第5話 沈黙の標的
戦闘は一時間以上続いた。
ヴェルディア学園の学生たちも駆け付け、サポートしてくれている。
瘴気魔獣の数は減ったが、まだ完全には倒せていない。
リオは苛立ちを抑えられなかった。
「なんなんだよ、もう!」
自分でも剣の振りが雑になっているのはわかっていた。
だが、攻撃が当たらず、弄ばれているようでイライラが募る。
眠気もあり、先ほどから腹もずっと鳴っていた。
目の前の瘴気魔獣がゆっくりと後退していく。
リオは意地になって追いかけた。
「リオ!」
アレンの焦った声が飛ぶ。
その瞬間、視界の端で影が動いた。
リオはようやく気付く。
いつの間にか、複数の瘴気魔獣に囲まれていた。
幾重もの脚が、同時にリオへと放たれる。
時間が止まったように感じた。
跳ぼうと考える暇もない。
形を変え、蠢く脚は、逃れられない捕縛のように迫ってくる。
避けられない。
ふっと、風を感じた。
目の前が一瞬、白く霞む。
その直後、凄まじい剣戟が、リオの周囲で炸裂した。
まるで暴風が巻き起こったかのように砂煙が舞い、刹那の光と影の乱舞が視界を覆う。
気づけば、父の腕の中にいた。
その肩越しに、リオを囲っていた魔獣が同時に細かな塊になって崩れ落ちるのが見える。
アレンが、長く息を吐く。
頬に何かが伝った。
リオはゆっくりと自分の頬に触れ、手を見下ろす。
ぬるりとした赤い液体だった。
「父……さ……」
リオは震えた。
今、一瞬、死を覚悟した。
あの脚たちは、リオの頭を狙っていた。
そこには、明確な殺意があった。
ぎゅっと一度、強く抱きしめられる。
アレンは体を起こしながら腕を下ろし、ゆっくり体を離す。
そして、リオの頬の傷に触れ、すうと目を細める。
鋭利な刃物のようだと思った。
アレンは静かに、リオに背を向ける。
左手を、眼前に持ち上げた。
「……消えろ」
低く、轟くような声だった。
その手が、強く握られる。
瞬間、目に見える範囲の瘴気魔獣がひしゃげる。
拳に力が籠ると、空気がビリビリと震えた。
風が、その圧力を持って、目の前の瘴気魔獣を押し潰していく。
さらに力を込め、アレンは拳を強く握る。
六体の瘴気魔獣が一気に潰れ、塵となって消えた。
「すげえ……」
戦っていた狩人たちも息を呑み、手を止めた。
あちこちから、感嘆の声が漏れた。




