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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第8章 襲撃
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第2話 分かたれた戦場

 アレンが周囲を見回す。

 その口元は引き締まり、奥歯を噛みしめているように見えた。


「裂け目は用済みということか」


 その言葉に、リオも周りを見渡した。


 ──あれだけあった裂け目は、すべて消えていた。

 まるで、その役目は終えたとでも言うように。


「半数は北へ援護に!残り半数は、俺と来い!」


 アレンの声が響き、狩人と聖導士たちが一斉に頷く。


 砂煙の中を踏みしめる足音が重なり、二手に分かれて駆け出した。

 リオも慌てて、アレンを追う。


「父さん、北はいいの?」

「……北には、ジークたちがいる」


 ジーク──英雄の一人、竜騎士。

 リオは息を弾ませながら、納得した。


 走りながら、街並みに目を向ける。

 市街地に大きな被害はない。


 ただ、漆黒の竜のみが咆哮を上げ、地面が低く唸るように震えた。


 瓦礫の間から黒煙が立ち上り、熱気を帯びた風が顔を打つ。


「ああ……我らの守護者が……」


 狩人本部があった場所に君臨する竜を、人々はただ、仰ぎ見ていた。

 その声は、あまりにも絶望に満ちている。


「リオ!」


 視界の隅で、ユリウスとイリスが、飛び跳ねるように通路を駆けてくる。

 靴音が瓦礫を蹴り、石片が跳ねた。


「なんなんだ、あれ!」


 ユリウスが竜へ視線を向けながら問う。

 リオは足を止め、唇を噛んだ。


「わからない、でも瘴気魔獣……だと思う」

「あんなに、大きな……?」


 イリスが呆然と呟く。


 リオは竜に視線を戻す。

 アレンの背中が、少しずつ遠ざかっていく。


「移動しながら!今は、急ごう!」

「わ、わかったわ!」


 ユリウスとイリスは、要請を受けて南に派遣されていた。

 そしてあの(たこ)のような瘴気魔獣を倒し、学園へ戻る途中だった。


 ──その時、空が裂け、竜が落ちてきた。

 それが何なのかわからず、知り合いを探していたそうだ。


「リオ、怪我をしたのか?」


 ユリウスに聞かれて、リオは頬を押さえた。


 すでに血は止まっている。

 だが、あの瞬間を思い出すと、指先が、まだ微かに震える。


「うん。でも大丈夫。父さんが一緒だから」


 駆けながら、ユリウスとイリスが顔を見合わせた。


 そうしている間にも、竜との距離は、確実に縮まっていく。


 ──ゴウッ。


 突風が、吹き抜けた。

 瓦礫が宙を舞い、黒い鱗の巨体が光を遮る。


 巨大竜の周囲は、着地の衝撃で生じた瓦礫で溢れていた。

 リオは足元を確かめながら、竜を見上げる。


 背丈は六十メートルほど。

 体表は黒曜石のような結晶鱗で覆われている。


 翼の裏には、血管のような瘴気脈が走っていた。

 それが脈動するたび、黒い霧が周囲に散り、空気そのものが濁るようだった。


 片目は白く、もう片方は血のように赤い。


 瓦礫を避けながら、竜へと迫る。

 全力で駆け続け、息は乱れ、肩が大きく揺れた。


 錆びた鉄と土の匂いが、息とともに胸へ流れ込む。


 狩人本部──立派な建物だったはずが、今や、ただの瓦礫の山と化していた。

 狩人たちも、アレンも、言葉を失い、ただその光景を見つめている。


 リオは瓦礫を見下ろし、言葉にならない絶望を胸に押し込んだ。


 平和の象徴が、奪われた。

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