第6話 揺らぐ安息
調査、推測、考察。
それが一段落した頃、アレンがふと顔を上げた。
「もう夜か」
その言葉に、周囲が一斉に時計を見る。
時間を忘れ、夢中になっていた研究者たちも、現実に引き戻されたようだった。
「調査は一旦完了ですね。まだ不可解な部分は多いですが、今日はこのくらいにしましょう」
ヴァルセリオの声を受け、研究者たちは名残惜しげに席を立つ。
リオもイリス、ユリウスと顔を見合わせた。
疲れがどっと押し寄せ、息が漏れる。
「俺たちも、帰ろうか」
「ええ……」
「そうだね」
*
昼を食べるのを忘れていた。
少し多めに夕食をもらい、自室でアレンと食べる。
「すごいものだな」
アレンがしみじみと呟く。
リオは口の中をいっぱいにしたまま、顔を上げた。
「錬環区の研究者と、あんなに堂々と話して。知らない間に、成長していくものなんだな」
リオは頬をかいた。
少しうれしかった。
「でも、結局、あんまりわからなかったな」
「そうでもない」
リオが残念に思ってそう言うと、アレンが顎に手を当てる。
「敵の存在と、目的らしきものが見えてきた。だが……」
アレンの声がわずかに沈む。
「竜……」
「え?」
リオは聞き返す。
「瘴気が増えたのは、竜の封印が緩んだからか……いや、封印に綻びはあったが、機能は保たれていた」
それは、独り言のようだった。
リオは言葉を探しながら、ぽつりとつぶやく。
「竜って、瘴気をたくさん背負ってたんだよね」
「ああ」
胸の奥で、何かが噛み合う音がした気がした。
「敵が、瘴気を増やしたいなら……竜の封印を、解きたかったのかな」
アレンが顔を上げる。
一瞬、表情を失った。
「封印を解く…竜の復活……救済の環……?いや、まさかそんなはずは」
思わず、といった様子で、アレンの指先がこめかみを押さえた。
その仕草に、リオの胸がひやりとした。
「そんな途方もない真似……あり得ない、流石にそれは」
「そうだよね。そんなことをしたら、世界が滅ぶもんね」
「ああ……そうだ。敵も、自分たちまで滅んでは元も子もないはずだ」
リオとアレンはしばしの間、目を合わせたまま動けなかった。
ふたりの間に、沈黙が落ちる。
「ごめん、変なことを言った」
「……いや、可能性を考えるのは大切なことだ」
それ以上は、怖くて何も言えなかった。
リオはそっと布団に潜り込む。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
*
夜の静寂。
今日も、布団からこっそり父の様子を伺う。
窓に背を向けたアレンは、胸元に手を当てている。
何かを確かめるように、指先がかすかに動いた。
アレンはゆっくりと目を閉じる。
目には見えない波が、空気を震わせた。
リオの肌がぴりりと粟立つ。
その体から、静かに魔力が滲み出て、部屋に広がる。
昨日よりは穏やかだったが、その魔力の影響は確かに存在していた。
リオは目を開けたまま、胸の奥がじわりと熱くなるのを感じた。
次の瞬間、全身が重くなり、意識はふっと闇に溶けていった。




