幕間 早い、確実、快適! -side ユリウス-
ユリウスは、自室に戻って扉を閉めた。
扉が背後でカチリと閉じた瞬間、空気が一気に重く沈んだ。
リオの声が、頭の中で反響する。
『先輩も一度体験すればわかります。早い、確実、快適!ほら、騙されたと思って!』
振り払うように頭を振る。
あれは魔獣の誘惑だ。
シャワーを浴びて、頭と体を洗って、タオルで水気をふき取る。
風魔法で髪を乾かしながら、まだ指先に湿りを感じて、思わず洗面台の縁を拳で叩いた。
水魔法は得意なのに。どうしてただ水を出すだけで精一杯なんだ。
風で操ろうとしたら、意識が途切れて水が崩れる──そんなの当たり前なのに。
あいつの頭の中はどうなっている。
まるで魔法用の思考がもう一つあるみたいだ。
あの無邪気さに今更ながら腹が立つ。
尻尾。
背中に一筋だけ伸ばし、紐でまとめたあの尻尾みたいな髪を掴んで、振り回してやりたかった。
複雑な怒りに震える拳を、しばし抑え込む。
ユリウスは深く深く深呼吸する。
腹が立つほど完璧な魔法──ほとんど芸術だ。
隣室はとても静かだった。
もう寝たのだろうか、あの生き物──リオは。
あれは突然変異だ。
あれを普通と思ってはいけない。
あれは異常なのだ。
けれど。
もう一度、息を整える。
訪れる静寂。
その静けさが、心の奥の声を押し出した──
「……うらやましい」
ぽつりとした呟きは、誰にも届かず闇に溶けていった。




