SF作家のアキバ事件簿247 初陣ヒロイン
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第247話「初陣ヒロイン」。さて、今回もアキバが未だ秋葉原だった頃のヲタクmeetsスーパーヒロインの物語です。
"リアルの裂け目"の影響で、腐女子が続々と超能力に覚醒する秋葉原。彼女らをつけ狙う謎の"種族"が現れ、腐女子が拉致され…ヒロインのデビュー戦!
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 妄想の恐怖
ペンライトの白い円が、闇を切り裂く。
「…っ」
真っ赤なメイド服の裾を掴み、
エアリは制御室に飛び込む。
アキバの地下には第3新東京電力の超高圧変電所がアル。
新潟にある原子力発電所からの電力を超高圧で受ける首都の重要インフラ…だが、完全に無人。
計器盤。
無数のメーター。
古い機械油の匂い。
「誰?」
床に、倒れているメイド服。
「…ティル?」
駆け寄る。
「ティル! なんてこと…!」
ペンライトが震える。
「大丈夫!? しっかりして、お願い…!」
青白い肌。
体中に残る、無数の痣。
明らかに…暴行を受けた痕跡。
「ティル…」
その時。
「…エアリ?」
かすれた声。
「ティル!」
エアリは膝をつき、彼女の肩を抱く。
「目、開けて!良かった…」
「ここ…どこ…」
「ソレ、後で良いから」
エアリは瞬時にさえぎる。
「今は、逃げましょ」
ティルの身体を抱き上げる。
「一緒に、ココから出るのょ」
階段。
錆びた金属音。
二人は、ヨロメキながら上っていく。
「…ねえ」
エアリはティルの耳元でささやく。
「歩ける…?」
「大丈夫」
エアリは歯を食いしばる。
「私が支える」
背後。
…気配w
何かが、確実に追って来る。
足音はしない。
だが、気配だけがアル。
エアリはティルを肩に担ぐ。
破れた青いジーンズの裾が揺れる。
「こっちよ!」
息が荒い。
「私達、絶対に助かるから!」
変電所の上階。
濡れた床。
反射する非常灯。
計器盤の並ぶ制御室に2人は滑り込む。
「はあ…っ」
扉を閉める。
重い音。
「…」
一瞬の静寂。
エアリはティルを床に下ろし、抱き寄せる。
「ねえ…」
声が震える。
「お願いだから…死んだりしちゃ、イヤょ」
額を重ねる。
「死んじゃ、だめ!」
その時…
光。
閉じたハズの扉の向こうから、
白く、冷たい光が溢れ出す。
「…?」
エアリは、ゆっくり立ち上がる。
ティルをかばう位置に立つ。
カチリ。
錠前が、目の前で外れて逝く。
「そんな…」
扉が、開いていく。
光の奔流が制御室に流れ込む。
計器盤が、同時に唸りを上げる。
エアリは、目を見張る。
「…貴女なの?」
光の中心に、
輪郭がある。
「エアリ」
名を呼ばれる。
それは…
決して、聞き間違えるハズのナイ声だった。
第2章 サプライズパーティ
2時間前。
真っ赤なメイド服のエアリが、御屋敷の扉を開ける。中は真っ暗だ。
「……?」
1歩、足を踏み入れた瞬間…
「おめでとう!!」
照明が一斉に灯り、紙吹雪が舞う。目の前にメイド仲間や友人たちの笑顔がズラリと並ぶ。
「みんな!? もう…ビックリさせないでよ!」
エアリは、笑いながら全員とハグ。
御屋敷の中は、完全にサプライズパーティ仕様だ。ピンクのリボン、バルーン、煌びやかな装飾。
「驚かすなんてヒドいわ」
「全部ミユリ姉様の仕込みよ」
なぜか得意げなスピア。
「あんなコトがあった直後に、よくこんなコト思いつくわね」
スピアとハグしながら、エアリは小声でボソリ。
「だって、エアリのお誕生日でしょ」
「もう、信じられない…」
「せいぜい驚いてあげて!」
スピアが肩をすくめる。
「ミユリ姉様、貴女に気づかれないよう必死だったンだから」
「ええ。もう十分過ぎるほど驚いたわ」
「マジ?」
「マジ」
ふと、エアリは辺りを見回す。
「そういえば、ミユリ姉様は?…あとテリィたんも(呼ぶ順が逆だw)?」
「ミユリ姉様は、お仕事で少し遅れてる。テリィたんは…ドレスアップ中」
またまた得意げに続けるスピア。
「2人とも、すぐ来るわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤード。コニィがトレイの上にギッシリ載せた空のグラスに手をかざす。
すると、グラスは次々とコーラで満たされて逝く。
トレイを持ち、ホールに出るコニィ。
「エアリ。お誕生日おめでとう」
コニィがトレイを差し出す。エアリは満面の笑顔でコーラを受け取る。
「ありがとう!」
「それにしても…真っ赤なメイド服」
相棒メイドのマリレが目を細める。
「ホントはサプライズパーティがあるって、気づいてたんじゃない?」
「違うわよ」
エアリは首を振る。
「実は…別の約束があったの」
そのとき、御屋敷の入口が開く。
新たに御帰宅してきたのは、インディ・ジョーンズばりの雰囲気をまとったイケメン地質学者。
なんと、腕には紫の薔薇の花束。
「エアリ、遅くなってごめん。まさか、こんな素敵なパーティがあるなんてね」
「まぁ…!」
エアリの顔がぱっと輝く。
「"カイロの紫の薔薇"ね?私、大好きなの」
「知ってる」
異議を挟むスピア。
「紫の薔薇なんて存在しないわ。造花?」
「違うわ。本物よ」
エアリは花弁に触れる。
「とても珍しくて…とても高価なの」
「しかし、こんなパーティ、羨ましいな」
学者が苦笑する。どこまでも爽やかだ。
「あら、貴方のお誕生日は?」
「12月7日です」
「…何年生まれ?」
「勘弁してあげて、元カノ会長」
突っ込むスピアを諫めるエアリ。
その瞬間、エアリの視線が止まる。
「…嫌だわ」
「?」
「首…血が出てる」
「血?」
学者は首筋に触れ、指先を見つめる。
「今日、谷で足を滑らせてね。多分その時にこしらえた傷のようだ」
エアリがハンカチを取り出す。
「拭いてあげるわ」
ハンカチが血に触れた瞬間…
エアリの脳裏に、断片的な映像が走る。
光の洪水、倒れる誰か、開く扉…
ソレに気づいたのは、ラギィだけだ。あ、ラギィは万世橋の敏腕警部だ。
前任地では"新橋鮫"と呼ばれ、その筋から恐れられてて…そして、僕の元カノw
「…エアリ?」
「いいえ。なんでもないわ…」
割り込むイケメン地質学者。
「こんな素敵なパーティがあるのなら、今宵のお誕生日デートはお預けだね」
「ごめんなさい。パーティを楽しんでいって」
「いや。僕も研究所に標本を届けなくちゃいけないンだ。また電話するよ」
片手を上げ学者は去る。マジ爽やかw
「今宵は何も言わないけど」
ラギィはエアリにドリンクを差し出す。
「どういうお付き合いなのか、近いうちに少し聞かせてね」
エアリは、ふっと息を吐く。
その横で、コニィが鋭い視線を向けている。
上目遣いで、何かを測るように。
その瞬間。
再び、エアリはフラッシュバック。
「…っ」
エアリの手からグラスが滑り落ち、床で砕け散る。
「あら、イヤだわ…」
しゃがみ込もうとするエアリ。駆け寄るコニィ。
「大丈夫?」
「大丈夫ょ。私が片付けるわ」
「ダメ。貴女は今宵の主役でしょ?」
割れたグラスの向こうで、
何かが、確実に近づいている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。議員控え室。
書類の山を前に、ミユリさんが軽快な音楽に合わせ貧乳ボディを揺らしながら秘書のお仕事中。
指先は正確、ステップは軽やか。
そこへ…扉が開く。
「あら」
議員が委員会から戻って来る。
「この音源、誰がかけたの?」
「デスクの上にあったので…つい」
ミユリはリモコンに手を伸ばす。
「すぐ元に戻しますね」
同時に、議員がさっと引き出しを閉め鍵をかける。
その仕草はあまりにも自然だ。
「いいのよ、別に」
議員は微笑む。
「それ、映画のサントラでしょう?」
「はい。大好きなんです」
「私の人生ソノモノって感じの映画なのよ」
「…言えてるカモです」
苦笑スル議員。
「まだ残業してくの?」
「この報告書だけ、今夜中に仕上げたくて」
「明日でいいわ。もう帰りなさい」
1拍置いて、議員は逝う。
「それに…この音源、コピーしてって」
「ホントですか?」
ミユリの顔が、ほんの少しだけ明るくなる。
「実は、今宵はパーティがあって…」
「パーティ?」
議員が興味深そうに首を傾げる。
ミユリは一瞬、言葉に詰まる。
「…うちの御屋敷で。ヲタ友のヲ誕生日パーティなんです」
「あら」
議員の目が輝く。
「国民的ヲタク、テリィたんが経営しているメイドカフェだったわね。確か貴女はメイド長で」
「え、ええ…」
「あのカフェ、とても有名ナンでしょ?」
「お陰様で」
次第に居心地が悪くなるミユリさん。
「テリィたんにお会い出来ないかしら?」
「い、いえ!」
ミユリは思わず声を上げる。
「今日は…いらっしゃらないと思います。たぶん」
「そうなの?」
議員は意味ありげに微笑む。
「でも、私も行ってみたいわ。有力な文化人とお近づきにもなりたいし」
「それは…良いコトかもしれませんが」
「じゃ私、お化粧を直してくるわね」
「はい」
議員が出て逝く。
静かになった控え室。
ミユリは深く息を吐く。
引き出しに近づき、ヘアクリップで鍵を外す。
中には、几帳面に並べられた紙のファイル。
中から《ミユリ》と描かれたファイルを取り出す。
音源はCDだ。
プレイヤーにセット。
《スピア、バイト中に映画は無理よ》
《病院行くって言って、仮病で休めば?》
《それじゃ意味ないでしょ》
スピアとの通話記録だ。盗聴されてる?
《そもそも彼とバッタリ会ったりしないように始めたバイトなのょ》
《彼、彼って》
スピアの声がからかうように続く。
《名前で呼んであげれば?》
ミユリさんは答えない。
バックにmellowなJAZZが流れる。
甘いメロディは、この夜が"ただのサプライズパーティ"では終わらないコトを予告スル。
第3章 バネサ議員の正体
エアリがホールへのドアを開けると、ラギィ警部が腕を組んで立っている。
どうやら立ち聞きしていたらしい。
「…人の話、聞いてたの?」
「彼に電話してたの?」
ほぼ同時。
「ただ花束のお礼を言っただけよ」
「お礼なら、さっき言ったでしょ?」
逃げ場のないエアリ。下を向く。
「みんな、彼を見て露骨に嫌な顔してたし」
「だって、呼んでない客だモノ」
ラギィの諭すような口調。
「私が呼んだの。私のお誕生日デートに」
「…もう2度と呼ばない方が…」
エアリが振り向く。
「ちょっと何? 命令するつもり?」
「部外者とは付き合わないで」
「そういう自分だって、テリィたんの元カノなんでしょ?」
ラギィの目が、少しだけ曇る。
「ソレ、昔の話だし」
「大違いよね」
エアリは微笑むが、声は鋭い。
「私は、ヲタクな元カレに"実は私、スーパーヒロインなの"なんて秘密を漏らしたりしないから」
「過ぎたコトでしょ?過去より未来を考えて」
「つまり?」
エアリが1歩踏み出す。
「ミユリ第3皇女サマの命令に従えってコト?そもそも、第3皇女って何?姉様だって、秋葉原じゃタダのメイド長でしょ?」
その瞬間。
エアリの視界が歪む。
頭を押さえ、よろめく。
「…っ」
「どうしたの?」
「頭痛が…」
エアリの両肩に手を置くラギィ。
「貴女、汗かいてるわ」
「大丈夫だから」
そこへ、勢いよく扉が開く。
「エアリ! ちょっと来て!」
スピアが顔を出す。
「神田消防署の人が消防検査に来てる!責任者を出せって」
「消防署?」
「抜き打ち検査だって」
口角泡を飛ばすスピア。完全に舞い上がってるw
「行ってきなさい」
ラギィがうながす。
「ミユリさんの不在時は、貴女がメイド長ょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
エアリがホールに戻ると、玄関が開く。
完全装備の消防士が、堂々と入って来る。
「火災の通報があった!火事はどこだ?」
ざわめく会場。
メイド達が道を空ける。
「…ほらね」
スピアがニヤリとする。
「消防署ょ」
次の瞬間。
消防士がヘルメットを外す…僕だw
「…え?」
どよめき。
1拍の沈黙。
「火事は何処だ?…あ。ココか」
僕は、エアリの顎に指を当てて顔を上げさせる。呆気にとられるエアリ…ショータイム!
音楽が鳴る。
どこかバカバカしいビート。
「安全確認、開始しまーす」
手袋を外す。
ジャケットのファスナーを、ゆっくり下ろす。
中から現れたのは鍛えられた上半身…の模型。
ライトが当たり、汗がきらりと光るスグレモノだ。
「きゃー!」
「ちょっと何コレ!」
歓声と笑いが爆発する。
「テリィたん?マジなの?」
「ソコまでヤル?」
僕は肩をすくめる。
シャツを放り投げ、腰をひねる。
完全に見せる動き。
「もっと見たいか?」
「ウソでしょ!?」
振り返り、エアリの前でピタリと止まる。
「特別点検、対象1名」
くるりと背を向け、
わざとらしく、お尻を突き出す。
「はい、異常なしっと」
自分でペンペン、と叩く。
大爆笑。
「バカ!」
「やめて!」
「最高!」
囃し立てる声。
手拍子。
完全なカオス。
エアリは腹を抱えて笑っている。
「テリィたん…もう、最悪!」
「お誕生日だからな!」
ライトの中、
僕は大きく両手を広げる。
パーティは、最高潮へ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。御屋敷のキッチン。
「そのケーキ、ひとりで焼いたの?」
背後から、声。
マリレが振り向くと、新入りメイドのコニィ。
「お菓子の鉄人が焼いたのよ」
少しだけ胸を張るマリレ。
「へぇ」
コニィはカウンターに肘をつく。
「ちゃんと卵、入れてくれた?」
「え。卵?」
マリレが目を丸くする。
「入れるの?」
「…知らなかったの?」
コニィはくすっと笑う。
「初めて作ったから」
「ソレはソレで可愛いわね」
そう言いながら、
コニィは指先でクリームをすくい味見。
「ちょっと!」
「良いでしょ?ケーキ焼いてくれる友達なんて、素敵だわ」
コニィはわざとらしく、唇を舐める。
「何、入れたの?」
「え。まぁいろいろ」
「…これ」
コニィの眉がわずかに動く。
「この刺激…タバスコ?」
「ダメかしら?」
不安そうに聞くマリレ。
「いいえ」
コニィは微笑む。
「刺激的。私は好きよ」
マリレが仕上げに入ろうとすると、
コニィが1歩、距離を詰める。
「ねぇ」
囁く声。
「今度、私にもケーキを焼いて」
「…関係ないでしょ?」
「あら、残念」
コニィは再びクリームを舐める。
今度は、ゆっくりと。指をしゃぶる…
「ケーキ、どう?」
突然、割り込むスピア。
「良い感じよ」
「じゃあ、あとはお願い」
生クリームのボウルを推しつけるマリレ。
ホールへ出て逝く。
入れ替わるように、スピアが詰め寄る。
「ちょっと」
低い声。
「マリレに色目、使わないで」
「色目?」
コニィは首を傾げる。
「このケーキ、誰のため?」
「お誕生日のエアリのために決まってるでしょ」
「…他の女、よね?」
一瞬、空気が張りつめる。その時…
「いやぁ助かった助かった」
ストリッパー姿の僕が、キッチンに顔を出す。
「ミユリさんに頼まれたとはいえさ、僕にストリッパーは無理だって。外形的に許されないし」
指を舐め続けるコニィ。睨むスピア。
「…」
「ねぇ、はっきり言うけど」
スピアがスゴむ。
「マリレは、私のものよ」
「あら。名札がついてなかったわ」
コニィは微笑んだママ。
「なら、もっとよく見るのね」
「おいおい」
僕が手を振る。
「止め役の君達がココにいたから、
危うく全裸まで逝くトコロだったぞ?」
「うるさい!」
スピアが怒鳴る。
「どうせ"ちょっと"見えただけでしょ!」
「え?」
僕、固まる。
「…見えた?」
「ニセ消防士のくせにホースはご立派」
コニィが鼻で笑う。
「フォースだょジェダイだ」
僕は胸を張る。
「この消防士のコスプレも結構したんだ。
この…」
一瞬、言葉を選ぶ。
「Tバックの食い込み感とか、分かるか?」
メイド2人は即答だw
「知ってるわよ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「聞いてくれよ」
パーティは続く。盛り上がるカレル。
「そこら中にブラやパンティが脱ぎ散らかしてあるんだぞ?
毎朝、歯を磨きに行く度に心臓がバクバクで口から飛び出そうになる!」
「…ソレが嫌なの?」
マリレが呆れたように聞く。
「ティルはどこ?」
パーティの主役、エアリが遮る。
「さっき、買い物に行ったよ。君へのプレゼントを買いにさ」
カレルは肩をすくめる。
「でもさ、もうモニターも乗っ取られててさ。
トイレ行く度に"便座が上がりっぱなし"だって文句を言われるんだぜ?」
どこか誇らしげだ。コレは…同棲自慢?
「話があるの」
ラギィが、僕の前に立つ。
「俺はナイな」
「頼みたいコトがアルの」
その筋から"新橋鮫"と恐れられる万世橋の敏腕警部が妙にしおらしい。まぁ元カノだしな。
「いつも僕の意見なんて聞かないくせに」
「エアリは、あの地質学者…グラソ・レソンと付き合う気よ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ボックス席にエアリを呼び込む。
「エアリ。多分ミユリさんも同じ意見だ」
僕はハッキリと宣告スル。
「あのインディ・ジョーンズは諦めてくれ」
「あら。テリィたんの命令に従う義理はないわ」
あっさり拒否権が発動されるw
「エアリ。私、今回はテリィたんの言葉が正しいと思うの」
マリレが珍しく援護射撃してくれる。
「何言ってるの?」
エアリが睨む。
「貴女、いつもテリィたんに反発してるクセに」
「今回は賛成ょ。悪い?」
「…ふーん」
エアリは笑う。
「誰とも付き合わず、ズッと1人でいろって?」
その瞬間。
エアリが頭を抱える。
「…っ」
「エアリ。どーかした?」
「ちょっと頭痛が…ねぇみんなは私に恋をするなって言うの?」
「私はしないわ」
マリレの即答に目を丸くするエアリ。
「冗談でしょ?」
「あの男は、貴女にふさわしくない」
「そうね」
エアリは、ボックス席から立ち上がる。
「この世界線では、私の相手は貴女だし」
沈黙。エアリは目を伏せる。
「でも、そんなコト、誰も望んでないって…お互い分かってるでしょ?」
再び、激しいフラッシュバック。
「エアリ!どうした!?」
僕が肩を支える。
「…大丈夫だから」
息を整えながら。
「ちょっと眩暈がしただけ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
バースデーケーキが完成する。
ディッシュアップカウンターで受け取り、ホールを振り返る僕。
次々とロウソクに火が灯る。
♪ ハッピーバースデートゥーユー ♪
誰からともなく歌い出す。
みんなの前に出るエアリ。愛想笑い。
その瞬間。
《エアリ…助けて》
エアリは声を聞く。
《お願い…》
みんなの歌声と拍手の中、
陽気な人混みをかき分けて…
血まみれのティルが、逃げてくる。
《助けて!》
エアリの視線が釘付けになる。
《早く…》
ホールでは無邪気な手拍子が続く。
誰も何も気づかない。
ただ1人。
コニィだけが、
エアリを横目で見て…不敵に笑う。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤード。
「血まみれのティルが、ひどい怪我をして泣きながら助けを求めてたの!」
エアリの声は震えている。
「マジかょ。誰か最後にティルを見たのは?」
僕が聞く。
「買い物に行くって出掛けたそうょ」
マリレも不安そうだ。
「ティルが…何者かに狙われてる?」
「拉致されたの?」
そこへ、ふらりと現れる新入りメイドのコニィ。
「ティルなんか、誰も狙わないわよ」
嘲るように。
「金髪なだけのダサい女。
今どき、あんなアイシャドーでモテるワケないし」
「貴女はケチャップを補充して」
スピアが低く言う。
「はいはい」
コニィはキッチンへ消える。
「早く探さなきゃ」
エアリが立ち上がる。
「先ず地質学者に当たってみよう」
僕の鋭い指摘。
「首に傷があった。爪で引っかかれたみたいな」
「待って。あの人は関係ナイわ」
再び指摘。マジ僕は鋭い。
「…ホントに、そう言い切れるのか?」
沈黙。
祝祭は終わり、追跡が始まる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「大変よ」
勢いよく扉が開き、ミユリさんが飛び込んでくる。
「ミユリさん。実はティルが行方不明なんだ」
「…え?」
空気が一段、冷える。スピアがはしゃぐ。
「姉様、チャンスよ。あ、ごめん」
「エアリが不吉な幻覚を見たの」
マリレは低く逝う。
「こっちも大変よ。議員が、私とスピアの通話を盗聴してたわ」
ミユリは肩をすくめる。
「どうしてだと思う?」
「まだスーパーヒロイン狩りを諦めてない、とか?」
「カモね。しかも今、カフェに来てるの」
エアリが露骨に顔をしかめる。
「…私のパーティに?」
「勝手についてきちゃって。正直、困ってるの」
そのとき、また扉が開く。
「まあ。パーティの主役が、バックヤードにいていいの?」
甘く、刺すような声。
コニィだ。
「ケチャップの補充をして」
スピアが即座に言う。
手で追い払う仕草。
「もう済んだわ」
「じゃ次は砂糖ね」
「はいはい」
コニィは一瞬だけエアリを見る。
値踏みするような視線。微笑。
それだけで空気がざわつく。
バックヤードへ消える足音。
「議員は、ティルの失踪と関係あるかも」
「マリレ。議員がパーティに来てる間に、オフィスを探ってきて」
「ROG、姉様」
僕も動く。
「僕はラギィに会って地質学者の件を聞く」
「私は?」
エアリが食い下がる。ミユリさん、即答。
「議員を、出来るだけココに引き止めて」
「私ひとりで?」
「ココは任せるわ。コレ、貴女のパーティだし」
「無理よ。ティルが助けを求めてるのは、私なのょ?」
ミユリさんは、命令口調だ。
「貴女はココにいて」
僕とマリレはお出掛け。
エアリは深呼吸して、パーティ会場へ戻る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
パーティ会場で人の輪が自然に割れる。
議員が、歩いてくるだけで。
「貴女が、この夜の中心?」
鋭い声。騒音の中でも、なぜかはっきり届く。
「エアリ。こちらが特別区議員のウテカさんよ」
「…はじめまして、議員。お会い出来て光栄ですわ」
握手。
指先が離れない。ほんの一拍、長い。
「緊張してる?」
微笑みながら、議員は囁く。
「いいえ」
「素敵。ウソが下手な人は嫌いじゃないわ」
議員の視線が、エアリの顔から首元、また目へ戻る。
値踏みではない。所有欲だ。
「予算案と深夜番組ばかりの夜はマジ退屈。でも、今宵は違うわ。理由は分かるかしら」
「…私がいるから?」
思わず口をついて出た言葉。
だが、議員は満足そうに笑う。
「聡明ね。そういう人は、危ない場所に連れて行きたくなるの」
1歩、距離を詰めてくる。
「安心して。ココは公の場だから」
「お手柔らかに」
「でもね。公の場"だからこそ"出来るコトもアルわ」
エアリの耳元に、声が落ちる。
「みんなに見られながら、特別扱いされるのは…嫌いじゃナイでしょ?」
言葉だけ。
触れない。
それが、余計に熱を生む。
「エアリ。素敵な名前ね。呼ぶ度に、秘密を共有してる気分になるわ」
その少し離れた場所。
グラスを磨きながら、コニィが2人を見ている。
微笑みはそのママ。
だが、目は笑っていない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「プレゼント、開けてみたら?」
スピアが笑顔で促す。
「議員も、ご一緒にいかがですか?」
「あら、私も?良いの?」
議員は一瞬だけエアリを見る。許可を求める視線。
「えー、それじゃあみんな集まって」
スピアが場を仕切る。
「エアリがプレゼントを開けるわよ。ほんと人気者ね。さあ、どれから?」
「…これ」
エアリは紫色の箱を選ぶ。
リボンをほどく。
中から、縄文人の人形。
「これ、誰から?」
ふっと笑う。
「可愛い。欲しかったのよね」
一瞬の沈黙。
コニィが、ジロリとエアリを見る。
「さ、次よ。これは、誰からかしら」
その瞬間。
エアリの視界が反転する。
横転、大破した車。
ガラスの破片が飛び散る。
血まみれで、立ち尽くすティル。
「…っ」
「どうしたの?」
スピアが覗き込む。
「さっきから、頭痛がして」
エアリはこめかみを押さえる。
「裏で薬、飲んでくるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
バックヤード。
荒い息。壁に手をつくエアリ。
「また、見えたのね?」
スピアが、ホボ同時に飛び込んで来る。
「スピア、車を貸して」
即答だ。
「ちょっと。前に貴女に貸したら、音波銃で撃たれてボコボコにされて帰って来たンだけど?」
「じゃ貴女が運転して」
「答えになってない。でも、どこへ?」
幻覚を思い出すエアリ。
「"正解だ"って看板が見えたの」
「"マチガイダ"じゃなくて?そんな看板、アキバにはないわ」
ミユリさんは首を振る。
「でも…」
エアリは顔を上げる。
「みんな、ティルを嫌ってる。でも私達、彼女に冷たくし過ぎたと思わない?」
「だって、信用できないんだもの」
スピアはむくれる。
「じゃ…私を信じて」
1拍。
スピアが息を吐く。
「その看板なら、見覚えあるわ」
「ダメよ」
ミユリさんが即座にさえぎる。
「テリィ様を待ちましょう」
「テリィたんは関係ナイ!姉様、ごめんなさい。もう待てないの」
エアリの声は震えていない。
「わかった。じゃ私も逝くわ」
「いいえ」
エアリは断固として首を振る。
「姉様は、この場をお願い」
視線が交わる。
覚悟だけが、残る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ティルの部屋。僕とラギィは無言で引き出しを開け、フロアを確かめる。
「ティルは…ずっと彼女にはナセラしかいなかった。寂しい逃避行だったンだ」
「今はテリィたんがいるって?」
元カノらしいツッコミだ。
「だから、エアリが初めて出来た親しい友達だ」
「テリィたんも、でしょ?」
しつこい。
「僕は、友達っていうより…事情が複雑で」
「迫られたとか?」
「まあ、そんなトコロだ」
ラギィは大きく溜め息をつく。
「面倒ね。マジ、私の元カレはモテモテだから」
「ラギィも経験あるだろ?」
「もちろん。夢の中だけど」
乾いた笑い声。
そのとき、ベッドサイド。
折り畳まれたメモ。
「…これ、見て。電話番号だわ」
即座にスマホを抜くラギィ。
「もしもし、万世橋警察署ですが。回線チェック中です」
『何かの調査ですか?』
「持ち主を確認しています。そちら、5555-01XX番ですか? 契約者名は?」
一瞬の間。
『…グレソ。地質学者です』
「グレソさん。ご協力、感謝します」
通話を切る。
「例のイケメン地質学者だ」
「嫌な一致ね」
ラギィと顔を見合わせる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
議員控室。マリレは、ペンライトを口にくわえ、引き出しを一つずつ確かめる。
デスクに座る。
書類。メモ。写真。コニィ。
「…やっぱり」
その瞬間、廊下の足音。
マリレは息を止め、書類を戻し、闇の中へ滑り込む。ドアが開く。議員の声。
何事もなかったかのように別の部屋へ抜け出すマリレ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
裏アキバ。万貫森のハズレ。
「"正解だ"…って、皮肉ね」
ネオンが瞬く。看板の下で車を停める。
「このネオンのコト?」
エアリは答えない。周囲を見回す。
「…見て」
声が低くなる。
「あれ、ティルの車よ」
2人は駆け寄る。
車は横転している。ドアは半開き。
「ティルは?」
「事故で投げ出されたとか?」
「違うわ」
「救急車で運ばれた?」
「ソレも違う」
エアリは、車体に残っていた頭巾みたいな形の白い皮膚を指でつまむ。
たちまち、粉になり風に飛ぶ頭巾。
「"頭巾ズ"だわ。ティルは拉致されたの?」
「地磁気が乱れてる。スマホが通じナイわ」
「タイヤの跡がアル。もう1台が近づいて…あっちへ走り去ってる」
暗闇を指差すエアリ。
「でも、あっちには何も…」
「とにかく追いましょう」
走り出すピンクのキューベルワーゲン。
「この車で、こんなに走らされるとはね」
「文句は後にして」
夜道はフェンスにさえぎられる。
急停止。
「…ココよ」
「なんで分かるの?」
「感じるの」
《超高圧変電プラント No.2》。フェンスにかかったプレートにそうある。
「単独行動は危険よ」
「じゃ早く姉様とテリィたんを呼んで来て」
「…分かった」
スピアはペンライトを渡す。
「ほら」
エアリはライトを受け取る。
スピアはピンクのキューベルに戻り闇に消える。
フェンスの破れ目から敷地に入るスピア。
真っ赤なメイド服で。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田リバー沿いにある古いモーテル。
ラギィ警部と僕が部屋に踏み込んだ瞬間、男が振り向く。その顔には、純粋に驚きだけがアル。
「アキバP.D.!」
ラギィの声が鋭く響く。
「動くな!」
拳銃。
男の胸元に一直線。
「な、な、なんだ!」
男は真っ直ぐ両手を上げる。
「おや?君達はサプライズパーティの時の…」
「ティルはどこ?」
間を詰めるラギィ。
「最後に会ったのはいつ? 正直に答えなさい」
「2人きりで会ったコトはナイ」
男…イケメン地質学者のグレソは淡々と語る。
「でも、ティルに電話しただろ?」
口を挟む僕。
「した」
「何の用だ?」
「エアリへのプレゼントの相談だ」
何だと?
「ティルは、何て答えた?」
「自分も買い物に行くってさ」
カレルの証言と一致スル。
「ティルは花束を勧めてくれたンだ。エアリは"カイロの紫の薔薇"って古い映画が好きだって」
1泊置き、ラギィは舌打ちして拳銃を下ろす。
「グレソさん。失礼しました」
「失礼しました?」
グレソの眉がピクリと動く。
「人の部屋に押し入って、拳銃を向けておいて。それで終わりですか?」
「ティルが行方不明なので」
ラギィは視線を逸らさない。
「なら、他を当たったらどうです?無実の人間の部屋じゃなくて」
グレソは冷ややかだ。
「それとも、万世橋警察署は一般人を脅して冤罪に追い込む趣味がおありかな?」
「我々は…」
「捜査令状は?」
言葉を遮られる。
「コレから取るトコロよ」
「ないなら、出て行ってください」
沈黙。
「ティルから連絡があったら、知らせて」
ラギィは最後に捨て台詞。
「分かりました」
グレソはソレ以上、何も逝わない。
遠く神田リバーの流れる音だけが残る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
パーツ通りの街灯の下。
メイド服のコニィがタバコをくわえる。
その瞬間、手が伸びる。
タバコは奪われ、地面に落ちて踏み消される。
「マリレ?…貴女、タバコが嫌いなの?」
コニィはヘラヘラ笑う。
「貴女、誰なの?」
マリレは1歩、距離を詰める。
「何?」
フランス人みたいに肩をスボめる。
「トボけないで!ドラッグでもやってるの?」
マリレはスマホ画像を突きつける。
「…どこで、コレを」
声が変わる。
コニィの表情が凍る。
「バネサ議員のオフィスに貴女のファイルがあった」
「…アンタには関係ナイわ」
立ち去ろうとした腕をマリレが掴む。
「説明してもらうわ」
「話す義理ナイし」
声が荒れる。
「あの女に弱味でも握られて、私達のコトを探っていたのでしょ?」
「あら。アンタ、そんなに大物なの?」
「フザけないで!」
マリレは腕を離さない。メイド vs メイド。
「なんで議員が、貴女の資料を持ってるの?なんで議員が秋葉原のメイドなんかを…」
コニィは、吐き捨てるように遮る。
「私が…彼女の義理の息子と寝てたからよ」
一瞬、沈黙。
「…義理の息子?」
「そう。薬で頭をやられてた」
コニィは夜を睨む。
「彼女は、警察にタレ込んだ。それで、私は2年間、蔵前橋の女子刑務所ょ」
笑う。乾いた声。
「あげく、彼にはもう会いませんと誓わされた。ソレでやっと自由になれたのに…」
コニィは追い詰められた鼠の目だ。
「それでも、未だに私を見張ってるワケね?天下の議員様は」
「…そうなの」
マリレは短く息を吐く。
「なるほどね。で、ソレだけ?」
「フザけないで!」
コニィが平手打ちを喰らわす。
マリレは胸倉を掴み返す。
その瞬間。
車のヘッドライトが二人を照らす。
「マリレ!」
ピンクのキューベルワーゲンのフロントガラスから身を乗り出すスピア。
「急いで! エアリが大変よ!」
マリレは舌打ちし、手を離す。
「…続きは後ょ」
マリレはキューベルワーゲンに乗り込む。
ライトが遠ざかり、
街灯の灯りだけが残る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
超高圧変電所の非常階段をペンライト一本で下る。
エアリは息を殺し、暗い廊下を進む。
コンクリートが湿っている。
鉄扉だ。
手をかざす。
鉄が音もなく溶ける。
丸く穴が開く。
その穴から腕を入れ、内側から鍵を探り当てる。
カチリ。
扉が開く。
「ティル!」
ライトが揺れる。
走る。探す。分岐。行き止まり。
女の、泣き声。
「…っ」
グレーチングの隙間を照らす。
下だ。
蹴る。
ハッチが開く。
フロアに横たわるメイド服のティル。
ピクピクと痙攣。生きてる?
「ティル…!」
膝をつき、抱き起こす。
「大丈夫。聞こえる?」
「…」
「可哀想に…さあ、起きて。しっかりして」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「なんで、エアリを1人で行かせたの?」
マリレが詰め寄る。
「止めたんだけど!」
「スピア、貴女のスマホを貸して」
マリレは息を整えない。
「先ず姉様。ソレからラギィ警部と…あとテリィたんも呼ばなきゃ」
僕は1番最後かょw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
超高圧変電所は現代の地下迷宮だ。
エアリはティルの肩を支える。
「大丈夫よ。今、助けてあげる」
「…」
「ココから逃げるの。頑張って」
不気味な物音。
金属が軋む音。
何かが、近づいて来る。
二人は走る。
暗闇。配管。回転スル警告灯。
「頑張って!」
エアリの声が、震える。
半開きの扉がアル。
飛び込む。
中は狭いが中央制御室だ。
青いタンクトップにジーンズのティルを支えるエアリ。
パーティ用の真っ赤なメイド服だ。ミニスカートは、半分ちぎれている。
扉を押さえる。
「ティル!お願い。死なないで」
錠前が光る。
外から、解除されていく。
エアリは、ティルの前に立つ。
彼女の盾になるように。
扉が、開く。
光の奔流が流れ込む。
白く、冷たい光。
そして、
その光と一緒に…何者かが入って来る。
エアリは、目を細める。
「貴女なの?」
第4章 ムーンライトセレナーダー初陣
「感動的だわ」
バネサ議員は静かに拍手する。
「何よ」
エアリは睨み返す。が、動揺は隠せない。
「まさか助けに来るのが貴女とはね」
バネサ議員の視線がティルを一瞥する。
「やはり人違いだった。私が探していたのは…その金髪でおバカな巨乳メイドじゃなかったわ」
「誰を探してたの?」
エアリは1歩も引かない。
「貴女よ」
バネサ議員は微笑む。
「"正しい世界線"の貴女とは、ずいぶん外見が違うけどね」
空気が冷える。
「メイド達の内、誰かが"ヴラン"だというコトは分かってた。でも、どーやら答えは最初から決まっていたようね」
「私達"覚醒"した腐女子に何の用なの?」
バネサ議員の声が低くなる。
「"裂け目"はどこ?」
「トンカツ?塩で食べると美味しいわ」
エアリは煙幕を張る。
議員は笑わない。
「私達が生き延びるためには"裂け目"が必要なの。人類のDNAを持たない私達は、外皮装甲しか生成できない。でも、外皮は剥がれ、寿命は50年。私達にはもう時間がないの」
「話がピーマンなんですけど」
話がピーマン?80年代女子かょ?
「"裂け目"を見つけなければならない。だから来た。私達には貴女が必要なの」
一瞬、バネサ議員の声が変わる。
甘えるような粘っこい声。
「ねぇ私達を助けてょ昔は助けてくれたじゃない」
「…ナセラを殺したのは、貴女なのね」
動じないエアリ。
「貴女を守るためよ」
議員は即答する。
「私を守る?誰から?」
「他のメイド達から。貴女"だけ"が、私達の仲間だった」
高笑いするバネサ。
「貴女、何も覚えていないのね。ならば、教えてあげるわ。"正しい世界線"の歴史を」
議員はエアリに近づく。
「貴女の名前はヴドラ。貴女は、今よりもずっと、美しかった。激しい恋に落ちて、恋人と種族のために全てを裏切ったの」
「そんな…ウソょ」
絶句するエアリ。
「第3皇女が、秋葉原のヲタクに骨抜きにされたようにね。全く種族の血は争えないわ」
議員の指が、エアリの頬に触れる。
「歴史は、繰り返されるの」
「…誰が信じるものですか!」
エアリはティルを抱き起こす。
「ティル、帰りましょう」
「待って。"裂け目"はどこ?」
バネサ議員が立ち塞がる。
エアリは答えない。
「そう?じゃ可哀想だけど」
議員が手を上げる。
衝撃波。
ティルの身体が吹っ飛び、壁に叩きつけられて、ボロ切れのように崩れ落ちる。
「やめて!」
エアリが叫ぶ。
再び衝撃波。今度は壁にメリ込むティル。
もう生きているのか死んでしまったのかもわからない。
「言いなさい。"裂け目"の在処を言わなければ、メイド4人全員を殺す」
エアリはティルを壁から剥がし、肩に担いで走る。
近くの窓を割って闇の中へジャンプ!
地上施設の芝生の上に転がり出る。
議員が追いつく。近くに架設されていた超高圧ケーブルを引き千切る。
「"裂け目"はどこ?」
超高圧ケーブルから花火のような火花が噴き出る。
「来ないで!」
エアリはティルを庇う。
その瞬間…
紫の光。
エアリの肩越しに飛んだ紫の光が、超高圧ケーブルが噴く火花を空中で推し返す。
ソレは熱ではない。圧だ。
バネサ議員の顔に驚愕が走る。
思わず後ずさる。
「な…」
紫電の中、
議員の身体に無数の亀裂が走る。
白い皮膚が、内側から剥がれ落ちて逝く。
「まだ…"裂け目"を…」
その声を最後に、
外皮は砕け、紫の光の中へ霧散スル。
白い皮膚の破片が、雪のように舞う。
振り向くエアリ。そこには、後に僕達が"雷キネシス"と呼ぶ必殺技のポーズを決めたミユリさん…
いいや。彼女はミユリさんがスーパーヒロインに変身した"ムーンライトセレナーダー"だ。
万世橋(アキバP.D.)のFPCが滑り込む。
僕とラギィ警部が降り立つ。
「一体、何があった?」
「姉様…ナセラを殺したのはバネサ議員だった」
エアリは振り返り、
ミユリさんに抱きつく。
いや。"ムーンライトセレナーダー"か。セパレートタイプの白いメイド服。何故か巨乳化してるw
「エアリ。私こそ疑って、ごめんなさい」
「私、何も出来なかった。妖精なのに…」
「みんなは僕が守る。誰にも手を出させない」
とりあえず、僕もまとめッポいコトを逝ってみたけど、モチロン誰も聞いてナイw
「姉様。彼女、妙なコトを言ってたわ」
「妙なコト?」
「YES。"裂け目"はどこだ、って」
誰も答えない。
夜が、静かに明け始めている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の地下数1000mにある、明らかに人類の手で掘られたモノではない地下空間。
目の前に抜け殻のような繭が並ぶ。
4つ共、同じ形の個体だ。
その前に、エアリは立っている。
「今日、誕生日だったの」
声は、地下空間に吸われていく。
「毎年2月7日。この日をお誕生日として祝ってきたわ。ホントのお誕生日は、誰も知らない」
エアリは膝を抱えて座り込む。
「だから、今日はココに来たの」
暗い天井を見上げる。
「ココに来れば"正しい世界線"の誰かに会えるって、ズッと夢を見てきた。なのに…みんなは一瞬、姿を見せてくれただけ。しかも、その姿はホントの姿じゃナイって」
喉が詰まらせる。
「ねえ。"正しい世界線"では、私達はどんな姿をしているの?私達だけ"歪んだ世界線"に放置プレイで、みんなは何処にいるの?」
沈黙。
「ひどいわ。お誕生日くらい、一緒に祝ってくれても良いでしょう?」
声を震わせる妖精。
「どうして、こんな役目を押しつけるの?貴方達を救うために"歪んだ世界線"で"歪んだ姿"で戦うなんて」
拳を握る。
「責任だけ押しつけて、勝手に姿を消すなんて…無謀すぎる」
涙が落ちる。
「私達、今日、初めて人を殺したの」
顔を伏せる。
「実際に手を下したのはミユリ姉様だけど…"覚醒"した力を武器として使った。相手は、たぶん別の世界線から来た誰か」
息を吸う。
「彼女の言ったコトはマジなの?私は"正しい世界線"で家族を裏切ったって。そんなコトしたの?私、マジそんな人間なの?」
暗闇に向かって、叫ぶ。
「ねえ、答えて。お願い…ホントのコトを教えて」
返事はない。
その時。
闇の奥に、螺旋が見えて来る。
その螺旋は無限に重なり合い出口が青く輝く。
人類以外の文明による"裂け目"だ。
時空連続帯に断層が生じ、重なり、歪んでいる。
「コレが"裂け目"なの?」
エアリは、ただ立ち尽くす。
世界線は、未だ答えをくれない。
だが——
次の問いは、確かにココにアル。
そして、この世界線は未だ続いて逝く。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"ヒロインをつけ狙う謎の種族"をテーマに、主人公となるスーパーヒロイン"ムーンライトセレナーダー"のデビュー戦を描いてみました。チャットGTPセンセのお力添えを頂きながらSF文学調で仕上げています。センセと対話しながらの執筆は楽しい。ハマります。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、仙台に単身赴任していた頃、いつも見上げてた秋葉原のマックから見る雪の秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。




