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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第8章 襲撃
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第5話 漆黒の渦

 竜の誘導は続いた。

 西の門までの避難は完了し、門がすぐ背後に迫っていた。


「崖まで押し出すぞ!」


 竜の向こうから、アレンの声が響く。


 狩人たちが建物を崩す。

 落下した瓦礫が、翼の付け根を直撃した。


 鈍い悲鳴のような咆哮。

 ひしゃげた翼。

 よろめき、竜の巨体が大きく傾いた。


 その隙に──力自慢の狩人たちが総出で、竜の胸を押し返す。

 別の狩人は鎖で頭部を拘束する。

 さらに、巨大ハンマーを持った者が、足の関節を打ち砕いた。


 鱗の結晶が、鈍く重い音を立てて割れる。


 怒りに満ちた咆哮とともに、尾がゆらりと持ち上がった。

 次の瞬間──それは地面を叩き割るように振り下ろされる。


 衝撃が地面を裂き、砕けた石が弾け飛ぶ。


 一度きりではない──。


 反動のまま、尾は弾かれるように横へ薙ぎ払われた。


 さらに逆方向へ──尾は止まらない。

 巨体に似合わぬ速さで、尾が暴風のように荒れ狂う。


 その一撃が、リオを捉えた。


 まともに受ける間もなく、身体が弾かれる。

 壁へ叩きつけられた。


「かはっ……!」


 鈍い衝撃が走り、肺の空気が一瞬で押し出された。


 制服が裂け、腕や額から血が滴る。

 頭を強く打ち、視界が一瞬、白く弾けた。


 霞む視界の向こうで、アレンが駆けてくる。


 尾は──まだ止まっていない。

 竜の尾が、大きくしなり、振り下ろされた。


 アレンは振り向きざまに剣で受け流した。

 軌道を逸らす──が、殺しきれない。


 刃を滑った尾が、肩口を抉った。


「っ……!」


 血が弧を描いて散る。


 ようやく、尾の動きが止まった。

 砕けた地面が崩れ、舞い上がっていた瓦礫が次々と地に落ちた。

 砂煙が一帯を覆い隠す。


 うめき声が辺りに満ちる。


 リオは、ふらつきながら、立ち上がった。


 少し離れた西の門の方。

 そこに、ユリウスの水の盾が見える。


 その内側で、聖導士や学生たちが、身を縮めて震えていた。


「回復……回復を、お願いします……!」


 リオの声に、頭を抱えていた聖導士たちが顔を上げる。

 辺りの惨状に顔を真っ青にしながらも、彼らは協力し、祈りを捧げた。


 複数人で発動する、広範囲の回復魔法。

 暖かな光が広がり、倒れこんでいた狩人たちが、奥歯を噛みしめながら、なんとか立ち上がる。


 ──まだ、誰も諦めていない。


 狩人たちは、再び攻撃を開始しようとした。

 その時だった。


 静けさを保っていた竜が、全身の結晶を黒光(こっこう)させた。


 風が、ぴたりと止む。

 次いで、逆流するように空気が吸い込まれた。

 竜を中心に、渦が生まれる。


 砂塵と瓦礫が舞い上がる。

 結晶がさらに黒く、光を増していく。


 開いた顎の奥。

 そこに、瘴気が渦を巻き、収束していく。


 それは、ただの力ではない。

 濁りきった悪意そのものだった。


 リオは息を呑む。

 空気そのものが重く、喉に張りつく。


 ──あれはダメだ。


 あんなものが放たれたら、グランゼリアは、壊滅する。


 竜の背中越しにそれを見た瞬間、思考よりも先に、身体が動く。

 リオは叫びながら駆け出した。


「やめろ!」


 竜の頭部が、ぐっと後方に引かれる。

 結晶鱗の間から、黒い瘴気がうねり出す。


 次の瞬間──溜め込まれた瘴気が、爆発するように放たれた。

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