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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第7章 囮都市
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第6話 仕組まれた座標

 昼過ぎ、ようやくすべての瘴気魔獣を倒した。

 裂け目は完全に沈黙し、勝利の空気が漂い始める。

 だが、空は少しずつ、曇が厚みを増してきていた。


 警戒を続けながら、アレンが伝令を集めて情報を整理する。


 間口の広い小さな建物に、リオたちは入った。

 リオはアレンのすぐ隣で、その服の裾を強く握る。

 先ほどの戦場を知り、痛ましげな視線を向ける者もいたが、リオは気づかない。


 机に広げられたグランゼリア全域の地図に、裂け目の発生地点が赤いバツ印で記されていく。

 印が増えるたび、室内の空気がわずかに重く沈んだ。


 印は──東の書院区(アーカイブ)と、南の錬環区(アルケイン)に集中していた。


「知の財産ばかり狙いやがって……」


 地図を覗き込んでいた狩人が、怒りを噛み殺すように言う。


 リオも机に肘をつき、そこに顎を乗せて地図を見つめる。

 だが、考えがまとまる前に首がかくんと折れた。意識が一瞬、闇に沈む。


 ──皆、限界だった。

 食事もとれず、疲労は深く、魔力回復も遅れ、浄化すら追いつかない。


「この配置……こちら側の持つ情報を消すことが目的か。だが、戦力を分散したことで対処はできた」


 アレンが独り言のように呟く。


「怖いなあ…」

「腹が減った……」


 外から、気の抜けた声が微かに届く。


「補給です!」


 狩人がパンの籠を抱えて駆け込んできた。


「助かる」


 ようやく、食事ができる。

 皆、ゆっくりとパンを口に運ぶ。

 ただのパンが、これほど有難いと思ったことはない。


 アレンも一口だけかじる。

 だが次の瞬間、指先が震え、パンくずが床に落ちた。

 父のそんな姿を初めて見るリオは、胸がざわりと揺れた。


 アレンはパンを皿に戻し、手を押さえて震えを隠す。


 そこへヴァルセリオが飛び込んできた。


「アレン!無事で何よりです」


 安堵の笑みを浮かべかけたが、すぐに顔が険しくなる。


「顔色……悪くありませんか?」


 その一言に、場の空気が張りつめる。

 ──もしアレンが倒れたら。


 アレンは薄く口角を上げた。


「問題ない、少し無茶をしただけだ」

「……そうですか。なら良いのですが」


 張り詰めた空気が、わずかに緩む。


「随分、東と南に偏ってますね」


 ヴァルセリオが地図を指でなぞる。


「ああ。ちょうど今、知財を狙っているのではと話していたところだ」

「なるほど……」


 眉を寄せたヴァルセリオが、ぽつりとつぶやく。


「しかし……配置に無駄がない」


 アレンの目が鋭く光る。


「敵は大規模組織か。それも、頭の切れる」


 ぞっとして、指先の感覚が遠のく。

 リオは不安のままに地図を見た。


 そして気付く。

 足元から冷たいものが這い上がり、顔の血が一気に引いていく。


「でも……本当に頭の切れる相手が、目的を悟らせる配置なんてする?」


 想像した瞬間、背筋がこわばった。


 場が凍りつく。

 アレンが素早く地図に視線を走らせた。


「裂け目の少ない位置は?」


 ヴァルセリオも地図を追う。


「北の祈環区(オラシオン)──聖導教会本部周辺。それに、西、市場区(マーケット)の狩人本部周辺……です」


 アレンが息を呑む。


「俺たちが、“配置”された?」


 ──まさか。


 リオもその意味に辿り着く。

 だが、理解が追い付かない。

 何故。一体、何の目的で。


(マスター)。狩人、聖導士は全域に展開──本部にはほとんど人が残っていません」

「けど、それなら被害も少なく済むんじゃ……」


 その時、外から悲鳴が響いた。


「な、何だあれ──!?」


 怒号が連鎖し、外の空気が一瞬でざわめきに変わった。

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