第4話 影の襲撃
昼休みが終わる直前、生徒がまばらになった中央広場で、リオは両親と別れた。
「またな」
リオはアレンの前に立つ。
大きな手が頭を撫でる感触に、くすぐったいような安心が胸に広がった。
視界の端、アレンのほんの一歩後ろで、見守るように立っているフィオナの姿が目に入る。
ユリウスとイリスが先に建物へと歩き出し、アレンもその場を離れるように踵を返す。
笑顔で手を振るフィオナに、リオも手を振り返し、背を向けようとした──その時だった。
とても、嫌な感じがした。
足元が消えた。
風が止む。世界が一拍、遅れて動く。
ちょうどリオとフィオナの真下で、真っ黒な穴が口を開けていた。
「え?」
時間が、止まったようだった。
ゆっくりと体が落ちる。何も反応できない。
アレンの手から離れた書類が、ふわりと宙を舞う。
どん、と胸を強く押された。
フィオナが、リオを突き飛ばしたのだ。
鼓動だけが、やけに大きく響いた。
「リオ!」
ユリウスに受け止められる。
リオは尻もちをつき、慌ててユリウスの腕にしがみつく。
フィオナは腰まで吸い込まれるように、漆黒の闇に沈んでいく。
ほっとしたように頬を緩めるが、すぐに視線をそらし、空中でアレンを振り返った。
アレンが手を手繰る。
ユリウスの腰に刺さっていた杖が引き抜かれ、闇に向けて飛ぶ。
「えっ」
ユリウスの声。
フィオナの銀の髪の先が闇に呑まれる。
杖が、小さくなっていく黒い空間に投げ込まれた。
だが、差し込まれたと思った瞬間にふっと消える。
カラン──
石畳に、鋭く断たれた杖が落ちる。
その音だけが、鮮明に響いた。
背筋が凍った。呼吸の仕方がわからない。
アレンの持っていた書類の束がばさりと落ちる。
辺りは、凍りついたように静まり返った
一瞬の出来事だった。
足元が消えてから、今まで。ほんの一瞬。
心臓が煩い。何が起こったのか、理解できない。
「……母さん?」
掠れた声が、まるで自分のものじゃないみたいだった。
母が、消えた。
リオは這うようにそこへ近づく。
指先で石畳に触れるが、何もない。
傍らのアレンが片膝をつき、杖の断面を確認して眉を顰める。
「今、何が……」
呆然と立ったまま、イリスが呟く。
けれどその声さえ、どこか遠い。
その時、グランゼリア内にけたたましい警報が鳴り響く。
アレンが顔を上げた。
世界が動き出す。
立ち上がろうとするアレンの手を、リオは掴む。
「父さ……母さんが……」
アレンの瞳は、どこまでも静かだった。
「ああ。だが何かあった、向かわないと」
「母さんは!」
リオはアレンの手を引いた。
アレンの眉が、わずかに震える。
「お前も来い。こういう時には、体を動かした方がいい」
アレンが逆に手を握り返し、リオを引っ張り上げる。
「イリス、ユリウス。お前たちは学園で待機。ヴァルセリオをここへ呼んでくれ」
「は…はい」
「わかりました……」
リオはアレンに引っ張られるように、学園を出た。




