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パーちゃんとラルフ

婚約破棄を本当にありがとう

掲載日:2026/02/03

「婚約破棄をありがとう」の続編です。

こちらを先にお読みください。

「パトリシア・オーズ! 貴様とは婚約破棄だ!」


 王立高等学院の卒業パーティー。

 いきなり名指しされてあっけにとられていたパーちゃんが口を開く。

「……どちら様ですか?」

 パーちゃん、半年もこの国に住んでたんだから第三王子の顔くらい覚えておこうよ!



 * * * * * * * *



「パトリシアに、隣国の王立高等学院に留学してらもらいたいの」

 ある日辺境にやって来たグレイシア・オーズ公爵令嬢は、案内された応接室でパトリシアより一歳年下とは思えない堂々とした態度で命じた。


「私、半年も前にこの国の王立学園を卒業してますよ」

 きょとんとするパーちゃんが今日も愛らしい。

ちなみに、パーちゃんの生まれたオーズ伯爵家は何代か前にオーズ公爵家から分家した家だそうだが、今ではほとんど血のつながりは無いらしい。パーちゃんは、単にグレイシア嬢と気が合うので付き合っているそうだ。どう見ても反対のタイプなのに。


「知ってるわよそんな事。あの卒業パーティーは今じゃ伝説よ」

 パーちゃんは、卒業パーティーでリシャール殿下から婚約破棄されて辺境にやって来て俺の婚約者になった。あれからもう半年か……。


「綺麗になったわね。パトリシア」

「ラルフ様が毎晩可愛がってくださるからです」

「うらやましいわ。体力のある殿方で」

「うらやましいでしょう」

 笑い合う二人。

 色っぽい話をしてるようだが、パーちゃんの言う「毎晩可愛がる」は、いつまでも本を読んでいたいパーちゃんを、俺が椅子ごと浴室まで引きずって行ってスタンバっている侍女にパス。(屋敷の者たちも、パーちゃんの取り扱いに慣れた)風呂上がりの可愛くなったパーちゃんを今度は寝室に引きずって可愛い可愛いと寝かし付ける、というルーティンの事だ。

 グレイシア嬢もそれを分かっているようなので、本当にパーちゃんと仲がいいみたいだ。


「実は私も縁談が決まったのよ」

「え? 隣国の王太子と上手く行ったんですか?」

「ええ、やっと本決まりになったの」

「おめでとうございます!」

「お、おめでとうございます」

 いいのかそんな重大な事を公表前にここで言って。


「でもね、向こうの貴族たちには王太子の婚約者に色々な考えの人がいてね……。私が嫁ぐ前に(うみ)を出し切ろうと思うのよ」

 含みのある顔でグレイシア嬢が笑う。

「へー」

 パーちゃんの辞書に「緊張感」という文字は無い。

「だから、パトリシアに留学してもらって掻き回してもらおうと思って」

「へぇっ? 無理ですよ!」

「魔導物理学のブライト博士」

 逃げ腰だったパーちゃんの動きが停止する。

「彼が今年から王立高等学院の教授になったのよ」

「!!」

 ギギツと音を立てるようにぎこちなく、パーちゃんの首がグレイシア嬢に向く。


「ブ……ブライト博士の授業を受けられる……」

 ま、待て! 落ち着けパーちゃん! 目が輝いているぞ!

「でも、私に掻き回すなんて無理……」

「パトリシアが普通にしてるだけで充分よ。もし、王太子の婚約者なのか聞かれても否定していいわ。どうせ自分に都合よく解釈するんだから」

「それなら……」

 待て、君は俺の婚約者だぞ? あと半年で結婚だよ? と、焦っていたら、グレイシア嬢が笑顔で言った。

「ラルフ様も護衛として一緒に行かれては? 婚前旅行ですわ」

 この人はいい人だー!!



 * * * * * * * *



 そんな訳で、パーちゃんはあと半年で卒業という時期に護衛の俺付きで王立高等学院に編入した。

 当然ながら、全生徒から怪しい奴認定された。「オーズ」の名に王太子との仲を疑ってる奴もいるだろう。

 そんな空気の中、ブライト教授の授業しか眼中に無いパーちゃんだけは上機嫌だが。


 留学初日、午前のカリキュラムを終了すると生徒が一斉に教室を出た。そんなに急いで食堂に行きたいのか?

 ワンテンポ遅れて教室を出ようとしたパーちゃんが、教室のドアのノブを回そうとしたが動かない。

「あれ?」

「俺にやらせて」

 やっぱりノブが動かない。どうやら外から鍵を掛けたようだ。

 ノブを握って力任せに回すと、バキッと音がしてノブが外れた。

「うーん、壊れてるね。この学校古いから」

 ポイっとノブを放り投げるとドアに思いっきり蹴りを入れた。

 分厚くて大きい扉が、地響きを立てて廊下に倒れる。


 安全確認に廊下の左右を見渡すと、既に食堂に行ったと思った級友たちが廊下にそろっていた。パーちゃんが教室から出られなくなって困るのを見て笑おうとしたんだな。どの家がどんな対応をしたか、その姿を王家の影がチェックしてるのに。

 俺は皆の視線を無視してパーちゃんを食堂にエスコートした。



 その夜、王太子が

「登校初日というのに、早速色々あったようだね」

と、俺たちが滞在している離宮にやって来た。


 王家の依頼で留学した俺たちは、王宮にある離宮の一つに滞在している。

 最小限の使用人しか出入りを許されないこの離宮の滞在客を、謎の存在と思っている者もいるそうだ。単にパーちゃんの世話は俺がするから人手が要らないだけなのだが。

 そしてこの王太子は、打ち合わせも兼ねて公務が無い日はここで夕食を摂る。


「はい! ブライト教授にお目通りが叶いました!」

「……そっち?」

「パーちゃんにはそれ以上の出来事は無いから」

 脱力している王太子に気づかずにパーちゃんが続ける。

「ブライト教授、私をご存知だったんです! 光栄で舞い上がりそうでした。あれが絶頂というものなのですね」

「いや、違うから」

 何で知らんオッサンと絶頂する。


「教授は昨年奥様を亡くされて、不規則な研究職を辞めて教師になったんだそうです。分かりますわ。私もラルフ様がいなくなったら生きていけない……!」

「ほう……」

 テーブルに突っ伏したパーちゃんに王太子が感心しているが、あれは俺はパーちゃんの人間らしい生活のための万能便利グッズだという意味だよ? 留学前に王都のパーちゃんの実家にご挨拶に行ったら、ご家族に「パトリシアがまるで令嬢のようになって……!」と涙ぐまれたっけ。


 その後、嬉しそうに教授と盛り上がったマニアックな話を報告するパーちゃんに相槌を打ちながら、俺と王太子は情報交換をした。



 そんな風にちまちました嫌がらせを(かわ)しつつ、ブライト教授と毎日のように意見交換して、パーちゃんの学院生活は充実したものだった。


 それなのに……。

「はぁ? パーちゃんが第三王子を狙ってるだぁ?」

 オクターブ低い声が出る。

 いつもの夕食後のティータイム。王太子からとんでもない情報が入った。パーちゃんは本に没頭して、こちらの話など耳に入って無い。


「てか、第三王子って誰?」

「王立高等学院の第一学年棟と教授棟の間の中庭のベンチに、いつも女生徒を侍らせている一年生の男子生徒がいるだろう?」

「あれか……」

 パーちゃんの正体を教えて無いという事は、王太子には第三王子も「膿」なのか……。


「パトリシア嬢が毎日のように第三王子に会いに行き、熱い眼差しで見つめているそうだ。きっと王太子の婚約者の座を諦めて、第三王子の婚約者の座を狙っているのだろう、だそうだ」

「アホらしい。ブライト教授に会いに行く時に前を通るだけじゃねーか。熱い眼差しどころか毛虫を見る目だよ。いや、毛虫なら『なぜ虫には魔素が溜まらないのか』という研究素材になるから、毛虫以下だな」

 弟が毛虫以下と言われて笑ってる王太子。色々と闇が深そうだ。




 そして今日、卒業パーティーでパーちゃんは婚約破棄された。何でそうなる。


「お前のような女がこの私にふさわしいと思うのか!」

 この第三王子を少し殺してもいいですか?

「ラルフ様、あの人誰ですか?」

 パーちゃんは通常営業だね!


 パーちゃんに説明する。

「教授棟に行く途中の中庭に、いつも女生徒を侍らせてウハウハしていた男子生徒だよ」

「そんな人いましたっけ」

「覚える必要は無いからね」

「それで、私はいつ婚約したんですか?」

「さあ、不思議だねー」


 こちらを見てイライラしている第三王子にパーちゃんが語りかけた。

「あの、私、既にこのラルフ様と婚約していますよ」

「はあっ? 私に相手にされないからと、こんなのに乗り換えたか!」

「こんなの……?」

 そこに、王太子が飛び込んで来た。隠れて見てたら第三王子が暴走して、慌てて飛び出して来たな。

「ラルフっ! 弟が失礼な事を言ってすまないっ!」

 いきなりの王太子の謝罪にざわめく会場。

 

「あ、兄上。なぜそんな護衛ごときに……」

「馬鹿者! この方は、合同魔獣討伐で何度も世話になっている隣国の辺境伯の嫡男のラルフ殿だ! 今、大陸で最も強い騎士と言われている!」

 盛りすぎー。でもここは否定しないでおく。

 会場の生徒たちも、パーちゃんへした嫌がらせが俺のカバーで全部ノーダメージだったことを思い出したようだ。

「な、なぜそんな人物が護衛などを」

 やっと自分がしでかしたと気付いたようだ。

「ラルフの婚約者のパトリシア嬢は、今回ブライト教授に師事するために留学をしたが、温度の変わらないティーポットを始め、最近では魔獣除け石や魔獣除けベル、魔獣除け(くい)など、大陸中に普及した数々の発明をした才女だ!」

 おおっ!、とどよめきが起こる。オッサンの声が混じってるのは、魔獣被害のある領から来た父兄だな。

 逆にブライト教授は、皆がパトリシアを知らなかった事に驚いている。そーなんですよー。誰もパーちゃんの名前を聞いても知らなかったんですよー。


 更にダメージを与えてやる。

「今は試験試用中なんだけど、『魔獣除け杭ハイパー』というのが出来てな」

 宮廷騎士団に試用してもらおうと持っていったら、リシャールの奴に「やっと許してくれたんだね!」と言われたが。

 パーちゃんは初めから何とも思って無いし、俺は絶対に許さねーよ!

「魔素の保有量や濃度によって魔獣の強さが変わりますので、その魔獣をエネルギー源に陣を回すと考え、『魔獣除け杭ハイパー』は陣を保護するためにリミッターを仕込んでいるのです!」

 得意げにパーちゃんが説明するが、俺が翻訳しておこう。

「つまり、『魔獣除け杭』で魔獣を移転させる先を『魔獣除け杭ハイパー』で囲っておけば、自動的に『ハイパー』が移転して来た魔獣を攻撃するので、騎士団をもっていない小さな領でも魔獣を倒せる、魔獣の素材を手に入れられる、という事だ」

 おおっ!、と今度はオッサンたちの嬉しそうなどよめきが聞こえる。


「でも、この国には売れない。それだけの事をこの学院の生徒たちはパトリシアにしてくれた」

 一気に会場に沈黙が落ちる。


「待ってくれ」

 顔色を無くした人たちを庇うように王太子が進み出た。

「王太子として、責任をもってこの国を危険に晒した者たちを調べて厳しく処分をするので許してくれないか」

 おっ、「自分の邪魔をする奴」を「国を危険に晒した奴」という事にして処分する気だな。さすが腹黒王太子。

 内心ニヤリとしつつ、それで手を打とうとしたら

「そんなんで許しません!」

と、パーちゃんの声が響き渡った。


 俺と王太子が唖然とするなか、

「ラルフ様を『こんなの』だなんて、そんな事を言う国には魔導マッチ一本売りません!」

と、パーちゃんが断言した。

 オッサンたちの悲鳴が聞こえる。


「お、おいラルフ……」

 パーちゃんか俺のために怒ってくれてる……! 俺、便利グッズじゃなかったんだ。目の前が輝いて見える。

「ラルフ! パトリシア嬢を何とか」

「そうだね! こんな国、どうなってもいいか!」

 上機嫌な俺に王太子は頭を抱えた。


 じゃあさっさと帰ろうとする俺たちの前に、息を切らしたグレイシア嬢が現れた。グレイシア嬢もいたのか。

「パッ、パトリシアッ……!」

 息が切れて言葉が続かない。

 突然現れた令嬢に、観客たちが「誰?」となっているので、王太子が

「私の婚約者のグレイシア・オーズ公爵令嬢だ」

と宣言して会場はまた別な盛り上がりとなる。


 その間に息を整えたグレイシア嬢が、パーちゃんに囁いた。

「パトリシア。『こんなの』でいいのよ。もし、ラルフ様が素敵な方だって皆に知られて、ラルフ様に思いを寄せる令嬢が現れたら、あなた勝てるの?」

「……!」

 ショックを受けるパーちゃん。いや、俺はパーちゃん一筋だし。


「もし、お胸の大きな令嬢がラルフ様を好きになったら……」

 パーちゃんのお胸はささやかだ。しかし別に牛乳を搾るんじゃないから、大きさなんてどうでも……って、パーちゃん気にしてた?


「もし、お菓子作りの得意な令嬢がラルフ様を……」

 パーちゃんは早くお菓子を作って研究に戻りたいので、ざっとかき混ぜて強火で焼くため、出来上がるのは素材の味が生きてる消し炭だ。おかげで、他の人は手を出さないから独り占めできていいけど。


「もし、刺繍の上手な令嬢が……」

 パーちゃんはさっさと刺繍を終わらせて研究したいので、ザックザックと刺すため、抽象画のような刺繍が出来上がる。まあ、額装するから問題ない。


「奪われないように、『こんなの』と思わせておいて丁度いいのよ」

 こくこくと頷くパーちゃん。

 そっか、パーちゃんは気にしてたんだ。便利グッズでもお世話係でも無く、俺たちちゃんと恋人同士だったのか。嬉しさでニヤニヤしてしまいそうた。

 心配そうにこちらを伺っている人たちには、話してる内容がこんなくっだらない事で申し訳ない。


 グレイシア嬢は皆に向かって声を張り上げた。

「皆さん! パトリシアは婚約者を侮辱した第三王子のみを処罰すれば、国への対処は考えないそうですわ!」

 わあっと歓声が上がるが、パーちゃんは別に第三王子にも処罰を求めて無いぞ……。

 腹黒な夫婦が生まれそうだ。まあ、王族はそれくらいの方がいいのか?


 とにかく、卒業パーティーは無事に終わり、俺たちは帰国の途についた。




 めでたく俺たちが結婚した頃、驚いたことにブライト博士が王立高等学院を退職して辺境にやってきて隠居した。「あんな馬鹿どもに教えるだけ時間の無駄だ」だそうだ。


 そんなブライト博士を追いかけて国内外から弟子入り希望の研究者がやって来たため、博士は小さな私塾を始めたが、生活が苦しくて食費を削っている弟子が多いと博士が父の辺境伯に相談した事から、領の仕事を手伝う代わりに寮と食事を提供する制度が作られた。

 それを聞いて次々と移住を希望する博士が現れ、「把握しきれないから、誰か系統立てて管理しろ!」となったため今まで脳筋だらけの辺境で肩身が狭かった知能派がやる気を出して、発明が実用化された場合はこの領に何パーセントか入るシステムを作って、ますます充実した環境になって、更に人が増える。


 辺境に来て魔獣に興味を持った研究者もいて、「このまま研究が進めば、遠からず魔の森を消滅させることができます!」と、パーちゃんはやる気だ。


 そんなこんなで、俺が辺境伯を継ぐ頃には領都は学術都市と呼ばれる街となっていた。


 何でこうなった。

 パーちゃんは「リシャール様が婚約破棄してくださったおかげですね!」と言ってるが、それだけは絶対に認めないぞ。


魔獣除け杭ハイパーのアイディアは、天城壮馬様と集様より。感謝!

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― 新着の感想 ―
「婚約破棄が始まらない」の感想でキャラクター名を間違えたこと、誠に失礼しました。 第三王子もアホだがそれ以前にパトリシア嬢に嫌がらせした連中のアホさよ。 そりゃそんな連中は排除されて当然だわな…… …
第三王子は自分に気があると勘違いしたとしても何故婚約者だと?話もしてないし存在すら認識されてなかったのにヤベーやつ。
毎日教授の授業を受け、婚約者に構われながら好きな研究を続ける理想的な環境に居たパトリシア嬢は、周囲のことに気を取られる時間なんてなかったんでしょうね。 それにしても一応覚えてた元婚約者王子と違って、第…
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