第3話 昼下がりの絆
ふわふわと夢見心地のまま午前を過ごす。
「リオ!後でって言ってたわよね!お昼、一緒に食べられるかな?」
イリスに小声で声を掛けられ、リオは隣に視線を向ける。
「うん、いるんじゃないかな……」
「じゃ、行くわよ!ほら」
腕を引っ張られ、立ち上がりながら机に置いた自分のノートをちらりと見る。
問題を解いている途中、しかも間違っている。リオは空いた手で自分の頬をペチ、と叩いた。
同級生たちが何か言いたげだったが、リオは「ごめんまた後で」と、顔の前で両手を合わせた。
*
アリアに探してもらったところ、両親は裏庭にある小さな屋根付きの休み場にいるらしい。
ばったり遭遇したユリウスも引っ張って、三人で向かう。
「ちょっと、二人とも?どうしたの、そんな急いで」
「先輩もびっくりするわよ」
イリスの笑みに、ユリウスは少し不安げに眉を寄せる。
小さな屋根が見えてきた。
気づいたフィオナが手を振ってきて、一瞬、ユリウスは固まった。
「お疲れ様。お弁当、多めに持ってきておいて良かった」
フィオナが穏やかに言いながら、食べ物を広げていく。
何かの書類を読んでいたアレンは書類を閉じ、顔を上げた。
「うわ……さっきも見たけど、やっぱ破壊力すごい……」
ユリウスは圧倒されながらも、アレンの隣にそっと座る。
イリスもおずおずとフィオナの隣に腰掛ける。
アリアはフィオナの膝に移動して、専用の肉をもらった。
リオはユリウスとイリスの間に座った。学校という場のせいか、やはりそわそわする。
食べながら、普段の過ごし方や学んだ面白いことを話す。
そのたびにフィオナが小さく笑い、アレンも頬を緩める。
「それでね!この間は野外訓練があって……」
「ああ。光魔法を使ったらしいな」
「あ……」
墓穴を掘ったリオは小さくなって、ユリウスにくっつく。
言葉を探して、すぐに謝罪した。
「ごめんなさい、俺……」
「怒っているわけではない。ただ、光魔法まで使えると知られては、生きづらいと思った」
リオは顔を上げる。
「じゃあ、使うなって言ったのは……」
「生死にかかわるなら、迷わず使え。そうだな……すまない、言葉が足りなかった」
昼の光が、テーブルの上を静かに照らしていた。
ほっと胸をなでおろすリオ。
ユリウスと顔を見合わせて笑う。
「よかったな」
「うん、こわかったー」
フィオナが微笑み、少しだけ目を細めた。
その横顔に、思い出したような笑みが浮かぶ。
「リオは一番に使った魔法が、光魔法だったんだよ」
「え、そうなの?」
初めて聞く話だった。
フィオナは頬に手を当てて、くすりと笑った。
「リオがまだ小さかった頃、突然ピカッと光ったの。あまりに眩しくて、しばらく目が見えなくて……」
つまり、両親はそろって目つぶしを食らったらしい。
アレンが腕を組んで、遠くに視線を投げる。
「あの時は、肝が冷えたな……」
魔法の使い方を知らない幼子が突然魔法を使う。
驚いて当然だ。
「まだ全然、魔法制御もできない歳だったから……攻撃系の魔法じゃなくて良かったねって」
フィオナが微笑んだ。
リオは照れくさくなって視線を落としながらも、胸の奥がふわりと温かくなるのを感じた。
小さな頃の話。
リオはふと思い出して、尋ねた。
「そういえば、俺、昔先輩と会ったことあるよね?」
「え?」
ユリウスが目を見開く。
「思い出したのか?」
「少しだけ覚えてる気がするかなって」
その言葉に、フィオナがふふ、と笑う。
「当時はリオも四歳だったから、覚えていなくても仕方ないね」
「イリスとも同時期に会っている」
リオとイリスは互いに顔を見合わせる。
これっぽっちも覚えていなかった。
「何だそれ……僕だけ覚えてるの?何だよそれ……」
ユリウスががっくりと項垂れる。
「ユリウスは昔からしっかり者だからな。記憶力もいいんだろう」
アレンがふっと笑った。
褒められたユリウスは口の端がぴくぴくしていた。
「でも……思い出せなくても、きっと楽しかったのよね」
イリスの呟きに、リオも頷く。
フィオナがその様子を見て、ほほえましそうな表情を浮かべた。
その笑顔を見ていると、春の陽だまりに包まれているようで──リオは、こんな時間がいつまでも続けばいいのに、と思った。




