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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第7章 囮都市
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第1話 風を孕む静寂

※ここで描かれるのは、「幕間 ユリウス」の物語より少し前の出来事です。

 解読と解析に追われた翌日は、久しぶりのゆったりとした時間だった。

 ここ二日、街は驚くほど静かで──襲撃もなく、リオは拍子抜けしてしまう。


 けれど、アレンの顔色だけは日に日に(かげ)りを帯びていた。


「父さん……」


 母のことが心配で眠れないのかもしれない。

 リオはきゅっと唇を引き結ぶ。


 *


 アレンは狩人本部へ一度顔を出すらしい。

 状況整理や指示が必要なのだろう。


「お守りだ」


 そう言って渡されたのは、胸飾りだった。

 銀色のチェーンブローチは、アレンの胸に揺れるものより簡易的だが、少し似ている。


「わあ、ありがとう!」


 リオは笑顔で受け取り、光にかざした。

 小さなテラコッタ色の石が揺れ、そのたびに中身がとろりと移動して見える。


「なんか……濃い?」

「気のせいだ」


 そうか……気のせいか。

 リオは早速制服の胸に着け、そっと撫でた。

 誇らしい気持ちでいっぱいになった。


「必ず、この部屋から出ずに待っていること。いいな?」

「うん、わかった」


 父の心労を増やさないよう、リオは素直に頷いた。


 *


 躊躇いがちにノックが聞こえ、扉を開けるとユリウスが立っていた。


「街の方じゃ、騒ぎはもう終わったんじゃないかって言われてるよ」

「そうだったら、いいよね」


 窓の外は晴れ渡っていた。

 平穏そのもの──けれど、その静けさが逆に怖かった。


 リオは無意識に話を切り替える。


「そうだ、杖!父さんが、ごめん」


 リオは思い出して、ユリウスに向かって両手を合わせる。

 あれではもう、使い物にならないだろう。


「いいよ、別に。大事なものでもなかったし」

「え、でも、いつも腰にさしてたよね」


 むぐ、と言葉に詰まるユリウス。


「本当にごめん!俺にできることがあったら言って。父さんに土下座させようか?」

「やめてくれるかな、本当に洒落にならないから」


 青ざめながら、ユリウスは恐怖に引き攣った顔で首を横に振る。


「それで?君の自慢の父親は、出かけてるの?」

「うん。狩人の本部に用があるんだって」

「ふうん」


 ユリウスの目が、リオの胸元で止まった。


「あれ?それ、共鳴石じゃない?」

「共鳴石?」

「そう。魔力を込めると、持ち主の色に染まるんだ。恋人同士の贈り物として人気らしい」


 リオは小さな石を見つめる。


「魔力の色……じゃあ、父さんが魔力を込めてくれたんだ」

「複合属性だとそうなるんだね、僕も知らなかったよ」


 暖かい色に、胸の奥がじんわり満たされる。

 リオは石を握りしめた。


 リオが満足げに笑うと、ユリウスが小さく息を漏らす。

 ほんの一瞬、どこか寂しそうに目を細めた。


「どんな効果があるんだろ?」

「効果、って……言ったよね。恋人同士の贈り物だって」

「父さんが無駄なものくれるわけないよ」

「むだ……」


 ユリウスが遠くを見つめる。


「君……恋愛小説とか、もう少し読んだほうがいいよ」

「えー」


 リオは、ユリウスに将来を心配されているとは思いもよらなかった。


 ふと、もう一度窓の外を見た。

 視線を感じる気がする。けれど、やはりそこには何もなかった。

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