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魔女の弟子は王子様  作者: 庭野はな
第1章:魔術師の弟子と王子様
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[5] 幽霊

「あれっ?痛くない。なんだ、これ……」


 力一杯閉じた目をそろりと開いたルーはそうつぶやくと、そろりと目を開く。

 自分がヒラに抱き支えられていることは理解した。

 だがヒラもまた、白い光球達に身体を支えるように取り巻かれて、地面から少し上をふわふわ浮いていた。


「危なかった。心臓止まるかと思っちゃった。あ、みんなありがとね」


 ヒラが手元側の光球の一つにぽんと手を置き、犬の頭をなでるかのようになでてやる。

 すると光球達は二人を地面にそっと降ろし、ヒラに甘えるようにそれぞれ軌道をくねらせ、彼女に触れては空へ散っていった。


「い、い、いまの…」


「精霊よ」


「違うよ!あれは幽霊なんだぞ」


「へ?」


「精霊っていうのは、透き通るように白くて綺麗で、耳がとがってたり触覚や羽が生えてたりする綺麗な生き物なんだぞ!光るたまがふわふわ飛ぶのは幽霊だって兄様やみんなが言ってたもん」


「それは、人魂じゃあ……もしかして、あの光を幽霊だと思っていたの?」


 ルーは黙り込んだ。


「ちょっと、落ち着ける場所でお話しようか」


 ヒラは溜息をつくと、ルーの肩を抱き転移の術言を唱える。すると二人は、ヒラが来る途中に見かけた東屋に転移した。

 周囲を見回したルーは驚いた声をあげる。


「ルーって魔術師だったのか」


「そうよ。ほらこれ、ちゃんと魔術師のローブ着てるでしょ?」


「魔術師のローブってネクラな色じゃん。性格もインケンなのばっかだし。それに杖を持っていないだろ。だからヒラは違うのかと思ってた」


「杖がなくても魔術を使える人もいるのよ。それに、魔術師のローブの色が派手だったらうっとうしくない?」


「確かに、あいつらが派手な色を着てるのはもっと嫌だ…」


(ここの宮廷魔術師の皆さんの存在って…なんだか不憫に思えてきたかも)


 ヒラは苦笑しながら、二人がけのベンチを選んで座り、自分の隣にルーを座らせた。

 そしてルーの小さく暖かい手をそっと握る。


「改めて自己紹介しましょう。私はヒラ。カザン様という元宮廷魔術師の弟子なの」


「カザンてあの爺ちゃん?何度か大きな式がある時に会った事あるよ。あの爺ちゃんは魔術師だったけど根暗じゃなくて面白くて好きだよ。爺ちゃん元気?」


「カザン様はつい先日亡くなったの」


「爺ちゃんが死んだ?そう……もう爺ちゃんだったもんな。でもずっと爺ちゃんなんだと思ってた」


「私もよ」


二人は少しの間黙り、老い先短そうな外見をしながらも永遠にこのままなのではと思わせるほど、かくしゃくとした魔術師のことを想った。


「ねえ、ルー。あなたは第4王子のルード殿下でしょ?」


「やっぱり知っていたんだね」


「ルーって名前を聞いた時ね。カザン様がよく『カラスリートより賢くて、アルサスよりすばしっこくて、サズリーよりも勇気のある、ちびのルー』ってお話してくださってたの」


「こら、兄様達は殿下なんだからな、呼び捨てしちゃフケイなんだぞ」


「ごめんなさい。これはカザン様と私とルーの秘密。ではありませんね、お許しを。カザン様とわたくしめとルード殿下との秘密ですわ」


「……ヒラはルーって呼んでいいよ。あとなんかむかつくから普通に喋って」


「ありがとう。ルー、王家の血族は精霊の守護を持つことは知ってる?」


「うん」


「精霊の守護はね、血が濃かったり先祖返りで、より強い恩恵を得ることがあるのよ。ルーは他の皆よりも強い恩恵があるから、一人だけ精霊の姿を視ることが出来たの」


「あれって精霊なの?だって……」


「ルーがみんなから教えてもらった精霊の姿は、高位の精霊が具現化した姿なの。精霊を視る力を持たない者にも見えるよう、精霊が見せた姿。それでもそんな精霊と出会うことは稀だから、噂とか創作もかなり入っていると思うわ」


 ルーが首をかしげた。

 ヒラは微笑みながらもっと簡単に説明する。


「つまり、この光の球は精霊の普段の姿。ルーの普段着ね。だけど大事な人に会う時や大勢の人の前に出る解きはいつもと違う格好になるよね。それが一般で知られている精霊の姿」


「うん、今のは分かった」


「ルーは普段のままの精霊を全部じゃないけど、ある条件にあるものを視ることが出来るみたいね。ほら、今は視えてないでしょ?」


「うん、今は何もいないみたい。」


「精霊は本来そこら中にいるのよ。今も本当はルーのまわりや東屋の外にいるわ。でも、その精霊達がルーを意識している時にだけルーには視える、つまりルーに興味がない精霊は見えないの。いないんじゃなくて視えてないだけ」


「ヒラにはそれも視えるの?」


「視えるよ。精霊が視て欲しくないって思わない限りね」


「どうして、どうしてオレ達は視なきゃならないの?オレは精霊なんて視たくないのに…」


「うん、なかなか慣れるものではないものね。でも、精霊達はルーのことが大好きだよ。だからほらあそこをごらん。精霊達が心配してるみたい」


 ヒラが指さした先にある茂みの影には、色々な色を持つ光の球達がのぞき、ルーの視線に気付くとさっと茂みに隠れた。


「精霊達なりにルーに気を遣ってるみたい。ルーが怖がったり嫌だと思うと無理に近づいてこないんじゃない?」


「……うん、オレがびっくりすると逃げたり消えるんだ。でも油断してると、いきなり出てきたりオレの側をぐるぐるまわったりして脅かすんだよ」


「うふふ、それは脅かそうとしたんじゃなくて遊びたがってるだけよ。ルーも精霊も、お互いどうしたらいいのか分からなくて困っていたのね」


「精霊が困るの?」


「精霊を視える人は本当に限られているから、どう接したらいいか分からないのよ。これは

彼らと付合っていく中で関係をつくっていくしかないわ。私だってまだ付き合いは浅いのよ? 多分ルーよりも短いわ」


「ほんとに? ヒラは僕よりもっと色々視えるのに、怖くてびっくりしたにちがいないのに、もうそんなに慣れたの?」


「そうね、私一人だったらルーみたいに困ってたと思うわ。でも私にはカザン様がいたの。カザン様は視ることは出来なかったけど、声を聴くことができたのよ」


「じいちゃんが、精霊の声を?」


ルーは驚きの声をあげた。


(ルーが物心ついた時にはカザン様は宮廷を去っていたものね。時々会う老人に、幽霊の話なんてしないわよね、普通。周囲もそう決めつけてたみたいだし。可愛そうに……あのじじい、もしかして気付いていたな)


 カザンは亡くなる直前に、この少年を、ルード殿下をしきりに気にかけていた。

 もっと早くカザンが動いていたら、そして彼が変わらず宮廷魔術師でいたら、ルーの苦しみは少しでも早く和らいだに違いない。

 ヒラはルーに同情し、心の中で師匠に悪態をついた。

 そのルーは、悲しみと後悔を宿した瞳でヒラを見上げた。


「ねえヒラ、どうしたらヒラみたいに平気になれる?もし僕がヒラみたいに出来てたら…兄様が、ラス兄様があんなことには……」


「あんなこと?」


 ヒラと同じ黒い小さな頭が、寂しげにこくりと縦に振られた。

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