幕間 飛竜語
「次は飛竜語か」
ある日、父が突然そんなことを言い出した。
「飛竜語?」
「ああ。飛竜の言葉だ」
それから数日後、訪問者があった。
赤茶の短髪に焦げ茶の瞳をした男は、ジークと名乗った。
「いやあ、でっかくなったな。リオも」
頭をかき混ぜるように撫でられ、首がもげそうになる。
「で?ラブレターが来たと思ったら、なに、何かあった?」
「飛竜を借りたい」
アレンの言葉に、ジークは隣に立つ飛竜を抱きしめる。
「ダメだ!いくらお前でも、ダメに決まってるだろ!この子は俺が卵から孵して……」
「誰も奪うとは言っていないだろ」
アレンが眉を寄せる。
「リオに飛竜語を教えたいんだ」
「はあ?飛竜語?」
アレンを見て、目を丸くしたジークは、やがて腹を抱えて大笑いする。
「おま……飛竜語って。無理に決まってんだろ」
「リオならできる」
ジークがリオを見る。
リオは首を横に振った。
「ほら、リオの方が頭がいい!」
「やってみなくては、わからないだろう」
アレンが少しすねたように言った。
その表情が珍しく、リオは少しやる気を出す。
「俺、やってみる!」
こうして、飛竜語の特訓が始まった。
*
結論から言おう。無理だった。
飛竜の言葉は特殊で、発音が難しい。
人は耳では聞き取れるが、声帯の構造的都合上、表現することはできないのだ。
だから、竜騎士たちも普通に話しかける。
「いいか?キュウ、がおはよう。キュウ、がおやすみだ。やってみろ」
「わかんないよっ!」
ジークの相棒の飛竜が、どこか呆れたような目を向けてくる。
父はズレている。
そのことに、初めて気づいたリオだった。
リオの幼い頃からの特訓は、いつもこんな調子でした。
まずは全部やってみる。できなければ、潔く諦める。
その厳しくも愛のある英才教育とスパルタぶりは、アレンとリオだからこそ成り立ったものかもしれません。




