第四十九話 「徹矢とプラータ」
久しぶりの投稿になります。
読んでいただけている皆様申し訳ございませんでした。
連続投稿一話目、徹矢対プラータ戦になります。
ソラとヴェンドの試合はやはりというか彼の勝利という結果に終わった。
そのことについてはソラには済まないと思いつつも徹矢は順当な結果であると考える。
元々実力に差があることは明白であったのだ、こうなってしまうことは十分すぎるほどあり得た話である。
もちろんソラの最後の一撃が決まった際は本気で彼女の勝利を願っていた、同時に予想を遥かに越えて力を見せる彼女のことを誇らしいとも思っていた。
彼女が見せ、残してくれたヴェンドの動きを自身の中に焼き付け、そして今、ヴェンドの三戦目の観戦を徹矢は終える。
「早々と準決勝の舞台に上がったか」
対戦相手はリゼット、試合展開としてはソラとある程度似通ったものとなる。
ソラと同じく、速度の面においてはリゼットはヴェンドを上回っていた、それは確かであったのだが、けれどそれだけでは駄目なのだ。
速度が上回れば勝てるのであればそれより以前にソラが勝ちを拾っているはずなのだ。
加えて言えば、ソラとの戦闘を経て彼の反応速度が上がっていると徹矢は感じた。
激しい闘いだったのだ、あるいは当然の成長と言えるのかもしれないが、結果的にリゼットにとってそれが何よりも不利な立場へと追いやられる原因となってしまう。
決して楽な試合ではなかっただろうが、それでもヴェンドは勝利を収めて準決勝の切符を一番に手にした。
そしてこれから始まるのは二つ目の切符を賭けた試合、第二ブロック第三試合……その選手と言えば。
「さて……お手柔らかに頼むぜ?」
上月徹矢対プラータ・ルフス、その二人である。
徹矢は舞台へと続く通路を見据えて、小さく言葉を漏らした。
彼が準決勝に行くにあたりぶつかる壁、油断ができる相手でないのは間違いない。
彼女についての情報はかなり少ない、一回戦は剣技のみで相手を下し、それは二回戦も似たようなものである。
相手が遠距離攻撃をメインに仕掛けていたこともあり剣一本ではなく、牽制および防御の魔法を使用していたことだけが収穫と言える。
さすがにというべきか、牽制、防御の魔法については剣の腕前に比べてかなり低いものであることが確認された。
そう思わせようとしている……その可能性も考えられたが、徹矢が見る限りではあれは本気で放っている様子がうかがえた。
加えて、相当な剣の腕に魔法の腕も今大会一線級などであったらかなり笑えない事態であると徹矢は考えることを止める。
剣も魔法も使える万能型、こと戦闘においては徹矢の上位互換とでも言うべきものだろう、さすがにそこまでの選手がこの三年以内の制限の中でいるとは思えない。
舐めてはいない、それでも可能性は限りなく低いだろうと徹矢は判断したのである。
「あとは……ヴェンドの言葉から少しは推察できるな」
徹矢と当たるまで極力能力の発動はするな、隠せ……ヴェンドはプラータにそう伝えたのだと口にしていた。
その時はこれは見切れないと徹矢は残念がったものの、そこに含められた意味に気づき、プラータの能力へと迫る。
「あとは意図的かそうでないか……間違いなく意図的だろうけどね、厄介な」
ヴェンドが口にしたのは発動するなという命令、なぜそのような言い方をしたのか。
単純にただ使うなと言ってもいいだろう、それを発動するなという言葉を使ったとするならばそこには何か理由がある。
その理由を考えた時、徹矢は二つ重要な点と思わしきものにたどり着く。
一つは、プラータの能力が発動を行う必要があるということ、そしてそれは見て分かる形であること、だからこそ隠せという言葉が付く。
もう一つ、発動するなということは能力そのものの使用を禁じたわけではないということである。
例えば、徹矢が見ている時には既に発動済みであったらどうだろう?
既に発動している以上、発動を行う必要はない……結果として、能力そのものは使用可能である。
発動の前兆がある身体能力の向上、そのような能力であればこの条件にあてはまるだろう。
勿論ここまでは徹矢の勝手な推測であり、当たっているかどうかは定かではない。
そもそもからして、推測の材料がヴェンドの言葉というのが判断に困る。
無意識から出た言葉ならば良いが、徹矢は十中八九意図的であったと見ている。
問題はそこに含まれたものが、ミスリードを誘ったものであるのか、それともそのヒントによりどこまで辿り着くことができるのかの観察であるのか、何も考えていないのか、それとも他に別の理由があるのかといくつも可能性が存在する。
彼の性格を考えればこちらを試しているというのが一番有力ではあるが、だからといって他の可能性を捨てることができるはずもない。
「結局、何が起きても驚かないって覚悟を決めておくしかないか」
ここまでの考察が一切無駄で予想をはるかに越えた能力で奇襲されては目も当てられない。
相手の能力に関わらず、どのような状況となっても対応できるように……そう覚悟を決めて、徹矢は戦いの場へと立った。
「……観客席で会って以来だな」
「そうですね、あまりこの組み合わせは考えていませんでした」
闘技場中央、顔を合わせた徹矢とプラータは互いに苦笑を見せて言葉を交わす。
あれほど徹矢とヴェンドの間で火花を散らしていたにも関わらず、結果的に今ここに立っているのは傍にいた自分、わからないものだとプラータは思う。
「まあ、あれだ……先にソラが世話になったことだし、ここは通らせてもらうよ」
「させません、私も負けるつもりなんてありませんから」
ヴェン君にも勝てって言われましたから、とプラータは口にして、プラータは持っていた剣を構える。
それを見て、徹矢もまたウォッチから槍を取り出して構えた。
両者の様子を見て、審判役であるニックが片手を挙げた。
「どうやら両者準備が整ったようなので、『廻る旅人』上月徹矢と『スピリット・シーカー』プラータ・ルフスの試合……」
二つ目の準決勝の切符を賭けた戦い、そしてヴェンドと戦うための戦い……その幕が今切って落とされた。
「始め!」
試合の開始から最初に動きを見せたのは徹矢。
宣言とほぼ同時の行動、彼は迷わず後方へと跳んだのである。
プラータの剣の腕は脅威、自身では彼女と武器で打ち合うには不安要素が多すぎる。
技能で劣っていることを認め、自身が有利になるように遠距離戦へと徹矢は持ち込もうとしていた。
判断としては間違っていない、ここまでの状況を考えれば取れる手段は限られてくる。
その中でも最も有利に運べる可能性が高いのがこの選択……だからこそ、相手からしてもその行動は予想の範囲内である。
「やはりそうきましたか」
「っ!」
驚くことなく徹矢を見送り、そして自身も後退しているプラータに、徹矢は内心で焦りを見せる。
それは徹矢の中で最悪のケースとして考えていた可能性、それが急激に高まったことを悟る。
近距離戦に自信がある彼女からすればここは絶対に距離を開けてはならないところだ。
故に試合開始と同時にコチラとの距離を詰める、それが最も確率の高い一手目となると徹矢は想像していた。
それが裏切られた形となる今の状況、考えていなかったわけではない、ただあまりにも低い確率であり、優先順位として下であったのは間違いない。
彼女が即座に下がる理由としては、こちらの突撃を警戒した場合が考えられる。
けれど彼女の剣の腕であればむしろそれは望むところであるはずである……ならば、考えられる可能性は一つ。
遠距離であろうと問題ない何かを彼女が隠し持っている可能性、それも外に露出している徹矢の弓や能力などの遠距離攻撃を上回っている場合である。
「させ……」
「遅いです」
即座に反応して空中に足場を展開、そのままプラータを追って前へと跳び出そうとするが、遅い。
彼女は既に動き出していた、それは彼女の握る剣、その剣が徹矢の目の前で薄く光を帯びながら変質していた。
それは杖、刀身が柄となり、軽い装飾がつけられた杖が彼女の手に握られていた。
そして、彼女の前に幾つもの魔法陣が浮かび上がったのだ。
「……ちょっと待てよ」
その数およそ二十、それらが高速で展開されていくその光景を目にして徹矢が思わずというように言葉を漏らす。
試合を観ていた時の彼女の力ではそれはまず不可能だと言っていい所業であり、試合前に
可能性が低いとして考えることを止めたそれが完全に浮上してしまう。
あり得ないと思うと同時に徹矢は即座にそれに対抗するための行動へと移る。
前へと出ようとしていた力を別の力場で無理矢理後ろへとその動きを変更する、それはソラがヴェンド戦で最後に見せたものとほとんど同じ行動。
前へ出ても間に合わない、止められない……ならば近距離で直撃を受けるよりはと負担があったとしても相手の攻撃から距離を取る。
それでもまともに喰らってしまえば確実に落とされる、それを理解したが故に後の行動は早かった。
ウォッチを使った高速武器交換によって槍を戻し代わりに徹矢は傘を取り出す。
即座に展開された傘は頑丈で、その分重いが下手な攻撃なら十分に防げるだけの強度をシシトから保障されている。
その上で、徹矢は力場を広げた傘の表面に張り付けるように補強し、その色を変更する。
その色は灰色、その色は鈍色、その色は……鋼の色。
力場の色を変更することでイメージを補強し、効果を高める……まだまだ未完成ながら鋼の色と想定したその力場であれば、通常よりも強度は上昇する。
傘による物理的な防御に力場による補強、現在の徹矢ができる最大限の防御方法である。
さらに徹矢は力場を傘を握る右手へと集める、衝撃で決してその手を放さぬように、自身の右手と傘を接着させる。
残りの力は全て傘を覆う防御へと回し、彼女の魔法を待ち構える。
徹矢が即座に防御行動に移った様子を見た時、プラータには一つの選択肢が存在していた。
彼の防御が万全になる前に攻撃するという手段……けれどそれは魔法の威力の低下に直結することになる。
もしも即座に発動していたのであれば、間違いなく徹矢にダメージを与えることができたはずである。
けれどそれで得られるのはダメージまでだ、その魔法では倒すことはできないことを彼女は直感していた。
ヴェンドであればまともに喰らわせたとしても耐えきる、自身にとっては情けないことであるが、その確信を彼女は持っていた。
そのヴェンドが一目置いている相手、下手をすれば彼に勝つ可能性を持った相手だ、それでは駄目なのだと彼女の全ての感覚が告げていた。
彼女の能力には大きな穴がある、このような奇襲が通用するのは今回限りだと彼女は理解して、全力で魔法を練り上げた。
狙うのは先制や有効打ではなく一撃必倒、確実なダメージのチャンスにあえて見逃して、それ以上のリターンに彼女は賭けたのである。
「さあ、勝負だよ」
彼女の魔法と徹矢の防御、どちらが上を行くかの最初にして最大のぶつかり合い。
予定ではもっと自分に有利な状況だったはずなのである、自分が、ヴェンドが与えた情報から推測できる最善策。
徹矢であればそこにたどり着くと信じて、そしてそれを実行してきた場合に限り今回の行動は威力を発揮する。
こちらの行動に驚愕して、もう少し動けない状態になると彼女は踏んでいた。
けれど実際には不完全ながらも防御態勢を整えようとしている状態……経験や勘など見えない力によるものか、あるいは自身の思っていた以上に能力を読まれてしまっていたのか。
その両方、いや、どちらか一方だけだとしても十分すぎるほどに脅威であると言える。
尊敬できる相手であるが負ける気は一切ない、撃滅の意志を込めて、彼女は魔法を解き放つ。
特別な力などいらない、最大威力を最大効率でぶつける、それだけを考えた魔力弾。
巨大すぎるものもロスが多いため、数を主軸とした魔法攻撃……魔法陣は二十を数え、その一つ一つから五発、合計すれば百発にも及ぶ魔力弾が徹矢へと向かい雪崩のように殺到した。
「っく!」
徹矢が見る限りでそれは直射の魔力弾、しかしその弾丸は速く、既に防御へ力を割いている徹矢では回避をできるようなものではない。
受け切って見せる、その意志を一層強く込めて、徹矢はその魔力弾を迎え撃った。
徹矢の腕に強烈な衝撃が奔る、幾つもの弾丸が一斉に展開した傘を叩いて行く感触。
気を抜けば即座に傘は弾かれて、残りの弾丸を徹矢はその身に受けることになるだろう。
「防げ!」
「倒せ!」
打ち倒さんとする意志と、それを防ぐ意志。
互いの意志がぶつかり合い、高まった集中力が嫌に状況を把握していく。
右腕の悲鳴と、固めた力場が剥がされる感覚……それらを冷静に読み取り、理解する。
この攻撃を防ぎきることはできないのだという目を覆いたくなるような事実を嫌でも理解させられる。
元々万能型の徹矢は全力同士のぶつかり合いでは不利となるのは始めからわかりきっていたことである。
「ッチ!」
一体いくつ防いだのだろうか、徹矢にはもう数える術はなく、そして終わりも見えない。
勢い、威力、数、それらを判断して最後まではもたないことを覚悟、徹矢は全ての攻撃を防御しきることを諦めた。
途端に弾かれる傘、右腕も共に弾きあげられるが気にしてはいられない。
殺到する弾丸を視界に入れて、徹矢は自分に力場を纏わせた。
次の瞬間には大量の魔力弾が徹矢に命中し、吹き飛ばされた。
弾丸の威力と徹矢が吹き飛んだ衝撃で砂煙が舞い上がる。
間違いなく命中した、その光景を目にしてプラータはけれど表情を明るくすることはなかった。
手ごたえはあった、放った弾丸の内半分以上を防がれたがそれでも人一人に放つには過剰なまでの魔力弾が彼には直撃したはずである。
だけど、ああ、だけど……それでも立ち上がるのかとプラータは苦々しい顔を浮かべる。
砂煙で隠れているため見えているわけではない。
けれど感じ取ってしまうのだ、空気の変化……今自分が危険な立ち位置にいるのだと嫌な汗が止まらなくなる。
彼女の手に握られた杖が再び形を変えて剣へと、そのままでは絶対に危険であると彼女の勘が告げていたのだ。
そしてその勘が正しかったことを次の瞬間には理解した、砂煙の中から突如として矢が突き抜けてくる、真っ直ぐに彼女へと向かって。
「っ!」
迫りくるその一矢を、プラータは剣で斬り払う。
弾くことができたこと彼女は幸運に思い、そして冷や汗を流した。
今の一撃、速度威力共に相当なものであった、つまりはそんな攻撃が放てるほどにまだ彼には余裕が存在しているのだということ。
「剣に持ち替えたのか」
不意に煙の中からそんな言葉が響いた。
叫ぶような言葉ではなかった、それでも何故かその言葉は嫌に彼女の耳に響いた。
そして煙が晴れ渡り徹矢の姿が現れる……その姿に彼女は驚愕する、そうすることしかできなかった。
「無傷……ですか」
確かな手ごたえだった……にも関わらず、今姿を現した徹矢の身には負傷らしい負傷は見当たらなかった。
彼女が放った一撃などまるでなかったかのように、彼はそこに立っていた。
その事実に会場からもどよめきの声が上がる、会場内でも多くの人物が今の攻撃で大きなダメージを受けたと考えていた。
それを覆すように平然と立っている彼、全力攻撃がまるで通じていないのだと場合によっては心が折れそうになる事実である。
けれど、彼女の心が折れることはなかった……むしろその姿に違和感を感じる程に。
「そっちの攻撃は効かなかったわけだが……まだ続けるか?」
徹矢は手に持っていた弓を戻し、地面に転がっていた傘を閉じる。
壊れた様子はなくそのまま使えそうだと柄を強く握りしめ、力場を纏わせた。
「当然です」
剣を構え、プラータがそう告げる。
まあそう来るよな、と徹矢は苦笑して傘の先端を彼女へと向ける。
ハッタリは通用していない、彼女はこちらが無傷であることに疑念を抱いている。
「それもまあ、当然か」
そこまで隔絶した差があるはずが無いし、そもそもそれならば最初から防ごうとはしない。
ならば無傷で現れたことについて何かしらの理由が存在することは明白である。
「道具か欠片か、それとも別の何か……ともあれ治療できる何かを持っていたということですか、そして効果が高いなら相応のリスクも存在しますよね?」
この状況で最も簡単に説明がつく理由を彼女は口にして、その上で二度目はないだろうと探りを入れてくる。
傷がないのは治療をしたから……そしてその場合はいくらなんでも回復が速すぎる、それほどの何かであれば制限やリスクなど気軽に使えるものではないことは予想がつく。
「さて、どうだろうな?」
とぼけるように徹矢はそう口にするが、間違いではない。
徹矢の時間を巻き戻す力による疑似的な治療……無傷を装っているが、消耗は激しい。
必要経費であったとはいえ、防御と回復で削られた力は決して小さくない。
その点については最大威力を放ったであろうプラータの消費と同程度であろうと徹矢はそう願う。
「ダメージがないというんだったらお手上げだけど……治療したんだったら話は別だよね?」
「ま、そこに行き着くよな」
魔法を喰らって無傷である場合、例としてはネレクスと戦うようなものだ。
防御を貫くほどの力か、防御を無効化する何かが無ければ戦いようがない。
おそらくであるが、彼女はその類の能力は有していない……少なくとも、剣技や魔法に比べれば使用頻度は少ないだろう。
けれど治療したというのであれば攻撃は通じている事の証明である、ならば一番簡単な方法は治療をさせなければいい。
彼女の奇襲と一緒である、それがあるとわかっているなら対処法を出すことはできる。
「武器はまさかそれでいくつもりですか?」
「ああ、馬鹿にしていると痛い目を見るぜ?」
傘を持ったままの徹矢へプラータは問いかける。
そしてその答えは是、閉じた傘の表面に触れ、徹矢は纏わせる力場をさらに増強させる。
「しませんよ……それでも、十分です」
放たれる力に冷や汗を流し、彼女は剣を構える。
奇抜な武器ではあるが、頑丈であることは先ほどの魔力弾を受けて壊れた様子を見せないことで十分すぎるほどわかる。
攻撃力は高くないだろうが、十分武器としても使えるだろう。
「けど、意外です」
その武器を使うのであれば、当然ながら接近戦ということになる。
強力な魔法があることを見せたとはいえ、彼女の予想では弓による遠距離戦を狙ってくると考えていた。
「ああ、そっちがそう考えているからこうするんだ」
そして、それを予想されていると理解していたからこそ、徹矢はこの武器を選んだ。
彼女の奇襲で、徹矢は彼女の能力の概要は理解したつもりである。
「俺と君の性質は似ている……どちらも何にでも対応できるようにを目標にした能力だ」
徹矢の言葉に彼女はほんの少しだけ動きを見せる。
その表情は苦笑、やはりそうなったかという様子で、看破されることは予想していたのであろう。
「違うのはそのアプローチ……俺は多くに対応できる能力という形、そして君のは対応できる者になる能力という形だ」
剣を持つときは剣士として、杖を持つときは魔法使いとして、状況に合わせて自分の適性そのものを塗り替える能力。
何よりも利点は、その時必要な役割に特化したものになるということ、万能な能力にもかかわらず一点に特化した相手と遜色ない強ささえ得ることができる。
徹矢では越えられない力の壁を、彼女は簡単に突き破ることが可能となるのだ。
「正直こんなやり方もあったのかと驚愕したよ、けど……弱点も分かりやすい」
特化した役割になれる能力……そう、なれる能力であるがため変化する時間が必要になる。
それが彼女の武器の変化の時間として現れている。
そして、特化している能力以外については並のレベルまで落ちてしまっているということ。
本来それは弱点というほどの事ではない、自分が必要となる役割に始めから変化していればいいのだから。
変化中の隙も単独でなければ決して大きいものではない、彼女の万能はチーム戦でこそ輝くタイプの能力である。
常に単独で多様な動きができる徹矢とは逆の性質と言ってもいいかもしれない。
ともあれ、彼女は徹矢のように常にさまざまな種類の技を扱えるわけではない、今であれば剣士としての能力でしか戦うことがないということ。
それが彼女の弱点と言ってもいいだろう……けれど、彼女の弱点を突く場合は一つ注意しなければならない点がある。
弱点を狙うべきは彼女の能力そのものであり、彼女が持つ武器の弱点を狙ってはいけないということ。
試合前には遠距離で戦うつもりだった徹矢、そしてそう動いた結果があの強烈な魔法である。
その役割で苦手な行動を行されたのであれば、その行動に対して得意な役割に変わってしまえばいい。
今見せているのは剣士と魔法使いだが、その他にも状況に合わせた武器があることは明白であろう、彼女を相手にする場合、何人もの彼女を同時に相手していることと同じであると考えるべきである。
だからこそ突くべきは能力の隙、役割を変えるには武器の形状を変化させるラグが存在しているということ。
武器の変化を止めさえすれば彼女は複数にはならない、これ以上の変化をさせなければ彼女は剣士のままでしかなくなるのだ。
最初の武器の変化、あれで決めるつもりであった以上少なくとも杖に変化する際先ほどよりも速いということは有りえない。
そして懐中時計の力でその変化のための時間は完全に掴んでいる、他の武器の場合はわからないが杖には絶対に変化させない自信があった。
そしてそれをするのであれば接近戦となる、遠距離戦では一方的な攻撃のメリットはあれど相手に変化の隙を与えやすくなる。
そうすれば遠距離攻撃のメリットはかなり減少してしまう、力場を上手く使えば遠距離戦でも相手を剣士に縫いとめることができるかもしれないが、牽制ばかりになり決定打が足りない。
少なくない体力を削られている徹矢としては持久戦に近い勝負は挑みたくないという事情があった。
「正直、槍じゃそっちには敵いそうにない」
彼女の剣の腕はもはや言うまでもない、その上で武器の届く位置で戦うというのであれば純粋な技術では間違いなく徹矢は敗北してしまう。
徹矢の槍は突き以外にはクセのない基本形の技である、いかにリーチがあろうと、純粋な技術の勝負では後れを取ってしまう。
そうなれば、選択肢として残るのは傘の一本……武器としての威力は低すぎることはなく、そして普通とは違った戦い方となるこの武器であれば彼女の剣技にも少しなりとも近づくことができる。
「じゃ……はじめようか」
ある程度の考察を終え、徹矢は周囲に四つ力場を作り上げる。
彼女の能力を理解し、そしてうまく行けば無傷で倒せる手段を考え付いたのである。
それを見て徹矢と相対する彼女は警戒を強める、彼の能力が油断のならないものであることを良く理解しているから。
どのような性質を持っているのか見極めようとする彼女の前で、徹矢はその力場を地面へと接地させた。
「なにを……」
「こうするのさ、走れ」
その行動の意味に応えるように徹矢は地面に接地させた力場たちを高速で走らせた。
四つの力場はそれぞれ軌道を描き、その効果を即座に発揮した。
「これは……目くらましですか!?」
二つの力場がプラータの左右を通り、残りの二つは彼女の前の地面で交錯する。
左右、そして正面が瞬く間に力場によって巻き上げられた砂煙により視界が塞がれてしまう。
「っ!」
想像以上に速い力場の動きと、そして砂煙の立ち方。
目の前にいた徹矢の姿さえわからなくなるほどに濃く、彼女は一歩出遅れたことを理解する。
そして砂煙を突き破るように、彼女の目の前に傘の先端が迫っていた。
「は……っや!?」
即座に剣を振るい、傘の軌道を逸らす。
そして遅れて徹矢の姿……そこに違和感、素手での攻撃体勢へと移っている徹矢の姿にいくらなんでも早すぎると彼女は驚愕する。
傘の攻撃が放たれて、それを防がれて……次の攻撃までの間隔が狭すぎる。
「ぶっ……飛べ!」
力場が展開された掌底、その一撃に対してプラータは即座に左腕を合わせる。
衝撃が彼女の左腕を貫き、その衝撃に耐えきれず彼女の身体が吹き飛んだ。
「きゃぁっ!?」
悲鳴が口から漏れる、それでも彼女は即座に意識を集中させて体勢を立て直す。
左腕のダメージは少なくない、それでも剣を握る右腕は何の問題もなく、ならばまだまだ戦えると剣に意志を込める。
周囲の確認、まだ砂煙の立つ中で徹矢の姿は見当たらない。
全神経を集中させて、徹矢が接近する気配を感じ取ろうとする。
そして耳が感じ取ったのはほんのわずかな地面の音、大地を踏みしめるかのような音に反応して彼女は刃を構える。
接近するような数歩の音、右側から攻め立てようとしているその足音に反応して、そしてその彼女の背後から徹矢が姿を現した。
「……っ!?」
警鐘に従いプラータは自身の体勢を低く、転がるように前へと回避する。
その頭上を徹矢の傘による薙ぎ払いが空を切り、その勢いが砂煙に一瞬の軌跡を刻む。
「……ホントに、厄介な!」
即座に体勢を立て直し、背後に向かって一閃を放つ。
けれどその一撃は空を切り、徹矢の姿は煙の中へと消えて行ってしまう。
その光景を見て、彼女は歯噛みする。
二度不意を打たれた、そのどちらもが力場を使用した物。
一度目は傘を手ではなく力場で握っていた、だからこそ傘を弾いたところで彼の体勢は崩れない、始めから持っていないのだから。
そして今のは途中から聞こえた足音は全て力場を地面にぶつけた音、自身は力場で空中を跳ねることで音を極限まで減らして背後からの奇襲。
どちらも見ていれば即座にわかること、それを最初の砂煙で完全に隠されてしまっていた。
一手目の目くらましを許してしまっただけでここまで良いように攻められてしまう、その事実に彼女は嫌な汗を流す。
できることならば今すぐこの煙の中から脱出したいが、相手がそれをさせてくれるとは思えなかった。
「ック!」
徹矢がいるであろう方角に牽制の魔法を放つが、手ごたえはない。
回避したのか、それとも見当違いの方向に撃ったのか、視界を制限されている彼女ではその真偽はわからない。
ともあれ、彼女にできるのは自身に降りかかる危機に全力で対応することだけである。
即座三閃、嫌な予感に従って振るった剣が背後から迫る徹矢の力場の弾丸を破壊する、威力は低い、牽制の一撃だが無視する訳にもいかない。
気配を感じ、次はなんだと視線を向けたところで彼女は顔を引きつらせる。
壁が迫って来ていたのだ、それは徹矢の傘……開かれた傘により大きな面積を持つそれが高速で近づいてくる強力な突撃。
彼女は反応して斬撃を放つが、元々強固な傘であり、力場による補強を受けたそれを断ち切ることなど叶わない。
彼女の剣は弾かれ、そのまま彼女はまともに傘による突撃を受けてしまう。
「ぐ……」
威力が低いのが幸いと言えるだろう、衝撃を受けてもまだ立つことができている。
しかし、あの武器の厄介さに彼女は苦い顔を浮かべるしかない。
万全の状態ではないとはいえ、自身の剣で斬ることができないものとなると取れる対抗策は極めて少ない、有効な武器に変更しようにもそれをさせてくれる相手ではないことは明白。
そして考える時間さえ、彼女には与えられていない。
再び開いた傘による突撃が彼女に向かって放たれる、再びの攻撃に今度は反応して横へと跳ぶ。
そしてそのまま傘の内側にいる徹矢に狙いを定めようとして、けれど即座に距離を取る。
彼女の感じた限りで傘の向こう側に徹矢の気配はなかった、ならば考えられる可能性はそんなに多くない。
開いていた傘が自動で閉じ、飛来した先にいた徹矢の手に掴まれる。
最初と同じく力場だけで傘を動かし、裏にいるであろう自身を狙った隙を穿つ……そのつもりでいた徹矢であったが、その目論見は彼女の勘と反応により崩されてしまう。
「もう一回くらいは通用すると思ったんだけどな」
「さすがに、一度痛い目見れば学習しますよ」
残念そうな徹矢の言葉に彼女はそう返す、左腕という大きな代償を払ったのだ、何度も同じ手にかかるつもりはなかった。
今の隙を狙っていた徹矢としては痛い出費である、既に自身の残りの力を考えれば無駄撃ちは避けたいところなのだ。
ある程度仕掛けは整った、残りの力を考えればこの辺りで決めておきたい……そこまでを計算に入れて、徹矢は切り札を使うことを決めた。
「終わらせるぜ?」
「……やれるものなら」
突きを放つ、そう言わんばかりの徹矢の構えを見て、プラータは本気で狙いに来ているのだと理解する。
ここで勝負を決めに来たということは、徹矢も決して余裕があるのではないだろうと彼女は思う。
勝負を避ければ徹矢に消耗を強いることができるかもしれないと、力場を身に纏う徹矢の姿を見て彼女は考える。
その後の精神面での影響などを考えても、この場では受けない……そう決めたところで徹矢が一歩を踏み出した。
「な……!?」
その速度は今までと比べて明らかに上回っている、これは明らかに今まで隠してきた札であると彼女は直感する。
やはり受けるのは危険かと彼女はその場を退避しようとして、動かそうとした手が抵抗を受ける。
「……え?」
一体何が、思わず視線を向けた先には自身の手に巻きつくように砂煙が渦巻いていた。
何が……と思う暇もない、迫る驚異に疑問を浮かべている暇はないと拘束する煙に力を込めるが、それは動き出した徹矢を前にしてあまりにも遅すぎた。
「く……ら、えぇぇぇぇぇぇぇ!」
真っ直ぐに、徹矢の傘が彼女の額を撃ち抜いた。
瞬間、彼女は強烈な衝撃を頭部に受け、意識は暗転するのであった。
「そこまで、勝者、『廻る旅人』上月徹矢!」
審判の声が響き、次いで観客からの歓声が沸き上がった。
構えを解いた徹矢は脱力し、大きく息を吐く。
どうにか勝利することができた、正直仕掛けを見破られて回避されていたらかなり追い込まれることになっていただろう。
目くらましに使用した砂煙、その中には徹矢の霧状に変えた力場が紛れ込んでいたのである。
あとはそれを利用しての拘束、拘束できる時間はほんの一瞬でもよかった、それだけあれば時間加速を使った徹矢ならば十分に一撃を放つことができるから。
思う通りの展開ではあったが、それでも徹矢に余裕があったわけではなかった。
徹矢が攻勢に回ってからは彼女に行動させることなく勝利した……とはいえ、相手がこのように動くという絶対の確信があったわけではない。
徹矢の想定外、知らない何かが彼女にあれば十分にひっくり返っていた可能性のある戦闘だったと、徹矢は感じていた。
「でも、まあ」
危ない勝利とはいえ間違いなく徹矢の勝ちだ、それにより徹矢は同じ舞台に立ったことになる。
ヴェンド・アトゥラ、彼と戦うための舞台へと。
今の彼は自分が上がってきたことに笑みを浮かべているだろうか、それともプラータが敗北したことに沈んでいるだろうか。
中々複雑な表情をしているのではないかと徹矢は軽く想像する。
準決勝と決勝は特別扱い、残りの第三ブロックと第四ブロックの代表が決まれば本日は終了、全ては明日に持ち越されるようになっている。
残りの時間でどのように動くか……観客に見せるというものではないが、それもまた新人戦の資質を見る点となる。
「明日で決着だ」
明日この場に立っているのは自分か、それともヴェンドか。
どのようなものになるか予想のつかない勝負。
「負けねえぞ」
闘技場を去りながら徹矢は小さく口にする。
その同時刻、ヴェンドの口からも全く同じ言葉が紡がれた。
互いの胸には勝ちたいという確かな熱、これから先何度となく比べあうであろう相手。
その最初の激突が始まろうとしていた……。




