ね」
新しい力を手に入れて調子に乗っている奴もいるからさー、とロウは言う。
おそらくそういう失敗例を何度も目にしてきたのではないだろうか。
「能力の訓練はカンナさんの所に行けばいいんですかね?」
「ん? ここの地下に訓練用のスペースがあるからそちらを使えばいいよ、もちろんカンナの方に行っても大丈夫だろうけどね」
「地下とかあるんですか……」
予想以上に施設が充実しているここに徹矢は感嘆の息をつく。
とはいえ、徹矢がこの場所しか知らないのだから何を基準にしていいものかわからないので徹矢の感想は間違いであるかもしれないが。
「それはそうと、基本的に徹矢君の考えは悪くないんだけどね……能力の他にも徹矢君には覚えていってほしいものがあるんだよ」
「はい? なんですか?」
「世界経験」
「世界……経験?」
「そ」
徹矢のいた世界はいわゆる普通の世界というものである。
魔法のようなものがない、基本的な物理法則のみが働く世界、そして科学などの特定の技術が突出していることもないまさしく普通の世界。
「そういう世界から来た人間は、今までの常識の一部、あるいは全てが効かない世界というものに弱いことがあるんだ」
代表的な例を挙げるとすれば、やはり魔法や魔物がいるといった世界だろう。
他にも人間のいない世界、超科学技術の発達した世界、あるいは惑星や宇宙という形をしていない世界というものが存在している。
特に徹矢のような世界では、四つ目に挙げたものは想像することすらできないだろう。
「徹矢君が様々なものに対応したいってのは聞いたし、そういう意味では様々な世界の在り様というのは覚えてきてほしいところなわけ」
「なるほど……」
「で、ここからが本題、世界移動についてのお話だよ」
ロウは世界の経験が必要であると言った、ならば当然の疑問として浮かぶのが世界を移動する方法である。
とはいえ、それ自体は実の所非常に簡単なものではあるのだけど。
「ぶっちゃけ、中央の柱に飛び込めばいいだけなんだけどね」
「……それだけなんですか?」
「ま、これに関してはあまりおすすめしないけれどね……とりあえず最も簡単な方法はそれだよ」
柱に飛び込むことで魂の流れに身を任せることで世界に運ばれ、欠片の能力と記憶を受け継いだまま新たな命として誕生する。
準備も何もいらない簡単な方法ではあるけれど、問題も多い。
「まず一つ、行く先が完全にランダムであること」
流れに身を任せるだけであり、自分で方向を決めることができない。
当然、無駄足も多いことになるため正直に言って効率も良くないとロウは言う。
それだけでも面倒なことであるが、この世界移動の仕方は生まれてからの問題も数多く存在している。
「赤ん坊の状態じゃされるがままだからな……酷い羞恥プレイだとだけ言っておく」
「……ああ、確かに考えただけで死にたくなってきますね」
例として挙げたロウのそんな言葉に徹矢としては苦笑を返すしかない。
正直なところそれは嫌だなと徹矢は本気で思う。
「まあ、これくらいならまだ笑い話で済むんだけどね」
他にもいろいろと問題点が多いのがこの転生方法である。
一つは現在徹矢が持っているウォッチ、当然赤子として生まれるのだからそんなものを持って行けるはずがない。
自分の武器を収納していたりすれば再び転生回廊に戻るまでそれの使用は不可となる。
そして赤ん坊であるため身動きが取れない、それは危険に対処ができないということにもなる。
「それに世界によって違うけど一定の年齢までは動き回ることは難しいしね……世界に来てから十年程度は欠片を探すと言ったことすら難しい」
徹矢の世界のような場所が顕著であろう、妙な時間帯に小さな子どもが徘徊していれば確実に補導されることは想像に難くない。
挙げれば大量に出てくる欠点、少なくとも欠片の捜索を行うにあたってこの移動法は向いていないと言えるだろう。
「単純に一から新しい人生を送りたいというのならこの方法は悪くないものだけどね」
欠片などとは関係なく、新しい人生を歩みたいというのであればデメリットに関しては最小限に抑えることができる。
実際、そういう目的で転生を行っている者も少なからずいるとロウは続けて言った。
「まあ、それも人によりけりだろうけどね……たぶん徹矢君あたりはこれをやると悩むことになるよ」
「どういうことですか?」
「新たな命として生まれるのであれば当然産んだ者がいる、自分の記憶に残る家族とは別物の家族がね」
「あ……」
とりわけ、徹矢のように家族との仲が良かった者であればその差異や違和感は決して小さいものではない。
おそらく徹矢はロウの言う通り本来の家族とその時の家族との違いに頭を悩ませることになるだろう。
「それは……」
「ま、その辺りの割り切りに関しては実際にやって、自分でつけるしかないものだけどね」
これからの長い転生回廊での戦いや生活の中でその方法を利用することもあるかもしれない、とロウは言う。
素直に新しい家族を迎える者、拒絶する者、悩み続ける者、それに直面した時にどうするかは、結局自分がそうなってみなければわからないものである。
「これが一番簡単な世界の移動法の概要だよ」
「なるほど……とりあえずわかりました」
「それはなにより、で、次が一般的な移動法についてだけど、運び屋っていうのがいるんだ」
「運び屋?」
転生回廊で住人のバックアップを行う能力者の種類にも様々なものがある。
神の欠片を捜索するロウのような探し屋、世界についての情報仕入れるカイのような情報屋、様々な世界の考えや技術を取り入れ作り出す発明家や職人。
主に見られるのはこれらの能力であるが、そこにつけたす能力が運び屋、文字通り特定世界へ対象を運ぶことができる能力者のことである。
「うちのチームにも運び屋はいるよ、俺が探して、ソイツが移動して、カイがその世界の情報を集める」
役割が揃っているから俺たちのチームは単独で動きやすいのだとロウは言う。
実際、組織と呼べるほど大きなチームでなければそれらすべてを集めることは楽ではないことである。
それらを吟味すれば徹矢が暮らすことになるであろうこのチームは非常に充実していると言っていいだろう。
「そういうわけで移動法の基本は運び屋に運んでもらうこと、徹矢君とレンが会った時はこの方法を使っていたよ」
簡単な方法と違い生まれ変わるわけではないため現在のそのままの状態ですぐに活動を行うことができる。
カイなどの情報屋の能力により目的の対象が判明しているのであれば速攻で鎮圧をすることが可能な状態である。
また、ウォッチも持って行くことができるため異世界の道具を使用したり、あるいは収納することで持ち帰ることが可能になっている。
「反面、デメリットも出るわけだけど」
本来その世界の存在ではないものが入ってくるのであるから何かしらの齟齬が出ることはある種当然のことではある。
その齟齬としてよく見られる現象がその世界にいることができる時間の制限や能力に対してリミッターをかけられることである。
それを聞いて徹矢はレンと初めて会った時に彼が消えそうになっていたことを思い出した。
おそらくは時間制限などの何らかの理由により消えかけていたのだろう徹矢は予想するのであった。
「俺たちのチームは基本的にこの方法で探しているよ、カイがいれば情報を集めることも早いから時間制限もあまり気にならないしね」
他にも適当な世界に小旅行に行くときとかにも使えるのだとロウは笑って言う。
そもそもこのチームの運び屋である人が自分が世界を回りたいからと作り出したのが世界移動の能力で、それが転じて運び屋になったのだという。
むしろ運び屋の大半がその手の目的から能力を手に入れた者たちであったりする。
「まあ、気持ちはわからないでもないですけどね」
文字通り未知の世界を旅することができる能力、それにあこがれを持つ者は多いだろうとは簡単に予想がつく。
徹矢としても自分の目的などを考えなければ一考に値する能力であったから。
「まあ、能力は作ってしまったからもう考える必要はないんでしょうけどね」
言いながら、徹矢は前に手を伸ばして小さな空間を創りだす。
そのまま手を軽く動かしながら空間を操作する、操られる空間は面白いように徹夜とロウの前で形を変えていく。
間近で見るその能力にロウは興味深そうにその空間を見つめていた。
「器用に動かすんだね……その手の能力は結構扱いが難しいって聞くけど」
「別に簡単にしているじゃないですよ……けど自分に最も適合した能力ですからね、ある程度本能的に能力の使い方はわかるんです」
特に物理干渉や内部で力を発揮させないのであれば形を変えることくらいは問題なく使用できていた。
尤も、操る空間が二つ以上に増えれば同じようにできるとは限らなかったが。
「っと、話の途中でしたね……次の移動法について教えてもらえますか?」
ここまでに簡単なものと一般的なものについてロウは話してきた。
話し方から考えて、この二つだけではないのだろうと徹矢は予想していた。
「そうだったね、とはいえ残りはごく少数しか使わない特殊例みたいなものだけど……あと一つ、憑代が比較的多く使われるだろうね」
「憑代ですか?」
「基本は特殊な人形とかが多いね、とにかくそれに自分たちの魂を宿らせて行動するって方法」
メリットとしては基本的な移動法のように制限がかけられることなく移動してすぐから行動を開始できるという便利なものだが、手間がかかるとロウは言う。
必須なのは当然ながら憑代を用意できる者、その人物が指定した世界に行って憑代を用意する、用意が完了したあと転生回廊にいる憑代に憑依する予定の転生者がそちらの世界に向かって移動する。
移動に関しては用意する憑代によって違うとのことだった。
「技術か能力か、どちらにしても憑代を用意できる人はかなり少ないんだ……だから金銭や手間がかかりやすい」
なんと言っても移動を行うにあたり、そのための準備として別の人物を移動予定の世界に送らなければならないのだ、二度手間といっていいだろう。
即座に、制限なしで動くことができるというメリットを最大限に利用しなければならないような状況でない限りはあまり使われることがない移動法だと続けるのであった。
「こっちの移動法もこの世界にいるのならそのうち行うことになるかもね」
さすがにウチにもいないから早々あるものでもないんだけどね、とロウは締めくくるのであった。
「なるほど……おおよそわかりました」
「そりゃなによりだよ」
徹矢の返事にロウは満足そうに頷いた。
それから徹矢のベッドから立ち上がり、振り返りざまに声をかける。
「とりあえず、今日のところは休んでいるといいよ……肉体的な疲労はともかく精神的な疲労はそれなりに溜まっているはずだから」
「ええ、わかりました」
ロウの言葉通り肉体的な疲労に関してはかなり吹き飛んでいるようであったが、激しい戦闘はむしろ精神的な面で消耗が激しいようであった。
それを身体を動かしたり能力を展開させたことで理解した徹矢も特に不満もなく頷くのであった。
ロウが出て行ったあと、徹矢は仰向けの状態になって空中に展開した空間を動かしたり変形させたりしながら考え事にふける。
その中身はカンナとの戦闘でのこと、あそこでああしていれば、こんな使い方ができればそのとき相手はどうしただろうか? そんなことを考え続ける。
たらればを語るわけではなく、どちらかといえばシミュレートに近いもの。
自分ならばこう動くだろう、しかし今までの動きを見る限り彼ならばこう動く……そこからさらにその状況での能力の使い方へと思考を変えていく。
「……まったくどうしようもない」
結局どれだけ考えたところでまともに戦うことすらできない相手であると再確認するだけに終わってしまう。
それでも考えて、あの時の戦闘以外での能力の使い方を作り出していく。
あの戦闘で徹矢が指摘された点、それらを総合して出した徹矢の能力の戦い方、それは『考えることを止めないこと』であった。
能力の制御に意識を割かれ、数ある選択肢を選び取る、最善を問われ、その回答をする……そのためにも考えることは決してやめない。
戦闘中に考え事をするなど本来あるまじき行動ではあろうが、おそらくこれが自分の戦い方であると本能的に理解していた。
だからこそ、目指すべきはその戦い方がデメリットにならないほどに思考能力を上げること、そして回答を出しやすくするための経験を得ることの二つであった。
「大変だな……まったく」
それがどれほど時間のかかる目標であるのか経験の浅い徹矢には全く分からない、それでもそれがとても難しいことだけは嫌でも理解できていた。
思い出すのはあの戦闘、ほんの一瞬迷っただけで道を塞がれ押しつぶされそうになったあの時の感覚、実戦で起きてしまえばまず助からないだろう。
当面の目標こそ定まったものの、その先は前途多難なようであった。
それでも徹矢は諦めたりなどはしない、その道が険しいことなど遥か昔からわかっていたことである、今更それがはっきりと分かったとしても悩むことはなかった。
どれだけ自分が弱くて、ちっぽけな存在であったとしても、一歩でも多く進みいつか必ず目指した背中にたどり着くのだと遥かに前から決めていたのだから。
自分の意志を再確認しながら、徹矢はやはり疲れていたのか、それから少しもしない内に再び意識を落とすのであった。
様々な話を聞き、全力を尽くした徹矢は、転生回廊での一日目を終えるのであった。