二話 着任
二話
2-1 近衛軍令部
帝都に駐留する近衛第二師団の最大の役割とは言わずもがな、国主である天帝の護衛、ひいては帝都の防衛である。
しかし、現在神州は対外的に戦争行動を起こしているわけでもなければ今のところ起こる予定も起こすつもりない。
つまり、近衛軍は突如として内乱、クーデターが起こるような驚天動地でもなければ戦争屋としての仕事があるはずもなかった。
しかし、当たり前であるが戦争があろうとなかろうと軍には仕事がある。兵卒は訓練を行うし帝都の治安維持活動も行う。警察や消防の手に余る事件、災害が起これば救助にだって向かう。万単位の人間が無駄飯を食らっているのを許す程国も国民も甘いはずもない。
専ら、直近で帝都の近衛第二師団の上層部を悩ませているのが治安維持活動での出動の多さであった。
ここ四半世紀の帝都の発展は誰もが目を見張る程目覚ましいものであるが、それに比例して帝都における犯罪率も急上昇している。
急激な経済成長の影響で市民の貧富の格差が広がった為という事もあるが、それだけであるならばまだそれは警察の領分であり、よほどの事が無ければ軍が出張ると言った事態が起こるものでもない。
しかし、実際にこれらの犯罪に近衛が警察に動員を要請される頻度は間違いなく増え続けており、軍としても要請を頭ごなしに突っぱねる事が出来ないのもまた事実であった。
その背景には帝都において異能を用いた犯罪者が急増している現実がある。と言うよりは、異能を扱う神術師の数が近代化以前に比べて爆発的に増加しているというべきか。
神州の近代化は国土全体に多くの恩恵をもたらした。それは経済的な富という面も大きいが、最も効果の高いものを挙げるならばそれは教育水準の向上だろう。
近代国家にとって国民全体の知識水準の向上は第一の命題と言える。
旧来の君主制では高度な教育を一部の上級階級で独占し、下級階層の知識水準を意図的に制限することで台頭を抑止し、その権力を維持する土台としていた。
しかし、科学文明の急速な発達は国家の産業能力が著しく向上させ、それに比例して下級階層とされた人々の生活水準が改善され中級階層とも呼べる人々が激増し、経済的に生まれた余裕は知識の水準の向上を促した。これにより従来絶対の権力を持っていた君主を脅かすまでに成長し、世界規模で旧体制である王制の打倒、または形骸化を招く。
現在、多くの国家では絶対の権力者ではなく、ありふれた民衆の総意こそが最も力を持つに至っている。
そして、民衆の持つ最も大きな力とは数である。経済、社会基盤を直接支える個人では取るに足らない発言力、経済力、生産能力が群れを成すことで民意となり、国家を支える土台を形作る。
であれば、当然国家の産業、経済能力を直接形作る多くの民衆の教育水準が国家全体の国力増大への最大の近道となるのは当然の帰結と言えるだろう。
ただ、この國では教育の普及が別の問題を生んだ。いや、生んでいると推測されている。
現在、神州においても広い範囲で教育を普及させ国民全体の知識水準を高める政策が積極的に行われているが、今問題となっている神術師の爆発的な増加の最大の要因は教育を行うという行為そのものにあると考えられている。
元来、『異能』とは力の大小に関わらず全ての人類が潜在的に持っているものである。教育による知識水準の向上が、これまでは潜在的に眠らせたままで終わっていた多くの者達の精神に影響を与え『異能』を喚起させる起爆剤となったのではないかと言うのが現在の通説とされている。
この考えを裏打ちするのが、近年増加する神術師の多くが正五位(国際基準D+)以下の者達であり、その割合の多くが若年層を占められるという事実である。
神州では高位の神術師を国家で厳重に管理し、その行動を制限するという施策が近代化以前から取られていたが、何かしら特殊、あるいは危険な『異能』を認められない限り、低位の者に対して適用される例は少なかった。
これは従六位、正六位(E-~E+)の神術師の用いる『異能』が実生活においても利用出来るかどうか怪しい程度であり、取るに足らないと判断されていたからである。そしてその認識については正しいと言えた。
従五位、正五位(D-~D+)になるとある程度能力の悪用を危険視されていたが、そもそもこの位階の保有者となると絶対数が極端に少なく、また社会的にも目立ち必然的にその行動は制限される。そのため高位に比べ国家から受ける制限は軽いものに留められ、有事においても事後対処でどうとでもなる範囲の認識であり、実際に大きな問題となった例は殆ど見受けられなかった。
現在、主に帝都で問題とされている神術師による犯罪の多くが正六位(E+)以下の低位によるものであり、それらは集団で行われることが殆どである。
また、逮捕者からの尋問、警察や軍での調査によりそれらの犯罪を犯す者達がより高位の神術師によって統率されたいくつかの組織に属しているという調査結果が得られていた。
現在判明している内では従四位(C-)あるいはそれ以上に相当すると考えられる神術師も確認されており、携行銃器程度の武装しか許されない警察機関でそれらの対処を完全に行う事は困難であると考えられる。
その事実を除いても、低位とはいえ複数の神術師が各々の特性を補完し異能の非力を補って活動するという彼らの行動方針は厄介極まりない。
これらの異能犯罪に対し、警察機関の上層部は半ばこの問題に対する対処を投げ出している節があった。ただ、現状では対処しようにも逆に被害を拡大させる事態のほうが多いため彼らの怠慢のみが原因であると言い切ることも出来ない。
そのため、より神術師に対しての制圧能力を持ち、また神術師自体を多く擁する近衛軍に問題の対処を要請されたのは至極当然の事実と言える。
これらの情報の詳細が記された報告書を流し見し、近衛の軍装に身を包んだその人間は自身の座る席の上に山と積まれた書類の山を一瞥して溜息をついた。
『御親領衛本部』と表札が掲げられた部屋の中である。
「……要は、増長したガキが馬鹿を集めて猿山の大将ごっこって訳だ」
つまらなそうに呟き、手にした報告書を無造作に机に投げ、別の書類を手に取ってまた流し見る。
「……補充要員の件?あぁ、そういえば厳志郎に使えそうな駒があれば寄越せと言っておいたな。しかし、あの妖怪が素直に話を聞くとは珍しい事もあるものだ」
心底意外、と言った様子で書面を眺め、書類を再び投げた。
そして眼前の書類の山を見上げ、先程よりも一際大きい溜息を洩らした。
まるで塔のように積まれた紙の山脈とも呼べる光景は、いくら処理せども時が経つごとに高さを増す一方である。
一体どれほど時間を掛ければこの山は自身の目の前から姿を消すだろうか。いや、どれだけかけようと処理する前にさらなる高さが積まれていくのだから終わりなどあるまい。
いっそ纏めて火にくべてやりたいとすら思う。これだけの量ならばさぞ盛大な薪となるだろうと、下らない事を考えてかぶりを振った。
「……ままならんものだな」
現実逃避している暇があるなら少しでも山を切り崩す努力に費やしたほうが有意義であることは理解していたが、見ただけで胸焼けを起こしそうな書類の山を目に入れるだけで呼び起こる辟易とした気分を拭い去る事が出来ないのだった。
2-2 近衛御親領衛特殊神術隊
近衛軍令部は帝都の中心地にして最も栄える市街地を抜けた先、神州の国主である天帝の住まう皇居に隣接しようかという場所に設置されている。
初めて近衛軍令部を目にすることとなる紺野であるが、内心驚嘆の念を禁じえなかった。
いや、天帝の住まう帝都の防衛を担う組織の本拠である以上、想像は出来た事だが予想以上だったというべきか。
建造物そのものについては紺野が知る他の軍事施設の作りと大差はない、何ら変哲のないものである。
しかし、中身が決定的に違う。先ず最初に建物内に無数に設置された外象術式で稼働する方式の対神術防衛機構が目についた。外象術式とは異能の力を行使できる者が術者の任意の現象を発顕させるために、術者の体外に術式を展開させ行使する技法の事である。
その対義は内示術式と呼ばれ、神術師と言われる殆どの者とってはこちらの方が馴染みが深いだろう。その理由として、
一般的に、神術師とは術者の持つ魂の性質を発顕させる術式を術者自身の内部で構築し、その性質を術者の肉体に作用させる、或いはその性質を外部に転写させることで現象として展開させる者の事を言う。
内示術式の利点は術者が元々持つ性質自体を術者自身の内部で発生させる為、外象術式に対して術者にかかる負担が少なく、術式構成に要する時間が限りなく零に近い。また、術式の展開自体には訓練を必要としない点だろう
欠点として、内示術式では術者自身の魂の性質しか構築することが出来ない為。術者の性質を反映した現象しか起こせない事である。
外象術式の利点は先程も述べたように術者が起こす現象を任意で操作できる点、そして術式自体を術者の外部に展開できる事にある。
これは、外象術式に長けた者であるなら術式の構築をある程度共有する事が出来、複数間での異能の行使を可能とする。
ただし、術式の構成を術者の体外で行うため構築にかかる時間が長くなり、起こす現象の強度は外部の環境に左右されやすい。また内示術式に比べて燃費も悪くなる
また、扱うためには長期間にわたり特殊な訓練を必要とするため習得が比較的困難であり、この技法を熟練と言えるほどに得意とする神術師は少ない
習得する為の適正自体は殆どの神術師が持つものの、欠点もまた大きい為使い手が極端に少ないのが外象術式の最大の欠点といえる
軍令内部に設置されている外象術式の防衛機構は、その欠点を補うために術式展開の補助と増幅を行う構造になっており、広範囲の防護結界の展開や機械式の防衛機構との連携作動など、内示術式では再現が困難とされる現象を行う為の装置である
軍事施設ならば大抵の場所で見受けられる普遍的な機構であるが、紺野が知る限り、これほど桁違いの数を備える場所は見たことが無かった。
今、紺野の目に見えるだけの防衛機構の動作を行うだけでも外象術式を扱える神術師が相当数必要なはずであり、施設全体にあるであろうこれらの防衛機構を全て動作させるために掛かる人員は見当もつかない。
これに加えて機械式の防衛機構、そして人的な防衛が加わるのである。想定される戦力は如何ほどの物か、紺野には想像出来なかった。
「近衛第二師団は技研の神術応用技術が優先的に配備されています。神術技術はまだ発展途上で軍においての信頼性が疑問視されていますから、他軍より神術師の比率が多い近衛が試験運用を行う場合が殆どです」
と、歩みながら羽場桐が説明する。
「機械技術においても一部の先進技術が試験配備されています。例えば―――」
そう言って羽場桐が目を向けるのは軍令部玄関の受付である。
釣られて目を向けた紺野が見たのは受付の事務員が操る情報端末だった。
羽場桐は受付まで進むと事務員に取り出した書類を手渡す。
「この方に入館証の発行をお願いします。権限は限定二種、重要事項ですので情報の管理は甲種指定での管理を」
「了解しました。権限付与期限はいつまでに?」
「追って正式な通達が降りるでしょうから本日のみで、本日中に通達が無い場合は御親領衛本部に問い合わせて下さい」
「了解です。……少々お待ちください」
羽場桐との遣り取りを終えた事務員は書類を見ながら端末に情報を打ち込んでいく。
「情報端末は神州でもまだ開発されて間もない技術ですがこのように近衛の一部でも試験運用されていて、概ね良好な結果が得られています。そう遠く無い内に他の軍、民間でも導入が進むでしょうね」
「……そのような技術が開発されていることは聞いていましたが、実際には見るのは私も初めてですね」
初めて見た、という紺野の言葉には語弊がある。しかしそれは彼自身が情報端末を扱えるという意味ではなく、軍での運用という意味では事実初見である。
彼は文字通り見たことがあると言うだけで、理解の無い機器に対して知ったような発言をするのは野暮と言うものであろうと考えただけに過ぎなく、その言葉に深い意味があるわけではなかった。
「こちらが入館証になります。入館証の所持を確認出来ない場合、一時的に身柄を拘束される場合もありますので注意を。また紛失した場合は出来るだけ早く受付に問い合わせをお願いします」
「分かりました。感謝します」
発行された入館証を受け取り受付を後にした紺野と羽場桐は軍令部の奥に進んでゆく。
二人以外に通路を歩く人間が殆ど見受けられないため紺野の耳には反響する足音がやけに大きく聞こえたが、殆どの職員が勤務時間中であるという事と、元々軍令部への来客が少ないという事を考えれば当然と言える。
受付から歩いて数分、『御親領衛本部』という表札の掲げられた他に比べ些か作りの重い扉の前で羽場桐が足を止め、紺野もそれに倣った。
羽場桐が扉をノックする。
「羽場桐中尉です。転属者の応対につき入室の許可を願います」
羽場桐の声の後に数秒の沈黙があり、扉の中から声が返された。
「入れ」
返された声色に紺野が僅かに眉を顰めた。それが女性の声のように聞こえたからであるが、それ自体は大した問題ではなかった。この國で女の軍属はそう珍しいものではない。だがそれ以上に―――
「どうぞ、紺野少尉」
考える間もなく羽場桐に入室を促され、紺野は余計な考えを捨て扉を開き入室する。
「失礼します」
「ようこそ帝都へ。近衛御親領衛の長を務める硯荒臣だ。階級は、少将をやらせて貰っている」
流石に紺野も驚きを隠す事が出来ず息を呑んだ。
「…………」
なぜなら、今彼の目の前にいるのはどう見積もっても十代半ばの少女とも言うべき人間であったからである。そればかりかその少女は近衛御親領衛隊なる隊の長であると言うばかりか、自身を遥かに上回る階級である将官であると言う。
そして硯荒臣なるなんとも大仰な名前もそれに拍車をかけた
大概の事には動じない自信を紺野は持っていたが、それでもこの光景ばかりは悪い冗談にしか思えない。
艶やかな黒髪を首のあたりで一つに束ね、三つ編みにして下ろす様は少女の年若さを余計に感じさせる。
それは彼女の異様に整った顔の作りと相まって、身に纏う軍装さえなければどこぞ名家の令嬢とも思わせるものだった。
そして、彼が今まで見た事が無い黒に近しい程深い赤色の瞳が、少女の容姿に反して不気味さを際立たせている。
「……ああ、そういう反応は慣れている。『子供』が軍属なのは珍しいかね、少尉?」
「……はっ!失礼しました少将閣下。本官は本日南都海軍軍令より転属しました紺野健太郎少尉であります」
精神的に虚を突かれる事となった言葉は取り繕うような形となり、紺野は心胆を冷やす。紛れもない失態である。
しかし硯は特に気にした様子でもなく、淡々と言葉を続けた。
「遠路ご苦労だった紺野少尉。早速で悪いが、貴官はこの近衛御親領衛に所属してもらうことになる。……一つ質問だが、君は御親領衛がいかなる部隊か知っているか?」
「いえ、知りません」
紺野は質問に簡潔に答える。事実、聞いたことも無い名であるため答えようがない。
硯は紺野の答えに満足したように頷き、言葉を続ける。
「だろうな。御親領衛は、帝都そして天帝陛下の御身を守るために高位階、基本的には正四位(国際基準C+)以上の神術師のみで編成される極少数の神術部隊、現在の隊員数は君を含め12名と非常に小規模な部隊だ」
硯の言う事は至極当然と言えるだろう。長い歴史を持つ神州の歴史においても高位階の神術師は数える程しか確認されていない。明確な数字が出ているわけではないが、従四位、正四位の神術師においても国民百万人に対して一人いるかどうかと言うほど希少な存在だからである。紺野を驚愕させるのはむしろそれらの位階を凌ぐ神術師が12人同じ場所に集められているという事実の方だった。
「が、高位の神術師とはそこらの兵と比較にならぬ個人能力を持ち、また利用価値を持つ者達である。と……今更言われる事でも無いと言いたいかもしれないが、まあ、前置きと言う奴だ」
紺野の心情を他所に硯の言葉は続く。
「御親領衛隊に所属する神術師一人の価値は、……どこの馬鹿が言い出したかは知らんが兵千人に匹敵すると言われている。所謂一騎当千と言う奴だな。つまり栄えある我が隊員達には一万ニ千人分の仕事を求められているという事になる」
如何に個人の力が強かろうとそれは人数の差を覆す理論には直結するわけではない。強い力を持つ個人にしか出来ない仕事があるようにまた、数が多くなければ出来ない事も数多く存在する。軍がその典型だと言えるだろう。
「まぁ、そういう建前なのだがな。実際の所は特殊な個性に尖り過ぎて軍にも持て余されている嫌いがある。雑務を除けば有事を除いて特定の仕事があるわけでもない、いわゆる窓際部署という奴だな」
さらりと、硯はとんでも無いことを口走った気がするが、紺野は空耳だったと思うことにした。
「しかし、君も聞き及んでいるだろうが近頃帝都を中心に統制から離れた所為野良の神術師が幅を利かせていてな、警察では収拾を付けられないと泣きつかれ、軍にその対処が求められている由々しき事態になっている」
治安悪化は近年社会問題として取沙汰される為紺野も当然認識していたが、それなりの規模で軍の動員が行われている事については初耳であった。
「しかし馬鹿も馬鹿なりに小賢しい所があってな、表で騒ぐ有象無象は容易く対処する事が出来るがそいつらを束ねる神術師の所在が中々掴めん。つまり根の部分を絶やす事が出来んといった状況だな」
実に下らない、そう言った表情で硯はかぶりを振る。そして机の上に山積みされた書類の山に視線を向けつつ。
「そういう訳で、この窓際部署にもそのお鉢が回って来た」
これが本題であると、硯は紺野を見据え、そう言う。
「今、我々に求められている仕事はこの根の部分を特定し、それを適切に処理する一点だ。表に出る馬鹿は軍と警察機関でどうとでも対処できるからな」
ここまで言われれば紺野にも話が見えてくる。つまりは、
「だが、それらの根絶となると、軍でも無視できない被害を出す厄介な神術師が出てくる可能性があると指摘されている」
警察以上に武装する軍でも手を焼く位階の神術師の対応、それを大規模な軍事行動が取れない市街地において対処、というならば答えは一つしかない
「そこで、無駄飯食らいかつ高位の神術師を擁する我々の出番と言う訳だ」
だろうな、と紺野は思う。神術師に対するならばより上位の神術師を以て制圧する。単純ではあるが最も効果的、かつ簡単な方法であろう。
「それにあたりやはり人員の不足が指摘されてな。軍の上層に人員補充の要請を行ったのだが、あまり芳しい結果ではなかった。が、まぁ当然だな」
何処も同じような文句で無碍なく断られたよ。海軍を除けば、と硯は言う
「と言う訳で増員された要員は君一人だ。中々面倒な時期に呼んで悪かったとは思うが、まぁ犬にでも噛まれたと思って諦めてくれ。貴官の健闘を祈る」
「は、紺野少尉、全力を以て職務に当たります。……では失礼します」
大分投げやりな上官の激励に、紺野は義務的な対応に努め、退室しようとする。
「……ああ、そうだ。ちょっと待て」
その背中を硯が呼び止めた。
「詳しい事は羽場桐中尉にでも聞いてくれ。彼女も御親領衛の隊員だ」
「は、了解しました」
硯はひらひらと手を振り、投げやりな様子で紺野を見送った。
その様子に少なからぬ不安を紺野が覚えてしまうのも、やはり無理からぬ事であろう




