表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の弟子は王子様  作者: 庭野はな
第1章:魔術師の弟子と王子様
5/18

[3] 眠る王太子

「精霊王オシリアヌスよ、我にラーム<真実の眼>の力を」


囁くように術言を詠唱すると、ヒラは魔力を白い額にあてた手に込めた。

途端に、彼の身体全体が青白く光る。


「これはっ」


「カラスリート殿下っ!」


「ヒラ殿、王太子殿下にもしものことがあったらその命ないものとっ」


「皆様お静かに」


 ヒラは振り向き、壁際に立ち口々に騒ぎ立てる者達をなだめる。


「カザンの弟子よ、今のはなんだ?」


「ご心配ありません。魔力に精霊力が反応しただけです、殿下」


一人だけ他の者より前に、彼女の少し後ろで腕組みをして様子を観ていた、お茶にクリームを落としたような薄い色の髪を後に束ね眼鏡をかけた青年に、ヒラは微笑みかけた。




王太子の眠る部屋に通された時、既に人が集まっていた。

恐らく王太子の状況を知る者達なのだろうが、全員がヒラに懐疑的な視線を投げかけた。


「カザン殿の弟子とはいっても、誰も今まで存在さえ知らなかった、えたいの知れぬ小娘ではないですか。王太子に近づけるのは危険です」


いかにも魔術師といった土色と黄土色、茶色のローブ姿の三人が口から唾を飛ばしながらわめき、それに便乗するようにベッドを囲むように立つ者達も囁き合う。

ヒラは構わず王太子に近づこうとするが、彼女を罵った魔術師達がその前を遮った。


(歓迎されないのは分かっていたけど、ここまであからさまだと面倒だわ)


このまま押し通るか、出ていくか。

迷うヒラの横で、静かな声が響いた。


「既に陛下が決められたこと。異論のある者はここから出なさい。そしてそこの3人は今すぐ」


まさに鶴の一声だった。

ベッドに横たわる王太子の側に座っていた青年は流れるような優雅な動きで立ち上がりヒラに歩み寄った。


「失礼した。私は第三王子のサズリーです。他の者も紹介しましょう、これは私達の乳兄弟で兄の騎士リアス、そして宮廷魔術師長バートラム殿、侍医のミン殿、兄付きの侍女のリリカです」


「サズリー殿下でしたか。ご挨拶が遅れました。私はカザン様の弟子、ヒラと申します。王太子をお助けするために微力を尽くさせていただきます」


ヒラはサズリーに軽く膝を折って礼をとった。


「陛下、父から全てあなたに任せるようにと言いつけられています。すぐに始めてください」


「かしこまりました。では皆様後ろへお下がりください。診させて頂きます」


 ヒラはベッドに横たわる王太子、カラスリートの横に跪いた。

 サズリーと同じ髪色に整った顔立ちだが、痩身の彼と違い、体つきは骨太で筋肉もよく発達している。健康そうな焼けた肌色で、前で組まれた両腕には古いものから新しいものまで様々な小さい傷がある。起きている時はさぞかし溌剌とした肉体派の青年なのだろう。

 だが昏睡が続き、長く厚いまつげが縁取る目のまわりや頬の肉が薄くそげ落ち、健康的な雰囲気は失われていた。



「精霊の呪い?」


「呪いではなく呪縛に近いものです。魔術は術言を紡ぎ精霊の力を借りて具現化するのはご存じですよね?最初は魔術によるものかと思ったのですが、これはもっと純粋な人為的ではない力によるもの。つまり殿下は精霊自身の力で眠らされているようです」


「精霊は王家に祝福を与えているのですぞ。それが殿下に害を与えるなんて馬鹿馬鹿しい」


「バトーラム殿、今は私とヒラ殿が話をしているのですよ」


「…申し訳ございません」


 鼻息荒い宮廷魔術師長を諫めた王子は話を続けるようヒラを促した。



「精霊がなぜ兄上にこのようなことを。本当に魔術じゃないのですね?」


「もともとは魔術も精霊の力を借りるのですから力の根源は同じ。見極められないのも無理ありません。王子にとって精霊は守護者ですしね。むしろ無理に解術しようとしていなくてよかったです。精霊の力に無理に魔術で干渉すると、精霊の怒りを買う危険もありますから。これを解けるのは精霊自身。ですから王太子殿下を助けるためには精霊の力を借ります」


「何故あなたにはそれが分かるのですか」


「オルフの森にいた。それが答えにはなりませんか?」


「なるほど、爺と同じように精霊に認められた者なのですね」


「そのようなものです。それでは殿下にお願いがあるのですが、あちらの方角をしばらく散歩させていただけませんか?」


 ヒラが指さす方向、白く塗られた壁に視線が集まる。


「あの壁の向こうは廊下、その奥は奥庭になる。だが、奥庭は王族の者しか入れぬ場所です」


「そうですか。それではそのお庭をぜひ拝見させてください」


 ヒラの答えに王子の柳眉が微かにあがる。


「それは必要なことなのですか」


「ええ、そして一つお願いが。庭を歩く時は私一人で、誰も立ち入らぬようお命じください」


「……わかった。だがもうすぐ日が落ちる。あまり時間は差し上げれません」


「ありがとうございます。あ、このまま直接向かいますので案内は不要です。出来るだけ早く戻りますのでこちらでお待ちください。では失礼。シ・ポーツ<転移>」


小さくおじぎをしたヒラは、短く術言を唱えると皆の目の前で忽然と姿を消した。


「バートラム殿、魔術は杖がなくても使えるものなのです?」


「いえ、殿下。通常は魔力を発現するための魔具が必要です。杖でなければ別の形態のものを持っているのでしょう」


「そうだな。だがあるいは……。あの弟子も、カザンと同じく規格外なのかもしれませんね」


※サズリーの言葉遣いが途中おかしかったので直しました。12.1.28

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ