第5話 潜む意図
最後に、古代の日常生活に関する資料を見てみた。
だが、一か所に留まらず、転々としていたということしかわからなかった。
「なんで旅するような真似を?」
「魔獣から逃げてた……とか」
「瘴気を操れるのに?」
確かに、矛盾している。
戦う力があるなら、留まった方が安全だろうに。
リオは眉をひそめ、考え込む。
「瘴気を操れるってことは、瘴気魔獣も操れる?」
「……ああ。可能だ」
研究者の素朴な問いに、アレンが淡々と答える。
場の空気が一瞬だけ硬くなった。
リオはその言葉を頭の中で反芻する。
「だったら、なおのこと魔獣なんて恐れる必要ないよな」
複数の研究者たちは揃って腕を組み、首を傾げた。
「そういえば、過去の記録を漁っていて、ひとつ気づいたことがあります」
ヴァルセリオが、一枚の紙を取り出した。
「人々の話をまとめたものなので、信憑性には欠けますが……どうやら、四十年ほど前から、急に瘴気魔獣が増えたそうです」
「そういえば、子どものころは瘴気魔獣なんてほとんどいなかったな」
初老の研究者が、髭を撫でつつ言った
「私も今年で五十ですが……成人した頃にはすっかり、瘴気魔獣の存在が当たり前になっていました」
ヴァルセリオの言葉に、リオは驚いて振り向く。
「先生、五十歳なの!?」
「ええ」
もっと若いと思っていたリオは愕然とする。
しばし言葉を失った。
「私も、真っ当に生きていれば、恐らくもっと若く見えたのでしょうが……」
「もっと!?」
聞き役に徹していたイリスが、思わず声を上げる。
部屋に軽い笑いが走るが、すぐに緊張が戻る。
「お前たち、集中しろ。……瘴気と瘴気魔獣の増加に関連があることは、最近の記録でも明らかになっている」
アレンが話を戻す。
「じゃあ、その頃から急に瘴気の量が増えた……?」
瘴気で動くかもしれない、遺物。
その瘴気の量が増えている事実。
フィオナの、誘拐。
点が繋がりそうで、でもまだ線にはならない。
考えが交錯する。
言葉が意味を失い、数字が形にしか見えなくなる。
頭の奥で、何かが軋むように鳴った。
考えるたびに、思考が砂の中へ沈んでいく。
だめだ、わからない。
リオは腕を組み、うつむきがちに小さく唸った。
「知識は万能ではない。だが、やはり……人類を敵とする存在がいる」
アレンは一度、深く息を吐いた。
「そして──その敵は、恐らく俺たちの予想よりも、遥かに手強い」
アレンの重い声が、静まり返った部屋の空気にずしりと響いた。
誰も口を開けないまま、沈黙が長く続いた。
紙の上の文字だけが、微かに光を反射していた。




