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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第5章 影の訪れ
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第3話 昼下がりの絆

 ふわふわと夢見心地のまま午前を過ごす。


「リオ!後でって言ってたわよね!お昼、一緒に食べられるかな?」


 イリスに小声で声を掛けられ、リオは隣に視線を向ける。


「うん、いるんじゃないかな……」

「じゃ、行くわよ!ほら」


 腕を引っ張られ、立ち上がりながら机に置いた自分のノートをちらりと見る。

 問題を解いている途中、しかも間違っている。リオは空いた手で自分の頬をペチ、と叩いた。


 同級生たちが何か言いたげだったが、リオは「ごめんまた後で」と、顔の前で両手を合わせた。


 *


 アリアに探してもらったところ、両親は裏庭にある小さな屋根付きの休み場にいるらしい。

 ばったり遭遇したユリウスも引っ張って、三人で向かう。


「ちょっと、二人とも?どうしたの、そんな急いで」

「先輩もびっくりするわよ」


 イリスの笑みに、ユリウスは少し不安げに眉を寄せる。


 小さな屋根が見えてきた。

 気づいたフィオナが手を振ってきて、一瞬、ユリウスは固まった。


「お疲れ様。お弁当、多めに持ってきておいて良かった」


 フィオナが穏やかに言いながら、食べ物を広げていく。

 何かの書類を読んでいたアレンは書類を閉じ、顔を上げた。


「うわ……さっきも見たけど、やっぱ破壊力すごい……」


 ユリウスは圧倒されながらも、アレンの隣にそっと座る。

 イリスもおずおずとフィオナの隣に腰掛ける。

 アリアはフィオナの膝に移動して、専用の肉をもらった。


 リオはユリウスとイリスの間に座った。学校という場のせいか、やはりそわそわする。


 食べながら、普段の過ごし方や学んだ面白いことを話す。

 そのたびにフィオナが小さく笑い、アレンも頬を緩める。


「それでね!この間は野外訓練があって……」

「ああ。光魔法を使ったらしいな」


「あ……」


 墓穴を掘ったリオは小さくなって、ユリウスにくっつく。

 言葉を探して、すぐに謝罪した。


「ごめんなさい、俺……」

「怒っているわけではない。ただ、光魔法まで使えると知られては、生きづらいと思った」


 リオは顔を上げる。


「じゃあ、使うなって言ったのは……」

「生死にかかわるなら、迷わず使え。そうだな……すまない、言葉が足りなかった」


 昼の光が、テーブルの上を静かに照らしていた。


 ほっと胸をなでおろすリオ。

 ユリウスと顔を見合わせて笑う。


「よかったな」

「うん、こわかったー」


 フィオナが微笑み、少しだけ目を細めた。

 その横顔に、思い出したような笑みが浮かぶ。


「リオは一番に使った魔法が、光魔法だったんだよ」

「え、そうなの?」


 初めて聞く話だった。

 フィオナは頬に手を当てて、くすりと笑った。


「リオがまだ小さかった頃、突然ピカッと光ったの。あまりに眩しくて、しばらく目が見えなくて……」


 つまり、両親はそろって目つぶしを食らったらしい。

 アレンが腕を組んで、遠くに視線を投げる。


「あの時は、肝が冷えたな……」


 魔法の使い方を知らない幼子が突然魔法を使う。

 驚いて当然だ。


「まだ全然、魔法制御もできない歳だったから……攻撃系の魔法じゃなくて良かったねって」


 フィオナが微笑んだ。

 リオは照れくさくなって視線を落としながらも、胸の奥がふわりと温かくなるのを感じた。


 小さな頃の話。

 リオはふと思い出して、尋ねた。


「そういえば、俺、昔先輩と会ったことあるよね?」

「え?」


 ユリウスが目を見開く。


「思い出したのか?」

「少しだけ覚えてる気がするかなって」


 その言葉に、フィオナがふふ、と笑う。


「当時はリオも四歳だったから、覚えていなくても仕方ないね」

「イリスとも同時期に会っている」


 リオとイリスは互いに顔を見合わせる。

 これっぽっちも覚えていなかった。


「何だそれ……僕だけ覚えてるの?何だよそれ……」


 ユリウスががっくりと項垂れる。


「ユリウスは昔からしっかり者だからな。記憶力もいいんだろう」


 アレンがふっと笑った。

 褒められたユリウスは口の端がぴくぴくしていた。


「でも……思い出せなくても、きっと楽しかったのよね」


 イリスの呟きに、リオも頷く。


 フィオナがその様子を見て、ほほえましそうな表情を浮かべた。

 その笑顔を見ていると、春の陽だまりに包まれているようで──リオは、こんな時間がいつまでも続けばいいのに、と思った。

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