第3話 白と赤の睥睨
誰もが動けず、息を呑む中──竜が、ゆるりと首を巡らせた。
白と赤。
対照的な瞳が、冷たく睥睨する。
ゆっくりと、口が開く。
その動きは、まるで嗤っているかのようだった。
誰かが短く悲鳴を上げる。
「移動させるな、ここで倒す!」
アレンの声が、鋭く空気を裂いた。
凍りついていた狩人たちが我に返り、一斉に武器を構える。
斧を振るう者。
魔法を放つ者。
──だが。
斧は弾かれ、魔法は竜に届く前に光の粒となって散る。
「なっ!?」
魔法を放った狩人が、声を上げた。
「……魔法が、消えた?」
リオが呟くより早く、アレンの声が飛ぶ。
「物理攻撃を主体にしろ!」
混乱しながらも、狩人たちは歯を食いしばり、再び武器を握り直した。
そのとき──遅れて、聖導士たちが駆けつけた。
彼らも竜と瓦礫を目にして足を止め、信じがたい現実に打ちのめされる。
「奴には魔法は効かない!補助に専念してくれ!」
狩人が叫ぶ。
だが、魔法が効かないなど、信じられないのだろう。
「そんなはず……!」
聖導士の一人が、反射的に炎の矢を放った。
強力な一撃。
だが、竜の鱗に届く前に、空気に吸い込まれるように消えた。
「……嘘、だろ?」
「だから言っただろ!」
怒声が飛び交う。
「落ち着け!魔力も体力も無駄にするな!」
アレンの叱咤で、その場の空気が一瞬で引き締まった。
竜がゆっくりと首をもたげる。
何か来る──誰もが武器を構えた。
次の瞬間、咆哮が街を震わせた。
大気が振動し、足元の石畳がびりびりと震える。
黒い瘴気を孕んだ低いうねりが押し寄せる。
それは、骨の奥まで響いた。
息を吸うたび、胸が締め付けられる。
肺が、焼けるように痛い。
それは声というより、空気そのものが軋む音だった。
視界の端で、人々がよろめく。
叫び声さえ掻き消す破滅の波動。
リオは胸に手を当て、かろうじて踏みとどまった。
アレンが、剣圧で咆哮の衝撃を、瘴気ごと断ち切る。
守られた聖導士が、額に汗を浮かべながら光魔法を発動する。
光が広がった瞬間、胸の痛みが薄れていった。
リオがようやく息を吐き出した──その刹那。
アレンが、跳んだ。
剣を横薙ぎに構え、竜の腹へ、振り払う。
──バキッ。
鈍い破砕音が、竜の腹の奥まで響く。
結晶鱗がひび割れ、数枚がずしりと地に落ちた。
物理攻撃なら通じる──。
一瞬、希望の色が皆の瞳に宿った。
着地したアレンが、竜を睨む。
だが、傷ついた鱗は、バキバキと音を立てながら塞がっていく。
「再生……!?」
リオは思わず叫んだ。
「武器の攻撃では弱い……武器庫は無事か!?」
アレンの問いに、瓦礫を吹き飛ばしていた狩人が手を振る。
「無事だ!」
一拍の静寂。
「──よし、大型武器で直接叩く!リオ、弱点を探すぞ!」
「わかった!」
リオは強く頷き、竜を見上げた。
白と赤の瞳が、ゆらめく瘴気の奥で静かに光った。




