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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第6章 真相への手がかり
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第3話 未知なる遺物

 ようやく全ての解読が終わった。

 リオは頭がいっぱいになって、机に突っ伏す。息が少し詰まる。


「大変だったな」


 いつの間に取りに行っていたのか、アレンが水の入ったコップを渡してくれる。


「ありがとう……」


 リオはそれを受け取り、グイッと飲み干す。冷たい水がひときわおいしい。


「では、まずは古代の遺物ですね」


 厳重な箱が二人がかりで運び込まれ、机の上に置かれた。

 いくつもの鍵がカチリ、カチリと外れ、蓋が静かに持ち上げられる。


 現れたそれは、不思議な形をしていた。

 人が両手で支えられるほどの大きさ。


 外環の中に内環が浮かぶ複環構造──金属でも石でもない素材でできている。


 光の角度で質感が変わり、皮膚がざわつくような冷たさを感じさせた。

 名づけようのない材質で、ひび割れのような紋が走っている。


「まだ……存在しているのか」


 アレンが視線をそらす。

 声は淡々としているが、どこか苦味が混じっていた。


「ほとんどは壊れた不完全なものですが、これだけはほぼ完全な姿を保っているんです」


 持ってきた研究員が、うれしそうに説明する。


「やはり……瘴気を操る道具、か」


 別の研究員が息をのんでつぶやいた。

 リオは顔を近づけて眺める。


「これ、動かないんですか?」

「はい。危険なので最も重要と思われる部品を取り外してあります。ほら、内環の一部が欠けているでしょう?」


 ヴァルセリオに指し示された箇所を見ると、確かに何かがはまっていた跡があった。


「動かないことは確認済みです。ご安心を」


 ヴァルセリオが穏やかに付け加える。

 背後では研究者たちが資料を手に、興奮気味にささやき合っている。


「何の素材だ?」

「外環と内環が接していないのに、なぜ浮いている?」


 リオも興味を覚え、人差し指の外側で内環をコツンと叩いてみた。

 鈍い反響だけが返ってくる。びくともしない。

 指先に伝わる冷たさが、胸の奥にざわめきを呼ぶ。


「これ、何で動くんですか?」


 リオの声は自然と小さくなる。手が少し震えた。

 ヴァルセリオが困ったように笑った。


「それも不明です。少なくとも魔力では動かないことだけは確認できています」


 話を聞いていたイリスとユリウスも近づき、恐る恐る指先で外環をつつく。


「まさか……瘴気で動くなんてこと、ないよね」


 ユリウスが苦虫を噛みつぶしたように顔をしかめる。


「まさかー。ね、リオ」


 イリスが苦笑する。


 リオは解読した文字を思い返した。

 ──瘴気を操る。瘴気を取り込み、循環させ、放出する。

 だがそれは“結果”でしかないのかもしれない。


 リオは眉間にしわを寄せ、口の中で小さく呟く。


「もしかしたら、操られる瘴気は副産物で、これ自体は別の用途を持っているのかも」


 頭に浮かぶのは、何度も見た“ルミナス”の文字。

 その周囲に記されていたのは、悪意に満ちた言葉ばかりだった。


「例えば……攻撃とか。カルドニアの戦いでは、どんな使われ方を?」


 光を受けたヴァルセリオの瞳の奥が一瞬だけ、何かを堪えるように震えた。

 その優しげな人となりに、少し申し訳なくなる。


 視線をアレンへ向ける。


「…………瘴気を孕んだ黒炎、黒雷。瘴気の嵐──そんな現象もあった」


 アレンは俯いたまま、たっぷり間を置いて答えた。


 リオは身震いした。

 これが戦いに使われたら、その戦場は地獄と化す。

 そのことは、容易に想像がついた。


「それじゃないかな。瘴気を炎や雷、風に変える……」

「そんな……魔法を使えばいいじゃないか」


 リオは眉を寄せる。


「適性が無いと、強力な魔法は使えないじゃないですか。それに、雷の魔法なんてかなり希少ですよ」

「それは……確かに」

「なら、これを使えば誰でも戦えるのか」


 研究者の一人が呟く。

 その言葉に、リオの背筋がひやりとする。


「いえ、使用者にも相応の負担がかかります。そう簡単には扱えません」


 ヴァルセリオの言葉に、リオは小さく息をついた。

 それでも胸の奥の冷たさは、じっと消えずに残った。


 不意に、背筋をなぞるような視線を感じた。

 振り返るが、そこには誰もいない。


 やがて、気のせいかと小さく息を吐く。


 ……机の上の遺物が、まるで何事もなかったかのように、静かに光を反射していた。

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