第8話 夜の反省と決意
たくさん泣いて少しすっきりしたリオは、父の分までトレーに載せ、食堂から戻った。
「ありがとう」
アレンが穏やかに受け取った。
「父さんが行ったら、大騒ぎになるからね」
リオの言葉に、アレンが眉を寄せる。
「大げさなんだ。何故みんな、ああ騒ぐのか……」
リオは小さく笑った。
かじったサンドイッチは、まだ少し塩辛かった。
*
食後、アレンに頼まれて二人分の洗浄魔法をかけた。
魔法が触れた瞬間、アレンがわずかに眉を上げた。
「相変わらず……不思議な感覚だな。何度受けても慣れない」
「早い、確実、快適が売りだから」
涙で赤くなった目をこすりながら言うと、アレンは頬を緩めた。
*
「明日は引き続き、フィオナの件を調査する。ヴァルセリオと、錬環区に行くぞ」
布団にもぐるリオに、アレンが静かに告げる。
「え?でも痕跡は何もないって……」
「そこは何とかする。今はとにかく情報が欲しい」
「学校は?」
「それどころじゃない。休め」
ええ、俺学生なんだけどな──胸の奥で小さくつぶやきながらも、リオは布団から頭だけ出して思わずうなずいた。
布団の中で、リオの脳裏に、漆黒の闇に沈む母の安堵した顔が蘇る。
新たな古代の遺物、定期的に現れる魔獣や瘴気、そして裂け目──わからないことだらけだ。
けれど、知らなければ何も守れない。
少しでも知識を得て、母を助ける。
リオは静かに決意を固めた。
アレンが軽く手を振ると、部屋の灯りが消える。
相変わらずの詠唱破棄、便利だなと思う。
部屋に父がいるというのも、変な気分だった。
リオは少しだけ目を開けて、アレンの姿を見つめる。
窓から風が吹き込み、月明かりがアレンの金髪を照らす。
カーテンがひらりと揺れて──すっと、音が止んだ。
少しして、椅子に座っていたアレンが窓の方にゆっくり体を向けた。
リオは小さく息をのむ。
眉間のしわは深く、先ほどまでの穏やかさは消えていた。
風が止み、空気そのものが硬質に変わる。
静けさが、部屋を満たしていく。
アレンがゆっくりと目を閉じる。
その体から、空気を震わせるほどの魔力が立ち上る。
部屋の温度がひやりと下がり、月光だけが鋭さを増し、室内を白く切り取った。
布団の中からそれを見ていたリオは、ようやく気付く。
そして息をひそめた。
父は──怒っている。
息を吸うことさえ、許されないような静けさだった。
その圧だけで、リオは身じろぎもできなかった。




