ゲームと電話と幼馴染
「ほら。時々寝れない夜ってあるじゃん?」
『うん』
「そーゆーときってどうしてる?」
『少なくとも誰かに電話したりとかっていうのはしないかな』
「アハハ。だよねー」
『・・・自分のことだって気づこうね』
電話の向こうから聞こえてくるのは、とても憎しみが込められたツッコミだった。
ただいまの時刻深夜2時。
たいていの人間は布団に入ってグースカグースカ言っている時間なのだが、人にはどうしても寝れないときはあるものなのだ。
だからその眠気をどうにかしようとして、こうして幼馴染に電話をかけているわけだ。
しかし、その幼馴染は寝ている最中だったらしく、どうにも機嫌がよろしくない。
『それはあんたが3日連続で夜中に電話かけてくるからでしょ』
だそうです。
あっさりと答えが出ました。
僕のせいだそうです。
「さーせん」
『まったく。なんでこんなに毎晩毎晩電話かけてくるかねぇ?』
「ちょっと考え事してたら夢に出てきちゃって・・・」
『そんなに怖いことでも考えてるの?』
「もちろんさ」
『君のこと考えてたら眠れなくなったんだよ☆』なんて言えるわけない。思ってもないんだから。
幼馴染は恋愛対象に入るかどうかというアニメがあったが、僕は迷わずNOと答えるだろう。
それは妹がいる人間に、妹が恋愛対象に入るかどうかを聞いているようなもので、幼馴染というのは、家族のようなものなのだ。だから恋愛対象にはならない。
『何考えてたのよ』
「ゲームのこと」
『あのホラーゲーム?』
「そうそう」
『そら考えてたら怖くもなるわ』
「だからそのゲームの話ができるゲーム仲間に電話したってわけ」
『誰がゲーム仲間だ。そんなことより早くクリアしてよね。2週目やる前に貸してるんだから。そのゲームは2週目からが本番なのよ?』
そんなこと言われてもこのゲーム怖いんだもん。
僕が女々しいとかじゃなくて、プレイしていると生気を吸い取られていくようで、30分以上プレイできないんだもん。
絶対にプレイ中は後ろに青白い何かが立ってるって。断言できるね。怖くて確認できないけど。
「よくあんなのサクサクできるよね」
『怖いけどストーリーが素晴らしいのよ』
「それ以前に変な汗かいちゃってダメなんだけど」
『乗り越えなさい』
「無理だっての。あなたのせいで眠れないんだからちょっとは電話に付き合いなさいよ」
『だから付き合ってるじゃないの。感謝しなさいよ』
感謝してますって。
話してるだけでも怖いのが薄くなっていくんだから、大したものですよ。
そして毎晩毎晩、僕が電話中に寝落ちしても文句も言わず・・・ちょっとしか文句も言わずに付き合ってくれるなんて最高ですよ。そのたびに弁解のメールを朝に送るだけで許してくれるんだもん。超感謝してます。
とは言えないので、簡単に言う。
「超感謝してますよ」
『なんか嘘くさーい』
「せっかく感謝の意を述べたのにひどくない?」
『ひどくない』
キッパリ言われるとなんだかなー。
「さてと。今日はこのへんで寝ようかな」
『もう寝るの? 早くない?』
「健全な高校生は寝てる時間ですよ?」
『こんな時間に電話を』
「ハイハイ分かった分かった。とにかく今日はもう寝るね。おやすみー」
『うん。いい夢見なさいよー』
「そっちもねー」
『おやすみー』
そう言って電話を切った。
布団に潜って目を閉じて寝ようとすると、ゲームのセーブ画面からスタートした。
積んでるところからの道順を思い出しながら想像の世界のゲームを進めていく。
そしてまた怖くなってきた。
目を開けると、目の前には電話が置いてあった。
また電話するのも迷惑かとも思ったけど、幼馴染が寝ているかどうかよりも、僕が寝れるかどうかが問題なので、すぐに電話をかけた。
『もしもし』
「あ、起きてた?」
『寝ようと思ってたんですけど』
「そんな気はしてた」
『はぁ・・・また寝られなくなったんでしょ』
「大正解。というわけで、まだまだ夜は続くよー」
おしまい