第2話 古代語の囁き
「アレン!リオ君!」
ヴァルセリオが二人を呼ぶ。
「現在、錬環区で所持している古代語の写しをすべて集めました。解読済みのものが八割ですので、残り二割を高速で終わらせてくれませんか?」
アレンが頷くと、次から次へと書類の束が手渡される。
紙たちは机をあっという間に埋め尽くし、やがて床にも積み上がる。
「え……これで二割?」
リオの顔が引きつる。
「これでも、十年以上かけて……ようやく八割解読したんですよ」
ヴァルセリオが疲れたように目元を押さえる。
膨大な作業量に、苦労の跡がにじむ。
時間も惜しいので、早速取り掛かる。
リオも気合を入れて文字を追うが、アレンの速度には遠く及ばない。
「父さん、実は古代から生きてきたんじゃないの?」
思わず口に出すと、アレンが困ったように視線を向けてくる。
「そういうわけではないが……すまない。俺はお前のように努力して覚えたわけではないんだ」
「えー……やっぱり生粋の古代人なんじゃ……」
「ほら、手を動かせ」
リオは「はーい」と間延びした返事を返し、文字を追い続ける。
*
ユリウスとイリスも紙の整理を手伝ってくれている。
その音が、静かな励ましのように聞こえた。
視界の端にそれを捉えながら、リオは作業を進める。
たまに軽く肩を伸ばし、深呼吸をする──それだけで少し気持ちが落ち着く。
資料の内容は、遺物に関する情報と瘴気に関する情報がほとんどだ。
しかし、時折、それ以外の古代の知識や技術、日常生活に関する記録も混じる。
リオはそれらも解読しつつ、分類していく。
そして、解読と分類が終わった資料を、ヴァルセリオや研究者たちが手早くまとめていく。
その場は、叡智を総動員する──まるで静かな戦場だった。
*
母を助けるための調査だったが、解読を進めるにつれて、少しずつ古代が身近な存在に感じられるようになってきた。
「“ルミナス”、か……」
聞いたことはないはずなのに、どこか懐かしさを感じる響きだった。
リオは手を止め、その文字を凝視する。
頻繁に出てくる文字は二種類──“瘴気”と“ルミナス”だ。
「“ルミナス”って何だろうね」
「音としては読めるが現代の言葉に当てはまらない。今は存在しない何かと考えるべきだろう」
「なるほど……」
リオは小さく頷き、また文字を追う。
だが、頭の片隅で、文字が語る古代の秘密や、遺物の設計図に潜む意図がちらりと浮かぶ。
小さな違和感が、リオの胸奥で静かに燻っていた。
その違和感が何を意味するのか──この時のリオは、まだ知らなかった。




