第6話 夕暮れの兆し
昼食を食べてからというもの、イリスは隣の席でずっと落ち込んでいた。
放課後になっても、目が死んでいる。
「まんてん…まんてん……」
呪詛のようにそんな声が聞こえてきて、リオは心底困ってしまう。
「イリス。俺だってできないことはあるんだよ」
イリスがジト目を向けてくる。
そんなもの、無いと言わんばかりだ。
「ほら、言ったでしょ?俺は飛竜とは会話できないんだ」
じっとリオを見ていたイリスの表情が少しずつほぐれていく。
「そう…そうよね!ふふん、私はすごいのよ」
「すごいなあ、俺も飛竜と話せるようになりたいなあ」
イリスが胸に拳を当てる。
「アリアと話したかったら、いつでも言って。私が翻訳するわ」
「わあ、ありがとう」
リオは小さく手を叩いた。
イリスが元気よく立ち上がると、アリアがその腕をのそのそよじ登る。
「じゃあ私は帰るわ。リオは先輩と待ち合わせ?」
「うん。じゃあね、イリス」
「ええ。また明日」
スキップしながら教室を出ていくイリスを、リオは笑顔で手を振って見送る。
一人残された教室に、ふっと静寂が落ちる。
リオは息をつき、頬杖をついた。口角が片方だけ下がり、ふくれっ面になる。
「…父さんの嘘つき、何がこれくらい普通、だよ」
あれもこれも。全部このくらいできて普通だと言われ、頑張って覚えたというのに。
母も母だ。止めてくれれば良かったのに、ずっと笑顔で見守っていた。
悪態をつきたくもなる。
「全然、普通じゃないじゃん……」
今度会ったら、グーでパンチしてあの涼しい顔を歪ませてやる。
そう決めた。
「リオ、いるか?」
むくれていると声がした。
視線を向けると、ユリウスが教室の入り口で首を傾げている。
「何だ、その顔」
「……何でもない」
立ち上がり、不思議そうな顔のユリウスの隣に駆け寄る。
「俺、先輩といるとほっとするよ」
「ぅえ!?」
心の底からそう言うと、変な声が返ってくる。
「先輩?」
「いやー、そうか、そうか……」
ユリウスは頭をかきながら、何度も「そうか」と呟く。
先輩が壊れた。…でも、嬉しそうだ。
リオは頬を緩ませる。
些細な会話を交わしながら、男子寮へ戻る。
寮が見えてきた。寮長と数人の生徒が外に集まっており、リオはユリウスと顔を見合わせる。
ユリウスが声をかけた。
「どうしましたか?」
寮長が振り返り、ほっとしたように肩を下ろす。
「ああ、ユリウス君。実は、瘴気の警報が鳴りまして」
「また?」
リオは思わず口に出す。
寮長が肩をすくめ、苦笑した。
「最近、多いんですよね。誤作動」
心の中で、この学園の保守点検は意外とガバガバなのでは、と疑う。
しかし、口には出さなかった。
警報が鳴るたびに、何か見えない力がうごめいている気がする。
でも、きっと気のせいだ。




