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神様の欠片と廻る旅人  作者: ALICE
第二章 思いが響き渡る世界の物語
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第二十一話 「炎武開幕」

「あそこがファイアリーたちの暮らす街だ」


「やっと……たどり着いた……」


 歩き続けること十日、ようやくというように街の賑わいが聞こえる場所にたどり着き、徹矢は心の底から安堵のため息を吐いた。


旅立ちと同じ綺麗なままのアルメラとは対照的にところどころ汚れた姿の徹矢、歩いているのもやっとなのか槍を杖代わりにして立っている。


 慣れない旅というものは徹矢の体力を限界まで削り取っていた、アルメラが徹矢の体調を管理しながらの歩みにより倒れるといったことはなかったものの、逆に限界ギリギリを常につづけられている状態であった。


「ま、よく頑張ったよ……街に入ったら俺の家で休むといい」


「アルメラの……家?」


「俺もファイアリーだからな、ここには俺の家もあるんだよ……ま、あの街に常駐しているから最低限のものしかないが」


「へぇ……とりあえず休めるならなんでもいいです」


 街が見えたことで気力を取り戻したのか、徹矢はしっかりと立って槍をウォッチへと収納した。


街の住人に初対面から駄目な人間と見られたくはないという見栄と、同時に槍のように武器を持っていたずらに刺激しないための行動。


それを確認してアルメラも前へと進み、街へと近づいて行く。


「……ん、アルメラじゃないか、久しいな」


「おおテリスか、元気にしていたか?」


 街の入口である門の前にいた男性がアルメラを見かけ、機嫌よく話しかけてくる。


どうやら知り合いのようでアルメラもまた朗らかに声を返していた。


「こちらへ来るなど珍しい、何かあったのか?」


「ああ、ちょっとした案内だよ」


 言って、アルメラは後ろにいる徹矢に視線を向ける。


それを追うようにテリスと呼ばれた男性が徹矢を見て、目が合った徹矢は軽く目礼を返した。


「……彼は?」


「俺の客、人間だよ」


 その答えに、テリスは口笛を吹いて徹矢を物珍しげに観察する。


徹矢は苦笑しつつも既にそういった視線を受けるのにもなれたもので特に何も言わずにその視線を受け入れていた。


「驚いた……つか、ここに来たってことはまさか?」


「ああ、俺共々炎武を受けに来ているんだよ」


「おいおい、マジかよ……その坊主を殺す気か?」


 テリスの言葉はもっともな発言であろう、今の徹矢の姿はボロボロである。


加えて、人間というのは基本的には弱いというのが精霊共通の想いであり、そんな存在が炎武を受けると言ってもそれを知っている身としては信じられないという気持ちになるのは仕方のないことであろう。


「ま、若干受けさせるのが早いというのは否定できないがね……」


 できれば後回しにしたいとアルメラも思わないわけではないが、自身の所属を考えれば真っ先に訪れる必要があった。


アルメラの見立てではそれを突破できる可能性は低くなく、大丈夫だろうと判断はしたものの、それでも十分に実力が足りているかと問われれば頷くことはできないとアルメラは思う。


「実力をつけたところでそれ相応の相手が出るだけであるし、テツヤは弱くはないよ」


「そうか、まあ……あるのであれば楽しみにしておく」


「おう、そうしてくれ」


「楽しみにって……」


「ああ、言ってなかったな……炎武には観客がいるぞ」


「……マジですか」


 視線と同じく見世物になることにも慣れてしまっている徹矢ではあるが、多少は気が滅入ってしまうのは仕方がないだろう。


そんな徹矢にアルメラは軽く肩を叩いて、言葉を放つ。


「ま、気にするな……正直気にしていられる余裕はないと思うから」


「それが一番聞きたくなかったことですよ……」


 絶対に慰めではないと徹矢はジト目でアルメラを見るものの、見事に黙殺されてしまう。


一体炎武ではどのようなことが起こるのだろうかと徹矢は嫌な汗をかくのであった。


「ま、ともかく街へ入るぞ……お前もそれなりに疲れているだろうしな」


「それなり……どころじゃないっす」


 脱力してため息をつく徹矢を笑いながら、アルメラは街の中へと入っていく。


それを追う徹矢の耳に、テリスの言葉が耳に入る。


「大変だろうが頑張れ、アルメラは悪い奴ではないから」


「ええ、知ってます」


「……そうか」


 なら何も言うことはないというようにテリスは小さく笑みを浮かべるのであった。


「何話しているんだよ、置いて行くぞ?」


「ちょ、アルメラ待って!?」


 さっさと先に進むアルメラに置いて行かれてはたまらないと徹矢は追いかける。


そんな姿をテリスは笑いながら見送るのであった。


「ここで迷子とかシャレにならないんですけど?」


「大丈夫大丈夫、俺の家って言えば大抵の奴なら案内してくれるだろうから」


「よく知られているのか?」


「ま、ある程度街の住人には知られている自覚はある……長く空けている家の世話をやってくれる奴とかいるしな」


 徹矢の疑問にアルメラが答える、それに徹矢はなるほどと思いながら頷く。


そんな話をしながら歩いているうちに幾人かの街の住人とすれ違い、住人たちがアルメラの存在に気がつき始める。


「お、アルメラじゃないか」


「帰ってくるのはまだ先じゃなかったか?」


「こっちに来たのなら炎武を頼むぜ!」


 アルメラと同じような人型から、犬であったり狐であったりと様々な精霊たちから声をかけられる。


その声に対してアルメラは一つ一つ明るく返していき、時には後ろについている徹矢のことを紹介するなどしながら歩いて行く。


紹介され、会釈を返しながら徹矢は確かにアルメラはよく知られていて、それで人気者なのだろうなと思うのであった。


そんな賑やかな街並みを歩きながら、辿り着いたのは何の変哲もない他の変わらない石造りの家、案外普通だという感想を抱きながらアルメラについてその家へと入っていく。


「リナ、帰ったぞ」


「へ、アルメラ!? どうしてまたこんな時期に!?」


 アルメラが家の中に声をかけると、中から慌てたような女性の声が返ってきた。


そこにいたのは赤い髪と瞳が特徴的な女性、掃除をしていたのかエプロンをかけその手にははたきと思えるものを持っている。


「ちょっと客がいてな、相変わらずいい仕事しているな」


 アルメラはそんな女性の様子を無視して、家の中を見渡して埃のたまっていない様子から中の女性を称賛する。


「ありがとう、それでお客さんって……君?」


 褒められたことに気を良くしたように女性は言い、それから徹矢の顔を覗き込む。


徹矢は覗き込まれたことでやや後ろに下がりながらも自己紹介のために口を開く。


「は、じめまして……徹矢と申します」


「テツヤ、ね……へぇ、よろしく」


 面白そう、という表情を見せてその女性は徹矢から離れる。


それから彼女は胸に手を当てて徹矢へ自己紹介を始める。


「私はリナ、もちろんファイアリーでアルメラの世話役をやっています」


「気をつけろ、少々人を弄って楽しむ癖がある」


「それはアルメラには言われたくないわよ!」


 アルメラの注釈が気にくわなかったのかリナがアルメラへと文句を言う。


それを見て笑うアルメラは本当に楽しそうに徹矢には見えて、想像したことをぽつりと呟いた。


「あー、アルメラの彼女って認識でいいのかな?」


「そう見えるならなによりだ」


 徹矢の言葉を肯定するようにアルメラがリナのことを抱き寄せる。


それにリナはまだ文句が済んでいなかったのか憮然としながらも、それでもどこか嬉しそうな表情を見せている。


「それで……今回はどうしたの、時期的にはまだでしょ?」


「ま、さっきも言ったように客、テツヤをこの街に連れてくる用事があったからな……二人して炎武をやるつもりだよ」


「へぇ、炎武を……わざわざ客と炎武をするってことは大精霊様に?」


「ああ、そのために来たんだ」


「ふーん」


 頷き、リナは改めて徹矢の姿を見る。


リナの目から見て徹矢はそう強いというわけではないと思えた、それでも自身の信頼するアルメラが連れてきたというのなら何かしらの事情があるのだろうと理解するのであった。


「ま、疲れているみたいだし休んでいくといいわ、話とかも聞きたいしね」


「ああ、適当に飯でも作ってくれると助かる」


「お任せあれってね」


 言いながら、リナが家の奥へと消えていく。


それを見届けてから、アルメラは徹矢をリビングと思しき部屋へと案内した。


「まずは十日の旅をお疲れ様、と言うべきかな」


「本当に疲れました」


 石で出来た椅子とテーブル、そちらへ座った徹矢にアルメラは声をかけ、徹矢もテーブルへ倒れ込みながらそう答えた。


久しぶりの休むという感覚に徹矢は眠りそうになるものの、それに耐えてアルメラとの会話を続ける。


「とりあえず今日の所は完全休養にする、俺はその内に炎武ができるように手配をしておくよ」


「わかりました」


 完全休養ということにありがたいと思いながら、徹矢はこれからのことを考える。


炎武の概要はここに来るまでに聞いている、炎の大精霊と会うための一種の儀式でありその内容が戦闘であること。


その主目的は大精霊を呼び出すために戦意、つまりは想いを捧げることにある。


戦闘の相手は挑戦するものの希望、あるいは力量を見て決められる、それは一方的な戦いでは捧げるべき想いが発生しないことも考えられるための措置である。


今回の徹矢の相手に関して言えば徹矢が自身の戦い相手などわからず、そして主催側からしても徹矢の力量が不鮮明なため、アルメラに一任することを道中に決めていた。


「アルメラ、俺の相手の候補とか決まってるの?」


「一応何人か考えてはいるが……テツヤの力量と適性の者だと外に出ている場合も多い、どうなるかはわからんところだな」


 徹矢の問いにアルメラは正直に答えて最後にだが、と続ける。


「場合によっては格上の者と当たることも考えられる、覚悟はしておけ」


「それは……まあ大丈夫です、魔物を除けば俺の戦った相手は皆格上ですから」


「……違いない」


 その返答に思わずというようにアルメラは笑ってしまう。


この世界にいる間に戦ったのはアルメラを含めたあの街の巡回者たち、場合によっては鬼ごっこをしていた子どもたちも幾人かは徹矢よりも強い力を持っているだろう、さらにアルメラは詳しくは知らないだろうが転生回廊でもカンナやルーテ、どの人物も徹矢から遠く離れた実力の持ち主である。


そんな相手とばかり戦ってきた徹矢からすれば今更相手が格上だからと言って狼狽えるようなことはないだろうという自信があった。


「つか、いつまで突っ伏してるつもりだ?」


「結構疲れてますから……ついでにひんやりしていて気持ちいいんですよ」


 石で出来たテーブル、そこから伝わる冷たさが心地よく徹矢はテーブルに伏せたままであった。


その様子にアルメラは呆れた声をかける。


「そういえば、この街はほとんど石の建物なんですね……」


「そりゃそうだ、俺たちが何だったか忘れたのか?」


「……あ、そういうことですか」


 アルメラ、テリス、リナ、ここまでに会った様々な精霊たち、この街の住人である以上そのほとんどがファイアリーなのは言うまでもない。


そしてファイアリーの性質上、大多数が炎を操る能力のため家屋は木造のものを控えるようにされているのである。


「一応ベッドは石じゃないぞ?」


「もしもそうなら俺はファイアリーの感覚を疑うぞ」


 アルメラの言葉で石のベッドを想像し、顔をしかめて呟いた。


一般的な硬いベッドとは比べ物にならな程悪いものだろう、野宿よりはマシであろうが十分な休息にはならないと徹矢は思う。


「アルメラ、テツヤ、出来たわよ」


 リナの声が部屋に響き、手に持つトレーをテーブルの上へと置いた。


起き上がった徹矢が視線を向ければそこにあったのはパンにシチュー、安全な場所で美味しそうな食事を見たことで徹矢の胃が一気に反応する。


「長旅お疲れ様ってところかな? あんまり急いで食べると身体に悪いわよ?」


「あはは……気をつけます」


 照れくさそうに笑いながら徹矢はゆっくりと食事に手をつけ始める。


一口食べ、口の中に広がる味を噛みしめる。


「……美味しいです」


「そう、だったらよかったわ」


 徹矢の言葉にリナは微笑んで、アルメラの隣に座る。


「食べながらでいいから、聞かせてくれない? アルメラやテツヤの事情とか、向こうの街での話とか」


「ああ、まあ……コイツのこと以外特筆するようなことはあんまりないけれどな」


 リナの言葉にアルメラは頷き、この街を離れていた時の話を始める。


それは徹矢がやって来る前の話もあり、食べている徹矢もまたその話に耳を傾け楽しんでいた。


「んで、二ヶ月と少し前からかね……コイツがこの街にやって来たんだ」


 しばらく話した後、話題が徹矢の話となり、アルメラがリナへと徹矢の簡単な紹介をしていく。


「コイツの事情もあって詳しくは話せないが、いつもこの世界に来る者たちとはちょっと違う人間なんだ」


「あ、やっぱりそうなんだ、この世界じゃあまり聞きなれない感じの名前だと思っていたんだ」


 確かにそうだろうな、などと徹矢は苦笑しながら思う。


リナは比較的徹矢の世界でもあった名ではあるが、アルメラやヒューイ、グレーツといった中で徹矢の名は確かに珍しいものになるだろう。


「ま、名前はともかくとして……コイツの事情から大精霊様たちに会いに行かなくてはならなくなったわけ」


「へぇ」


 俺の担当だしまずはこの街から来たわけだ、とアルメラは続けて、リナも納得したように声を上げた。


それから面白そうに徹矢の姿を見て、言葉を漏らす。


「炎武に出るわけね……面白そうだわ」


 向けられた赤い瞳、そこから放たれる視線に徹矢は言いようのない威圧感を感じた。


揺らめく瞳に徹矢は炎を幻視する、同時に徹矢は強烈な悪寒を感じて椅子から転がり落ちるようにその場から離れた。


理由はない、このままでは不味いことになるという漠然とした予感により意識するよりも早く徹矢は動いていた。


「ふぅん……勘は悪くないわね、ますますいいわ」


「おいリナ、今のは遊びが過ぎるぞ」


 突然に転がり落ちた徹矢のことをリナは気に入ったと言わんばかりの瞳で見下ろす。


それに苦言を呈したのはアルメラであった。


「悪いけどテツヤはお前を相手にできる程じゃねーよ」


「そうかしら? 今の動きを見る限りそうでもないと思うのだけど」


「お前の相手とかテツヤが不憫すぎるんだよ」


「失礼するわね」


 言い合うアルメラとリナを見て、先ほど感じた悪寒も消え去っていたこともあり元通り席に着く徹矢。


食事は食べ終わっていてよかったと思いながら、徹矢は二人の言い合う様子を眺める。


「今回は大精霊様に謁見するのが目的なんだから、お前とじゃその目的に支障が出る」


「あら、そんなことないと思うけど」


「お前戦闘始まると止まらないだろうが……出直してこい」


「恋人に向かって酷いわね」


 口をとがらせて文句を言うリナと、断固として阻止しようというアルメラ。


徹矢も先ほどの一件でリナがとんでもの部類に足を踏み入れているのはなんとなくではあるが理解しているもののその高さまではつかめない。


ここまでアルメラが拒否するほどであれば一体どれほどのものだろうと気になり、アルメラへと問いかける。


「……アルメラー」


「ん、なんだテツヤ?」


「相当に忌避しているけど……リナさんがどんだけ強いのかわかるように教えてくれ」


「そうだな……グレーツが勝てん」


「あー、うん、無理ですね……リナさん、全力で断っていいですか」


「つまらないわね」


 身近な人物を用いられたたとえに徹矢は即座に納得してリナに頼むのであった。


手加減されてもまともにダメージも与えられないようなグレーツが勝てないというだけで隔絶した差が明らかと言っていい。


アルメラの言葉通りであれば加減をしてもらうのも難しいことが窺え、絶対に避けた方がいいとの勘の声に徹矢が従ったのも仕方のないことだろう。


徹矢からも断られてリナは余計につまらないという顔をするが、大人しく従うことにしたようでそれ以上何も言うことはなかった。


「リナの暴走が止まってくれたところで……これ以上問題が起こる前に受け付けは終わらせてくるわ」


「そうした方がいいみたいですね……お願いします」


 少々疲れたような表情を見せるアルメラに同意しながら、徹矢は準備を行おうと外に向かうアルメラを見送る。


外へと出る最後に一緒に見送っていたリナへと視線を向けて、口を開く。


「くれぐれもテツヤに手を出すなよ」


「わかってるって、アルメラは心配性ねー」


「不思議と信用ならないんだよな、お前」


 呆れた表情、それを最後にアルメラは扉を閉めて炎武の受付を行うために歩き出すのであった。


残されたのは徹矢とリナの二人だけ。


「ま、アルメラに釘刺されちゃったしゆっくりしましょ?」


「そうですね……言い方からして、釘刺されてなかったら行動していましたね……」


「そりゃ、炎武の方でできないのだったら野試合くらいはね」


 最近は力を振るうこともなくて暇を持て余しているの、などとやや恐ろしいことをリナは口にするのであった。


そんな様子を見ながら、徹矢は内心でアルメラが釘を刺してくれたことを感謝する。


「なら、今度はテツヤとお話しましょ?」


「ええ、それくらいなら別に構わないですけど」


 ニコリと笑うリナに、徹矢は再び椅子に座って対面の形を取る。


「だったらさっきはテツヤの紹介だけで止めちゃったし、テツヤが来てからのことを教えてくれる?」


「そうですね……まあ、多少の事情があるんでそこを隠しながらでいいなら構いません」


「はっきりと隠しながらって言うのね……ま、それでもいいわ」


 徹矢の言葉にリナは若干呆れた表情をしながら、それでも楽しみだという表情を見せて話を待つ。


そして語られるのは徹矢が世界にやってきて、アルメラとの初邂逅、街へ連行させられたという話。


強くなりたいという徹矢の意志に答え、アルメラが行う訓練、鬼ごっこ。


その最中に大量に起きた珍事に関してはリナは盛大に笑っていた。


「あはははははは、テツヤ転び過ぎだし落ちすぎでしょ!?」


「やかましいです、俺はどうもアーシアスの精霊とは相性が悪いんですよ」


 鬼ごっこの最中、様々な手法で足を掴んで転ばし、穴を作って落としてきたアーシアスの子ども二人のことを思い出し、憮然とした表情を見せる。


後半では基本的に足元に空間を展開して警戒していたにも関わらず、その警戒の隙を縫うように二人の子どもは徹矢を罠にはめ続けたのだ。


その他にも自身の失敗談などを話しながら時間は過ぎ、受付を済ませたのだろうアルメラも戻ってくる。


「とりあえず、運は悪くなかったみたいだなテツヤ」


「帰ってきてそれですか……まあ、それならよかったと言っておきます」


 告げられた言葉に少しばかりの呆れを混ぜながらも、必要以上に大変なことにはならないと聞いて徹矢は安堵する。


とはいえ、それで完全に安全になったかと言えばそうではないだろうと徹矢は思う。


その意を読み取ったのかアルメラは非常にいい笑顔で頷いて見せており、改めて徹矢はうへぇ、などといった声を上げた。


おそらくアルメラが選んだ相手は自身が全力を振り絞ってどうにかできるギリギリの相手だろうと徹矢は予想する。


「そんな顔するなって、そっちにだってメリットはあるんだから」


「メリットですか」


「そ……選んだ相手は、炎ではなくて熱の使い手だよ」


「熱、ですか」


 その言葉にピクリと徹矢は反応する。


リューネにも言われたこと、体感することで自身の能力をより強くできる可能性があるということ。


それを考えればそれは炎よりも熱そのものであった方が効果が見られるだろう、そう徹矢は思い、同じようにアルメラも思ったからこそその相手を選んだのだろう。


「それに、この相手はテツヤにとっては初めての戦いになるだろうしな」


「? どういうことですか?」


「今までのテツヤは良くも悪くも戦いとは言えない状況だったってことだよ」


 徹矢の戦闘経験はアルメラやルーテのような格上か、あるいはハウンドのような格下の相手ばかりである。


最もギリギリであった戦いがこの世界に来た当初のハウンド戦というような状況である。


しかし今回はアルメラが徹矢の実力を推し量り、選んだ相手であり、本気で戦えば手が届く相手なのだ。


余裕を残して勝てる格下ではなくて、全力を持って相手にならない格上でもない、徹矢にとってある意味で初めて戦いとして成立する勝負だと、アルメラは告げた。


「テツヤの全力で勝率は半々、実力的には本当に伯仲している奴を選んできた……あとはお前次第だ」


「……うわ、凄くやる気が上がってきました」


 話を聞き、徹矢は知らず拳を握りしめていた。


これまでとは全く違った条件での戦い、大精霊との謁見がかかっていて負けることができない状況もありまさしく真剣勝負と言える状況である。


負け続けであったこともあり、徹矢自身驚くほどにその戦いを渇望していた。


「ソイツの都合上炎武は明日だ、旅の疲れは今日一日で取っておけ」


「げ……了解」


 全力で半々、そうであるならばベストな状況に持って行きたい、そう願うものの状況はそうさせてくれないようであった。


一週間の旅の疲れを一日でどこまで全快に持って行けるか、既に今の時点で徹矢には勝負が始まっていた。


「悪いな、できれば俺も一日は空けていたかったんだが」


「いえ……いつでも準備万端とはいかないってことでしょう」


 本気で申し訳なさそうにするアルメラに徹矢はこれもいい経験だろうと割り切ってそう言葉にするのであった。


ともかく決まったのであれば後はそれに向けての準備を始めなければならない、アルメラに部屋を用意してもらい、徹矢は武器の整備や休息に努めることにする。


リナからも食事等の面で応援をしてもらい、ケイトから用意してもらっていた体力回復等の医薬品さえ服用して徹矢は明日のためにできること全てを行うのであった。




 そして翌日、予定通りに炎武が開催される。


場所は街から少し外れの方にある円形のコロッセオの中で行われていた。


転生回廊にあったものと違い、すり鉢状に地面を掘った穴の中に装飾等をつけたものとなっており、中央はそれなりの深さの場所となっている。


また、円形のコロッセオを囲むように外側には八本の塔が建っているといった特徴が見られる。


既に観客席には街の住人が集まっており、戦場に炎武の参加者が現れるのを今か今かと待っていた。


「人が多いな……」


「なに、街中で鬼ごっこした時よりは少ないさ」


「……違いない」


 挑戦者側の控室、中央を遮っている鉄格子から見えた観客の数に徹矢が呟く。


それをアルメラが問題ないと告げ、そして徹矢もまた同意する。


そして徹矢の視線は観客席から正面、相手側の控室のある場所へと移る。


視線の先に自分の戦うべき相手がいると感じ、徹矢の戦意が上がっていく。


しかし同時に負けられない戦いであるというプレッシャーが徹矢を襲い、戦意とは別に鼓動は早くなっていく。


「あるいは初陣、緊張するのは仕方ないが……」


「大丈夫、大丈夫ですよ」


 声をかけるアルメラを遮るように徹矢は言い、その手に持つ槍を強く握りしめる。


休息に努めたことで体力はほぼ万全と言えるところまで回復していた、戦うことに問題はないと徹矢は思う。


「勝ちます、絶対に」


 負けられない……そう胸に刻み、真っ直ぐに相手側の控室を見続ける。


やがて徹矢の目の前の格子が上げられ中央への道が開かれる、当然相手側も。


「……アルメラ、行ってくる」


「おう、暴れて来い」


 ただそれだけを言葉に残し、徹矢は中央へと向かって歩き始める。


それは相手側も同じで、徹矢と対戦相手の両者が姿を現したことで観客席から歓声が上がった。


『さあ、今日の挑戦者とその対戦相手が今戦場へとその姿を現しました!』


 どこからか響く声、どこかで実況を行っている者がいるのであろう。


そのまま実況は両者の軽い紹介のようなことを口にする。


『さて今回の挑戦者、名はテツヤ! なんと炎武でも史上初の人間の参加者だ!』


 実況の声に歓声と同時にどよめくような声響き渡った。


それも当然だろうなと徹矢は内心で苦笑する。


『どうやら普通の人間とは少し違っているようで、戦う力があることはあの巡回者アルメラからのお墨付きだぁ!』


「あのってなんだ、あのって……」


 一体どういう風にアルメラは有名なのだろうか? そんな疑問を抱きながらも徹矢の足は止まらない。


リングのようなものはない、観客席で区切られた円形のフィールド全体が戦場である。


その戦場の中央へと徹矢の足は辿り着く、ほぼ同時に対戦相手も。


『そんなテツヤの相手となるのは街の住人でも武闘派、巡回者見習いのハイネだ!』


 徹矢の時とは違い、相手の紹介の時には観客席は歓声のみであった。


そして徹矢とハイネと呼ばれた対戦相手は近距離で向かいあう。


外見は今の徹矢と同じ年ほどの青年、短めの白い髪に炎を思い浮かべる赤い瞳。


徹矢と同じように槍をその手に持ち、徹矢を見て笑いかける。


「初めましてだな、俺はハイネ」


「ああ、テツヤだ」


 笑い、握手を交わす。


同様に交わされた視線、そこには他の住人同様の疑いの視線と言ったものは見受けられなかった。


これは開幕直後に奇襲をかけることはできなさそうだと内心でため息を吐いた。


「悪いな、人間だからって舐めたりはしねぇよ……相対すればわかる、アンタは俺にとっちゃ十分に敵だ」


「そうかい、まあそれならそれでいいさ」


 上手いようにはいかない、そう思いながらも徹矢はごく自然に笑っていた。


徹矢も同じように相対してわかるのだ、ハイネが自分の相手として十分すぎるくらいに上等であると。


「こっちは負けるわけにはいかないんだ、勝たせてもらうぞ」


 近すぎる間合いからゆっくりと距離を取り、槍をハイネへと向ける。


対するハイネもまた槍を構えて好戦的な笑みを見せた。


「いいね……けど、こっちも同じさ、勝たせてもらう」


『両者、そして会場全体もヒートアップしてきております!』


 徹矢へ、そしてハイネへ会場の視線が集まり、歓声が高まっていく。


既に徹矢の耳に会場の声は聞こえていない、始めの緊張も無くなっている……意識はただ、自身が打ち倒すべき相手に。


それはハイネもまた同様で、徹矢の一挙一動を見逃すまいと意識を集中させていた。


『さあ、いよいよ時間だぁ!』


「開始の合図は私が」


 徹矢とハイネの間に小さな炎が現れ、そこから炎の翼を持った鳥が現れる。


二人は互いに一瞥、それからお互いの動きへと意識を戻す。


「素晴らしい集中力、前置きは良いですな」


 二人の様子を見て鳥の精霊は一度羽ばたき、息を吸った。


そして、告げる。


「――――始め!」


 開幕とほぼ同時に両者は動き出す。


ハイネは片手を徹矢へと向け、徹矢は横へと跳ぶ。


真横で高温の衝撃が通り過ぎている、それを感じながら徹矢は展開した空間による一歩を踏み出した。


突きによる一撃、それは鋭く、迷いなくハイネの胸元に向かって放たれる。


喰らえば致命のそれを大人しく喰らうはずもない、ハイネは横に跳ぶことでそれを回避する。


躱されたことに徹矢は驚くことはない、むしろこれくらいは当然だろうとすぐさま槍を構え直す。


そしてほぼ同時にハイネもまた槍を構えて、ここで改めて対峙する。


「……ふ」


「……はは」


 知らず、両者から笑みが漏れる。


聞かされてはいた、しかし今ほんの少しの攻防で心の底から徹矢は理解した。


実力は同等、全力を持ってしても一手間違うだけでも勝敗が一気に傾きかねない、それは相手も同じ。


ハイネは徹矢のことをアルメラから聞かされてはいない、それでも同じことを理解していた。


「「ああ」」


 零れた言葉は偶然にも同じもの。


実力の拮抗する相手は互いに初めて、だから抱いた思いも同じ。


「「負けたくないな!」」


 異口同音の叫びが会場に木霊した。


互いに挨拶は済ませた、ここからが本当の炎武の始まりであった。

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