第5話 昼食のテーブル
中央広場に面した棟の大扉をくぐると、高い天井と梁が映える大食堂が広がった。
木と石を組み合わせた温かなホールには、長い木のテーブルがずらりと並び、壁際ではランプが柔らかく灯る。
ガラス張りの大窓からは広場が見下ろせ、昼の光が斜めに差し込み、床に淡い模様を描いていた。
香りが誘うキッチンカウンターは半オープン型で、スープやパンの焼ける香りが漂う。
──Aランチ:煮込みシチュー+白パン+森のサラダ
──Bランチ:白鹿肉ソテー+ハーブライス(期間限定)
──おやつ:星砂クッキー
カウンターに浮かぶ札を見て、リオは思わず息をのむ。
リオはBランチ、イリスはAランチを選ぶ。
選んだ後、自然と会話が狩猟の話題に移った。
「白鹿肉、随分珍しいわね」
「そうかな?警戒心が強いから、気配を消して近づけば簡単に狩れるよ」
ソテーをナイフで切り分け、口に運びながら言うと、イリスが呆れたように肩を落とす。
「あなた、普通の基準が壊れてるわ。気配を消すって…白鹿は10メートル先にいても逃げられるって話よ?」
「だから、ちゃんと気配を消せば油断して、簡単に捕まえられるんだ」
イリスがアリアと顔を見合わせてため息をつく。
「……変わってるわね」
「そんなことないよ?」
そんな会話をしていると、同級生が自然と寄ってくる。
「リオ、首席なんだね」
「すごい!どうやってあの問題を解いたんだ?」
「最後の問題かな?あれは…」
リオがハーブライスをかき混ぜながら簡単に解説をすると、それを聞いた同級生たちが「うわぁ」と感嘆する。
「そんな方法があったんだ!」
「よく思いついたね」
リオはスプーンを口に運びながら、曖昧に笑った。
実際には、基礎ばかりの筆記に、枠だけ見る実技──退屈で仕方なかったとは口が裂けても言えない。
「満点を取ったのは、13年間で君が初めてだそうだよ」
声をかけられて、リオはライスを口に運びながら視線を向けた。
見覚えのある先輩、ユリウスだ。
「満点!?」
あちこちから息を呑む声が上がり、誰かの椅子がガタリと鳴った。
「筆記で!?」
「本当に!?」
あたりが一瞬ざわつき、答えを待つようにしんと静まり返る。
近くの席の生徒たちが目を丸くしてこちらを見ている。
リオは微かに笑った。
「もちろん筆記で……」
「筆記と実技の両方でだよ」
ユリウスが淡々と言った。
何で言ってしまうかな……。困ってしまう。
周りはそれどころではないざわめきに包まれる。
「嘘だろ!?」
「両方満点!?」
「信じられない…」
「こら、静かに!」
カウンターからお叱りの声が飛び、生徒たちは口を噤む。
イリスがぽかんとした顔で見てくる。
リオは気まずくなって、もそもそと冷めたソテーをかじる。
「それで?その稀代の天才君は僕の隣室らしい。あの部屋、水道が壊れてなかったかな?」
「水道?」
リオは思い出すように視線を上げる。
「使ってないからわかりません」
「……君、昨日には入寮したんだよね?」
「はい。トイレは使いました」
すぐに返事は来なかった。
沈黙の後、ユリウスがかすれた声で言った。
「……トイレって。まさか、他は全部魔法で済ませた?」
「はい」
「ええ!?」と大きな声が聞こえ、その後周囲が小声でざわつく。
ユリウスから返って来たのは深いため息。
リオはまたも困ってしまう。
別にいいじゃないか。冷たいソテーをもう一口、口に押し込むようにしてかじった。
「そういえば、今日の警報は何だったんですか?」
話をそらせるために、別の話題を振ると、ユリウスがすぐ乗って来た。
「測定器の誤作動じゃないかと言われてる」
ユリウスの言葉に納得する。
設立されて13年も経てば、色んなところにガタが来るか。
そんな考えを読んだように、ユリウスが腰に片手を当てる。
「つまり、水回りにもガタが来ているということだ。放課後見てやるから、一緒に帰るよ」
「ありがとうございます」
リオは素直に礼を伝えた。




