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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第5章 影の訪れ
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第4話 影の襲撃

 昼休みが終わる直前、生徒がまばらになった中央広場で、リオは両親と別れた。


「またな」


 リオはアレンの前に立つ。

 大きな手が頭を撫でる感触に、くすぐったいような安心が胸に広がった。

 視界の端、アレンのほんの一歩後ろで、見守るように立っているフィオナの姿が目に入る。


 ユリウスとイリスが先に建物へと歩き出し、アレンもその場を離れるように踵を返す。

 笑顔で手を振るフィオナに、リオも手を振り返し、背を向けようとした──その時だった。


 とても、嫌な感じがした。


 足元が消えた。

 風が止む。世界が一拍、遅れて動く。


 ちょうどリオとフィオナの真下で、真っ黒な穴が口を開けていた。


「え?」


 時間が、止まったようだった。

 ゆっくりと体が落ちる。何も反応できない。


 アレンの手から離れた書類が、ふわりと宙を舞う。

 どん、と胸を強く押された。

 フィオナが、リオを突き飛ばしたのだ。


 鼓動だけが、やけに大きく響いた。


「リオ!」


 ユリウスに受け止められる。

 リオは尻もちをつき、慌ててユリウスの腕にしがみつく。


 フィオナは腰まで吸い込まれるように、漆黒の闇に沈んでいく。

 ほっとしたように頬を緩めるが、すぐに視線をそらし、空中でアレンを振り返った。


 アレンが手を手繰(たぐ)る。

 ユリウスの腰に刺さっていた杖が引き抜かれ、闇に向けて飛ぶ。


「えっ」


 ユリウスの声。


 フィオナの銀の髪の先が闇に呑まれる。

 杖が、小さくなっていく黒い空間に投げ込まれた。

 だが、差し込まれたと思った瞬間にふっと消える。


 カラン──

 石畳に、鋭く断たれた杖が落ちる。

 その音だけが、鮮明に響いた。


 背筋が凍った。呼吸の仕方がわからない。


 アレンの持っていた書類の束がばさりと落ちる。

 辺りは、凍りついたように静まり返った


 一瞬の出来事だった。

 足元が消えてから、今まで。ほんの一瞬。

 心臓が煩い。何が起こったのか、理解できない。


「……母さん?」


 掠れた声が、まるで自分のものじゃないみたいだった。


 母が、消えた。


 リオは這うようにそこへ近づく。

 指先で石畳に触れるが、何もない。

 傍らのアレンが片膝をつき、杖の断面を確認して眉を顰める。


「今、何が……」


 呆然と立ったまま、イリスが呟く。

 けれどその声さえ、どこか遠い。


 その時、グランゼリア内にけたたましい警報が鳴り響く。

 アレンが顔を上げた。


 世界が動き出す。

 立ち上がろうとするアレンの手を、リオは掴む。


「父さ……母さんが……」


 アレンの瞳は、どこまでも静かだった。


「ああ。だが何かあった、向かわないと」

「母さんは!」


 リオはアレンの手を引いた。

 アレンの眉が、わずかに震える。


「お前も来い。こういう時には、体を動かした方がいい」


 アレンが逆に手を握り返し、リオを引っ張り上げる。


「イリス、ユリウス。お前たちは学園で待機。ヴァルセリオをここへ呼んでくれ」

「は…はい」

「わかりました……」


 リオはアレンに引っ張られるように、学園を出た。

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