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神様の欠片と廻る旅人  作者: ALICE
第三章 廻り渡り歩く世界の物語
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第三十九話 「休暇の日々」

「ああ、酷い目に遭った」


「仕方ないんじゃないか? 一応、あの時のミスは大きかったし」


「わかっているけどな……」


 訓練場にてもう動けないとばかりに倒れてしまった徹矢と、その近くに屈んで徹矢を見て笑うソラ。


先日の世界での一件、最後に気を抜いてしまった徹矢への罰として数日の間レンとルーテによって扱かれた徹矢はかなり限界を迎えていたのであった。


「あの時は済まなかったな」


「それはもういいよ、あの件はちゃんと解決したんだから」


 何度も繰り返し謝る徹矢にソラは苦笑いを浮かべて返す。


よほど責任を感じていたのか思い出せばその時のことをソラやカイに謝っている状態である。


「あんな失敗は二度としない」


「うん、期待しているよ」


 徹矢の決意にソラは心の底からそう思い言葉を口にする。


倒れている姿であるためあまり格好がつかないのはご愛嬌であろう。


「それでテツヤはまだ立ち上がれないのか?」


「ああ、本気で立てなくなるまで扱かれたみたいだ」


 終了直後よりはマシにはなっているが、それでも疲労が色濃く残っているのは間違いない。


起き上がるにはもうしばらくの時間が必要であった。


「それじゃあ、ちょっと待ってくれ」


「ん?」


 ソラがコートのポケットを探り始めた姿を見て徹矢は疑問符を浮かべる。


何をしているのだろうか、それに応えるようにソラが取り出したものを徹矢へと見せる。


「お前……それ」


「ああ、最終的に回収したのは私だからってそのまま渡されたんだ」


 それはあの世界で猛威を振るっていた吹雪を引き起こしたペンダントの欠片であった。


使い手は当然ながら存在しないため、回収と制御を行ったソラが持っていることを許されたのであった。


「それで、それをどうする気なんだ? さすがにあの時の吹雪とかもらったら普通に死ぬからな?」


「そんなことしないって……というよりできないよ」


 ソラがある程度その欠片についてわかったことはあの世界での吹雪はかなり異例の形であったこと。


人々を渡り歩くことである程度変異した状態となっていたのである。


そして今はソラという使用者が現れたことによりその力は元々その欠片の持っていたものとなっている。


「吹雪にするならそれこそ内側から爆散するような出力を出さないと無理だよ」


「だったら、それはどういう力なんだ?」


「それを今から見せるよ」


 ソラが笑い、倒れたままの徹矢の手を掴む。


そして徹矢は握られたその手から力が湧き上がってくるように感じ、いままで動くのも億劫だった身体に活力が戻ってきたことに気づくのであった。


「これは……回復か?」


「ううん、言葉にすると……えっと、譲渡かな」


 はふ、と息を吐いたソラの言葉。


やや疲労したようにも見えるそれはつまりはそういうことなのだろう。


「すまないな、けど助かった」


 自身の体力を分けてくれたソラに謝罪と感謝を告げれば、ソラもまた笑顔で返す。


体力が多少なりとも戻ったことで徹矢は起き上がり、不思議そうにソラが持つペンダントを見る。


「しかし、その力でどうしてあんなことになったんだ?」


「それは、これが与えるだけじゃなくて奪うこともできるから、かな」


 先ほどの状況であれば徹矢に体力を分け与えるのではなく、残り少ないそれをさらに奪い取ることもできたのだと説明する。


吹雪の際は雪の上にいる者たちからは奪い取り、その下の大地には奪ったエネルギーを与えて戦争などで荒廃した大地の蘇生を行っていた。


また、奪い取ったエネルギーの一部はそのまま欠片の動力源となり吹雪を維持し続ける。


単純な容量や想いだけでなく、そのような点でも長期間の発動を可能にしていたのだとソラは説明するのであった。


「永久機関になってるじゃないか」


「まあ、エネルギーを奪い取る対象がいないと意味は無いけどな」


 ソラの説明にとんでもないと徹矢は呟き、それにそうでもないと彼女は返す。


実際、今のソラでは使い勝手はすこぶる悪いと言っていい。


対象に触れなければ効果は発揮できず、奪取も供給も低速と現段階では使い所に困ると言ってよかった。


「要練習、ってことだな」


「ただでさえパズルもまだまだなのにな」


 先日の世界では最終的に拠点を一度作ったのみであり翼の欠片はともかくパズルの欠片については最初に立てた予定よりも練度は落ちているだろう。


現在のソラの欠片は三つ、自身の内にある翼の欠片を含めてまだまだ使いこなせているとは言い難い。


持っている欠片三つともが決して弱いものではない、時間はかかるであろうが十全に使いこなせるようになれれば総合的な力は相当なものとなるだろう。


とはいえそれはずっと未来の話のこと、今はまだまだであることは間違いない。


「これからに期待だな」


「うん、頑張るよ」


 立ち上がった徹矢に合わせるようにソラも立ち、共に訓練場を後にするために歩き始める。


それからソラが思い出したかのように歩きながら徹矢へと話しかける。


「そうだ、レンから伝言預かってた」


「レンさんから? どういう話だ?」


「うん、カイも含めて私たちはしばらく休暇だって」


「休暇?」


 思いもよらない言葉が伝えられ、徹矢が目を見開いてソラへ聞き返す。


驚く様子の徹矢にソラは頷いて話を続けた。


「そう、このチームでは欠片が関わった案件の後にはそうしているんだって、通常と違って精神的な疲れも大きいからって」


「なるほど……確かにそうかもしれないな」


 危険になったのは主に徹矢の責任であったが、それを含めずとも先の世界での疲労は大きなものであった。


休息がとれるのであればそうさせてもらおうと徹矢は考え、そこでソラかレンの伝言が来たことに疑問を覚える。


「ソラに伝言させなくても自分で言えばよかったのに」


 少し前まで自分に扱きを行っていたのだからその時に言えば伝言を頼む必要はないだろう。


それはソラも同意であり、その時に聞いた言葉を思い出して苦笑が漏れる。


「どうも扱きすぎて倒れた徹矢を見てバツが悪くなったらしいよ、だから近くにいた私に頼んで後にしたみたい」


「うわー」


 聞いてあまりな話に徹矢は脱力する。


聞かなければよかったと残念な気持ちになりながらも一先ず伝言の理由を理解するのであった。


「ともかく了解……ソラはどう過ごしているんだ?」


「私か? そうだな……はじめは身体を休めて、それから後はテツヤの訓練を見学したりリョージやロウ、ルーテとゲームをしてたよ、ケイトと買い物も行ったよ」


「交流してるなぁ……正直俺よりもメンバーと仲が良いんじゃないか?」


「そんなことはないと思うけど……ああ、でも」


「ん?」


「そう感じるのは徹矢が丁寧だからじゃないかな? 呼び捨てしているの私くらいだし」


「……ああ、確かに」


 ソラは直接呼び捨てでいいと言われたため徹矢も特に拒否することもなくそう呼んでいる。


けれど他のメンバーにまで同じようにできるかと言えば、そうではないだろうと徹矢は思う。


「俺の世界は年上相手には敬意を払うのが普通だったからな……特にレンさんは命の恩人でもあるし」


 他のメンバーについても間違いなく年上であり、転生回廊でのことについて教えてもらう立場であったため自然とそうなっていた。


徹矢の感覚ではソラが気安く呼べていることに驚くくらいであるが。


「んん、でもやっぱりチームの仲間だし、もっと気安くしてほしいって思うけど」


「まあ、追々だな……今すぐ変えろって言われてもこっちが違和感しかないし」


 そうなれればいい、徹矢もそう考えているところはあれどそれを実行に移すのは案外難しい。


努力はするがそうなれるのはまだまださきになるのだろうなと徹矢は内心で思うのであった。


「まあ、テツヤがそういうのならいいや……それよりも、時間が空いたのならどこかに出かけないか?」


「ん? ああ、いいよ」


「やった、ならまた娯楽街で遊ぼう!」


 一人だとつまらないからと続けながら、ソラが笑う。


徹矢もそうだなと頷きながら足早に進もうとする彼女を追いかけるのであった。




「さすがにここは楽しいものがたくさんあるな」


「娯楽には相当に力を入れているらしいからな……これだけ聞くとどんなダメ集団だよってなるが」


 娯楽街にたどり着いた二人は周囲を歩きながらそんな感想を述べる。


以前に行った時からそう期間は経っていない、それでも前回来た時にはなかった真新しい筐体などがそこかしこに見えており、入れ替わりが激しいのだと理解させられる。


目に付いたものを適当にプレイしながら歩いて行く二人、時には見知らぬ相手と対戦などをしながら楽しんでいく。


それは筐体越しに戦うものから今二人がやっているような大規模なものに至るまで様々である。


「テツヤ、行った!」


「任せろ!」


 娯楽街と思われる場所にソラの声が響く。


けれど普段の娯楽街とは違い徹矢を除いて道行く人の姿がまるでなく、そして代わりに横の道からモンスターと呼ぶべき異形の姿が現れる。


現れたモンスターに対して徹矢は即座に銃を構えて、発砲。


それは人の形を成したモンスターの頭部を正確に撃ち抜き、消滅させた。


「やったな」


 再び声が響いて同じ横道からソラが姿を現した。


その手には徹矢と同じく銃が握られており、いつでも攻撃ができるように周囲を警戒していた。


「これで五体目……この数がどれくらいのものなのか」


 先ほどと同じような手法で、徹矢たちはここまでにそれだけの数を倒していた。


二人が現在参加しているのはシューティングゲームと呼ぶのが最もタ正しいだろう。


ただしプレイヤーは自分自身であり、今二人がいる場所も娯楽街に似せて作られた別の空間でしかない。


専用の空間を使った多人数参加型体感ゲーム、それが徹矢とソラが参加しているものである。


「そろそろほかのプレイヤーと会ってもおかしくないころだが……」


「そうだな……会ったらどうしようか?」


 多人数参加型であり、徹矢とソラ以外にも参加しているプレイヤーは多い。


二人はペアの部門で参加しており、ペアで撃破したモンスターの点数を競い合うというのがこのゲームの基本ルールである。


そしてこのゲーム内ではプレイヤー同士の交戦が認められている。


撃破されたペアはその時点でゲーム終了、そこまでの獲得点が最終成績となる。


「これが……普通の人間のスペックか……」


「知らない間に人間離れしてたんだな、私たち」


 移動のため走る徹矢たちは思うように進まない身体に感想を漏らす。


この空間内ではプレイヤーの格差を減らすために幾らかの制約がかけられている。


その内容は主に三つとなっており、全員の初期武器は拳銃一つのみ、能力の使用禁止、そして運動機能の低下。


三番目の運動機能の低下により徹矢とソラは常人程度の身体能力しか持っていない。


今までとまるで感覚の違うソレに二人は自分たちの身体能力が常人から外れていたのだと体感していた。


「ソラ、残り弾数はどれくらいだ?」


「ちょっと心許ないかな……私たちは一撃終了でモンスターは違うってズルくないかな」


「ゲームなら大抵そんなものだろう」


 もう一つのルール、プレイヤーは攻撃を受けた場合その時点で撃破扱いとなる。


それはモンスターの攻撃でもプレイヤーの銃弾であったとしても変わらない、身体のどの部位であろうが命中すれば終了である。


モンスターはそうではなく弱点に当ててほぼ一発、そうでなければ数発は当てないと倒せないようになっている。


徹矢の才もあってか彼の銃弾の消耗は多くはないが、代わりにソラの弾数は着実に減っていた。


「どこかで弾丸を見つけないとな」


「そうなると……やっぱり建物の中なのかな」


「簡単なルールは見たが、外よりはあるようなことが書いていたな……問題はどこに入るかだが……」


 徹矢たちが今いる区画はゲームセンターの立ち並んでいる並びである。


入ることは当然可能であるが、その候補は多い。


「どこがいいかわかんないし、近くに入るのはどうかな?」


「……それが一番手っ取り早いか」


 本来であれば慎重に選ぶべき場所であろう。


けれど、徹矢たちには現状で危険やあるいは見返りの有無を判断するための材料がない。


仮に何らかの目印があったとしても、それを認識できるだけの情報が二人には不足しているのである。


ならばリスクはどこに入ろうが同じであり、選ぶのであればすぐに入れる場所となる。


そして近くのゲームセンターの中へと入った徹矢たちは普段の娯楽街との差異に嫌でも気づいてしまう。


「……不気味だな」


「少なくともゲームセンターの雰囲気ではない……」


 所狭しとゲームの筐体が置かれている建物、その筐体たちには電気が通っておらず、最低限の灯りだけがついた薄暗い状態。


そこから漏れだすのは何かがいるかもしれないという漠然とした空気。


「警戒」


「了解」


 あくまでいるかもしれないという空気でしかない。


欠片の案件を経験したからか、その空気から確実にいるのだという確信に至る。


理由は無い、ただいるということだけははっきりと感じていた。


壁にできるだろう筐体に身を隠しながら、徹矢とソラは中にいるであろう相手を探る。


徹矢たちは出入り口に近い、今であればまだ逃走することも選択肢として有り得た。


「どうする?」


「これはゲームだし、なら私もテツヤも一緒だよな?」


「……違いない」


 ソラの聞き返しに徹矢は苦笑する。


このゲームにおいては徹矢とソラの技術は最下層、いるであろう相手が上手なのは間違いない。


本来であれば抗戦を避けることが点数を稼ぐ上で堅実と言える。


けれどこれはゲームで、そして徹矢とソラはゲームではかなりチャレンジャーなタイプのプレイヤーである。


「だったら……」


「交戦、だ」


 意志を確認し、二人の銃を持つ手に力が入る。


二人の意志が交戦に向いたことを感じたのか、センター内に声が響く。


「いいな、その根性は買いだ」


「しかし、交戦相手が貴方たちというのはどういう偶然だよ」


 響いた声と内容から二人、特に徹矢は相手の正体に気づく。


それから相手と同様にどんな偶然なんだと苦笑いを浮かべる。


「テツヤ、なあテツヤ」


「ああ、『渡り鳥』の秋坂さんとゲールさんだ」


 前回の対抗戦にてぶつかったチームである『渡り鳥』のメンバー。


今はソラが所有している欠片の受け渡しの際に顔を合わせ、少しの話をした記憶が二人にはあった。


そしてそれによりある事実が浮かび上がることになる。


「なに戦闘職かつ銃使いのお二人がこんなものに参加してるんですか!?」


「さすがに自重するべきだと私も思うよ!?」


 二人の叫びがまさにそれを表していた。


秋坂とゲールはともに『渡り鳥』にて銃士として戦う戦闘員である。


いくら欠片の使用や身体能力に制限がかけられるにしても、銃使いとしての技術や経験では彼らを越える者は早々いないであろう。


「ソラちゃんはともかく同じ戦闘職の徹矢君には言われたくないな」


「ま、主催側がオーケーサイン出したし、恨むならそっちを恨めってことで」


 確かに徹矢は彼らと同じ戦闘職であるがこの場合同列に扱うのは色々と間違っているだろうと徹矢は思う。


思ったところで向こうが言うように主催者側が許可を出している以上抗議しても無駄であろう。


一先ず徹矢は先ほどまでの声を上げての会話でおおよそ相手の位置を掴む、もっともそれはお互いの話であるだろうが。


「どうするんだ、テツヤ?」


「正直勝てるイメージが浮かばんな」


 かろうじて身体能力のみ互角であろうが、経験技術などそれ以外の面で圧倒的に負けてしまっている。


本職の銃使いコンビ、このゲームでも間違いなく最大級の組み合わせであろう。


「それでもやるしかない……か」


「うん」


 筐体の配置から互いにすぐさま狙えるような位置ではない。


ゆっくりと慎重に移動を行う二人であったが、そんな彼らにさらに声がかけられる。


「情報を知ってなお戦うか、まあ……勝ちを狙うならそうするしかないだろうな」


「けれど、さすがにこちらのことを舐めすぎでしょう」


 ゾクリと、徹矢とソラは嫌な予感を覚える。


互いに相手の位置取りは掴んでいるだろう、少なくとも即座に銃弾が飛んでくるはずはない……そういう場所であるはずなのにその予感は止まらなかった。


そして、それは突然鳴り響く連続した銃声によって証明される。


「……え?」


「あ……れ……?」


 徹矢の、ソラの身体が唐突に傾いだ。


何が起こったのか理解できない、けれど結果として二人はその身を撃ち抜かれていた。


「直線にしか飛ばせないようじゃ銃士とは名乗れないさ」


「というわけで、前回の借りは返させてもらったぞ」


 姿を現す秋坂とゲール、彼らがやったのは銃弾弾きと彼らが呼ぶ技。


互いの弾丸をぶつけあうことで弾丸を弾き、本来ならば到達することのできない場所へと銃弾を撃ち出していたのである。


それを完全には理解できないまま徹矢たちはそのゲーム盤から退場させられるのであった。




「……負けたなぁ」


「そうだな、けど順当ってところかな」


 ゲーム空間から退出させられ、元の店内へと戻ってきた徹矢たちは観戦席から離れた休憩スペースにある椅子に座っていた。


そこで徹矢はあっさりと敗北したことにただただ苦笑する。


ソラの言葉通りこの結果は順当としか言いようがない。


それでも、と徹矢は自販機にて購入した缶ジュースを飲み干し、呟く。


「やっぱり、勝ちたかったとは思うだろ?」


「それはまあ、確かに」


 どれだけ順当であると納得したとしても完全に負けるつもりでやっているわけではない、多少なりとも悔しいと思う気持ちは隠せなかった。


徹矢ほどではないがソラもまたそのような想いは存在している。


「だからま、強くなろうよテツヤ」


「当然だな、今はまだ止まる気は全然ない」


 ソラの言葉に徹矢は頷き、言葉を続けた。


諦めない限り、自分を信じていられる限り強くなれる、ここはそんな場所なのだから。


そんな話をしている内に店内の雰囲気が変わり、歓声が沸き上がる。


「お……何かあったか?」


「どれどれ……あ、渡り鳥の二人が墜ちてる」


「マジでか……」


「マジなんだよ」


「うまく行けると思ったんだがな……」


 状況を確認して驚いている二人に応えるように声がかけられる。


そこにいたのは件の二人、渡り鳥の秋坂とゲールである。


「秋坂さん、ゲールさん」


「よ、廻る旅人のお二人さん」


「こんにちは、さっきは負けたよ」


「ま、こっちも銃士としての意地があるからな……素人レベルの二人には負けられないさ」


 ソラの言葉に徹矢の隣に座ったゲールが苦笑しながら話す。


正直あのゲーム内のルールでは徹矢やソラの力は半減どころではない、その状態で負けては銃士の二人としては立つ瀬もなかったところである。


「普通に優勝すると思ったけど、どうして負けたんだ?」


「上には上がいる、ゲーム内に限定すれば戦闘職よりもこのゲームを極めた奴のが強いこともあるってことだ」


「相手は戦闘職でもなかったのか」


「普通は戦闘に関わらない、けれどこのゲームでは常連のプレイヤーだ、身体能力に差が出ないのであれば十分以上に向こうにも勝算が出る」


「なるほど……よくできてるなぁ」


 そのゲームの攻略のみに特化してしまえば経験や技術の差はある程度埋めることができる。


そして強制的に行われる身体能力の常人化はそのまま同じステージに立たせることと同じこととなる。


確かに上位陣は相当な力を持っているが、その中でも戦闘職からはかけ離れた者は少なくないのだと秋坂とゲールは説明するのであった。


「ここにいる住人は大なり小なり何かしらの力に目覚めた者たちだ、方向性は違うにしろ何かしらの才覚を持っている場合が多い」


「中には本人の自覚していないもの、見つけていないものも含めてね」


 欠片を目覚めさせるだけの何かがあるからこそこの世界に徹矢たちはいる。


徹矢で言えば、非常に偏っていると言わざるを得ないが狙うという才能であろうか。


無論、一つだけではなくその他にも眠っている何かは存在している可能性はある。


「ま、それはともかく……徹矢君にソラちゃん、折り入って話があるんだが?」


「俺たちに……ですか?」


「ああ、つっても答えは決まっているだろうけど」


「? どういうこと?」


「一応だ、ウチのチームに移る気はないか? ってな」


 この世界にやって来る新人というのは当然ながら非常に少ない。


そしてこの世界の住人は何かしらの能力を所有しているのだから戦力としての期待値は高い。


可能であるならば自分たちの所属しているチームに入ってくれればと考えている者は非常に多いのである。


「……なるほど、答えは決まっている、か」


「そうだな、決まってる」


 話を理解した徹矢は先に告げていたゲールの言葉に納得したように苦笑する。


ソラもまた徹矢に同意するように頷き、その様子に秋坂もゲールも同じように苦笑いを浮かべた。


「一度チームを決めた奴が移ることって早々ないからな、一応以上の意味は無い」


「とはいえ、残念であるのは確かだがな」


 やれやれと言わんばかりに肩をすくめるゲールに徹矢とソラは苦笑いを浮かべるしかない。


期待され、勧誘されるのは嬉しいが、二人は今のチームを気に入っている。


「すいません」


「いや、気持ちはよくわかるからいいさ」


 謝る徹矢に秋坂は首を横に振る。


秋坂とゲールも今のチームが気に入っているのである、だからこそチームを移らないかという誘いの答えもわかりきったものであったのだ。


「二人はこれからも勧誘が来るだろ、まあ、覚悟だけはしておくといい」


「いくら言われても移る気はないのに」


「俺たちのように一応のレベルだ、運よくでも仲間にできればリターンはデカいんだから」


「なるほど……忠告、ありがとうございます」


 未だ新人である二人にそういうことがあると言うことを教えてくれたと考えてもいいのだろう。


二人の行動をそう読み取った徹矢は礼を口にするのであった。


「ま、勧誘じゃないが徹矢君らに手を貸してほしいと頼むことはあるかもしれない」


「俺たちに、ですか?」


「不思議なことではないだろう? あの時の映像は見た、機動力も長距離攻撃も評価するには十分なものだったよ」


「彼女についても同様だ、他者に翼を付与する能力は状況にもよるが十分な効果が期待できる」


「あはは、なんだかそう言われると照れてしまうな」


 評価されたことにソラが若干顔を赤くしながらそう言葉を漏らす。


徹矢もまた同意というように頷くのであった。


「君たちが考えているよりも君たちの価値は高い、少なくとも期待値が高いから勧誘しているわけだしね」


「それで、頼んだ際は手を貸してくれるか?」


「あ……はい、自分にできる事でしたら力になります」


「私もだ、必要があったら呼んで欲しい」


「ああ、そうさせてもらう」


 ゲールの問いに徹矢もソラも頷き、秋坂が安心したというように表情を緩めた。


それから二人が差し出した手に、徹矢とソラは握手を返して互いに笑い合う。


「さて、俺たちは第二戦も参加するが、徹矢君たちはどうする?」


「そうですね……」


 徹矢は返答を考えながらソラを見る。


向けられたソラはテツヤに任せると言うようにはにかんだ笑みを見せた。


「……せっかくですけど、回ってみたいところがまだまだありますから」


「そうか、残念だ」


「それに、お二人やそれに勝った相手に勝てる気はしませんから」


 今はまだ、と内心で付け加えながら徹矢は苦笑する。


実際、今の徹矢とソラの二人ではあの条件下で秋坂とゲールを下すことはまず不可能であろう。


「褒め言葉として受け取っておくよ、じゃあ受付もあるし、ゲールも行こうか」


「ああ、それではまたな、二人とも」


「ええ、また」


「頑張ってな!」


 その場を後にする秋坂とゲールに二人は言葉を返し、見送った。


二人が見えなくなり、次はどこへ行こうかと話し合いながら二人は店を出る。


「楽しかったな」


「まあ、な……今の自分たちでは勝てるわけねぇ、って感じにはなったが」


「私もあれはさすがに無理だと思うよ……」


 対モンスターであればそれなりに楽しむことができたが対人戦は次元が違うと二人は呆れ、苦笑する。


本職の銃使いが参戦した上でそれを下すような非戦闘者がいる、端的に言えば魔窟としか言いようがない。


おそらくは同様のことがこの娯楽街では数多く存在しているのだろうと徹矢はいろんな意味での世界の広さを感じるのであった。


「ま、それはともかくとして次か……このまま娯楽街を回るか、もしくは買い物でもあるならつき合うぞ?」


「そうだな……うん、じゃあ今度は商店街につき合ってもらおうかな」


「了解したよ」


 ソラは少し悩み、それから商店街に向かうことに決めるのであった。


それに徹矢は頷いて、そのままソラに向かって背を向ける。


ソラの手のひらが徹矢の背に触れることにより生まれる翼とその感覚、慣れ始めてきたその感覚に従って徹矢は上空へと飛びあがった。


「最初よりもずっと動きが良くなってるな」


「そりゃ、何度もやってればな……そんなことを言ってたらソラはさらに上だろう」


「一応所有者なんだ、それくらいはできるように頑張るさ」


 商店街に向かって飛行を始める二人、その動きは確かに以前よりもずっと洗練されたものとなっている。


確認が取りづらいことかもしれないが、確かに二人は成長しているのである。


特に限界まで能力を行使した白風の世界でのことは大きな成長の一歩となっていた。


二人は今までよりもずっと速く飛び、すぐさま商店街の区画へと辿り着くのであった。


それから二人が訪れた場所は、


「テツヤ、この服とかどうだ?」


「……似合っているとは思うよ、うん」


 フリルの付いた白いワンピースを持ったソラが笑顔で徹矢へ意見を求める。


それに正直に答えるものの、若干思うところが無いわけではなかった。


「着飾ることに興味が無いわけではないんだよな、ソラって」


 楽しそうに飾ってある服を見て、笑っている彼女を見て徹矢はそう漏らす。


彼女が美少女であることは徹矢も十分理解しているし、着飾ることは彼女の魅力を間違いなく上げるだろう。


けれどソラの場合着飾ったところであまり意味がないという面がある。


「ケイトさんやルーテさんも残念がってたからな」


 どれだけ可愛く着飾ろうともその上からコートを着ていては台無しであろう。


それも身体の大きさに合っていない、華やかさとは無縁な黒の男性用コートであるならなおさらである。


ホームの中でもない限りコートを脱ぐことが無いためせっかく購入してもその姿を見ることは非常に少ない状態である。


「思い入れがあるのはわかるが……まあ、もったいないな」


 ソラ以外の廻る旅人のメンバー全員の想いを吐露し、色々な服を手に取って眺めているソラの姿に苦笑する。


本人が楽しめているのならまあいいだろうと徹矢は判断するのであった。


「楽しめたか?」


「ああ、楽しいよ」


 いくつかの服を購入してご満悦という表情を見せるソラ。


そのまま二人は商店街を歩き、色々な商品を見て回っていく。


徹矢の希望により寄った書店にて、徹矢は目的とは違う本に目を惹かれて

ソラへと問いかける。


「なあソラ」


「ん、どうしたんだテツヤ?」


「残りの休暇をどう過ごすか決めてるか?」


 与えられた休みは今日だけではない。


しばらくの間は特にすることもない状況が続くだろうことは予想できた。


「明日以降か? 一応、街を見て回ろうかなって思ってるけど」


「そうか、だったらちょっと亮二さんに頼んでみないか?」


 ソラの答えを聞いて、徹矢が本棚から取り出したのは何の変哲もないような旅行ガイド。


普通ではない点は国などではなく世界単位の紹介であることだろうか。


その世界の座標から見どころのある風景の写真などが載せられている本である。


それを見てソラの目が大きく開かれ、そして同時に輝きを放ち始める。


「休暇中だ、調査は必要ないだろうしカイさんの護衛で気を配ることもない、本当に観光として行くにはいい機会だと思うんだが」


「テツヤ、それはすごくいいアイディアだ!」


 徹矢の提案に対してソラは強く何度も頷いて同意する。


それほどまでにそれは彼女の関心を惹きつけたのであった。


「予想以上に食いつきが凄いな……まあいいや、俺は亮二さんに大丈夫か聞いてくるから、ソラはこの類を見繕っていてくれ」


「わかった!」


 ソラへ持っていたガイド本を手渡し、亮二へと連絡を取るために迷惑にならない位置まで移動する。


本を渡されたソラは似たような本を探してどれにしようかと迷い始めるのであった。


「……で、許可もらえますか?」


『ああ、危険度の少ない世界の観光なら特に問題は無い、ガイドに載っているのはその類だからちょうどいいだろう』


「了解です」


『まああれだ、ソラはもちろん徹矢も楽しんでくるといい』


「ええ、そうします」


 そんな言葉をかけられながら徹矢は頷く。


通信が切れ、徹矢は知らず拳を強く握り小さくガッツポーズを行っていた。


ソラの喜びように隠れてはいたが、徹矢もまた自分が出した提案を楽しみにしていたのであった。


ソラの元へと戻って提案が通ったことを告げれば彼女は嬉しそうに笑い、ガイド本の棚を眺める作業に戻る。


世界は無数、そうなれば当然ながらガイドも膨大な数となってしまう。


「どうしよう、テツヤ」


 困った表情を浮かべるソラに徹矢としてもどうしたものかと迷ってしまう。


指針となるのは彼女の願いである多くの大空を見てみたいと言うもの。


しかしそれ以上の指針は無く、それだけではまだまだ数多くの候補が残ってしまっている。


あまり長い時間いても迷惑だろうと徹矢は考え、いくつかの本を見繕って購入したのであった。


「あとは、この中から探して行くだけだな」


「それでもたくさんの世界が載ってるみたいだよ……絞りきれるかな?」


「ま、そうなるように頑張るしかないだろ」


 最終的には直感で決めればそれが案外一番の場所になるだろう。


そんな気楽な考えを持ちながら徹矢は帰り道を歩いて行く。


「テツヤ、なあテツヤ」


「ん?」


 先を歩く徹矢にかけられる声。


彼は後ろを振り返り、次の言葉を待つ。


「すごく、すっごく楽しみだよ」


「……ああ、俺もだよ」


 二人は笑顔を見せて、歩みを再開させる。


ホームへと戻ってくれば、二人で話し合って休暇中に移動するいくつかの世界を決定させ、その旨を亮二へと。


亮二はそれらの世界を見て二つ返事でオッケーを出すのであった。




 それから徹矢とソラの二人は休暇の日々の間、いくつもの世界を渡り歩いて行く。


観光用のガイドに載るほどであるから危険は無く、美しい風景や物珍しいものを見て回り、休暇を満喫するのであった。


休暇が終われば、またカイと共に調査を行うことやあるいは渡り鳥のメンバーから協力を願われることもあるかもしれない。


それらはきっと簡単に済むものではないと二人はわかっているから、与えられたこの幸せな時間を目いっぱいに楽しむのであった。

 お待たせして申し訳ありませんでした。

ここまでが第三章となり、次からはまた新しい章を開始する予定となっています。

執筆スピードが落ちているためもう少し頑張らねばと反省。

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