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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第5章 影の訪れ
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第2話 夜を映す来訪

 職員室の前にいたのは、一組の男女だった。


 男性は無駄なく整えられた淡い金髪を肩先で揺らし、蒼の瞳で隣の女性を見つめている。

 白いシャツの上に黒いベストを重ね、首元には黒のスカーフタイが静かに結ばれている。


 黒のロングコートは夜を映したかのように深く、立ち上がった襟が首元に影を落とし、細身のシルエットが体に沿う。

 金糸の縁取りが淡い光を返し、胸元では赤い宝石が微かに揺れていた。

 長い裾が風に翻るたび、腰に下げた剣が鋭い輪郭を浮かび上がらせる。


 女性は長い銀髪を緩やかにまとめ、翠の瞳で穏やかに男性を見返している。

 黒を基調にしたロングコートに足首までのフレアスカート。

 肩から裾へと走る金糸の刺繍が、わずかな動きにも淡い輝きを宿す。


 白いブラウスの首元には細い黒リボン、胸元で赤い宝石が静かに輝いていた。

 腰には、素朴な木の杖をぶら下げている。


「うわあ、本物だ……」

「バルテラン商会の戦闘服じゃない?格好いい……」


 周囲の生徒が息を呑む中、リオはゆっくりと足を前に出す。

 見間違えるはずがない。

 ざわめきの中心に近づくほど、心臓の鼓動が速くなる。


「あれ……まさか、金と銀の狩人!」


 イリスの声に、歓声が弾ける。


「すごい!本物!?サインほしいわ!ねえ、リオも──リオ?」


 男性がふとこちらを見た。

 柔らかく細められた蒼の瞳と視線が合った瞬間、リオの胸が熱くなる。


「……父さん」


 小さく漏らした言葉が、周囲の空気を凍らせた。

 次の瞬間、職員室前に生徒たちの絶叫が響く。


「えええええええええっ!?」


 *


 急遽(きゅうきょ)、職員室には生徒接近禁止令が出され、ようやく静けさが戻る。

 応接ソファにはヴァルセリオ、リオ、イリス、そしてその向かいにリオの両親が腰を下ろしていた。


「本当に……どうして生徒の登校時間に合わせて来るんですか」


 頭を抱えるヴァルセリオに、男性──アレンが平然と答える。


「リオがいると思って」


 ヴァルセリオが低く唸る。


 ちなみにリオたち一年は、今日は自習だ。

 ヴァルセリオが何やら所用があるとのことだったが、まさかこれだったとは。

 ユリウスは、後ろ髪引かれながら授業へ向かったため、ここにはいない。


 リオはおずおずと父を見た。


 涼しい瞳で出されたコーヒーを飲んでいる。

 会いたいと思ってはいたが、あまりに予想外でリオも変に緊張していた。


「貴方たちは……!もっと!自分たちの存在を!把握してください!」

「ごめんなさい、ヴァルセリオさん。約束していた通り、もう少し後で来ようと思っていたんですが……夫は足が速いもので」

「つまり止めなかったんですね!一言くらい──!」


 リオの母──フィオナは困ったように微笑む。

 イリスがその笑みに息を呑むのがわかった。


「それで、例の薄片は?」

「ちょっと、私のせいで逸れたから戻すみたいに話を振らないでくれますか?」


 アレンの問いに、ヴァルセリオが眉間を押さえる。


「古代の遺物には間違いありません。用途も効果もまだ不明ですが、結界を張る力を持つ可能性があります」


 リオははっとヴァルセリオを見た。


「そういえば、最近見つかった遺物があるって……」

「はい。結界のせいで近づけないので、実物は確認できていませんが」


 アレンが何かを考えるように顎に手を当てる。


「昨日、北の祈環区(オラシオン)と、西の市場区(マーケット)で小規模な事件が連続発生しました。偶然とは考えにくいです。現在、狩人と聖導教会が合同で対策を練っています」


 フィオナが静かに告げる。


「あ、昨日の事件、俺も──」


 リオが声を上げると、アレンが柔らかく笑った。


「ああ、聞いた。よくやったな」


 その一言に、リオは膝の上で拳を握る。

 喜びが顔に出そうで、必死に抑えた。


「学生を巻き込みたくはないが、学園内でも事件が起きている以上、協力を要請するかもしれない。ヴァルセリオ、頼む」

「わかりました」


 ヴァルセリオがうなずく。


「じゃあ、リオたちは勉強に戻りなさい。イリスも、また後でね」


 フィオナがそっと立ち上がり、リオとイリスを扉へと導く。

 通りざま、屈んでリオの耳元に囁いた。


「アレン、あなたのことを褒められて、とても嬉しそうだったの。見せてあげたかった」

「え……」


 振り向くと、フィオナは優しく微笑んで手を振った。

 その笑顔を胸に刻みながら、リオはイリスと並んで廊下を歩き出す。


「……私、夢を見てるのかしら」

「……ね」


 二人の足取りは、どこか夢見心地のままだった。

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