第2話 裂け目が描く網
それは前触れもなく、夜明けとともに起こった。
まだ眠りに包まれたグランゼリア全域、街のあちこちに黒い裂け目が出現する。
監視役の狩人たちはそれを見つけ、警鐘を鳴らした。
*
突然のけたたましい音に、リオは飛び起きた。
「何!?」
寝ぼけながら部屋を見回すと、アレンが窓から外を睨んでいる。
「動けるか?」
「うん」
急いで身支度を整え、アレンとともに窓から飛び出す。
警鐘は鳴りやまず、あちこちから同時に響いていた。
「一番に鳴ったのは錬環区だ。あそこを狙われるとまずい、急ぐぞ」
「うん!他は大丈夫なの?」
「ああ、対策は打っている」
リオは少しだけ安堵するが、心臓は早鐘のように打つ。
父の背を追いながら、掌に汗がにじんだ。
*
錬環区はヴェルディア学園から近い。
区画に辿り着くと、狩人や聖導士たちはすでに瘴気魔獣と戦闘中だった。
夜が明けて間もないため、皆眠気に抗いながら戦っている。
足取りや攻撃にもわずかなぎこちなさが混じっていた。
「何があった?」
アレンが尋ねると、若い狩人が驚きで固まる。
「え!?あ、はい……突然、黒い裂け目が複数確認され、そこから瘴気魔獣が現れました!」
リオは視線を狩人たちの先に送る。
三日前に見たのと同じ漆黒の裂け目があった。
胸がぎゅっと締め付けられ、息が詰まった。
「長、想定内だ!瘴気魔獣自体も一般的なものばかりで、応援が来るまでの対処には問題ない!」
別の狩人からも報告が飛ぶ。
アレンの言う通り、対策が効いているようだ。
リオはほっとした。
「……盤の遊戯をしているようだ」
アレンの声は低く、その目はどこか遠くを見ているようだった。
裂け目から瘴気魔獣が次々と這い出すが、前回と違う点があった。
建物には触れず、逃げ惑う研究員などの非戦闘者は傷つけることなく、目もくれない。
「こいつら、俺たちだけを狙ってる……?」
また別の狩人が声を上げる。
武器を持つ者だけに向かうかと思えば、支援に回る聖導士には襲いかかろうとする。
慌てて近くの狩人が魔獣を切り伏せる。
瘴気魔獣は、リオとアレンにも向かってくる。
小型から中型の影が次々と這い出す。
すぐに対処できるとはいえ、リオの手は自然に震え、背筋を冷たい汗が伝う。
人を見れば襲いかかってくる。
それが、瘴気魔獣の特徴のはずなのに。
「なんだ、これ……」
ぞわりと背筋に悪寒が走る。
疲労で目が覚めきらない中、近くで眠気まじりの怒声が飛ぶ。
リオは思わず足を踏み止め、目の前で戦う父と狩人たちを見つめた。
心臓が喉まで跳ね上がる感覚──恐怖と緊張が全身を支配していた。




