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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第8章 襲撃
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第3話 白と赤の睥睨

 誰もが動けず、息を呑む中──竜が、ゆるりと首を巡らせた。


 白と赤。

 対照的な瞳が、冷たく睥睨する。


 ゆっくりと、口が開く。

 その動きは、まるで嗤っているかのようだった。


 誰かが短く悲鳴を上げる。


「移動させるな、ここで倒す!」


 アレンの声が、鋭く空気を裂いた。


 凍りついていた狩人たちが我に返り、一斉に武器を構える。


 斧を振るう者。

 魔法を放つ者。


 ──だが。


 斧は弾かれ、魔法は竜に届く前に光の粒となって散る。


「なっ!?」


 魔法を放った狩人が、声を上げた。


「……魔法が、消えた?」


 リオが呟くより早く、アレンの声が飛ぶ。


「物理攻撃を主体にしろ!」


 混乱しながらも、狩人たちは歯を食いしばり、再び武器を握り直した。


 そのとき──遅れて、聖導士たちが駆けつけた。

 彼らも竜と瓦礫を目にして足を止め、信じがたい現実に打ちのめされる。


「奴には魔法は効かない!補助に専念してくれ!」


 狩人が叫ぶ。

 だが、魔法が効かないなど、信じられないのだろう。


「そんなはず……!」


 聖導士の一人が、反射的に炎の矢を放った。


 強力な一撃。

 だが、竜の鱗に届く前に、空気に吸い込まれるように消えた。


「……嘘、だろ?」

「だから言っただろ!」


 怒声が飛び交う。


「落ち着け!魔力も体力も無駄にするな!」


 アレンの叱咤で、その場の空気が一瞬で引き締まった。


 竜がゆっくりと首をもたげる。

 何か来る──誰もが武器を構えた。


 次の瞬間、咆哮が街を震わせた。


 大気が振動し、足元の石畳がびりびりと震える。


 黒い瘴気を孕んだ低いうねりが押し寄せる。

 それは、骨の奥まで響いた。


 息を吸うたび、胸が締め付けられる。

 肺が、焼けるように痛い。


 それは声というより、空気そのものが軋む音だった。


 視界の端で、人々がよろめく。

 叫び声さえ掻き消す破滅の波動。


 リオは胸に手を当て、かろうじて踏みとどまった。


 アレンが、剣圧で咆哮の衝撃を、瘴気ごと断ち切る。


 守られた聖導士が、額に汗を浮かべながら光魔法を発動する。

 光が広がった瞬間、胸の痛みが薄れていった。


 リオがようやく息を吐き出した──その刹那。

 アレンが、跳んだ。


 剣を横薙ぎに構え、竜の腹へ、振り払う。


 ──バキッ。


 鈍い破砕音が、竜の腹の奥まで響く。

 結晶鱗がひび割れ、数枚がずしりと地に落ちた。


 物理攻撃なら通じる──。

 一瞬、希望の色が(みな)の瞳に宿った。


 着地したアレンが、竜を睨む。

 だが、傷ついた鱗は、バキバキと音を立てながら塞がっていく。


「再生……!?」


 リオは思わず叫んだ。


「武器の攻撃では弱い……武器庫は無事か!?」


 アレンの問いに、瓦礫を吹き飛ばしていた狩人が手を振る。


「無事だ!」


 一拍の静寂。


「──よし、大型武器で直接叩く!リオ、弱点を探すぞ!」

「わかった!」


 リオは強く頷き、竜を見上げた。


 白と赤の瞳が、ゆらめく瘴気の奥で静かに光った。

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