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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第6章 真相への手がかり
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幕間 ユリウス

 返却された杖を見て、ユリウスは気が遠くなった。

 魔法を使うのに、杖は必須ではない。詠唱が主体であり、杖はあくまで補助的なものにすぎない。


 それでも──ユリウスにとっての“剣”は杖だった。

 そしてその杖は、両親がくれたものだった。


 *


 ユリウスは常に重い期待に晒されていた。

 母は聖導教会の最高位、大導士ノエル。

 父は彼女を支える聖騎士団長ラウレン。


 誰もが、有能な二人の長男に未来を重ねた。


 だが、ユリウスには戦いの才がなかった。

 光魔法は使えず、どの武器も扱えない。

 唯一使えたのは、父譲りの水魔法だけ。


 ──親の跡を継ぐ未来など、早々に諦めた。


 努力でどうにかなったのは、勉学だけだった。


 *


 唯一の癒しは、幼い頃に会った子どもだった。

 淡い金髪の下に澄んだ翠の瞳を輝かせ。

 その子はユリウスの小難しい話を興味深そうに聞き、「ユリウス兄ちゃん」と呼んで、弟のように後ろをついてきた。


 頼られる──。

 初めてのその経験に、ユリウスは満たされた。


 あれから十年。

 新入生の中に“リオ”の名前を見つけた瞬間、胸が高鳴った。

 言ってくれればいいのに。まったく、水臭い。


 嬉々として後輩の案内役に立候補し、会いにいった。


「後輩に会えて光栄だよ」


 冗談めかして笑ったユリウスだったが──


「初めまして、ユリウスさん。俺はリオです」


 リオの一言で、血の気が引いた。


 リオは丁寧に頭を下げる。

 ユリウスは戸惑った。まさか、まさか……!


「ああ…うん。……よろしく」


 こいつ、僕のことを忘れたな──!

 怒りと寂しさが同時に湧き、ぎこちなく返事をして背を向けることしかできなかった。


 *


「すまなかった。鋭利なものでは、フィオナを傷つけかねなかった……」


 あのアレンに申し訳なさそうに謝られて、ユリウスは高速で首を横に振った。


「いえ、お役に立てたなら何よりです」


 アレンがほっとしたように表情を緩める。


「同じものを探したんだが、どうしても見つからなかった。ノエルとラウレンに確認したら……特注品だったらしい」


「え……?」


 ユリウスは耳を疑った。


「水魔法が得意だから、十分活かせるようにと、かなり考えられていたようだ」


 半分になった杖を見下ろす。

 知らなかった。そんな想いがこもっていたなんて。


 アレンが続ける。


「人のことを過保護だ何だと言うが、どの口が……。いや、話が逸れたな。代わりと言っては何だが、新しい杖を作った」

「……はあ」


 呆けた返事しか出ない。

 アレンの口調が優しすぎて、かえって戸惑う。


「俺のせいだから任せろと言ったが、口を出してきて……少しばかり華美になったが、使ってくれると嬉しい」


 アレンが差し出してきたのは、杖が入っているとは思えないほど豪奢な箱。

 装飾品かと思うほどだった。


「まさかこれ……」

「バルテラン商会の逸品だ。性能は申し分ないはず」

「アレンさん……商会に伝手でもあるんですか?」


 ユリウスはアレンの漆黒の服に目をやり、ゆっくりと尋ねた。

 アレンはわずかに目を逸らす。


「……聞かないでくれ」

「ああ、はい」


 リオといい、この親子は商会に脅されでもしているのだろうか。


 ユリウスは箱を開けた。

 中の杖は、元のものに似ていたが、細部の装飾が格段に美しい。

 グリップの部分には白と青の小さな石が、一つずつ埋め込まれていた。


 光を受け、杖がわずかにきらめく。

 ユリウスは息を呑んだ。


「ありがとう……ございます……」


 気の利いたことは何も言えなかった。

 ただ、胸の奥が熱くて、言葉にならなかった。

 ユリウスは新しい杖を握ったまま、しばらく動けなかった。

新しい杖は、ユリウスにとっての宝物になりました。

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