第4話 異形の足音
警戒を続けること数時間。
時折出現する瘴気魔獣への対応にも慣れ、太陽は真上に差し掛かろうとしていた。
「一時間で交代をしましょう」
そんな声が聞こえ、あちこちで食事の用意が始まる。
リオも、神経を研ぎ澄ますのに疲れ、今は建物の陰で壁にもたれて座っていた。
隣のアレンは腕を組み、立ったままじっと周囲を見つめている。
「父さん、お腹空いた……」
そういえば、朝食も食べそびれていた。
配布のパンは、夜勤組に優先して配られたからだ。
「昼食の準備ができたら、食べに行こう」
「うん……」
全部、あの裂け目のせいだ──リオは恨みがましい目で見てしまう。
──ずるり、と音がした。
「え?」
音のした方向に目を向ける。
アレンがリオの傍に膝をつく。
裂け目の一つから、何かが出ていた。
先のとがった、脚のようなもの。
動くたびに黒い液体をまき散らし、足元をぬらしていく。
ずるり、ずるり──引きずるように姿を現したのは、多脚型瘴気魔獣。
蛸のようだが、まったく異なる。
「戦闘準備!」
アレンが叫ぶ。
休んでいた者たちも立ち上がり、各々武器を構える。
その瘴気魔獣は一体ではなかった。
複数ある裂け目から、一体、また一体と姿を現す。
視界に入るだけでも片手を超えている。
食事用の台が瘴気魔獣に押され、倒れる。
皿の割れる音が響いた。
現場が混乱する。
黒光りする多脚は、流動的にねじれ、通路の隙間を滑る。
壁や天井を縫うように伸び、どこから襲ってくるか、目で追い切れない。
「くそっ、どこから来る!?」
狩人の剣が届きそうで届かない。
触れる瞬間、脚は水のように形を変え、空振りに終わる。
「このままでは、食事どころか補給もできません!」
悲鳴交じりの声が上がる。
影のように蠢く多脚が、通路を縦横無尽に這い回る。
リオは必死に目を凝らすが、脚の形は瞬時に変わり、どの脚が自分に向かうのか判断できない。
──足元で液状の脚が跳ねた。
瘴気魔獣が間近に迫ったことを告げる合図。
考えている暇はない。
リオは本能的に剣を振るった。
アレンが瘴気魔獣の頭を斬り飛ばす。
だが脚はなおも蠢き、攻撃を続ける。
リオの耳に、父の小さな舌打ちが聞こえた。
瘴気魔獣の体は、更なる追撃で細かく切り刻まれた。
ようやく動きを止め、塵となって消える。
「学園にも緊急要請を!戦える者を少しでも増やすんだ!」
「はい!」
アレンが近くの狩人に指示を出す。
辺りがまた、喧騒に包まれた。




