重み
完全に事実とリンクさせられないので、少し事実をいじっています。が、ほぼ実話です。
今から約17年前、大阪にある特別養護老人ホームでおばあちゃんが一人亡くなった。
年寄りだから、死んでしまっても仕方ないと考える人も多いだろう。
しかしながら、このおばあちゃん、寿命で亡くなったのではなく自殺でこの世を去ったのだった。
大阪府某市に今でも存在するその老人ホーム。大阪市立の老人ホームなのだが、そこの中で事件は起こった。
当時はまだ、介護保険制度が導入されておらず、措置制度という高齢者にとっては、肩身の狭い福祉情勢だった。
ある日、介護士の一人がベランダを歩くそのおばあちゃんを発見した。
ここの老人ホームは、ある程度自由なプライベートスペースを提供していた為、特に不思議な風景ではなかったが、その介護士はそのおばあちゃんが気になり、後を尾行してみた。
すると、おばあちゃんはフラフラした足取りでベランダを歩いていたと思うと、突然いつも枕元に置いてあった裁縫箱を床に置いて、その上に上るとベランダのコンクリートの壁を登ろうとした。
介護士は、危険を察知しすぐさまおばあちゃんを抱えると、部屋の中へ連れ戻し、他の介護士に状況を伝えると、ベランダへと通じる全ての窓の施錠が終わるまで、おばあちゃんと食堂で話をし続けた。
数日後、夕食時に危険行動をしたおばあちゃんの姿が見えないと、数名の介護士達が騒ぎ出し、施設内でおばあちゃんを探した。
おばあちゃんは、トイレにいた。介護士が見た光景は、今から漂白剤を飲もうとしているおばあちゃんの姿だった。
介護士達は慌てて、おばあちゃんを食堂に連れ戻し、洗剤や飲食禁止の薬剤を年寄りの手の届かないところへ収納した。
それから数日間は、おばあちゃんが危険な事をせずに、時間が流れていった。
そして、介護士達が忘れた頃に事件は起こった。
夜勤巡視中の介護士が、そのおばあちゃんの部屋へと入った時、おばあちゃんがベッドの上にいない事に気が付いた。
夜勤介護士2人は、必死になっておばあちゃんを探した。そして見付けた。
いなくなったと思っていた部屋の、おばあちゃんが寝ていたベッドの横で、ベッド柵で首を吊っているのを。
首吊りの道具は、おばあちゃんの寝巻の腰巻きだった。
おばあちゃんは、以前から鬱を患っていたが、自殺の早期発見や未遂が多かった為に、介護士達に油断が生まれていた。
もしこの時、おばあちゃんの気分転換に外の散歩や、実家への外泊という手立てを講じていれば、このような事態は避けられたのではないかと考察する。
危険があれば、閉じ込め行き場を無くせば、それで良いのか。
現在の介護保険制度になっても、高齢者の自殺件数が減る事はない。
福祉に従事する者・これから福祉に従事する可能性のある者に、少しでも深く考えてもらいたい課題である。
高齢者になっても、命の尊厳・命の重さは変わらない筈なのだから……。